HERO SAGA 『崩落』 ◆0zvBiGoI0k
◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ルルさんっ!ルルさん!返事してください!』
「っぐぅ……」
耳元から聞こえる叫び声にルルーシュの意識が呼び覚まされる。
何とか起き上がりまずは自分の状態。【歩く教会】の恩恵か目立った傷はなし。
折れた腕が無意識に動かしたせいか痛みがぶり返してるがまだ許容範囲だ。
自分の置かれた状況を飲み込みつつ、通信に応える。
「桃子か……脱出は済ませたか……?」
『完了したっす。丁度ルルさんのいる所の反対側にいるっすけど、突然ドーンて爆発して……』
周りを見やる。埃に舞って遠くまでは見えないが、式、デュオ、五飛、憂の姿は確認できた。
動きを見せている所からも一応生きてはいるようだ。
「……そうか。良し、こちらに合流しろ。もちろんステルス状態でな」
それならもう締めの時だ。相手の戦闘力は予想以上だった。ここで必ず止めを刺さなければならない。
ミサイルの直撃を受けて生きてるとも思えないが万全を期すために爆破スイッチを取り出す。
(……しかし爆発に飛ばされるとはな。距離はちゃんと計算した筈だが……)
着弾距離と爆発の規模は完全に把握していた。
計算なら直撃を受けた
バーサーカーが政庁深くに吹き飛ぶのを見届けられていたはずなのに
こうして巻き込まれるヘマをしている。不手際などなかったはずだが……
(―――待て、まさか―――)
その時、ルルーシュの脳内に不吉な想定が芽生える。決してそれはあってはならないと知りつつも、
その可能性が高いことに気付いてしまう。
その仮定を肯定するように、
「■■■■■■■■■■■■………………!」
地獄からの雄叫びが聞こえた。
▽―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「憂!」
唯は叫ぶ。妹の名を叫ぶ。叫びながら砂埃が舞う戦場を走る。
視界が利かない中、周りからトロいと呼ばれる彼女が走ればどうなるかは言わずもがな。
すてんと、破片につまづいと大仰に転ぶ。
鼻を押さえながら、それでも足を止めることなく進み続ける。大事な妹を助けるために。
「唯!行っちゃ駄目だ!まだ!」
その後を澪は必死に追う。震える全身に鞭打ち、砂霧の中に消えた友達を探し彷徨う。
式達が決死の攻防戦を敢行してる間、唯と澪は少し離れた所でその有様を見ていた。
唯は憂の傍に駆け出そうとしていたが澪がそれを制した。自分達が行っても何にもならないと、
足手纏いになるだけだと問い詰めて。
けどそれは仮初の理由で、本音は唯にあそこに近づいて欲しくなかっただけなのだろう、
……バーサーカーというあの怪物。あれは多分、橋で私が感じた悪寒の根源だ。
それがここにいるということは、やっぱり
伊達政宗は死んだのか。加勢に向かったヴァンという人も、
福路美穂子も。
この目でその強さを見た伊達政宗に物凄い脚の速さを見せ付けたヴァンさん。
それと怪物みたいな左腕を持った福路美穂子が3人束になっても、あの怪物には敵わなかったんだ。
そんなモノの近くに、唯を置かせたくはなかった。つまるところ理由はそれだけなのだろう。
けどそれは、あそこにいる憂ちゃんや他の戦ってる人達を見捨てる意味にもなる。
だから私は離れた隙に荷物をひっくり返して中にある武器をもう一度確認した。
私だってもう逃げるのは嫌だ。力があるなら戦いたいって思ってる。
私自身はそんな力を持ってないんだからなにか武器を取るのがそれに繋がると思っていた。
闘技場で気絶してから中身は見てなかったし、政庁に入ってからも憂ちゃんや唯、
式さんのことを考えてほったらかしだったのだ。
服や本なんかを除くと、唯を撃ってしまった銃にナイフ、変に折れ曲がった剣などがあったが、
私にとって武器以外の思いもある、律が持ってた日本刀を鞘に入れて
明智光秀を刺したドラムスティックと同じく腰に挿した。
オレンジ色の鞄も出てきたが中を開いても何もなく、そのまま放っておいた。
どこかで、ジジジジジ、と虫の羽の音みたいな音がしていたが無視した。
そうしている内にルルーシュさんが蟹?みたいな生き物?に取り付けたミサイルを化け物に向けて発射した瞬間、
もの凄い音と一緒に辺りに埃が舞って様子が見えなくなってしまった。
それにいてもたってもいられなくなった唯が一人で走りに行ってしまい、
私は後を追って唯を探している。
そうしてようやく唯を見つけた。憂ちゃんもそこにいた。気絶してるようだけど動いてる。生きている。
良かった。あとは2人を連れてここから離れるだけ。ミサイルが直撃したんだからあの怪物だって生きてなんかいない。
風が吹いて埃が消えていく。景色が晴れて夕焼けの太陽が顔を見せる。
そんなある種幻想的な光景の中で、
「■■■■■■■■■■■■………………!」
二人の背後に、あっちゃいけない姿があった。
「え――――――」
ワケが分からない。
どうしてあの怪物が唯の目の前にいるの。
どうしてそんな、今にも唯を■そうとしているの。
どうして、みんな私の目の前で死んでしまうの。
律は苦しみながらも、最後まで私を案じながら首を落とされた。
紬は狂わされて、人を殺してしまい胸を貫かれた。
唯は、憂ちゃんはどんな■■■を見せて死んでしまうのか。
嫌だ。そんなのは嫌だ。もう友達を目の前で失うのは嫌だ。
……違う。私が嫌なのは私自身だ。
逃げるのが嫌なんだ。何もできずにただ逃げて恐がるだけの自分が嫌なんだ。
そんな自分と決別するために自分を破滅させた男を殺したのに、これじゃ何も変わらない。
私は、変わりたい。
だから、お願いします。
神様でも悪魔でも構わないから、
誰か、唯(わたし)を助けて下さい。
……祈りは、神でも悪魔でもないモノに届いた。
◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バーサーカーのしたことは何のことはない。ただ飛んできたミサイルを、手に持つ斧で弾き返しただけだ。
だけ、という行為がどれだけの筋力と技量と精神が必要となるかは細かく説明することもないだろう。
技量に関しては「バーサーカー」には望めない課題だが、他2つについてはそれを補って有り余る為合格点は越えていた。
本来は「叩き落とす」つもりだったのが、両断されて表面積が減り先が尖っていたため「切り落とす」形になってしまった。
結果、中途半端な位置に跳ね返ったミサイルは本来安全な位置にいたはずのルルーシュ達に飛び火し、
バーサーカーも肌を焼き、元々半壊してた軍配斧は今度こそ完全に破壊された。
武装がなくなったといはいえバーサーカーの行動に変化などない。
凶暴に、乱暴に、暴虐に狂うのみだ。
それならば目の前に立ち尽くすルルーシュを狙うはずだが、バーサーカーは素通りする。
理由は一つ、「餌」に釣られたからである。
足を進めた先には、気絶しているゴシックロリータの少女、
平沢憂。
当然、性別にも服装にも狂戦士の気を引く要素など皆無だ。
見えぬ目に留まったのはその腰に吊るされている袋。更にいうならその中身。
膨大な魔力の篭もった十の宝石だ。
聖杯に招かれしサーヴァント・アーチャーを喚びし名門魔術師、遠坂凛。
血統も才能も実力も超一流の才女が年月を蓄えて魔力を充填した礼装たる数々の宝石。ちなみに1個約数千万。
年齢に関わらず女性にとって宝石とは目を輝かせるものなのか、憂もまたそんな輝きに魅せられて
暇があれば大粒のダイヤやルビーを鑑賞して楽しんでいた。
デイパックからいちいち出すのが面倒くさいと考えていたので、巾着袋に入れて腰に下げていたのだ。
内蔵された魔力を炸裂させれば十全のバーサーカーにも損害を与えられる程の威力を持つが、
魔術に関わりのないルルーシュにその価値など見出せるわけもなく
好きに弄らせておけばいいと放置していたそれが、ここに飢えた獣を引き寄せる疑似餌となった。
ここにまたしてもルルーシュは九死に一生を得たことになる。本人を含め、誰も気付いていないが。
「■■■■■■■■■■■■――――――!」
咆哮と共に開けた口から、極太な乱杭歯が覗く。
これだけ充実した魔力、全て取り込めば瞬く間に肉体に活力が戻るだろう。
当然宝石の詰まった袋だけつまみ取るというような精密な動作をバーサーカーが行えるはずもなく、
また行うつもりもなかった。
近くにある肉ごと、宝石を砕き飲む。効率は悪いが順序だてる余裕も思考もない。
いつのまにか傍に命が一つ増えているが関係ない。贄は、多い方が供給も多くなる。
大英雄という名とは程遠い鬼畜な行為に嘆く間もなく開けた大口を地に押し込もうとした時、
質量を持った影が、巨人の周囲を駆け巡った。
「■■■■■■■■■■■■――――――!」
何かは分からぬ。だが「何か」が己の周りを高速で旋回していることは分かった。
なら―――話は早い。回る黒渦の中に腕を突っ込む。瞬間、腕に何かが食いつく感触があった。
それは、黒いネコだった。いや、ネコのようなもの、というべきか。
単に影だけで出来ているそのシルエットがネコに似ているだけのことだ。
「■■■■■■■■■■■■――――――!」
触覚が捉えたのが先か、本能で握りしめたのが先か、掴んだソレを振り回し、地面に叩きつける。
何度も、何度も。
やがて腕に突いた黒い染みも消えた。そのまま狙いの宝石を持つ少女を喰らおうとして、
自分よりも大きな口に顔を喰われていた。
「■■■■■■■■■■■■――――――!?」
引き剥がそうと片手でネコ、いやネコだったものを掴み、握り潰す。影は消え、
だがすぐに形を戻しバーサーカーに食いつく。
「唯!早く!」
バーサーカーが黒い影に悪戦苦闘してる内に、澪が唯たちの元に走る。
その目は、怯えを孕みながらも以前よりも強い決意に満ちていた。
「澪ちゃんスゴイね!いつのまにあんなこと出来たの?」
「え、いや出来たっていうか……うん、まあ簡単かな!」
未だ気絶中の憂をおぼつかない足取りで肩に背負う唯その眼差しが少しだけ嬉しくて、
適当にはぐらかして顔を隠しながら逆の肩を持つ。
正直な所、澪にも今戦ってるあれが何なのかは分からない。
助けてと強く願ったらいつの間にか真っ黒なネコが目の前にいて、
それが私の言うとおりに動いてくれると分かるだけだ。
澪の呼び出したネコに名前はない。ただ個体認識の手段として便宜的に付けるとしたら「影絵の魔物」、
詳しくいうならば「蒼崎橙子の使い魔」だ。
澪が支給品のトランクケースを開いた瞬間にそれは現れた。ただ澪はそれが出る瞬間を見過ごし、
使い魔は自分を出した主人から指示がなかったため姿を見せなかった。
この使い魔はトランクケースを開けた人物を主と認め、命令どおりに動くよう調整されている。
ネコの姿は偽装のようなものであり、脳天を蝶番のように開いて巨大な口に変わり敵を捕食する。
だがこれの最も驚くべきギミックはその永続性だ。
ネコの影はただの「映像」に過ぎない。鞄に仕込まれた幻灯機が大気にエーテル体を映し魔物を具現化させる。
従って鞄の機械が機能してる限り使い魔は何度でも蘇られる。
この世に二つとない才能の持ち主、封印指定の人形師お気に入りの一品だ。
小難しい話を切って要約すれば、鞄を手放さければあのネコは不死身だ、という認識で概ね間違ってない。
無論、措置として幻灯機の起動は10分が限界でそれを過ぎれば1時間の間使用不能になる枷も用意されてあるが。
「あっ!これ憂が乗ってたやつだ!澪ちゃん、これに乗ろう!」
目の前には先ほどまで憂を乗せていた蟹みたいなモノ。全く微動だにせずちょっと不安だけどそこに憂の体を横たえる。
確か、この手綱を使って動かしてたような……
光り輝く縄を持った瞬間、蟹が動き出す。3人乗りは少しキツイけど無理なことはない。
多脚ならではの安定感でその場を離脱する。
(これなら……私も戦える!唯を守れる……!軽音部の皆を助けられる……!)
澪はその暇があれば天に祈りたい気分だった。これでもう逃げなくていい。起源は乗り越えた、
他の人たちみたいに戦っていける。何より唯たちを守れる。
ブラッドチップの効力は未だ澪の体内で除去されず、芽生えた思いの火を強く灯す。
……その思いが、何処か履き違えていることに気付かずに。
「■■■■■■■■■■■■――――――!!」
とうとう痺れを切らしたバーサーカーが黒いネコを無視する。
鼬遊びに興ずる暇はない。ネコの攻撃が自分に致命でないことに気付いたバーサーカーは
纏わり付く影を払い、離れていく3人を追いかける。魔力の補給の為でなどなく、
屠るべき敵として。
足に噛み付く口を蹴り抜く。ネコは存在が希薄な分物質的な衝撃には強くはない。
重量オーバー故か常時よりも鈍い蟹へ魔手を伸ばす。
側面からの斬撃が飛ぶ。刃の主は黒くもなければネコでもない。確かな輪郭を持つ1人の人間だった。
「余所見をするなと言った!貴様の相手は俺だ!」
額に血を濡らしながら五飛はバーサーカーに立ちはだかる。3対1でも押された相手、
1人で迎え撃つなど自殺行為でしかない。
「女!刀を寄越せ!」
夫婦剣を狂戦士に向け投擲し怒声をあげる五飛に驚きながらも唯は荷物から中務正宗を手渡す。
鞘から抜いたや否やまたしても単独で駆けて行く。
「■■■■■■■■■■■■――――――!!」
真正面に立つ敵を、バーサーカーが素通りする道理はなし。
武器がなくとも肉体そのものが一つの武器であるバーサーカーにはさしたる影響もない。
迫る夫婦剣を事もなげに弾きながら、隻腕から魂ごと消し飛ばしそうな剛拳が唸る。
その拳を、五飛はかわす。それだけでなくすれ違いざまに腕に刀を這わせ縦に裂く。
「■■■■■■■■■■■■――――――!!」
「おおおおおおおおお!!!」
今までの比ではない苛烈さで五飛は双剣を振るう。まるで、何かに導かれるように。
『この攻撃で奴が倒せるとは限りません。
だからもし奴がまだ生きていた時は―――貴方が、奴を倒して下さい』
1度目のミサイルを放つため散開してた3人が近づいてきた時に、
誰にも悟られることのなく紡がれた、呪いの言葉。
敵を定めたその瞳は、赤く紅く輝いていた。
□―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Cの魔女より与えられし力、ギアスの効果は相手に指示した内容を強制させること。
人の意思を湾曲させ捻じ曲げる力だ。
だがその内容が対象にとって当然の行いによる場合、如何なる変化が起きるか。
これに似たものに、サーヴァントへの絶対命令権、令呪というものがある。
過去の英雄の魂サーヴァント。それが自身を喚び出した魔術師―――マスターに必ず忠誠を尽くすとは限らない。
特に悪徳を重ねたことで名を残した「反英雄」はあからさまにマスターに敵意を向けることもある。
その保険がサーヴァントを律する秘蹟、3度だけ指示に従わせることのできる令呪という存在だ。
令呪の強制力はほぼ絶対で、自身の自害すら命じられても逆らえない効力を持つ。
そして令呪のもう一つの使い方として、「サーヴァントの強化」というものがある。
「来い」と念じればどれだけ離れていても一瞬でその場に転移させることが出来るし、
「必ず勝て」と命じれば曖昧さ故効果はやや減じるものの、常時より多くの魔力を供給されたり、痛覚を無視して行動できる。
ギアスと令呪、回数や条件の違いはあれど互いに似通った性質を持っている。
ではギアスで「バーサーカーを倒せ」と命じられた
張五飛はどうなったのか。
これにもまた前例がある。この会場にもいる
枢木スザクだ。
彼には「生きろ」というギアスがかけられている。これが発動した時、
つまり命の危機に瀕した時、スザクはあらゆる手段を以て「生き」ようとする。
理性で使用を控えていた核兵器を撃つことにも躊躇しなくなる。
これを応用してあえて死地に飛び込むことでギアスを自発的に発動させ、
己の潜在能力を全て引き出しナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインを討ち取っている。
ここで重要なのは、五飛はルルーシュに命じられるまでもなくバーサーカーを倒す気でいたことだ。
よって意識の改竄が行われることなく、自らの意思で五飛は戦っているのだ。
式も、この中で最も付き合いが長いデュオもその変化に気付かない。
自身の手駒の戦闘力強化。駒一つに付き一回のみの精神ドーピング。
ルルーシュが持つ最大の手の一つを今ここで切ったのだ。
「貴様は!俺が倒すっ!!」
五飛は吼える。目の前の魔獣に向かい憤怒する。
女子供を食い殺そうと文字通り牙を向け、ただ殺すだけのため殺す。そんなものは「悪」ですらない。
外道の域すら超えている。
そんな餓鬼道の鬼の行いを許せる程五飛の「正義」は死んでない。
奴は倒す、倒さなければならない。そう思うほどに活力が沸いてくる。
筋が、骨が、脳髄が、奴を倒すためだけに作り変えられていく。
この瞬間の五飛は、刀を手にした式と同等の反応速度を得ていた。
無意識ながら五飛はギアスを完全にものにしていた。操られるのではなく、意思を同調させ
ギアスの力を、自身の潜在能力を余すことなく引き出していた。
数を追うごとに勢いを増す剣閃に、バーサーカーも危険を察知する。
他に気を回す余裕などない。全力を以って当たらなければ消えるのは自身の命だと本能で直感する。
「はあああああああああ!!!」
正義を貫く闘志。
鍛え上げた肉体。
宝具にも届く秘刀。
絶対尊守の力ギアス。
4つの要素が絡み、相克し、1つの刃を成しその刃は、
バーサーカーの胸の真中を突き貫いた。
「■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!」
使命を貫く殺意
神秘にまで高められた肉体。
試練の褒章に賜った宝具。
世界に刻まれた威名ヘラクレス。
4つの伝説が合わさり、狂い、1つの拳を生みだしその拳は、
超五飛の五体の全てを砕き散らした。
□―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ってぇ……」
爆音の後の静寂、デュオは意識を取り戻した。
無意識に受身を取ったがそれでも脳への衝撃は殺しきれず、1分にも満たないが気を失っていた。
「……ありがとな。また助かったぜ」
自分を守ってくれた「相棒」に感謝する。飛び散った1m強の瓦礫の散弾から身を挺してくれた死神の欠片に。
「……っそうだ。おい式!生きてるか!」
一番遠い位置にいた自分でこれだ。爆発に最も近かった式の安否が気になった。
最悪自分よりも吹っ飛んでるんじゃないかと危惧していたところに
「し―――」
「何度も呼ぶなよ、起きてるから」
壁にもたれながら、気だるそうに少女が返事をした。
「……無事か?」
「無事じゃないなら喋れないよ。……まあ体中痛いけど」
いつもの口調からは生気がない。体力を殆ど使い切ってしまったようだ。
これでは戦闘どころか、避難もままならないのではないか。
「そうか……今は休んでな。動けるくらいになるまでは待っててやるから―――」
「休む暇なんてないだろ……まだ生きてるよ、アイツ」
労いの言葉は、継戦の言葉に支えられる。
何を―――と言おうとした所に響く、狂人の吼える声が聞こえる。
MSだってまともに喰らえばただじゃ済まない一撃を、凌いだっていうのか。
「……刀、唯ってやつから一本もらってきてくれないか。そうしたら動けるから」
くの字に折れ曲がった刀が、手元にあった。新しい武器を、式は求めている。
「おいお前」
「だから死ぬ気なんかないって……ていうか、なんか意地でもあそこには行きたくなくなった」
遠い未来(さき)を見て、嘆くようにそう言った。
「ったく……分かったよ、それまでじっとしてろよ!」
この年でおつかいに励むことになるとは思わなかった。しかもかなり命がけの。
埃が晴れた先には、探していた人が全ていた。
特に目を引いたのは、狂人と真っ向に切り結んでいる五飛。冗談みたいな拳を冗談みたいな動きでかわし、
冗談みたいに重く鋭い一撃を食らわせている
「おい五飛!無茶やってんじゃねえよ!!」
フェイファー・ツェリザカの照準をつけるが近くで剣舞をする五飛の動きが縦横無尽過ぎて上手く狙いが付けられない。
位置取りを変えるためと蟹らしきものに乗ってる3人に近づくため移動しているところに、
全身を潰され、間に合わなかった男の姿を見た。
それに目を向ける暇もなく、バーサーカーはまだ生を続ける。
宿らせていた神秘を嗅ぎ付けたのか、近くに落ちていた短剣を掴み。
そのまま―――石を投げるかのように放った。
行き先は、3人の少女たち。
デュオは動かない。走ったって間に合わないし、盾になりそうなデスサイズの装甲版は重すぎて投げ飛ばせない。
大柄の鎌なら届くかもしれないがそれはデイパックの中にある。取り出した時にはもうおしまいだ。
叶う手は―――右手の銃のみ。
神経を、研ぎ澄ます。1秒が何秒にも遅く感じる静寂の中、引き金を引く。
超高速で回転する剣に、超高速の弾丸が被弾する。それは、何の神秘にも頼らない一つの奇跡。
けれど奇跡はそこで打ち止め。勢いは衰えたが狂戦士のギロチンは断頭を望む。
亜麻色の背中に、一本の羽が生えた。
◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目をさましたら、そこに死があった。
私の目の前には、私を抱き寄せたお姉ちゃんがる。
背中にナニカがくっついていて、そこから赤い液体がスゴイ勢いで噴き出して、私の体を染め上げる。
「どう、して……」
そんなことを、聞いてしまった。理由なんて、ずっと前から知っているはずなのに。
だって、と咳き込みながらもお姉ちゃんは答える。痛みなんて、感じてないように。
「―――だってわたしは、憂のお姉ちゃんだから」
幸せそうに、あなたを守れて本当によかったと笑顔を浮かべながら、
眠るように、私にもたれかかった。
「あ……」
声が、漏れる。理解できない思いが、体中を走り回ってる。
この人に私は何の思いも持ってない。心底どうでもいい、生きても死んでも関係ないとしか思ってない。
その思いが、私の心の孔を障る。
平沢唯は私のお姉ちゃんで、生まれた時からずっとそばにいて、おっちょこちょいでドジで勉強も出来なくて私よりも胸が小さくて、
けどそんな人を、だれよりも優しいお姉ちゃんを私はずっと
何も、思わない。
思いが、暴走した。
その光景は、私の一番望んでいないものだった。
「え―――」
それしか言えない。言いたくない。言ってしまえば、それが現実だと理解してしまうから。
唯の背中には小さな翼が生えて、そこから赤い羽根が散らばっている。
命が―――ばらばらになっていく。
「い……や……」
嘆く。目から入った情報(死)が脳に理解を促す。手にした刀を投げ捨て唯だったものを固まる憂ごと抱き寄せる。
もう嫌なのに。守れると思ったのに。救いたかったのにまた失った。私の目の前で消えてしまった。
私が手に入れた力を使えばあの凶刃を唯から守れたかもしれないのに、私はあの影に巨人を殺せとしか願っていなかった。
心が―――反転する。戦意に向いていた思考は、ぐるりと恐慌に向き直る。薬の効果が足(おそれ)を加速させる。
心が、炸裂した。
「五飛!さっさと起きろよおい!!」
デュオは叫ぶ。その様がその音が、現実であると信じたくはなかった。
だが理解できている。人の死に深く多く関わってきたデュオには過たず理解出来ていた。
ソレが既に張五飛だったモノの残骸で、その名の人間はもうこの世を超えてしまった命なのだと。
「こ……の……ッ……!」
感情が、爆発した。
「あああああああああああああああああああああああ!!!!」
「いやあああああああああああああああああああああ!!!!」
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!」
絶望の叫びが、織りを成す。
終末の角笛は、黄昏に遅く吹いた。
【張五飛@新機動戦記ガンダムW 死亡】
【平沢唯@けいおん! 死亡】
◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(もう少しだ……!あと一息、あと一撃で奴を倒せるっ……!)
絶望の最中、未だルルーシュは勝機を見出していた。
本来は張五飛を切り捨て特攻させ相討ちに持ち込ませる算段だったが、
それでもバーサーカーの中心に突き刺さった刀はその確かな成果を示していた。
間違いなく、次の一撃であの破壊の化身を沈黙させられる―――!
(よくやった張五飛……!知らずともゼロを騙った罪、これで帳消しにしてやろうじゃないか!
冥土の狭間で俺の正義を垣間見てるがいいっ……!)
溜飲の下がる心地を感じながら2機目のミサイル発射管と次弾の設置を終える。
今度のミサイルは信管をあらかじめ抜き純粋な刺突兵器として改修したものだ。
これなら爆発して周囲を巻き込むことなく、かつ確実に軌道上の政庁奥深くへと突っ込んでくれるだろう。
引火する恐れのある場所での誘爆に備えていたものだがこういう使い方はさすがに想定していなかった。
備えあれば、とはこのことだ。
「■■■■■■■■■■■…………………!!」
胸からほとばしる鮮血に構うことなく、バーサーカーは拳を掲げる。
まだだ。まだ戦える。まだ敵がいる。まだ戦う理由がある。
敵を倒すため、一つでも多くの命を摘み取るため。
悲嘆に泣き暮れる声へその元を断とうと重く足を動かそうとして、
2人、死神が前に立ってた。
「やることはさっきと同じだ。後ろは任せるぞ」
「……頭数が1人減ってるぜ。それにまだ保つのかよお前」
柄にもなく頼るという意思を見せる少女に、だが少年はいつもの調子はなりを潜め冷静に味方の状態を確認する。
「……一分くらいならいけるだろ。どの道それ以上長引けば全員お陀仏だ」
もう上着の役目を果たさないブルゾンを脱ぎ捨て、構えを正眼に直す。
手には少年より渡された九字兼定。五百の歳月を越え、鞘に抜くだけで結界を断つ大業物。
「へっ、それもそうだな。……それじゃ、最終ラウンドと行きますかね」
少しだけ口を砕き、落ちていた銃の確認をする。とっておきは一発だけ、予備弾薬を探す暇はない。
死神を駆る少年と死神の眼を持つ少女が、死神すら捻り殺す狂人と対峙するその最中、
誰もいない空間から、死神の鎌を持つ少女がその腕を振るった。
だが、それだけだった。
「………………………………………え?」
そんな、間抜けた声を桃子は出してしまう。
気配は完全に消せた。ここにきてステルスはさらなる冴えを見せ、
腕を振るう直前まで気付かれることなく狂戦士の背後に近付いた。
『右の脚を狙え』というルルーシュの指示も守った。
確実に、起動した「GN」ビームサイズはその野太い右の腿に触れたのだ。
触れただけで、それ以上刃が進むことはなかった。
……一度死した要因を完全に克服する肉体そのものといえる宝具「十二の試練(ゴッド・ハンド)」。
戦国最強との三度目の激戦の終局、この身は一時とはいえ神造兵装すら超えたGN粒子の奔流を浴び既に命を燃やされている。
口が利けたらこう言うだろう。『ギリシャ英雄に同じ技(死)は通じない』と。
不意に、上を向いてしまう。その先を見ても、絶望しかないというのに。
巨人の目は潰れているのに、なぜか睨んでいるように見えた。
「■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!」
最後の戦端は、そんな始まりだった。
◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バーサーカーが、足元の少女へと拳を振りかざす。
式が、音速の踏み込みを以てそこに割って入る。
デュオが、無防備な顔面にCOLT M16A1/M203グレネードランチャーを放つ。
ルルーシュが、ミサイルの照準を合わせながら二重の意味で『消えろ』と叫ぶ。
桃子が、あらかじめ取り決めていた合言葉を思い出し姿を消す。
澪が、溢れ出た激情のままに影絵の魔物を解き放つ。
憂が、自分でも理解できない思いに駆られ手綱を握りおもし蟹をぶつける。
咆哮、閃光、爆音、激昂、無音、慟哭、絶叫、
この時この瞬間において、彼ら彼女らの心は一つだった。
音という音が混沌とした中、
「――――――チェックメイトだ」
誰かが、王(キング)の駒を握りしめそう呟く。
瞬間、世界の崩壊する音を聞いた。
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最終更新:2010年04月16日 22:22