「よかった、真咲さんは巻き込まれてないみたいだ。
でも、颯人……!それに、ヴァルカナさんやらぶぽんさん、美影さんにナンコさんまで!」

名簿を手に震えている少年――――光宗は混乱していた。
都市伝説の村である納鳴村にいたはずなのに、目を覚ますと黒い部屋にいて殺し合いを命じられた。
知り合いのダーハラが殺し合いを開催した側にいて、ノリノリでルール説明などをしていた。
これで混乱するなという方が無茶である。

「だ、だめだよ、殺し合いなんて!」

想い人の真咲がいないことには安心したが、だからといって他の人達が心配でない訳がない。
颯人はツアー参加前からの友達だし、他の人達だって一緒に納鳴村で共同生活を営んだ仲だ。
いや、たとえ見ず知らずの人物だったとしても、殺し合いなんてしていいわけがない。

「でも、どうしてダーハラさんがこんな酷いことをするんだろう」

ダーハラは人生やり直しツアーの主催者だ。
少し事なかれ主義で先送り主義なところはあるが、殺し合いを強要するような人物ではなかったはずだが……?

「それに、なんでこんな所に納鳴村が?」

鞄から取り出した地図には会場の全体図が描かれていたが、なんとそこには納鳴村の名前もあった。
ここがどこかは分からないが、少なくとも納鳴村の近くであるはずはない。
こんな海に囲まれた所に納鳴村は存在しないからだ。
そもそも、この地図には『マルノウチ・スゴイタカイビル』や『振り返ってはいけない小道』など意味の分からない地名が多すぎる。

「この地図、あてになるのかな」

一抹の不安を覚えながらも、とりあえず現在地を把握するために地図と周囲の地形を照らし合わせようと歩いていると――――うずくまっている女性を見つけた。

「……!だ、大丈夫ですか!?」

慌てて女性に近づく光宗だが――――



「あ、あのような下衆にまるでペットかなにかのように首輪を付けられ、命まで握られていると思うと私は……!!ん……!?くぅ……!こ、これは新感覚だ!新感覚だぞ!」

女性は顔を赤らめ、ハァハァと熱い息を吐き出しながら意味の分からないことを口走っていた。

「いいや違う!何の罪もない人々に対して殺し合いを強要するなど、騎士として見過ごせない!」
「あ、あのー」

「分かっている、こんな所で興奮している場合ではないことは分かっている!
ああ、でもこの背徳感がまたなんともたまらん!ん……!」

「あーーのーー!!!」

「!?」





「うう、まさか見られていたとは。
こういう羞恥プレイは、私の望むところではない……」

「あ、あはは」

爆発する首輪を付けられて殺し合いを強要されている状況で興奮していた女性――――ダクネスは恥ずかしそうに頬を赤らめている。
あの後、微妙な空気になりながらもとりあえず互いに交戦の意思がないことを確認しあった光宗とダクネス。
光宗としても女性のそういった痴態を見たことはなかったのでどういう対応をすればいいのか分からずにオドオドしていたが、その辺りは初対面の者同士でパーティーを組むことも珍しくない冒険者であるダクネスの高いコミュニケーション能力が役に立った。

(変な人だけど、すごく綺麗な人だな……こんな状況でも落ち着いてるし)
「ん?今なにエロい身体しやがってこの変態がって思ったか?」
「お、思ってませんよ!?」
(うう、やっぱ僕って惚れっぽいのかな?)

ほんとに変な人だな、と思いながらも光宗は自分の胸が高鳴っていることを自覚せざるを得なかった。
そのウブな反応にクス、と笑いながらふとまだ互いの名前すら知らないことに気付くダクネス。

「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名はダクネス、クルセイダーだ。
本名ではないが名簿にはこの名前で載っているし、あまり本名で呼ばれたくないのでダクネスと呼んでくれ」

それは、何気ない言葉。
ララティーナという可愛らしい名前で呼ばれるのが照れくさくて口に出しただけの他愛もない台詞。

「え……?」

ただ、その言葉は彼の前で言ってはいけないことだった。
幼い頃より本当の名前で呼ばれなくなってしまった少年の前で言ってはいけないことだった。

「……?どうした、そんなあり得ないものでも見たような顔をして」
「い、いえ……なんでもありません。あ、僕は光宗です。」

ただ、彼はそれでも悪感情を表に出さなかった。
後で後悔するくせに、良い人ぶって何でも受け入れて周りに合わせる彼の人間性故に。
双子の名前で呼ばれるようになっても、母のために文句一つ言わなかった彼の人間性故に。

「そ、そういえばクルセイダーってなんですか!?」

自分の中の悪感情を隠すように慌てて先ほどダクネスが言っていた聞き慣れない単語の意味を問う光宗。

「クルセイダーはクルセイダーだろう、何を言っている?」
「え?」
「む?」




「ううむ、信じがたいことだが全く別の国……いや、世界の人間が集められているということか」
「そうみたいですね……」

改めて情報交換をした結果、どうにも根本的に住んでいる世界が違うレベルで認識がずれていることに気付く二人。
普通こういう場ではいくら状況的に信じざるを得なくても異世界の存在を信じることは難しい。
しかし元々オカルト好きで「死者が見える」などという荒唐無稽なことも何の疑いもなく信じた光宗。
敬虔なエリス教徒で神の存在――――言いかえれば自分には認識できない世界を当たり前に信じ、彼女自身は知らないが異世界の人間とパーティーを組んでいるダクネス。
幸いにもこの二人は異世界の存在を認めざるを得ない状況でなお認めないような頭の固い人物ではなかった。

「それで、これからどうするんですか?」
「うむ、まずは仲間を探そうと思う。私は力と硬さには自信があるが、不器用で攻撃が全く当たらないのでな。
弱点をカバーしてくれる仲間を集め、あのダーハラという男をうち倒す!」

「ダーハラさんを……倒す」

「む、そういえばダーハラは光宗の知り合いだったな。
無神経なことを言ってしまってすまない」

「い、いえ!ダーハラさんが酷いことをしてるのは本当のことですから。
それよりも――――仲間、ですか」

「不安か?大丈夫だ、このような悪趣味な催しに喜々として乗るような人間は少ないはず。少なくとも、私のパーティーメンバー達は絶対に信頼できる……まぁ、性格的にちょっとアレなのが多いが殺し合いなんぞする連中ではない」

名前が水の女神と同じだからといって自分のことをアクシズ教徒が崇める水の女神と自称するアークプリースト。
一日一回、超高威力の爆裂魔法『しか』使えない爆裂魔法の魅力にとりつかれた紅魔族のアークウィザード。
色々と機転は効くが初対面の女の子のぱんつを剥ぎ取って金をせびる鬼畜な最弱職の冒険者。
…………信頼できる……よな?


「そりゃ不安ですよ。だって、いくら同じように大変な状況に巻き込まれたって言っても、結局は他人ですよね。仲間とか家族ってわけじゃありませんから」

それを聞いて、ダクネスの顔色が変わる。
しまった、失言だったと気付くがもう遅い。
なんとか状況を好転させようと意気込んでいる人の前で言うような台詞ではなかった。
だが、光宗は思ったことをつい口に出してしまうタイプの人間だ。
思わず他人に突っこまれる程デカい声で独り言を呟いたり、失礼と分かっていても相手に対して「小さいから気付かなかった」と言ってしまったりすることもあった。
気を悪くしないかな、とダクネスを見つめると――――

「お、大人しそうな顔して結構エグいこと言うじゃないか……ハァハァ」
「え」

何故か興奮していた。
さすがの光宗もちょっと引いた。

「コホン、地図を確認したところ、どうやらここはB-7のようだ。
そこで、光宗の言っていた納鳴村を経由しつつ冒険者ギルドへ向かおうと思う。どちらかの知り合いに遭遇する確率は決して低くはないはずだ」
「え?あの、僕の知り合いはヴァルカナさん以外は全員一度村を出ようとしたことがあるので、多分この状況で納鳴村を目指す人は少ないかと……」
「それでも、そのヴァルカナとやらはいるかもしれんのだろう?それに、実をいうと納鳴村の化け物とやらに興味があってな」
「興味……ですか?」

と、そこでダクネスが顔を赤らめてモジモジしだした。
なんとなくこの後のパターンを察してしまう。

「ああ、全く違う世界の化け物を前にして私はどうなってしまうのだろう……!
自分の世界の常識が通用しないモンスター相手に、一般人を逃がすために殿となって必死に抵抗するも、力及ばず組み伏せられて……!や、やめろぉ……!」
「ええ……」

やっぱり興奮していた。
さすがの光宗も大分引いた。

「と、とにかく納鳴村を経由しつつ冒険者ギルドへ向かおう!
道中危険人物に会っても心配するな、ガンガン前に出るから盾としてこき使ってくれて構わない。
むしろこき使ってくれ」
「そ、そうですね……」

納鳴村にも変わった人物は多かったが、ここまで自らの性癖を開けっ広げに晒す人物はいなかった。
こんな自分から危険地帯に突っ込んでいきそうな被虐趣味の人と一緒にいて大丈夫なのだろうか。
不安を覚えながらもダクネスに着いていく光宗。


――――運の悪いヒポポタマスは、水曜日にかわいいお嫁さんをもらい、木曜日に重い病気になってしまった。光宗にとってダクネスはかわいいお嫁さん足りえる存在なのか、重い病気に匹敵する疫病神なのか。

それは金曜日まで、誰にも分からない。


【B-7/深夜】
【ダクネス@この素晴らしい世界に祝福を!】
[状態]:健康、興奮
[装備]:いつもの鎧
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本方針:仲間を集めてダーハラを倒す
1:光宗と共に納鳴村経由で冒険者ギルドを目指す
2:納鳴村の化け物に興味
※異世界の存在を認識しました。

【光宗@迷家-マヨイガ-】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本方針:
1:ダクネスと共に納鳴村経由で冒険者ギルドを目指す
2:隠してはいるがダクネスに対して少しの「悪感情」
※異世界の存在を認識しました。


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GAMESTART ダクネス 039:The end of ソロモン・グランディ
GAMESTART 光宗 039:The end of ソロモン・グランディ

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最終更新:2016年08月12日 10:54