crosswise -white side- / ACT2:『もう何も怖くない、怖くはない』(1) ◆ANI3oprwOY








蒼天が、にわかに曇り始めていた。


――エリアE-1、市街地。


空虚な町が戦火にくべられ、赤く赤く燃えている。
繰り返された激烈の衝撃がコンクリートの大地に大きな爪あとを残し、上がる炎の色が空を不気味に照らしている。
耳に聞こえるのは壊滅音、怒声、銃声、爆音。鼻につくのは異臭、硝煙、火薬、血流。
ここは戦地。鉄と血と彩られた場所。限りなく幻想と近しい現実とよべる。
望む望まないに関らず、踏み入れるものは脆弱な者から順に生命を消化されていく、まるで怪物の腹の中。

「……ひゃは、ったく手こずらせやがってよォ。おかげで無駄な時間くっちまったろォが」

そんな戦火の中心地。
燃える巨大長方形の箱の群、立ち並ぶ高層オフィスビルの一棟にて。
此度の戦地の主賓といえる存在、一方通行は哄笑を上げながら、異界を見下ろしていた。
眼下に崩壊した広大な繁華街をじぃと見渡し、やがて数少ない無傷の建造物の内一つに目をとめ。
新しい獲物を見つけたと哂っている。

「そこ、か。オーケーオーケー、ンじゃさっそく殺しに行ってやるから、動くなよォ?」

大型の建造物が密集する繁華街の中でも、ひときわ巨大な施設。
『ショッピングセンター』と地図上には示される、そこに並べて建てられた立体駐車場。
この殺し合いにおいて、戦う力を持たぬ者達が潜んでいる拠点。
殺意を振りまく災厄の原点が今、狙いを定めているのはそこだった。
一方通行は目標に座標を合わせて、両足に力を込めていく。
場所を割り出したのだから踏み込んで、腕を軽く振るえば簡単に、死体がいくつか積み上がると確信し。

「……って、なンだ、まだ闘れるつもりかよ。こりねェなァ」

しかしそこで、させぬと言うように、地鳴りが一つ。
繁華街の北部近く、がらがらと瓦礫を崩し、立ち上がったのは巨大な人型の影だった。
ショッピングセンターの正面にて、防衛拠点を守らんと立つ、機械の姿。
ガンダムエピオンと呼ばれる、力無き者を庇う、最後の盾にして砦である。

「なンてな。まァそうするとは思ってたっつゥか。
 その為にここまで連れて来たわけだしよ。
 わかるぜわかる、不可能でもやンなきゃしゃあねェよなァ? カワイソウデスネー」

一方通行は立ち塞がる壁のような機械人形を呆れ顔で眺めながら、両足から力を抜く。
代わりに肩を回し、首の骨をこきりと一度鳴らし、言った。

「けどよォ。じゃァどうすンだオマエら? 
 勝ち目がねェのは分ったろォが」

容赦なき絶対者が、劣勢者に届かぬ声で問いかける。
強者は弱者を屠るもの。戦場とは、常にそのように在る。

ぶつかる二つのどちらかが強く、どちらかが弱い以上、必然の成り行きであろう。
人道倫理に照らし合わせ、どちらが正義でどちかが悪かなど、関係ない。
殺す側が強く、また生き残り、生き残った者が正義となるのがこの場所の法則(ルール)だ。
そのルールに則れば、このとき正義は彼にあった。

「こンだけの時間、俺と戦れンのは素直に褒めてやるがよ。
 まだ俺の時間は三分の一も減ってねェ。
 俺に力を出させずグダグダ話を引っ張るだけじゃァ、ことは動かねェンだよ」

たとえ所業が悪であろうとも、彼はこの場で間違いなく強者であるが故に。
圧倒的な優勢に立つ故に、言葉は全て真実となる。

「まァ、無駄口はこの位にして始めるか。第二ラウンドだ。
 もっともこれ以上、過度な期待はできそうにねェみてェだが……」

一方通行の消耗は僅か五分にも満たない能力消費。
比べて、繰り返された戦闘の果てにエネルギーの消費を重ね限界の近い、敵の盾。
勝敗はここに、明白だった。

「じゃァな、お疲れ三下諸君。
 それなりに『よくがんばりました』をくれてやるからよ、力抜いて、眠れ――」

そして目前には、晒された立体駐車場。
敵の急所を容赦なく見据え。
もう既に先の見え透いた戦場にて、一方通行は無力な抵抗者達へと、少し早めの別れ言葉を告げていた。




       ■ ■ ■ ■





  crosswise -white side- / ACT2:『もう何も怖くない、怖くはない』





             □ □ □ □





/もう何も怖くない、怖くはない(1)





「やって……くれたな……我々はまんまと……誘導……されていたと……いう……ことか……」

そこはまるで、蒸し焼きの獄界だった。
茹で上がるような室温と、尚も上昇し続ける体温。
四方を機械に囲まれた窮屈な個室の中で一人、トリガーを握る男は孤独な戦いを続けている。

「………………っ……ご……ぁ……っ」

男は悶え苦しむように、痛烈なうめき声を漏らしていた。

「………ぎ……っ……」

心の臓はドクドクと早鐘を打ち続け、吐く息はひたすらに熱く荒い。
幾筋もの汗が額から伝い、男の眼を通過していき、やがては顎の先から落ちていく。
ポタポタと、汗の礫が、落ちる。男の膝元や、トリガーを握る腕の上に。
ボタボタと、血の滴が、落ちていく。男の口元から、零れ落ちていく。
それら一切を拭う余裕など、男にはもう残されてはいない。

だが、それでも前を見続けた。
苦しくとも、辛くとも、痛くとも。
たとえ濁りきった視界だろうとも、いまはただ前を見なければならない。
見続けなくてはならない。
緊張、高揚、混じり在った複合感情の只中で――

「が…ぐ…はッ……はははッ!」

その男、グラハムエーカーは、己の生を実感する。
血を吐きながら薄笑う。

「ここまで、か」

結局のところ、戦況が一方的なものとなるに、そう時間は掛からなかった。
この戦いが始まってより、敵手たる一方通行との激突は計六回。
まだたったの六度しか戦闘と呼べる交差は起きていないにも拘らず、既に戦況は絶望的な様相を見せていた。
現状はもう、戦いと呼べる状態かすら定かではない。

もう、敵からの王手がかけられている。
この瞬間に、ガンダムエピオンが背に守るもの、ショッピングセンターひいてはその中にいる者達の存在が、戦況の行く末を決定的なものにした。
数分前、戦闘の最中、離脱していたはずの阿良々木暦や他のメンバーをモニターに捉えたグラハムは、軽い眩暈すら覚えた。
守るべき者達のため、これまで離した距離、稼いだ時間、その全てを無に還された瞬間である。

両儀式を武器として運用するにおいてすら、エピオンの動きにはかなりの制限があった。
そこに加えて、背後にある建造物を守りながらの戦闘続行など、誰の目にも不可能だった。
この唐突に切り替わった位置関係、不運な偶然とは思えない。おそらく誘導されていたのだろう。

一方通行との戦いの渦中で、敵の僅かな隙を見つけ出し、空中戦に持ち込むという攻めに出た、あの瞬間に。
攻めた、勝機を掴んだ、そう思ったことがそもそもの間違い。あれらは全て一方通行の誘いだったのだ。
グラハムと式をここへ誘い出し、手っ取り早く、グラハムとその仲間全員を葬る為の罠だった。

そうして、賭けに破れた者は代償を支払わされる。
そこから先はもう、説明するまでもない。
何一つ見所の無い時間稼ぎだった。
ガンダムエピオンは外堀からじっくりと埋めるようにいたぶられ、その損傷を増やしていった。
数手先の”詰み”が決定された戦いとはかくも無様なものである。
それでもグラハムエーカーは背後の守護対象を守りきりながら、これまで二度の襲撃をやり過ごしていた。

自らの身体にかかる負担すら無視した機動で動き、そのスピードを制御し、
ショッピングセンターを守り抜きながらなお、エピオンの装甲も落されていない。
正しく、驚嘆するべき諦めの悪さである。
その代償が、

「ぎ……ぐ……ッ」

自身の身体の限界だった。
やはり、エピオンの装甲、背後に守る仲間の命、双方を同時に守り抜くなど不可能であった。
不可能を可能にする為、彼は自らの身体を生贄にしようとしている。

現在進行形でグラハムエーカーの五体は崩落の一途を辿っていた。
この戦いにおいて幾度も繰り返した無茶苦茶な航行の数々。
たとえ装甲の内側とはいえ、エピオンの機体スペックをフルに活かした高速機動をこう何度も繰り返しては、
パイロットスーツすら着用していない彼の肉体に看過できないダメージが蓄積し続けるのは自明であった。

そして、崩落が近いのは彼の身体だけではない。
たった数度の戦闘で不落の盾(装甲)に、崩壊の兆しが見えている。

サイドモニターにはエピオンの肩部に立つ、両儀式の姿。
彼女の蒼眼が装甲を透かして見るように、こちらへと真っ直ぐに向けられていた。
グラハムにも、彼女にも、実の所は分っている。エピオンの盾(装甲)はもう長くもつまい。
この戦法では既に敗北していると。

「すまなかったな……私の我が侭につき合わせてしまった」

聞こえてはいないだろうが、グラハムは申し訳無さそうに詫びる。
事実、両儀式にはグラハムのやり方を押し付ける形になっていた。
この戦い、この戦法に、両儀式は付き合う必要が無かった。
彼女にしてみればこの戦いはまずいかに勝負の土俵に立つか、接近を成し遂げるか、から始まるのだ。
大質量の圧殺攻撃がこない、かつ邪魔の入らない一騎打ちに望んでこそ、勝敗の是非が問われる。

それをこのような回りくどい戦い戦法で戦ったのは、ひとえに『何よりも優先して時間を稼ぎたい』と考えたグラハムの意向。
実際グラハムは、一方通行を殺しえる両儀式の刃を積極的に『殺すために刺す刃』とせず、主に『力を抑えるために向ける刃』として使っていた。
安全性と確実性を優先したとも、消極的ともいえるこの戦法は全て、仲間を、一人の少女を救いたいがために。
だが状況がこうなってしまっては裏目以外の何物でもない。
グラハムエーカーはここで脱落する。それはもう、半ば決定された事実であるのだから。

「だが、責任くらいは、残された勤めくらいは果たすつもりだよ」

グラハムエーカーはここで終わる。
死する。これはもう避けられない顛末である。
機体の状況、身体のコンディション、そして何よりも場の状況が、
これ以上の戦闘続行は死に至るだろうと告げている。

だがそれでも退く気は無い。
不退転の覚悟で望む。
たとえ、死ぬことになろうとも。

「私はまだ……負ける気など皆無だ……!」

空で戦い、死ぬなら本望。
軍人として、空に憧れた者として、死に場所として悪くない。
ただしそれは本懐を果たしてからのこと。

「守ると誓った者達を、決して傷つけさせはせん。たとえ敵が何者であろうとな!」

己の背後に守るべき者達がいる限り、その脅威を打ち倒さずして、どうして死ねようか。
その勤めを果たさずして、どうして諦められようか。
いいとも、来るがいい怪物。この命を喰らうがいい。
ただしその時こそ、勝利の時だ。
ああ悪くない、姫を守る騎士の役。悪と刺し違えてでも貫く、守護と正義。
乙女座に生まれた男子として、心踊らぬ筈が無い。

「行くぞガンダム、最後の戦いだ」

そしていつも敵はそこにある。
ずっと、強敵(とも)はここに在ったのだ。
グラハムエーカーは今、真実、ガンダムとの最後の対決に挑んでいる。
今までずっと、外側からぶつかり合い、そして超えようとあがいてきた存在。
心を捉えて止まなかった存在の、その内側にいま、グラハムはいるのだ。
ならばこれこそが真のせめぎ合い。
内側より超えて見せろと、その声が聞こえるようだ。
最後の戦いがガンダムであったなど、
やはりグラハムとガンダムは運命の赤い糸で結ばれていたに違いない。

守るべき、者。
戦うべき、存在。

二つの思いがグラハムを最後の空へと舞い上がらせる。
恐怖は無い。ただ胸の高鳴りだけがここに在る。
ならばその感情に、一体何と名前をつけようか。
と、今更問うまでもあるまい。

「ああ、この気持ち――まさしく愛だッ!!」

恐怖は無い。
何も怖く無い、怖くは無い。
グラハムエーカーは、グラハムエーカーとして、ただ愛だけを胸に、最後の空を飛んでいた。









             □ □ □ □







/もう何も怖くない、怖くはない(2)/あるいは阿良々木暦の俯瞰風景『もう何も恐くない』




ショッピングセンター第一駐車場。
ショッピングセンターと直接連結された立体駐車場であるその五階に、僕等は逃げ込んでいた。
向かい側のビルに陣取ったナイトメア(枢木曰くガレスというらしい)による砲撃と、余波。
それによって追い立てられるように辿り着いた場所で、柵の向こう、広がるビル街を見ていた。
目の前の、殺し合いを見ていた。

「先ほども言ったように、僕達は現在、ランスロットと分断され、孤立状態にある」

枢木の淡々と語る声、だけどあまり耳には入らない。
見守る戦場は、圧倒的な、もう見ていられないほどに、こちらの劣勢だった。
グラハムさんの操るガンダムエピオンは既に数多くの損傷を負い。
なおも僕らのいる駐車場を死守するために傷を増やしている。

「機体は瓦礫に飲まれたか。あるいは破壊されたか。
 分らないがどちらにせよ、大通りの道が瓦礫で塞がれている以上、徒歩では回収に向えない」

薄汚れた立体駐車場の床と天上に囲われて。
僕はここにいる。
天江もいる。
枢木もいる。
インデックスだって無事にここまで逃れていた。

だけど、ディートハルトはいない。
彼は砲撃の際、一瞬だけ僕等を守る動きを見せた後、ナイトメアごと瓦礫の雨に飲まれてしまったらしい。
周囲のビルやショッピングセンターの外壁が砕けた際の、コンクリートの落石。
その光景を見たのは僕じゃなく、枢木だ。
ディートハルト自身はランスロットが行動不能に陥る一瞬前に、機体を乗り捨てるように飛び降りて離脱していたらしいけれど、その後の足取りは分らない。
同じようにランスロットも、土の下に埋まっているのかどうかも、今どこに在るのかさえ、瞭然としないようだった。
この立体駐車場の五階、作の向こうは広大な町が広がっていて、だけどから見下ろせる範囲内には見当たらない。

「ここから死角になる、ショッピングセンターの側面。ランスロットはおそらくそこに在る。
 状態は不明だが。
 消去法からしてもそうだし、僕が最後に視認した位置でもある。まず間違いない」

枢木は接続した義手を試すように腕の間接を曲げながら、そんなふうに語っていた。

「僕の腕が治っても……このままじゃ無意味だ」

事実を、冷たく語っていた。
だけどこのとき僕は、それどころじゃなかったんだ。

「グラハム!」

天江の叫びが聞こえる。
この島にきてから、僕は無力に打ち震える以外のことが出来たろうか。
自問したところで答えは明らかに、否だった。
誰の目にも、僕には何も出来ていない。
それじゃあ何がしたかったのか、そんな事を今は思う。

「グラハムっ……!」

少女の手を、天江の手を掴みながら。

「よせ……もう無理だ……っ!」

そんな、諦めの言葉を告げながら、戦場に近づこうとする天江を押さえ込んでいた。
僕にはそんなことしか、出来ずにいた。

「あららぎ……」

天江はようやく僕の存在に気がついたように、身体から少しだけ力を抜く。

「このままじゃグラハムが……」

その質問に、僕はつい枢木を見る。
傍らに立っていた枢木は、目を閉じて、首を振る。

「現実的なことだけを言うと、あの戦場はもうすぐ敗北に終わる。
 グラハムさんの立てた戦術では、もう一方通行を打倒できないことは明らかだ。
 彼もそれをよく理解している。だからああして、僕等を守ることだけに時を費やしているんだろう。
 もってあと二回。早くて一回の交戦で、エピオンは落される」

枢木の言葉は、絶望的な状況を箇条書きするようだった。

「じゃあ、どうすればいい?」
「だから、どうしようもない。彼らの戦場に僕らが介入することは……残念だけど出来ない。
 僕の腕が治ったところで、ランスロットが瓦礫の向こうにある以上はね。
 いま僕達が生きるためにやるべきことは、グラハムさんを助ける事じゃない。
 どうやって、戦う術を手に入れるか、だ」

枢木の言葉は酷く残酷なようで、正しい。
僕らが第一に考えるべきはグラハムさんが落ちたあと、如何にして一方通行と戦い続けるかだ。
そのためにまず、瓦礫の向こう側にあるランスロットを回収しないといけない。
枢木がショッピングセンター前にあるその機体を再度駆り、一方通行と戦える構図を作る。
その上でじゃないと、ルルーシュとの連携は図れない。

「まずはここから出て、ランスロットにたどり着くために、砲撃を止めなければならない。
 対面するビルの、あのナイトメアを抑える必要がある。
 となるとここから迂回してビルに侵入。そして最上階にある敵機を叩く。
 確実に敵パイロットからの反撃が予想されるが、それでもこちらから動かないことにはジリ貧だ。
 警戒するべきはグラハムさん達の戦闘の余波だけど……」

「待ってくれ」

分ってる。
でも駄目だ。それじゃ遅い、遅すぎるんだよ。

「ここからランスロットを直接回収することは出来ないのか?
 多少は危なくても、そのほうが迅速にルルーシュと連携でき」

「駄目だ。リスクが高すぎる。
 道中でガレスの射線に入ることになる上に、
 そもそも直接回収にむかったところで、どうやってあの瓦礫をどかすつもりだ?」

取り付く島も無い。

「ディートハルトが機体を手放した以上、ランスロットの自力復旧は見込めない。
 僕の持つ機械による遠隔操作にすら反応を示さないとなると、どうしても他の機動兵器の手が欲しい。
 戦闘中のグラハムさんにそれが出来ないなら、やはりあのガレスを押さえるしか方法は無いだろう」

どれだけ正しくても、その言葉は天江を見捨ていることを意味している。

「敵機があの場から動かない理由は、やはり僕等をここに釘付けにするため。
 追撃が来ないのはパイロットとしての運用が不可能だからと推測できる。
 となると敵はこちらを監視できて、なおかつ機体を守れる場所にいるだろう」

天江の命はきっと、それまでもたないはずだ。

「ガレス内部か、またはその近く、対面したビルのどこか。
 この電波環境でなお遠隔操作が届く位置が考えられる」
「枢木……頼むから……」
「僕は君の自殺に付き合うつもりはないよ。
 せめて勝つ道筋を見つけ出してから、口を開いてくれ」

どうあっても、枢木は頑として譲らない。
勝算の欠片も無い僕の言葉では届かない。
体から力が抜けて、するりと僕の手から天江の腕が抜けていく。
駄目なのか。
結局僕には何も出来ずに、天江をこのまま……死なせる事になるのか。

「僕はグラハムさんの戦いを見届けてから、あのビルに向かう」

ヘッドセットを耳に当てながら、枢木はそう言った。
おそらくあの受信機のむこうにいるグラハムさんと、何らかの連携を取っているんだろう。
グラハムさんの死を前提とするような。それをグラハムさんが覚悟していたとしても。
天江の死を前提とするような。それを……グラハムさんは知らないはずだ。
僕は、天江を託されている。僕だけが天江の危機を正確に知りえている。
だというのに、死なせてしまうのか。
僕は……

「天江?」

その時ふと、気がつく。
先ほどまで心配そうに戦場を見ていて、今にも柵から飛び出しかねなかった天江が、一言も発していない。
床に座り込んだまま、じっと中空にあるエピオンを見て――いない。
天江は僕の言葉にすら気がつかないように、一心に手元を動かしていた。

「お前……なに……やってるんだ……?」

天江が見つめる先。
そこには麻雀牌と地図、方位磁石が並べられていた。
そして、そんな天江の傍らには、インデックスが座り込み、何事かをボソボソと告げていた。

「おい、何を考えて……」

僕はインデックスの肩に手をかけようとした。
こいつはいまだに主催の一味だった。
これ以上天江に何を吹き込もうとしているのか、
見当もつかないとはいえ、近づけたくはない。
けれど、天江はそんな僕を手で制するようにして、

「そいつを貸せ」

と、言った。
枢木にむかって。
顔も見ずに手を突き出し、トランシーバーを指しながら。

「…………」

枢木は少し迷ったみたいだけど、

「手短に、頼む」

そう言って、天江に機材を手渡した。
きっと、グラハムさんへと、最後の言葉を告げようとしていると、そう思ったのだろう。
僕も思った。だから止めようとした。まだその時じゃない。
僕は諦めたくなかった。
けれど天江は、すぐに受信機を耳に掛けようとせず。

「そう、か……」

顔を上げて、柵のむこうの戦場を見据えたまま、ポツリと呟いていた。
何事かに、気づいたような表情で、いちどだけ頷いて。
驚いたような表情が、氷解していく。

「やはり、そう……なのか、……は」

やがて全て悟ったように、それは笑みに変わっていき……。

「あららぎ」

そして、僕を見た。
僕をみて、にっこりと、口元を儚げに綻ばせた。

「ごめんな」

そう言った。
それだけで、僕は分ってしまった。
この子は……ああ……。

「衣は……きっと、もう助からない」

やめろ。

「あららぎは、助けようとしてくれてたんだな。
 うん、嬉しかった。だけど、ごめんな。
 衣は……」

やめろ、言うなよ。

「衣はもういい。もう、いいんだ」

首を振ったりするな。
そんな晴れやかな顔で、諦めたようなことをいうなよ。
泣きそうな表情で、嬉しそうに何を言ってんだよ。

「衣は分ったんだ。ここが衣の戦場なんだって。
 いま、衣は戦うことが出来るんだって……」

「……どういう意味だ?」

その言葉に、枢木も、驚いた声を上げる。

「だからもう、十分だ」
「十分って……何が十分なんだよ。お前は……!」

お前は生きていてくれればいい。
それで僕やグラハムさんは救われる、なのにお前は……お前は何を言い出すんだ。

「衣はずっと守られてた。グラハムに何も返せなかった。
 それでいいって、グラハムは言ってくれた。
 だけどもう……衣は守られるだけなんて……いやだ」

天江は麻雀牌を並べていく。
ずらりと、インデックスの呟きを聞きながら、ものすごい速さで並べていく。
形作られる、それはさながら、このビル街のジオラマのように僕には見えた。

「気づいたんだ……『ここならば戦える』って。
 だから……ごめん、な」

哀しそうに、天江は僕に、そう詫びる。
目に涙をいっぱいに溜めて、死の恐怖に震えながら、にも拘らず、嬉しそうに告げたのだ。
ごめんなさい、と。
それは明確な、拒絶のように聞こえた。
断絶のようにすら思えた。僕はそんな言葉が、聞きたかったわけじゃないのに。

「君はさっきから何を――」
「衣は、戦う」

枢木の言葉をすら遮って、彼女は強く言い切った。戦うと。
最後に一度だけ、涙を拭って、
拭った袖の下、その口元を歪ませて。

「戦えるんだ、だから今、衣は嬉しい」

残り僅かな命を、ここで燃やし尽くせれば本望だと。
面白いとすら彼女は言う。
その貌を見た瞬間、僕は、信じられないことに、この少女に寒気を感じていた。
いや、寒いだなんて表現じゃ生ぬるい、凍りついたと言っていい。

「戦える……やっと、やっと戦うことが出来るのだ……!」

下ろす袖の下、その瞳が、煉獄の炎の如くに燃えている。
なんだ? 
こいつは?

「目前の異能。その強靭。種に相違在り。ならば一切を児戯に堕とそう。
 衣が相違を合わせよう。魑魅魍魎跋扈する地獄。是だ。
 相手にとって不足は皆無。
 この戦場、この『場』全てを衣の支配下に置く。
 その役、種は違えど、戦いであることは同義だ。
 ならばそこへ、衣は往こうか」

こいつは誰だ?
見たことの無い、『天江衣』がここにいる。
その圧倒的な気迫に、僕も、枢木さえも、何も言えなくなっている。

「嗚呼、衣はもう、何も恐くない」

もしかすると彼女は対局の際、こんな表情を浮かべているのかもしれない。
死への恐怖など欠片も感じさせない、壮絶な笑み。邪悪とすら表現できる悦楽の表情。
その貌を見れば断言できる、彼女は守られるために生まれてきたような、そんな脆弱な生き物では断じて無かった。
この『天江衣』は紛れも無く、強く、恐ろしい何かを宿した怪物だ。
人を喰らい得る、他者を徹底的に圧倒し蹂躙し完膚なきまでに叩き潰す。
そういう位階違いの強さ、戦慄すら、感じさせた。

「開幕だ」

一閃される、少女の細い腕(かいな)。
そこに燃える焔を、僕は確かに、幻視する。

「さあ謳え凡念。
 譬え、一切合財、烏有に帰そうとも。この戦だけは譲らない――!」

そして僕は知る。
きっと言葉は届かない。
覚悟を決めた『天江衣』に、僕の説得は響かない。
誰が何を言おうと、彼女は決して退かないだろう。


「天江……お前は……」


この少女は――ここで死ぬ。


それを知る。


戦って、死ぬ。


真実、ここで果てるまで戦うことを、選んだのだから。





             □ □ □ □






/もう何も怖くない、怖くはない(3)




ビル街を爆速で躍動するガンダムエピオン。
その動きは既に、正道をかなぐり捨てていた。


笑いとも悲鳴ともつかぬ叫び声が人知れずコックピットに木霊する。
機体は人体の限界を超えた速度で急上昇。
手の平に乗せていた両儀式を、とあるビルの屋上に残した後。
目視した敵手の姿へと特攻を仕掛けていく。

「っ、おい……お前っ!」

地上から式が発する抗議の声になど頓着せず、エピオンただ目前の敵へと、敵へと駆けた。
そのような暇和は無い、これから防ぐべき蛮行は、彼女を乗せたままでは追いつけない。
中空にあるそこに、ショッピングセンターを狙い撃とうとしていた一方通行へと、急速に接近する。
投げ放たれていた建造物の一投げをシールドでもって防ぐだけに留まらない。
可能な限り、全ての攻撃動作を仕掛けていく。

ビームソードによる斬撃、通用しない、承知していた。
ヒートロッドによる一閃、通用しない、承知していた。
機体の左足部による蹴撃、通用しない、承知していた。

委細承知している。

それでも実行する。ひたすらに攻めた。
攻めて攻めて攻めて攻め続ける。
それこそが勝機、グラハムエーカーが信じている勝利への、唯一の道筋だった。

攻めるたびに、そのたびに攻撃はそらされ弾かれ跳ね返されて、エピオンの装甲に傷を増やし続ける。
装甲の終わりを早め続けた。
それでも、退くわけにはいかなかった。
攻撃の手を止めることは出来なかった。

中空にて死の舞いを踊るエピオン。
ビームソードの閃光が幾重にも散り、小規模の連鎖爆発が巻き起こる。
ヒートロッドが乱れ飛び、弾かれ、ビル街を火に染め上げる。

だが全ては片手一本で払われて、
弾かれたように退避したエピオンに、今度は一方通行が急降下で仕掛けていく。

咄嗟の迎撃、渾身の左の足部が跳び、一方通行に激突する。
当然、何の効果も上げていない。
どころかメキリ、と、足部が窪む。
蹴りの威力を全て反射され、自慢の装甲が歪む。
が、構わずに押し込んで、一方通行の座標を無理やり変えようと。

「オオオオオッ!!!」

ブーストを全開に吹かせ、そのまま邁進。
だかそれすら叶わない。
敵は微動だにしない。
メキメキと、よりいっそう装甲が窪んだだけだった。

「来いッ」

そこに駆けつける死の風。
一方通行が損傷を更に広げようとする刹那。
いつの間に拾い上げられていたのか、両儀式がエピオンの足部へと走りこむ。
刀の攻撃範囲から逃れた一方通行。だが更にエピオンが追撃する。
またしても、両儀式を近場の建造物の上に置いたままで。

「逃がさんッ!!」
「お前、滅茶苦茶だぞ……」

正に両儀式の言葉のまま、滅茶苦茶の特攻撃だ。
ただ傷だけを増やす追撃。意味のない。
死にに近づくだけの挙動。
その度に装甲は抉れ、無茶な挙動にパイロットは血を吐き、終わりが近づいていく。
それでも攻め続けなければならなかった。

攻撃の度に損傷する。
攻撃の度に血反吐を吐く。
それでも、こちらが攻撃するということは、敵は能力を使うという事だ。
こちらが攻撃し続けるということは、相手は能力を使い続けざるをえなくなる。
一方通行の能力に時間制限があるということは、スザクを通して知っている。
攻め続けた果てに、時間切れを狙う。
どうあっても両儀式との一対一に持ち込めない現状、その他に勝ち筋は見えない。

攻撃。
攻撃。
攻撃。
攻撃。
繰り返す。
繰り返して、払われて、落ちていく。

まだまだ足りない。膠着状態だった時間を除けば、まだたったの数度しか交戦していない。
実際の戦闘時間に換算すれば、未だ五分にも満たないのだ。
具体的にどれだけ力を使わせれば底をつくのかは知らないが、薬局の時を思い出せば、まだまだ足りない事は分る。
ならばコンスタントに攻め続けていきたい、しかしそれをするには機械対人ではあまりにサイズの差がありすぎた。
一度見失えば、次にどこから攻撃が来るのか予測できない。後手に回らされてしまう。
それでは駄目だ。それではもう、あと二度の交戦ともたずにグラハムは陥落してしまう。
それほどの余裕すら、残ってはいないのだ。

もう一つだけ、手が無いわけではない。
誘い込み。
薬局の時の様な、何かを餌にして両儀式の戦える場に一方通行を呼び込む。
しかしこれはグラハムの大切な者を危険に晒す行為に他ならず。
グラハムにはどうしても、選べない。

だからいま、攻める。
たとえ矛をかなぐり捨ててでも、
盾だけになろうとも、ひたすらに攻めた。
攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻め続けて
せめてこの身(装甲)が朽ち果てる前に、あの少女を守らせてくれ。
後に戦い続ける者達へと、残せる戦果を上げさせろ。
その一心で、痺れの治まらない腕で、操縦桿を握った。

「…………ご、が……」

だがそれすらも、叶わないというのか。
グラハムは遂にこの時、光を失っていた。
身体の酷使は臓腑だけでなく、脳にすら及ぶ。
くらりと揺れた視界、色の失せる世界。
その一瞬後に、揺れる機体。

深刻な反撃を受けた。
堕ちる。
死ぬ。

そんな断片的なことは分る。
だが具体的なことが見えない。
分らない。視界に映らず、脳が認識しないままで落ちていく。
攻めきれなくなったときに切るカード、両儀式の居る位置すらも、これでは分からない。
このままでは終わる。

そう、グラハムは理解した。
口惜しい。未練だ。
守るべき者を守れずに、戦いの結果を見届ける事無く死んでいく。

そしてあと一つ、何かが足りなかった。
今なら分る。
グラハムの操る装甲。
両儀式の刃。
これだけでは、まだ足りなかった。
もう一つ、何かが必要だった。
それは敵の頭脳に対抗するべきもの、そう戦術眼、オペレーション。
戦場を俯瞰し、操り、事を優位に運ぶ手綱。
兵たるグラハムは、それを持たない。
戦士たるグラハムと式を、背後から支えてくれる、バックアップ。
参謀の言葉が、『指示』が、欲しかった。
そう、例えば、

『左方に跳べ、其処に両儀が在る』

今聞こえた。
このような声が欲しかったのだ。

「――――!!!!」

意識が、一瞬にして覚醒する。
目をカッと見開き、それで視界はもどらなくとも、腕を、トリガーを、もう一度強く握り締めた。
今確かに聞こえた『声』には、それほどの威力が在ったのだ。

頭にかかっていた靄など彼方に吹き飛ばし、機体を、その『声』の言うままに駆動させる。
地面に叩きつけられる寸前に、ガンダムエピオンは息を吹き返し、ブースト。
左方向へと軌道を変えて、立ち並ぶビルを薙ぎ倒しながら跳躍する。
遅れて地に降りた一方通行がすぐさま追撃を仕掛けるも、その場所は、
ある建造物から、躊躇なく飛び降りた両儀式の、落下してくる場所だった。

「ちっ」
「ほんとオレにはつれないよな。相手してくれるの、一回だけなのかよ」

退く、一方通行。
直前で視界を取り戻したグラハムにより、エピオンの腕が中空の両儀式を受け止める。
式が一息をつく暇すらなく。

『虚偽だ。敵は不退。左方より来たるぞ』

盾を構える。
言われた通りに、敵は来た。
エピオンの視界の外、ビルを突き破って。
小破した腰部を狙ってきた一方通行を、エピオンの左腕のシールドが受け止める。

「――――?」

何故、防がれたのか分らない。
と言った様子の一方通行。
再び動き出す前に、両儀式を肩に乗せ、エピオンは後ろに飛ぶ。

『その動作は否だ。回帰後、本懐の守衛こそを担え』

ビームソードを抜刀。
右に残っていたビル郡を纏めて切り裂き、一方通行へと落としていく。
視界を塞いだ隙に旋回。一方通行の背後へと回り込む。
案の定、落下してくるビルを弾き飛ばして、一方通行はすぐさま跳躍していた。
背後にあったショッピングセンターへと攻撃を仕掛けんとし、だがそこには既にエピオンが回り込んでいる。

『喰らうべきは視界。奴が受け入れる五感を穿つ』

再びシールドで弾く、一撃。
すぐさま式が肩部から飛び降り、接近を仕掛ける。
そこへと意識が集中した一方通行に対して、振り上げるビームソード。
振り下ろす、斬撃。

『故に、地を裂け――グラハムッ!!』

路上を、倒壊した建造物が積み上がったその場所を、金緑色のブレードが両断した。
巻き上がる砂塵、瓦礫、粉塵。
一方通行とエピオンの間に、濃茶色の壁を形成する。

次いで、上に向けられたシールドの上に、式が着地。
迎え撃つ姿勢を整えた。
敵の視野を遮った上での迎撃体勢。
これでは一方通行とて迂闊に踏み込めない。
決して不可能に思われた、建て直しを、成した。

「なにを……?」
「――ん?」

グラハムはこの時、一つの錯覚を得ていた。
声が聞こえていない両儀式も、同じく。

その、圧倒的な気配。絶対的な存在感。
無視できない、感情の焔。
確かに、背後に、感じていた。
背後のショッピングセンターより雪崩れし不可視の激流が、たったいまこの戦場を飲み込んだのを。

「君は何をやっているんだ、天江衣ッ!!」

それは足りなかった1ピース。
盾、矛、そしてもう一つ。第三の要因。
限界を迎える身体を、背中を支えてくれるような声。
戦場を俯瞰し、動かす。指示。
敵の位置を、味方の位置を、戦局を、指揮を伝える、オペレーター(通信士)。
充足させるその声は紛れも無く、天江衣の声だった。

「君は……君は……!」
『今は何も言うな、グラハム。衣はグラハムの傍に居る。最後まで傍に居ると、そう決めたよ』
「しかし君はこんな所にいるべき人間では無いんだ!」
『嫌だ、衣も戦う。だって』
「――くっ」
『ここが衣の、戦場だからな――!』

やり切れぬ思いに反して、身体は動く。
的確すぎる、的確すぎて不自然に思えるほどの指示によって。
否、指示自体は大雑把で場当たりなものだ。
瑣事加減や具体的な動きはグラハムに委ねられている。
参謀の言葉としてはあまりに欠陥がある。
しかしその通りに動けば、不思議と事が上手く行くようだった。
自然に、自然すぎて不自然に思えるほどに、戦場が都合よく転がっていく。

『敵は右方』

ビル街の中空で、続行される攻防。

『両儀の位置は後方に在り』

限界などとうに超えているはずの戦場で、エピオンはいまだに顕在している。
残り数度が限界に思われる交戦だったにも拘らず、激突は気がつけば十を超えている。
綱渡りの様な戦況、確かにそうだった筈だ。
にも拘らず天江衣の声が響いてより、一度の窮地も無い。

『敵の本旨は依然此方だ。まだ退くな!』

戦場を俯瞰できる声があるから、だけでは説明が付かない。
何か別の物がある。
別の要因を、感じている。

運命の変っていくような、『支配』されいてるような。
全てがその声の通りに、上手く行くような、改竄。
さながら、ツキの女神に愛されたギャンブラーにも似た。
どれ程絶望的な賭けに見えても、滅茶苦茶な確率であろうと、そもそも勝つ気すらなくとも、かくあるべしと勝利する。
勝利してしまう事が条理であるかのように、事が上手く働いてしまうような実感。


「なンだ?」

それはグラハムの敵にとって、即ち一方通行にとって、真逆の事態を意味しているだろう。
全てが、悪く働くような。
悪性の支配を、運が全て敵に回るような錯覚を。
何をしようと上手く行かない、裏目に出る。
引き換え敵は、意味の分らない強運でもって窮地から逃れ出る。

まるで足元から不可視の海水が湧き上がってくるようだった。
このビル街全域を、瞬く間に大量の塩水が満たしていく。
錯覚ではなく、それに足を取られている。
戦場が海となり、ここに巨大な『流れ』が発生する。
グラハムエーカーと一方通行との間に在る違いは、その流れが己に利するか害するか。
そして海水の発生源とは今この時、一方通行が見つめる――ガンダムエピオンの更に向こう――
ショッピングセンター第一立体駐車場にて戦場を見下ろす、一人の少女に他ならない。

「これは――?」

強運を、操る。否、この表現は適当ではない。
これは最早、運ではない。
運否天賦に介入した、能力。
天江衣の強大なる――『場の支配』そのものだった。





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最終更新:2012年02月26日 02:44