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ハムスターランドバトルロワイアルOP

吐き気がする……頭が痛い……ひどく、ひどく気分が悪い。
また飲み過ぎてしまったのだろうか。いや、違う。今まで何度も経験してきた二日酔いの苦痛とは異質な感覚。

固いアスファルトの地面にうつ伏せに倒れていた男は、やおら体を起こし、重い瞼を持ち上げて辺りを見渡す。
無機質で巨大な建造物めいた物が見えたが、それが何なのかは皆目見当がつかない。
真っ暗闇に加え、古臭いサングラスをかけた状態では、それも仕方がないのだろう。
やむを得ず愛用しているサングラスを外し、生気のない瞳で再び周りを見通す。こんな場所、知りもしないが、今度は見当がついた。
疑問符を浮かべながら立ち上がる。

「遊園地……だな」
巨大な建造物はジェットコースターだった。老朽化が進んでおり、見るからに危なっかしい。
「なんで俺こんなところにいるんだよぉ」
情けない声を上げつつ懐をまさぐる。煙草を取り出そうとするが、どうやら切らしてしまったらしい。
軽く溜息を吐く。ここがどこの遊園地で、何故自分がここにいるのか、男にはそれが分からない。
また妙なトラブルに巻き込まれてしまったのだろうか。そういえば、首に何か得体のしれない首輪がついている。
いつの間に着けられたのだろう……。

「なんだよこれ……頭は痛いし独りぼっちだし……最近こんなんばっかだしよお……」
何の罰ゲームだよこれ……。男の愚痴は止まらない。

本人の言うとおり、この男の人生はある時を境に大きく変わってしまったのである。
どんな風に変わってしまったかと言うと、そう、こんなんばっかりなのである。
それ故に一度言い始めた愚痴は、普段なら止まることなく加速し続けていくのだが、今回は例外だったようだ。

「ああ、もしもし……?お宅、長谷川泰三さん?」
「ん……? うわッ!?」
長谷川泰三ことマダオは背後にいつの間にか立っていた異形に驚愕の声を漏らす。
「こんな真夜中に背後からい、いきなり話しかける奴がいるか! な、なんだあんたは天人か!?天人だな!?」
「天人じゃないですよ。よく見て下さい」
そう言うと、マダオに背中を見せる。ファスナーがついていた。どうやら着ぐるみのようである。

「中の人なんていませんがね……ふふふ」
「…………」
「あっ違った……中の人なんていないけどね♪ねっ!?長谷川さん! ……ふふふ、どうです?
 例の有名なネズミキャラみたいでカワイイでしょう」

不気味に微笑む着ぐるみ男。そう言えばよくよく見てみるとあの有名なネズミキャラに似ている。
いや、これは明らかに似ている、ではなく、著作権違反のレベルだ。
そしてこのハムスターもまた、首輪を着けられていた。いったい、この首輪は何なんだろうか。

「ちなみに私の名前はハムスターマウス!ようこそ長谷川さん!夢の国、ハムスターランドへ!!」
マダオの目の前でひらひらと飛びまわりパフォーマンスしてみせるハムスターマウス。
愛想を振りまくハムスターマウスとは対照的に、マダオの目はひどく乾いていた。


「…………もう帰っていい?」


「……何言ってるんですかマダオさん。お楽しみはこれからですよ」
「いや、もういいから……今マダオって言ったけど許してあげるから。もう帰るわ」
そそくさと振り返りハムスターマウスから離れていくマダオ。そうはさせじとハムスターマウスが彼の手を引っ張る。

「夢の国へようこそマダオさん♪ここに来ればどんな貧乏臭いおっさんでもお姫様とハッピーライフ♪
 リストラで沈んだ心も強引にリフレッシュ♪明日からまた無意味に頑張れる気力が噴き出してくること間違いなし♪」
「うるせェェェェェ!! お前励ましてるのか古傷抉ってんのかはっきりしろォォォォ!!」
「古傷ってか現在絶賛進行中の病みたいなもんでしょ長谷川さんの場合」
「うるせえええええええ!古傷なんだよ!現在進行形なんて誰が認めるかあああああああ!」
「現実から目を離すなよ。だからマダオって言われるんだよ。汚っさんが」

しばらくの間、言い争いながら引っ張り合う二人だったが、つかれたのだろうか。
それもやがて終わった。

「はあはあ……ていうかハムスターマウス、あんた後半は確実に俺の心を砕きにかかりに来てたよね」
マダオが情けない声で言ったが、ハムスターマウスは飄々とした様子でそれを無視。
「……なんなの? 俺をどうしたいわけなの?」

初めからこれを聞きたかったのだが、どうやら知らず知らずのうちに回り道をしてしまったようだ。
マダオの諦めた顔を見て、ハムスターマウスはうんうんと満足そうに頷く。
腕時計を眺めるハムスターマウス。やはり何かに巻き込まれたらしい。
連中もやっぱりいるのかなあ……。マダオは頭の隅で件の三人組を思い浮かべる。

「そろそろですね……カウントダウンいきますよマダオさん」

まあ、自分は特に何もしないでも、なんだかんだで今回もあの万屋がなんとかしてくれるだろう。
全く、銀さんと出会った事が俺の運のつきだよなあ……ホント
ハムスターマウスをどうでもよさそうに眺めつつ、マダオは銀時の事を思い浮かべる。

「スリー・ツー・ワン…………」

ハムスターマウスが体を出来るだけ小さく屈め、次の瞬間、思い切りジャンプした。
ジャンプと同時に遊園地の各地に設置されてある照明が一斉に輝き出した。
どうでもよさそうな態度をとっていたマダオもこれには焦った。遠くの空では花火が打ち上げられている。


「バトルロワイアル開幕ぅぅぅぅ!!! やったね!!!」


とび跳ねまわるハムスターマウス。呆然とするマダオ。バトルロワイアルって……何?

「それではルール説明に入ります。説明が終わった後は、一人で行動して貰うからねッ!」

くるくるくる、と舌を回し、まるで歌うかのようにバトルロワイアルのルールを説明していくハムスターマウス。
短時間に一気にやってきた衝撃に、マダオの脳は揺さぶられていたが、それでもなんとか説明を一言一句残さず聞き取る事が出来た。
その恐るべきルール。聞きとれたいいが、脳が理解しようとはしない。

※バトルロワイアル
  • 参加者は20名。最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。殺す手段は問わない。『何でもあり』である。
  • 最後の一人、つまり優勝者には、このハムスターランドから生きて帰る権利が与えられる。
  • その他にも、優勝者には莫大な賞金、そして栄光に見合うだけの粗品がプレゼントされるので楽しみにして頂きたい。
  • ハムスターランドの外周には高圧電流を流したフェンスが隙なく張り巡らされているので、脱出する事は不可能である。
  • 参加者がゲーム進行に当たって何らかの不都合な行動をとった場合、それなりの対応を取らせてもらう。
  • 無理やり首輪を外そうとすると、爆発するので注意する事。
  • 3時間毎に死亡者などを告げる放送を流す。また、6時間誰も死なない状況が続いた場合、全員の首輪を爆破する。
  • ハムスターランドには様々な仕掛けがあるので、頭を捻って活用してほしい。

ハムスターマウスは上記のルールをぺらぺらと告げると、最後に薄いルールブックを手渡した。
「あんまりルールがあってもつまらないから薄めだよ」
だ、そうである。マダオはわなわなと震える手で冊子を受け取る。
ハムスターマウスは続いてどこから取り出したのか、デイパックを投げ渡す。

「中にはパン三つ、水2㍑ペットボトル一本、懐中電灯、地図、参加者名簿、携帯電話、ランダム支給品が1個か2個入ってるよ。
 ランダム支給品ってのはその名の通りランダム。うまく武器が入ってるといいね。あと、携帯電話は後々重要になって来るから手放さないでね」
マダオはデイパックを覗き、携帯電話を取り出す。
「外部とは連絡がとれなくしてあるから。安心してゲームを楽しんでね。無粋な横槍が入る事など、決してない」

ハムスターマウスは低く唸る。マダオはそれの顔、と言っても着ぐるみだが、を凝視した。
今までは暗闇の中、コミカルな動きに惑わされ、気づかなかったのだろう。
ハムスターマウスの顔は、有名なネズミキャラとは似ても似つかない、獰猛にして凶悪な顔つきだった。
大きく見開かれた両目は赤く血ばしり猛禽類のように鋭い、深く深く裂けた口から覗く犬歯は恐ろしく尖っている。
マダオはハムスターマウスの顔を見て青ざめ、すぐに目を離した。

「さて、最後に今回だけの特別ルールを説明するよ!マダオ君!地図を開いてくれるかな!」
言われたとおりにマダオは慌てた手つきで地図を取り出す。
「新ルール『海賊船長の宝箱』!!!ヒャッホー!!!」

とび跳ねるハムスターマウス。醜悪な顔が露見された今、その姿を見てもコミカルだとは全く思えない。

「地図に宝箱が記されているよね?その場所には、実際に宝箱があるんだ。
このゲームを勝利するにあたって、とってもとぉ~~っても便利なアイテムがその宝箱には入ってる。ただし!」
ハムスターマウスがマダオの前でぴっ、と指を立てて左右に振る。
「宝箱を見つけ出せば、いつでも宝物がゲット出来るとは限らないよ。さっきも言ったけど、『海賊船長の』宝箱だからね?
 船長の隙を突かなくちゃ宝箱は開かないんだ!さてマダオ君!なんかさっきから黙ってるけど、どうやって『隙を突く』か分かるかい?」

急に話を振られ、マダオはびくりと体を震わせた。

「あ、あ~~いや、………………さあ」
分からないものはわからない。マダオは頭を掻きながら口を開いた。
ハムスターマウスはその言葉を聞き、しばらくの間、黙ったままマダオを睨みつけた。
恐ろしい着ぐるみは少しずつマダオの精神力を削いでいく。マダオの額に冷や汗が滲み始めた頃、ハムスターマウスは漸く口を開いた。

「だ・よ・ねぇ~。分かるわけないよね。だから僕達、ゲーム運営者が携帯にメールを入れるよ。
 船長が宝箱から目を離す一時間前に、油断し始める時刻を記したメールを送る。だから携帯は頻繁に見る様にしてね♪
 と・に・か・く!携帯は重要なんだからね!精一杯頭を捻って活用してね!!」

こくこくと頷くマダオ。ハムスターマウスはそれを見て、なんとなく満足したようだった。

「さあ、それじゃあ最後の説明!首輪についてだよ!マダオ君、そんな安っぽい首輪なんかで本当に人が死ぬと思う?」
「…………し、知るわけないだろ」
マダオの声は裏返っていた。ハムスターマウスは、また飛び跳ね、マダオに向かって深く一礼する。
「そうだよね。当然だ。じゃあ最後に、この首輪の威力を君に教えてあげるよ」

くるりとジャンプするハムスターマウス。なんとなく、なんとなくだが、マダオは本能的に嫌な気配を嗅ぎ取った。

「いい?この『合図』が鳴ったら、ゲームは開始されるよ。マダオ、君はこのゲームで様々な人に出会うだろう。
 他の参加者や、ハムスターランドの楽しい住民達。全ての出会いを無駄にせず、全ての事をよく考えて活用し、優勝して欲しい。
 優勝してくれたら、君の説明役を務めた僕も鼻が高いってもんだ!」

ハムスターマウスがマダオに頭を下げたまま、背後に後退していく。マダオは黙ってそれを見つめる。
唐突に、ハムスターマウスから、ピッ、ピッ、という電子音が聞こえてきた。
ハムスターマウスの首輪が爆発への秒読みを開始したようだ。


「使い切るんだ、全ての材料を!生き残るんだ、何としても!負けたら死、死なんだ!
 勝たなきゃ、ここで勝たなきゃどこで勝つ!?君の優勝を、僕は祈っているよ! Good Luck!!」


謎のテーマパーク、ハムスターランド。深夜零時ジャスト、ハムスターランドに20の爆音が響き渡った。
マダオの足元で、死亡したハムスターマウスの凶悪な頭部がごろりと転がる。
説明役を務めた20のハムスター達が散るのと同時に、惨劇の幕が今────開かれた。
────バトルロワイアルの開幕である。

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最終更新:2011年07月26日 21:17
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