クレイジータクシーという名の都市伝説

都市伝説、というものがこの世には存在する。
例えば、徳川埋蔵金。
例えば、某レストランのキャラクターの看板。
例えば、アポロ月面未着陸説。

中村の目の前にいる人物も、ある意味では都市伝説といっても良い存在であった。
胸元と背中が大きく開いた紫色の全身タイツ。
先程まで自分の手元にあった蝶を模したマスクは異常なほど似合っている。
そして「パピ!ヨン!」と叫んだ後の独特すぎるポージング。
その姿はイタリア彫刻のようでもあり、ある種の美しさすら中村は覚えていた。

「おい、そこの貴様。なに人の顔をじろじろ見ている。俺の顔に何かついているのか?」
突然、目の前の都市伝説が中村に話しかけてきた。
突然の事に、普段は冷静沈着な中村も動揺を隠せない。
「あ、いや、その……」
「用もないのにじろじろと見るな。失礼だぞ。」
「あ…いや、そのマスク、似合っているな、と思って見とれていただけだ。」
迂闊な事を言った、と中村は先ほどの自分の発言を後悔した。
目の前の見た目都市伝説はこの殺し合いに乗っているかどうかも分からないのだ。
それなのに自分はそいつにみすみす支給品を奪われ、空気に呑まれてその独特すぎるマスクを褒めるなんて……
だが、その中村の心配は全く的外れになった。
目の前の見た目都市伝説は――笑っていた。
それも、心の底から現れる純粋な喜びの笑みを浮かべていた。
「ほほう、貴様このマスクの良さが分かるのか?」
「…ああ、とてもよく似合っているよ。」
中村の所属するクラスには、関譲治というクラスメイトがいる。
自分が大好きでよく突拍子もない格好をする彼を見てきたから、中村はパピヨンのような奇抜な格好をした相手にも対応する事が出来たのだろう、と自己完結した。
まぁ、本音を言えばあまり考えたくなかったのだが。

「ところで、貴様はこの殺し合いに乗っているのか?」
「…いや、乗っていない。」
「そうか…俺もだ。」
「はあ…」
目の前の見た目都市伝説はどうやら本当に乗ってはいないようだ、と中村は思った。
武器になりそうなものをもってはいなかったし(強いて言うなら、その独特すぎる外見はある意味武器だったが)、その眼は嘘を言っているようには見えなかった。
中村は、目の前の都市伝説と情報を交換する事にした。



超人パピヨンは人間だった頃はIQ230を誇る『蝶』天才であった。
そしてその頭脳はホムンクルスになってからも衰えることはない。
いやそれどころかそれ以上に研ぎ澄まされていると言っても良い。
そんな『蝶』天才の彼でも、今どうして自分がこういう状況に立たされているかは理解できなかった。
命の次に大事なパピヨンマスクを奪われ、道化のように彷徨っていた数分前の彼からは考えられないほどに、パピヨンは思考を巡らせる。
パピヨンはまず、目の前の中村という老けた男から様々な情報を得たが、その中身はパピヨンの想像を絶するものだった。

中村は、パピヨンの存在する銀星市を知らなかった。
それどころか、パピヨンもその中心にいたホムンクルスの一連の事件についても中村は一切知らないと言っていた。
そんなはずはない、とパピヨンは思った。
自分でいうのもなんだが、あの一連の事件は全国に大々的に報道されるに値するようなものだと思っていたし、世俗から遠く離れた隠者ならともかく、中村はとてもそんな人間には見えない。
また、中村の言う興津という土地も、パピヨンは聞いたことはあったが、パピヨンの知識と照らし合わせるとどうも合致しない部分が多い。
これは一体どういう事なのだろうか…

「…分からんな。」
「ああ、さっぱり分からん…」
二人ほぼ同時に嘆息し、天を仰ぐ。
このまま思考を巡らせていても埒が開かないので、二人はそれぞれに支給されたものを確認する事にした。

「俺の支給品はこれだ。」
パピヨンのデイバックから出てきたのは、一振りの大きな太刀と目覚まし時計だった。
太刀はともかく、目覚まし時計なんてこの殺し合いでは何の役にも立ちそうにない。
中村は小さくため息をつくと、自分のデイバックを漁った。
「…ん?なんだこれは?」
出てきたのは一枚の折りたたまれた紙。
そこには下手くそな字で『タクシー』とだけ書いてあった。
「何だそれは?」
「俺が聞きたいよ…他には何も入っていないみたいだから…どうやら俺も二つだったようだな。」
一つは、今現在パピヨンが装着しているパピヨンマスク。
中村は自分の不運に本日何度目ともしれない溜息をつくと、その『タクシー』と書かれていた紙を何とはなしに開いた。
その瞬間だった。
「うわああ?!」
「おいどうした、中村―?!」
突然の悲鳴に驚いたパピヨンが振り返ると、そこには信じられない光景があった。
中村が、どこから現れたか分からない小型タクシーに潰されそうになっていた。
「…一体これはどういう事だ?」
「俺にも分からんが助けてくれー!」
「…やれやれ。」
人間の何倍の力を持つホムンクルスであるパピヨンには、この程度の車を持ちあげるのは朝飯前の事だった。

「あ、ありがとう…助かった……」
「一体どういうわけだこれは?」
「俺にもさっぱりだ…ありのまま今起こった事を話すと、『俺はこの『タクシー』と書かれた紙を開いたらそこから本物のタクシーが飛び出て来た』。」
「…は?」
「…何を言っているか分からんとは思うが、俺も何が起きたのか分からないんだ…頭がどうにかなりそうだ……催眠術とかトリックとかそんなチャチなもんじゃあ断じてないもっと何か恐ろしいものの片鱗を味わったような気分だ…」
「…フン。」
馬鹿馬鹿しい、とパピヨンは思ったもののこの目の前にあるタクシーは使えるとも思っていた。
パピヨンと中村はタクシーに乗り込むと、中身を確認した。
どうやらS県杜王町(無論、そんな地名を聞いた事すらもないのだが)にある帝王タクシーという会社のものであるようだ。
「…ガソリンもバッテリーも十分。それに発煙筒に三角表示板、脱出板まであるのか…」
「こりゃすごいな、まさかこんなものが支給されるとは。」
「多少狭いが、この際贅沢は言えんな…おい、中村、お前が運転しろ。」
「…あー、それなんだがな、パピヨン。」
「何だ?まさか免許を持っていないとか言うんじゃないだろうな?」
「…そのまさかだ。というか『持っていない』んじゃなくて『持てない』というべきなんだが。」
「…?どういうことだ?」
「『持てない』んだよ…こう見えてもまだ俺は17歳なんでな。」
「じゅ、17…!?」
「よく驚かれるよ。」
「…蝶・ビックリだ。」
流石のパピヨンも、これには苦笑せざるを得なかった。



「仕方あるまい、ここはこのパピヨンが蝶・華麗なドライビングテクニックを披露してやろう。」
パピヨンはそう言うと中村を助手席に乗せ、エンジンキーを回した。
「なんだパピヨン、免許持っていたのか。人が悪いなあ。」
「いや、俺も持ってはいないぞ?」
「…え?」
ドルルン、と軽快な音を立て、タクシーは走り出した。
「免許など無くても、どこをどうすればどう動くかなど勘で分かる!」
「…なぁ、降りて良いか?」
「さぁ行くぞ中村!」
一刻も早くこの時が過ぎてくれ、と中村はシートベルトを握りしめながら思うのだった。





【B-5住宅街/1日目朝】
【蝶野攻爵@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:小型タクシー@ジョジョの奇妙な冒険、パピヨンマスク@武装錬金
[道具]:基本支給品一式、野太刀@ブシドーブレード弐、目覚まし時計@現実
[思考]1:中村と共に行動。
   2:ひとまず核鉄を探す。
   3:自ら殺しにかかる気はないが、襲われたなら容赦はしない。
   4:武藤と合流したい。

【中村元@せんせいのお時間】
[状態]:健康、冷や汗
[装備]:小型タクシー@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式
[思考]1:パピヨンと共に行動。
   2:…降りたい。
   3:クラスメイトと合流したい。
   4:殺し合いには乗らない。

【支給品情報】

【小型タクシー@ジョジョの奇妙な冒険】
中村元に支給。
杜王町にあるタクシー会社、帝王タクシーの小型タクシー。
このロワにおいてはエニグマの紙に内包された状態で支給された。
中には杜王町の地図、発煙筒、三角表示板、脱出板等基本的なものは入っている。
また、ガソリンもバッテリーも十分。

【野太刀@ブシドーブレード弐】
蝶野攻爵に支給。
大きな反りと長い刃が特徴の大太刀。
重量2.4キロ、全長119センチ、刃長93.2センチとかなり大きく、その重さと長さゆえに技の出始め、戻りがやや遅いが長い間合いからの豪快な斬り、払いに長け攻撃の一つ一つが力強さを伴う豪快な武器。

【目覚まし時計@現実】
蝶野攻爵に支給。
ごくごく一般的なアナログタイプの目覚まし時計。
結構うるさい。



030:誤解が生んだ爆炎 投下順 032:アイオブザハリケーン
030:誤解が生んだ爆炎 時系列順 032:アイオブザハリケーン
007:出会いは蝶・突然に 蝶野攻爵 :[[]]
007:出会いは蝶・突然に 中村元 :[[]]

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最終更新:2011年07月10日 23:23
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