悪夢の島 ◆8d93ztlX9Q
私は夢を、追いかけている。
二度、取り逃がした夢を。
一度目は、失敗に終わった。
二度目は、計画そのものが霧散した。
だから、三度目は成功させねばならない。
全ての妨害を撥ね退け、あらゆる椿事に対応せよ。
自由を許し、反逆を潰せ。愛を許容し、団結を断て。
万全な体制を整えろ。前回、前々回とは違うことを証明しろ。
先人の意志を継ぎ、超えろ。
きっとこれが最後の挑戦。二度目は過ぎ、四度目はこない。
そう――故に、これは。
三度目の、正直となれ。
―アニメキャラ・バトルロワイアル 3rd 、開幕―
◇
「ああっ……」
負けた。
俺は、人生最大の勝負に、負けたのだ。
敗北の瞬間にはショックは来なかった。来たのはただの驚愕。
俺にとってのショックというのは、心臓が止まるほどの恐怖。
ならば俺がショックらしき物を感じているのは、今この瞬間だった。
そう、敗北の報いを、勝てなかった罰を受ける瞬間だ。
俺の――俺の、俺の俺の左手の指が、切り落とされる瞬間だ。
左手の指の付け根にセットされた凶悪な拷問器具……いや、処刑器具か。
それが今、ちょっとレバーに力を入れるだけで作動する状態で俺の目の前で声ならぬ唸りを出そうと牙をむいている。
「おい。持ってきなさい。包帯やガーゼ。せめて止血の準備は万全に」
対戦相手の老人……帝愛グループの総帥の声で、混乱した頭が現実に戻される。
抗議の声が上がる。直接の仲間というわけではないが、この勝負に協力してくれた同志たちの声だ。
今俺に降りかかろうとしている罰の残酷さに、我が身の事のように非難の声を老人にぶつけてくれている。
「ククク……ッ!ダメダメ。それはかえってカイジくんに失礼だろう。執行だ」
恐怖に茹った脳が、老人の言葉で一気に冷める。
この老人は、自分が勝負に勝ったことで相手が被る害など気にも留めていない。
それはきっと逆もしかりだろう。
俺が敗北の代価……四本の指と引き換えに受けたレート。勝利の代価、一億円などは、この男にとってはチリ同然。
俺にとって命を張るような大博打が、恐らく大富豪のレベルに達しているだろう富のほんの一端をかけた、唯のお遊び。
だが、お遊びだからこんな風に振舞えるのかというと、多分違うのだろう。
こいつは、もう狂ってしまっているのだ。たとえ今回賭けたのが一億だろうと自分の命だろうと、全く同じ力を発揮する。
俺のイカサマが、こいつの更なるイカサマに負けたのか、王の力とかいうわけのわからぬものに負けたのかは知らん。
一つだけ直感できるのは、この老人は、自分の勝ちに貪欲なわけでも、相手の負けに貪欲なわけでもない。
...................
ただ、勝負のみに欲狂っているということ。
それが、この老人と自分の格の違い。
……だから、許さない。勝敗の沙汰、取り決めを壊すことを、この老人は許す男ではない。
本当は助かりたい。謝って許してもらえるものなら、何度でも謝りたい。
(でもダメだ。負けた上、自分を貶めてどうする。耐えろ。
失うのは指と金でたくさんだ。胸を張れ。手痛く負けたときこそ、胸をっ……! )
「やれ。俺は負けたんだ。敗者は失う。それを捻じ曲げたら何がなにやらわからない。受け入れるべきだっ……! 」
「ククク。なるほど。その通りだ。さすが、わしが見込んだ男。それが正し……ん? 」
トントンと、老人の肩が叩かれる。
それは、絶対にありえないことだったのだろう。
この場で最強の、桁違いの権力と価値を持つこの男の会話を途中で遮るなど。だがそんなことは些事。
いつから部屋に居たのかもわからない、奇妙に顔立ちの整った赤毛の男が、老人に受話器を渡す。
「お電話です」
「……誰じゃ、お前は? 」
不機嫌そうに眉を顰め、老人が男を睨みつける。
老人の護衛の者たちが、無礼者を取り囲む。
男は苦笑すると、とても小さな声で、恐らくは老人にだけ聞こえるように呟いた。
「……ベイター」
「!! ククッ……そうかっ……整ったのか……期が、来たのかっ……! 」
先ほどの不機嫌さはどこへやら、満面の笑みを浮かべる老人。
常に老人の側につく護衛役にだけ分かるのだろう、その笑みの意味は――――?
「掻き集めるっ……新たな富をっ……!」
老人は、俺のことなど忘れたかのように受話器を取り、その電話先の男に嬉々として話しかける。
「そうか……ふむ……随分と少ないな……足りるのか? ……歴史? 神話? 異世界? なんとまあ……。
ククッ……いや信じておるよ。なるほどそれなら、存分だろうな……む、そうだ。一人、推挙したい男が居るのだが」
老人が、不意に俺の顔を見つめる。
値踏みするような間もなく、にやりと笑って、俺に告げた。
「カイジ君っ……! とても嬉しい報せだっ……! 」
「……?」
「君の取立てはもっと派手に行うことに……いやいや、もし『勝てば』こんな些事の取立てなど目ではないぞっ……! 」
「か……勝つって、何に……」
「眠らせろ! 」
俺の質問に答えることもなく、老人が叫ぶ。
眠らせる……? ガス? 麻酔注射器っ……?
俺がそれに対応しようと、左手を処刑器具に挟まれたまま立ち上がろうとした瞬間。
俺は、闖入者……赤毛の男の腹部への拳打によって、極めて原始的に眠りに落ちていた……。
◇
ざわ・・・
ざわ・・・
「ハッ……」
俺……
伊藤開司(カイジ)が俯けで目を覚ました時、そこはとても騒がしかった。
地面に気を遣ると、なにやらフラフラと揺れている気がする。ここは船上か?
すぐには目が慣れないほど暗くなければ、繁華街の一角かと思っていたかもしれない。
それくらいに、俺がいるところにはざわめく人間が密集していた。
倒れていた俺を気遣う様子はない……見れば、周りの人間も、今目が覚めたような様子ではないか。
この右往左往感、エスポワールの乗員たちを思い出す……。
「トレーズゥゥゥゥゥ!!! これも貴様の仕業かぁぁぁぁ!!! 」
「ー――――---------------!!!! 」
「うおおカギ爪!!!!!!! てめえ死ねえぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」
……。
いやいやっ……全然違うぞっ……!
コスプレ会場? なにやら大昔の武士っぽいのとかアニメっぽい服装の奴がいっぱいいる……。
明らかに人間じゃないっていうかほぼ全裸の身の丈3mくらいの怪物とか……。
そいつらがにらみ合ったり、殴り合いを始めかけたり。
なんだ? 夢か? 薄暗いから、はっきりとは見えないし……。
「静かにせんかっ……! 死ぬぞっ……! 」
俺の混乱する耳に――片耳はもうないのだが――聞き慣れた、嫌な声が届く。
その声に、取っ組み合いの喧嘩を始めかけていた連中も、一時ストップする。
「全く愚かな連中……気付かんのか、自分がどんな状況に陥っているのか? ん?」
声が途切れた瞬間、天上から灯りが降り注ぐ。
薄暗かった周囲が照らされ、周りの連中が非常識な格好をしているのがはっきりした。
……普通の格好の者もいるにはいたが。
先ほどの声の主は、壇上に立ってこちらを見下ろしていた。
言うまでもないだろう、あの老人だ……そういえば名前も聞いていないな。
老人は、この場にいる全員の目が自分に注がれたことを確認すると、両手を挙げて言葉を繋ぐ。
「ようこそっ……! 英霊よ、猛将よ、異邦人よ、そして哀れな凡愚めらっ……! 諸君は選ばれたのだ!
今から諸君らが催す……宴に! そう! いまからお前達には……殺し合いをしてもらうっ……! 」
一瞬の沈黙。
「なっ……」
何を言っているんだ、ふざけるな、髭全部抜くぞ……あちこちから困惑の声が上がる。
もちろん俺の声もその中に混ざっている。あの男……一体何を考えている!?
俺の思考が混乱している中、ざわめく人の群れの中から、一人の男が飛び出した。
すぐさま老人の周りを黒服の男が固めるが、老人は手を振ってそれを制する。
(あっ……利根川っ……!? )
飛び出した男に、俺は見覚えがあった。
帝愛グループに所属し、俺と仲間達を苦しめ、俺との一騎打ちに破れて無惨な姿を晒した男だ。
利根川は、自分の上位者である老人の足元に……壇上に上がる階段がないため、見上げるような形で、駆け寄った。
俺との戦いの末に負った体の傷は治療されているようで、しっかりと自分の足で立っている。
「会長っ……これは一体どういうことです!? 」
「……」
「殺し合い!? そんな事がこの国で許される訳が……いや、あなたならやってもおかしくはないが……」
興奮の余り、心中をそのままぶちまけているような利根川の言葉を、しかし老人は無視している。
顔を露骨に逸らし、不機嫌そうにしている。かっての部下に対し、ここまで冷酷になれるのは流石というべきか。
「何故私が……!? 聞いておられるのかっ! 会……」
「黙れっ……クズっ……! 」
「な……!?」
「ゴミに蹴躓いたお前などに、わしと会話出来る権利があると思っておるのかっ。
こうして駒に使ってもらえるだけでもありがたいと思えっ……! 」
辛らつに利根川を詰る老人。
利根川が愕然として自分を見上げているのを知ってか知らずか、更に罵倒を繰り返す。
「こ、駒とは……」
「脳までクズ溜めに捨ててきたのか? 今わしが言っただろう……これから殺し合いをやる、と。
その為に必要なものはなんだっ……? そう、殺す駒と殺される駒だっ……! 」
「そ、そんな……わたしにこの手で人を殺せと……? 」
「嫌なら殺されるんだな。わしはどっちでも構わん。……いや、参加したくないなら、もう一つの役割もあるか……」
「え? 」
「なるかっ……? 生贄に……! 」
狂笑を浮かべ、初めて老人が利根川を見る。
そして、その手を挙げて何かを指した。
利根川の……いや、俺たちの首を、指しているのか。
そのとき、俺も、他の者も初めて気付いた。
それくらいに、自然に、首輪が填められていた。
利根川にも、俺にも、周りの者たちにも……その首輪は填められている。
首輪。それは、人間が動物に填めるものだ。
つまり、これを填められている俺たちは、人間として扱われないのだろうか。
あの希望の船と
絶望の城で幾度となく地獄を味わってきた俺にはそんな事は慣れっこだが、
周りの人間……特に、少女と言ってもいい年齢の者たちにはショックが強かったらしい。
泣き喚く子すらいた。ふと目が合った、美しい金髪の少女は、対照的に怒りを露わにしていた。
苦笑する者もいたし、そもそも首輪を填められていることを認識していないようにボーッとしている者もいた。
「お……おおっ……! 」
利根川が首輪を撫でながら、老人の足元から離れる。
当然だ。少し頭を働かせれば、この首輪が何を意味するのかは明白。
殺し合い。生贄。大勢の人間。これを繋ぐことで、俺は直感的にこの首輪の機能を知る。
(……反逆防止装置! おそらく爆弾とかが内蔵されていて、逆らえばドカンっ……!
この男は、その実証……見せしめ役に、利根川を起用すると、そう言っているのだ……!)
俺の直感は正しかったようで、老人は逃げた利根川に舌打ちすると、俺たちに俺の想像通りの首輪の機能を告げる。
いわく、殺し合いの会場から出れば爆発する。老人の機嫌を損なえば爆発する。外そうとすれば爆発する。
「その他にもルールはある。それは各自、自分に支給されるデイバックの中のルール本を見て把握するように! 」
「その必要があるとは思えんが」
微妙に投げやりな老人の説明を遮って二人、体育座りでガタガタと震えている利根川を脇目に、一群から前に出た。
一人は、黄金の鎧に身を包んだ、風格溢れる青年。英雄王と言った風情だ。
もう一人は、先ほど目が合った金髪の少女だ。意志の強そうな瞳で、老人を睨みつけている。
「……と、いうと? 」
「ここで貴様を殺せば、そんな手間をかける事もあるまい。こんな玩具に仕込める火薬でサーヴァントを脅す?
馬鹿馬鹿しいにも程があるぞ、死に体。は、我を殺したければこの兆倍持って来いというのだ。ま、それでも無理だが」
「御老体、悪いことは言わない。今すぐ我々を解放し、そして宝具を返しなさい。貴方からは脅威を一切感じない」
堂々と、老人に逆らう。
馬鹿か、こいつら――いや、唯の蛮勇ではない。この二人は、明らかにこの状況を物ともしていない。
老人を見れば、どうやら俺と同じことを感じているらしく、僅かに緊張の色を表情に浮かべている。
「恐ろしいっ……! 正直に言おう、わしはとても怯えておる……君達と戦えば、わしなど1秒もかからず死ぬだろう」
「ほう、殊勝な見解だな。最も、
セイバーと違って我は容赦せん。たとえ大人しく降参しても殺すぞ、雑種。
駄目元で我の首輪を爆破してみてはどうだ? その位の悪あがきは、我をここまで連れて来られた褒美でさせてやろう。
それが失敗した時の絶望こそ、我の財宝を一瞬とはいえ横取りした貴様が浮かべる最後の感情に相応しい! 」
「うむ。やってみよう」
ポチッ、と気軽に老人が手前の机の上にあるらしいボタンを押した。前方の二人が身構える。
ありえない事だが……俺は二人が爆発より早く動き、無理矢理外した首輪を置き去りにして難を逃れるような気がした。
ボンッ。
「……ん? 」
爆音は、俺の背後から聞こえた。
ヒューンと、俺の頭上を何かが飛んでいく。
それは、前方の二人の足元に落ちた。
首だった。
「いやああああああああああああああああああああああああっ!!!」
その場に居た全員が、叫ぶ少女に目を向けた。
その視線の先には、二人。
.... ....
首ありと、首なしの少女が、佇んでいた。
「な……貴様ァ! 」
「いやいや……今のは教訓じゃよ。自分の行動の結果が、かならずしも自分にしか影響を及ぼさないと考えるのは、
ちょっと甘いじゃろう。この偽王共がっ……! わしこそが真の王、それをわかってほしいっ……! 」
「悪足掻きを! 」
「姦ましいぞ、セイバー。雑種が一人多く死んだだけだろう」
溜息を付いて、金ぴかの男が右手を差し出し、老人に突きつける。
「がっかりしたぞ、雑種。王を名乗る割には死出の供はこの小娘一人か。どうせなら全てを爆破してみればいいものを。
その程度で死ぬクズなど、我が治めるにも値せん。あとで殺す手間が省けたのだが、な……」
「財宝を全て奪われてもその態度、天晴れといいたいが……」
老人の手が再び机に伸び……ボタンは、押されなかった。
........
老人が、昏倒する。金ぴかに蹴り飛ばされた、少女の生首を強かに胸に打ち付けて。
「宝具がなくとも、人間の老いぼれなど容易く殺せるわ! 」
シュートを決めた態勢から、すぐさま金ぴかが飛ぶ。立ち塞がる黒服を素手で薙ぎ倒し、老人に迫る。
「死――――」
「天の鎖(エルキドゥ)――――! 」
「なにぃ!? 」
黒服の一人が投げ出したチェーンが、男を一瞬で拘束する。
見れば、あの黒服は俺を殴り倒した赤毛の男だ。
「貴様! 我をエルキドゥで縛るなど……」
「会長、スイッチをどうぞ」
「うむ」
「ぬ? 」
ボンッ。
特に何が起こるわけでもなく、自信満々だった男の首は吹き飛び、地面に転がった。
……当然ながら、生き返る様子もない。そう、それが常識だ。
だというのに、一人残った少女は驚愕していた。
「莫迦な……あの程度の爆発で、あの男が死んだ……!? 」
「むぅ、なんというか、彼の言葉を借りるとクズだったようじゃの、この英雄王は」
忌々しげに青年の生首を睨むと、老人は胸をさすりながら、俺たちを見渡し、ゲームの開始を告げる。
少女も、既に表立って逆らう気はないらしく、大人しく一群の中に戻る。
……ここで始めるのだろうか? バッグが支給されると聞いた……その中に、武器が入っているのか?
「では……降下してもらうかの」
「は? 」
老人の言葉の意味を探るより早く、足元の床に等間隔で四つの穴が開く。
見れば、一つの島の影が俺達の座下に、闇夜の月明かりに照らされて浮かんでいた。あそこが、会場だというのか。
幸運にも穴に落ちた者はいなかった。全ての穴が開くと同時に、黒服たちが俺たちにバッグを渡しにくる。
背負うタイプのバッグだ。黒服に(何の因果か、俺のところに来たのはあの赤毛だ)背負うよう促される。
「パラシュート付属だ。経験や技術がなくとも、無事に島に着地するように出来ている。どこに降り付くかは知らんが。
ああ、開く為に特に操作する必要はない。自殺はできんという意味だ。一度使うと、同じ用途では役にたたんだろうな」
淡々と説明する、赤毛の男。
……パラシュート? 降下?
待て……まさか、そういうことなのか?
周りを見渡すと、黒服からバッグを奪い取ってパラシュートさえ付けずに飛び降りている例の怪物。
いやいやながらも落ち着いて降下する者。特定の参加者から離れようとせず、降下位置は不規則になると聞いて憤る者。
無理矢理バッグを背負わされ、蹴り落とされる少女たち。黒服と談笑して、ささいな情報を得てから降りる口達者。
武器を確かめてから、降りる他の者を先だって狙撃しようとして止められる者も居た。
俺は呆然として、今更ながら衝撃を受けていた。そう。ショックは、いつも後から来る――――!
赤毛は降りようとしない俺を特に急かす事もなく、じっと俺を見ている。冷静に。
何故冷静で居られる!? 人が二人、首を飛ばされて死んだんだぞ!
正気の沙汰じゃない……狂気の沙汰など、何が面白いものか。
降りないままでいると、いつの間にか俺は、老人いうところの"駒"の、最後の一人になっていた。
黒服はざわざわしながら、飛行船(?)の他の部屋に移るのだろうか、この大広間を後にする。
赤毛もそろそろ俺を蹴り落とすだろう……そう思っていると、あの老人が、何故かこちらに歩み寄ってきた。
「カイジ君。やはり残っておってくれたな。出来るだけ情報を得ようとしたのか? ククク、いいのう、知己ある若者は」
そんなんじゃない。ただ、ショックを受けていただけだ……そう正直に言うのは、余りに屈辱的だった。
黙っている俺を尻目に、赤毛と老人が会話を始める。
「ブリング君。わしの頼みを聞いてくれたか」
「リボンズから、貴方への協力を頼まれていたからです。用があるなら手短に。リボンズが会見の席を設けるそうです」
「ククククッ……実はの、カイジ君が残るなら、最後まで残してやってくれと頼んでおったんじゃ」
そっけなく立ち去る赤毛を見送りながら、老人が親しげに話しかける。
親しげ? いや、これはペットを愛でるような配慮だ。
なんとか、言葉を搾り出す。
「どういうつもりだっ……」
「ん? ああ、わしの名前くらいは、先だって教えておこうと思っての。下の連中にもしばし後、放送で伝えるが……。
わしとカイジ君の仲じゃ、それくらいのサービスは許されるじゃろう? 」
兵藤和尊、と名乗った老人が、ありえないほど似合わないにこやかスマイルで俺の肩を叩く。
違う。そうじゃない……。
「なぜ、こんなことを」
「なんじゃ、つまらん」
俺が現状に対し、不満を持っていると悟った瞬間、兵藤の態度が一変する。
正につまらないものを見る目で俺を見ると、滔々と語り始める。
「カイジ君なら、このチャンスを楽しんでくれると思ったのだが」
「チャンスっ……!? 馬鹿な、これのどこが……」
「カイジ君は好きじゃろう。ギャンブル。破滅、死滅、自滅覚悟の愚行。それのハイエンドが楽しめるのだぞ?
どうせゴミのような命、賭けるのは確定、もし勝てば……今は教えられんが、とてつもないリバースがあるっ……!
指と2000万の比ではない幸福っ……! 至福っ……! 諸手を挙げて喜ぶべきっ……!」
「の……望んでいない! 俺は、俺は……大体、これのどこがギャンブルだ! アンフェアなんてもんじゃない!
あんたは何も賭けてるようには見えないぞ! 下の連中が相手か!? 馬鹿な、賭け争う理由がない! 」
「そりゃそうじゃろ。わしはギャンブルなど、これっぽっちも好きではないっ……! 」
兵藤は、この上ない、先ほどの嘘臭い笑顔など目の物ではない悪辣な笑顔を見せる。
俺は、この男を見誤っていた。まさか、こんな、こんな……。
「……あんたは、もっとフェアだと思っていた」
「カイジ君らしい、平和的な観察力だのー。勝負事には汚く頭が回るのに、他人が自分と同じく汚いとは考えん。
まあ、それがカイジ君の弱点じゃな。それと、わしはな……勝負狂いなのではない、支配狂いなのじゃよ」
王だからの、と言って。
兵藤は、俺を蹴り落とした。
同時に、紙切れのようなものを放る。
奇跡的に落下する俺の手元にそよいできた紙切れをつかむ。
あの、俺の最後の勝負を決めた、当たりクジだった。
遠ざかっていく兵藤の唇が動く。何を言っているのか?
その唇の動きは……。俺には、こう見えた。
(その紙屑には王の強運が染み付いているっ……!)
「う、うおおおおおおおーーーーーっ!!! 」
ふざける、な。
自力では、恐らく地面に付くまで外せないパラシュートが、開いた。
【ゲーム開始】
【原村 和@咲-Saki- 死亡】
【ギルガメッシュ@Fate/stay night 死亡】
【残り六十四人】
『主催』
【帝愛グループ@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
【イノベイター@機動戦士ガンダム00】
『ルールブックについて』
※最低でも以下の記述は有り
【
基本ルール】
参加者全員が、最後の一人になるまで互いに殺し合い続ける。
【スタート時の持ち物】
参加者の持ち物は基本的に没収され、代わりに一人一つずつデイバッグが支給される。
中身は一律に地図、方位磁針、メモ帳、筆記用具、食料、
ルールブック(
参加者名簿込み)、時計、マグライト、ランダム支給品。
ランダムアイテムは参加者の持ち物や武器などをランダムに1~3個支給。
【放送について】
6時間ごとに放送で各時間帯に出た死者と禁止エリアを発表をする。
【名簿について】
第一放送まで白紙。
第一放送直後、白紙に名前が浮かび上がる。
【禁止エリアについて】
放送時に地図の三区画が禁止エリアに指定される。
禁止エリアの発動は二時間ごと。詳しいことは一回目の放送時に説明する。
参加者が禁止エリアに進入した場合、首輪が警告音を鳴らす。
この警告音から一分以内にエリアから出なかった場合、首輪が爆発する。
最終更新:2009年10月22日 15:25