第五十話≪悲しみの向こうへと≫
「……もう、23人も……」
E-5西部の林道。道端に造られた古い休憩小屋。
50人の名前の内、23人の名前に赤い横線が引かれ、消された参加者名簿を見つめながら、
制服、口、両手を血で真っ赤に染めた狼獣人の少女、
藤堂リフィアが小さい、掠れたような声で言った。
放送で呼ばれた23人の名前。ゲーム開始から現在までに死亡した参加者の名前。
恐らく先程山頂から和平を呼び掛けた男とその仲間である二人の名前も含まれている。
自分と短い間ながら行動を共にした「
岸部淑子」「
長谷堂愛」の名前も呼ばれた。
二人の名前の間に「
島村露柏」という名前が呼ばれた。
放送を行った例の男が「死んだ順番」と言っていたので、恐らくこの島村露柏があの襲撃者の少女の名前なのだろう。
その島村露柏なる人物は、自分が殺した。
山道を進み、小休止を取り、再び出発しようとしたリフィア、淑子、愛の三人を、
露柏の持っていたクロスボウの矢が襲った。
頭を矢が貫通した愛は即死。リフィアも首と胸に矢を受け一時仮死状態に。淑子は腹に矢を受け即死は免れたが致命傷を負った。
そして三人を殺したと思い込んだ露柏がリフィアの持っていたモシンナガンM1891を拾おうとした時、
仮死状態から目覚めたリフィアに捕まった。
リフィアは露柏の腕を掴んだまま露柏に尋ねた。「あなたがやったの?」と。
露柏はその問いを肯定した。
そしてリフィアは、露柏に死刑判決を言い渡し、直後に死刑は執行された。
正直、あの時の自分はどうかしていたのかもしれない、とリフィアは思う。
怒り、憎しみ、殺意。ドス黒い感情に支配されていた。
自分と、同行していた二人を襲ったあの紫髪の少女が許せなかった。許せなかった。
断罪した、と言えば少しは気持ち良く聞こえるかもしれない。
しかし、結局は怒りに任せて殺してしまったのだ。
少女の喉に噛み付いた時に口の中に広がった血の味は今でもはっきりと覚えている。
淑子と愛が死んだ直後は、リフィアは深い悲しみに包まれ、号泣した。
次第に涙も枯れ、気持ちも落ち着いてきた時、リフィアは何とも言えない喪失感を味わった。
本当に短い間一緒に行動しただけの、恐らくこの
殺し合いが無ければ一生顔を合わせる事も無かったであろう二人。
そんな二人を失った事で、こうも悲しいのか。こうも喪失感を味わう事になるのか。
とても不思議に思った。
三人の死体は仰向けにし、横に並べて安置してきた。
愛と露柏の二人は目を見開いたままだったので、閉じさせた。
リフィアは露柏の死体など放っておきたかったが、いくら憎い敵とは言え放置しておくのも忍びなかったのだ。
そしてかなり気が引けたが、生き残るためだと割り切り、
三人のデイパックの中から食糧、そして淑子からは参加者詳細名簿、愛からは日本刀、
露柏からはクロスボウと予備の矢を、それぞれ頂戴した。
そして血溜まりの中、永い眠りについている三人に手を合わせ、
リフィアはその場を後にしたのだった。
しばらく歩いていた時、まだ悲しみとショックから立ち直り切れてないリフィアの耳に、
山頂の方角から拡声器か何かで音量を増幅された男の声が聞こえてきた。
どうやら不戦と和平を呼び掛けているらしかった。
仲間が二人いるのだと言う。
「……山頂から、かな……休戦を呼び掛けてるんだ……でも、あんな事したら……」
なるほど、和平を呼び掛けるのは確かに良いアイデアかもしれない。しかし、あんな大声で叫び続けては、
絶好の的だ。先刻自分と同行していた二人を襲撃したあの少女のような参加者が他にもいないとは限らない。
そしてリフィアの心配はすぐに的中する事となった。
呼び掛けを行っていた男の声が、突然の銃声にかき消された。リフィアは思わず屈んだ。
しばらく機関銃のような銃と思われる銃声が鳴り響いた後、今度は単発の銃声が二発、鳴り響き、
もうそれっきりだった。山頂からは何も聞こえなくなった。
山頂で呼び掛けを行った男と、その仲間二人はどうなったのか、想像に難く無かった。
「嘘……また、殺されたの? 誰か……」
また、人が殺された――恐らくあの少女と同じ、殺し合いに乗った参加者に。
リフィアは精神的に完全に打ちのめされ、全身の力が抜けるような感覚に襲われた。
つい、ほんの十数分前、三人の死を見届け、今さらに、目にした訳では無いが、
人が殺される様子がはっきりと認識出来た。
これで何も感じないのは余程無感動な人か、精神的疾患を抱えている人だろう。
リフィアはしばらくその場を動けなかったが、しばらくして、いつまでもここにいるのは危険だと思い、ゆっくりと立ち上がり、歩き始めた。
その後、休憩小屋を見つけ、そこで昼の放送を聞く事となった。
ここまでのいきさつを振り返り、リフィアはベンチに腰掛ながらふぅ、と溜息を漏らす。
禁止エリアは今自分がいるエリアとこれから進む予定のエリアは入っていなかった。
とりあえずは、これからの行動には禁止エリアは心配しなくとも良さそうだ。
これからの予定は、当初目指してた通り、市街地に向かう。
本当なら、リフィアともう二人、淑子と愛の二人も一緒に向かうはずだった。三人でそう決めたのだから。
だが、二人はもういない。
しかし、それでも行かなければいけない事に変わりは無い、とリフィアは思う。
いつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。
市街地に着いたからと言って何かあるかどうかは分からないが、何もしないよりはずっとマシなはずだ。
黙って死んでいくよりは。殺されるよりは……。
だが……その前に。
「こう状況でも、お腹は空くんだよねぇ」
かなりの空腹感を感じたリフィアは、昼食を取る事にした。
三人で小休止した時も軽食を取ったのだが、すっかり消化されてしまったのだろうか。
幸い食糧は大量にあった。元々の自分の分に、淑子、愛、襲撃者の露柏の三人分。
リフィアは煮玉子おにぎりを取り出し、包装を開け、おにぎりを食べ始めた。
「あ、一口食べたらうまい」
藤堂リフィアは悲しみから立ち直る事が出来たようだ。
彼女の行く先が明るい事を願う。
【一日目/日中/E-5西部 林道休憩所】
【藤堂リフィア】
[状態]:首、胸元に貫通創(命に別条無し)、返り血(大)、口元が血塗れ、食事中
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/5消費)、モシンナガンM1891(5/5)、7.62㎜×54R弾(50)、直刀、参加者詳細名簿、日本刀、クロスボウ(0/1)、ボウガンの矢(86)、四人分の水と食糧
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。 脱出方法を探る。
1:食事中。
2:襲われたら戦う。
[備考]
※生命力が異常に高いです。頭部破壊、焼殺、首輪爆発以外で死ぬ事はまずありません。
但し一定以上のダメージが蓄積すると数十分~一時間ほど気絶します。
※
入間あやなの水と食糧を島村露柏の水と食糧だと思っています。
最終更新:2009年11月09日 23:36