剣崎一真は人間ではない。
いや、人間ではなくなったというのが正確か。
不死たる存在・『アンデッド』により繰り広げられていた、種の存亡を賭けての戦い―――バトルファイト。
圧倒的な力を有する不死の怪物達により行われていた騒乱。
アンデッドからすれば非力な人間など餌や路端の石ころに過ぎないのだろう。
数多の人々がその戦いに巻き込まれ、死んでいった。
何の罪もない人間が、ただ平凡な毎日を過ごしていただけの人が、アンデッドにより殺害されていく。
だから、剣崎一真は仮面ライダーとなった。
人々を救う為に、ただそれだけの為に、剣崎一真は仮面ライダーとなりアンデッドの封印を続けていった。
仮面ライダーとしての、長きに渡る戦い。
数多のアンデッドと戦った。
数多の出来事があった。
数多の出会いと喪失があった。
誰もが誰もを救う事ができた訳ではない。
それでも剣崎は戦い抜き、そして『世界』と『親友』を救った。
『世界』と『親友』、そのどちらもを救った代償はあまりに大きく、剣崎は『人間』を止めた。
剣崎一真は人間ではない。
人間からも、アンデッドからも忌み嫌われる存在―――『ジョーカー』。
それが今の剣崎一真の正体であった。
◇
剣崎一真は暗闇の森林に身を置いていた。
額に浮かぶは多量の脂汗。
顔は苦悶に歪み、まるで何かを抑えつけるかのように自らの腕で自らの身体を抱き締めていた。
何が起こっているのか、と剣崎は思う。
気付けば連れて来られていた謎の部屋。
数十人にも及ぶ人達が、自分と同様に椅子へと拘束されていた。
そして、首に仕込まれた爆弾により強要される
殺し合い。
許せない、と剣崎は思う。どんな手を使ってでも殺し合いを止めてやるとも、思った。
ジョーカーであろうと、剣崎一真は変わらない。
人々を守る為に戦う。その信情に変化などありえない。
だが、この会場へと転送させられたと同時に、剣崎は自身に襲いかかる異変に気が付いた。
強大な衝動が心を埋め尽くすのだ。
闘争を、破壊を、死滅を望む衝動が、心の奥底の奥底から噴出する。
それは、剣崎の意思すらも飲み込んで心を埋め尽くす。
衝動が鳴り響く。
殺せ。
滅ぼせ。
死を与えろ。
全てに破滅をもたらせ。
それが、お前の存在理由。
万物に死を与え、万物に破壊を齎す破壊者。
それが、お前だ。
―――ジョーカー
「ッ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
抑えきれぬ感情が咆哮となって喉から放出する。
獣を思わせるその暴力的な咆哮が、剣崎の抵抗の証であった。
両手で抱えた頭を近くの木へと渾身の勢いで打ち付ける剣崎。
割れた頭部から零れ落ちるは、化け物の証である緑色の血液。
しかし、その裂傷がもたらす痛覚ですら、心中の衝動を惑わすには至らない。
殺せと、滅ぼせと、響く。
この衝動に従わねば自分が自分でなくなるような、
でも、この衝動に従えば自分が自分でなくなるような、
剣崎は、ジョーカーと自意識との狭間で苦悶する。
「俺は……俺、はああああああぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
世界を救った男の、その苦しみを無くす事のできる者などいない。
この世界の誰もが、彼を救う事はできない。
ジョーカーとは『バトルファイト』を開催する、およそ神と称するに値する存在から送り込まれた『鬼札』。
不死なる存在すら殺戮の対象とする、文字通りの『切り札』なのだ。
それは、本来ならば人間如きが抗えるものではないのかもしれない。
だから、ジョーカーたる彼を現状から救出とするとするのなら、
彼を救えるのだとすれば、
それは―――
「やっぱり……剣崎さんだ!!」
―――おそらく、彼自身。
苦悶にうめく剣崎の前に現れたのは、彼も良く知る人物であった。
上城睦月。
剣崎に憧れ仮面ライダーを目指し、数多の仲間に支えられる事で紆余曲折の道のりを乗り越え、ようやく仮面ライダーとなりえた少年である。
剣崎からすれば唯一の後輩であり、無二の仲間である。
その姿を視界に捉えた瞬間、剣崎は内なるジョーカーの衝動を―――
「……睦月か……」
―――無理矢理に抑え込んだ。
心が軋み、悲鳴を上げる。
それでも彼は必死の思いで自身を保つ。
これが、剣崎一真。
他者を守る事で真なる力を発揮する男。
他者を守る為に全てを投げ打てる男。
剣崎は今この瞬間も守ろうとしていたのだ。
ジョーカーという脅威から、眼前に現れた上城睦月を。
「剣崎さん! どうして黙って行っちゃったんですか!」
睦月は正直に怒りの感情を剥き出しにしていた。
こんな異常な状況だというのに、殺し合いという状況だというのに、
睦月は黙って消えた剣崎に対して怒りを向けてくれる。
その怒りの大源が、何処にあるのか剣崎は気付いていた。
「……ごめんな。でも、今の俺じゃあ絶対みんなに迷惑を掛ける。
自分を見失ってしまうかもしれない。ジョーカーに取り込まれてしまうかもしれない……それに……始がいる」
今現在、ジョーカーは二人いる。
ジャーカーが二人いる事で、世界は滅亡を回避している。
だが、二人のジョーカーは決して相容れる事はない。
互いがジョーカーである限り、もしそのジョーカー達が親友同士であっても、殺し合いに突入する。
アンデッドを破壊する事がジョーカーの本懐であり、それは抗う事のできない衝動だからだ。
剣崎が仲間達の前から姿を消したのは、それが理由であった。
このまま仲間達の元に、もう一人のジョーカーの側に身を置けばいずれジョーカーの欲求に抗いきれなくなる。
その先に待っているのは、凄惨極まる殺し合いだ。
仲間も、友達も、全てを巻き込んでの殺し合い。
神より齎されし『鬼札』同士の、世界の滅亡が決定付けられた、殺し合い。
そんな未来を許す事など、剣崎には出来なかった。
だから、仲間達の前から姿を消した。
もう一人のジョーカーに居場所を残して、修羅の道を自ら選択したのだ。
「そんなの関係ないですよ! 剣崎さんはみんなを助けてきたんだ! なら、今度は僕達が剣崎さんを助ける番です!」
だが、しかし、睦月は許せない。
剣崎だけが救われないその結末を、否定する。
もっとも近い所から剣崎の所業を見てきた一人である睦月だからこそ、その結末を許せない。
剣崎には幸福を受ける権利がある。
剣崎自身が拒絶しようと、巨大な危険があるとしても、それだけは譲れない。
剣崎は幸せになるべきなのだ。
あれだけの事をしてきたのだから。
「……睦月……」
「剣崎さん、僕や橘さん達と一緒にこの殺し合いを打開しましょう。それで皆の所に帰るんです。ジョーカーのことは僕達が何とかしてみます、絶対に」
「……だけど、俺は……」
「剣崎さんが暴走しちゃったとしても、僕が、僕達が止めますよ」
上城睦月は、ジョーカーである剣崎一真を受け入れる。
仲間として、救われた者の一人として、剣崎を救うと宣誓する。
屈託のない微笑みと共に差し出されるのは、右手であった。
剣崎の眼前にあるのは希望。
一度は捨て去った筈の希望が、そこにはあった。
一分、二分と時が過ぎていく。
剣崎は逡巡に次ぐ逡巡を重ねて、そして覚悟を決めた。
「分かったよ、睦月」
睦月の覚悟を受け入れる、その覚悟を決めた。
剣崎の右手が睦月の右手へと伸びる。
―――バン!
そして、絶望のファンファーレが鳴り響いた。
「え?」
剣崎の左手には、何時の間にやらある物体が握られていた。
掌にすっぽりと収まる程度の、極小サイズの拳銃。
おそらく剣崎に支給されたアイテムの一つであろう。
それが何時の間にか手中にあった。
まるで奇術のように、気付かぬ内に、だ。
「む、つき?」
その拳銃の銃口からはうっすらと煙が漂っていた。
何がどうなっているのか、剣崎の理解は追いつかない。
希望をつかもうと伸ばされた右手。
びりびりと痺れのような衝撃が支配する左手。
左手の中には硝煙漂う拳銃が一丁。
眼前には―――打ち砕かれた希望。
「あ、ああ」
眉間からはか細い一筋の血液を、後頭部からは血液と何かが混ざり合った大量の液体が。
その目は見開かれ、ピクリとも動かない。
数分前まで仲間を救おうとしていた男が、倒れていた。
数分前まで仲間を救おうとしていた男が、死んでいた。
「ああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
心が、爆発する。
何が起きた。
何が起きた。
何が起きた。
何が起きた。
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―――俺が、
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―――俺が、
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何が起きた。
何が起きた。
―――俺が………………………………………………………………………………………撃った?
そして、崩壊する。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
現出するは『鬼札』。
剣崎の姿がおとぎ話に出てくる悪魔のような姿に変化した。
ジョーカーは、地面を蹴り抜き闇夜の森林へと疾走していく。
『剣崎一真』はここに一度目の死を迎える。
『剣崎一真』は『ジョーカー』に支配され、死んだ。
ここから始まるのは絶望に満ち満ちた喜劇にして悲劇。
もう誰にも止められない。
唯一の切り札は無残にも破り捨てられ、鬼札となってしまったのだから―――、
【上城睦月@仮面ライダー剣 死亡】
【残り82名】
【一日目/深夜/B-2・森林】
【剣崎一真@仮面ライダー剣】
[状態]ジョーカー化
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~2
[思考]
0:全てを破壊する
[備考]
※原作終了後から参加させられています
※シャアの銃@機動戦士ガンダム 逆襲のシャアがB-2・森林に落ちています
◇
そして、誰もいなくなった悲劇の現場。
その場を数十メートル程後方で見つめる者がいた。
ニコ・ロビン。
海賊王を目指す若き青年を船長とする新鋭海賊団が一員である。
(これで一人……)
ロビンは無表情に惨劇の場を見つめながら、冷酷に思考を回していく。
ハナハナの実の能力を利用しての殺害は非常に上手くいった。
まず最初に剣崎のデイバックの内部へと『手』を咲かせ、拳銃を探す。
拳銃がなくともナイフでも刀でも良い。ひとまず人を殺害できる武器を探索する。
次に、剣崎の左手へ『手』を咲かせて拳銃を抜き取る。
そして剣崎の左手に『目』を咲かせ、狙いを定めて撃つ。
後は、剣崎の左手に銃を持たせるだけで良い。
多少の疑心暗鬼を煽れれば良いと思っての策は、『化け物』が不安定な精神状態にあったせいか、大ハマり。
結果として『化け物』の覚醒を促した。
(それにしても……何だったのかしら、あの男は)
絶叫の聞こえる方向に歩を進めれば、森林にて立っていた青年。
もがき苦しみ、何かに耐えていた青年。
途中現れた仲間らしき少年を殺害した直後、青年は『化け物』へと姿を変えた。
まるでタカが外れたかのように『化け物』となった青年は暗闇を駆け抜けていった。
(あれも悪魔の実の能力……? でも、あれは……)
本来であればロビンはあの青年も殺害するつもりでいた。
仲間を殺す要因と成りうる者は、全て排除するつもりだったからだ。
だが、動けなかった。
現出した『化け物』に、その地底をも震わす叫びに、あらゆる闇を経験してきた筈のロビンですら動きを止めてしまった。 驚愕と、恐怖に。
あれは悪魔の実の能力といった生易しいものではない。
まるで悪魔がそのまま君臨したかのようであった。
(……殺さなくちゃ)
本能で察知する。
あの存在は、十二分に仲間達の脅威たりうる者だ。
ならば、殺害せねばならない。
その役割を担うのは自分でなくてはいけないのだから。
ロビンは睦月の死骸からデイバックを奪うと、『化け物』が走り去った方角へと足を向ける。
相手が何であろうと彼女の成す事は変わらない。
仲間の為に。
ただそれだけを想いに、走り出す。
【一日目/深夜/B-2・森林】
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]健康、迷い
[装備]なし
[道具]基本支給品一式×2、ランダム支給品×2~6
[思考]
0:仲間以外の参加者の抹殺。また会場からの脱出法、首輪の解除法も考える
1:『化け物』を追い、始末する
最終更新:2011年09月05日 21:01