阿良々木暦は、吸血鬼である。
とある怪異に巻き込まれ、その結果的に彼は吸血鬼に成り果ててしまった。
尤も、その性質に助けられたことも一度や二度ではないが。
そんな彼は、今口をぱくぱくさせながら硬直していた。
『不幸枠の当選おめでとうっ!!君の吸血鬼としての性質は剥奪しましたっ!!』
と、デイバックの中に走り書きのメモが入っていた。
支給品。
まずは、『爪楊枝』―――もはや使い道は無い上に、嫌がらせに近い。
もう一つに至っては入っていなかった。酷すぎる仕打ちである。
「何だこれ……僕に何をしろと」
吸血鬼の性質を奪われ、手元にあるのは爪楊枝だけ。
これでは
殺し合いなどできやしないし、相手が子供でも危ないかもしれない。
参った、と暦は呟き、真っ暗な空を見上げる。
守るべき相手を守ることも出来やしない自分の不条理を心の底から彼は嘆いていた。
戦場ヶ原ひたぎ。蟹に行き遭った少女で、阿良々木暦の大切な恋人。
そして、殺し合いの参加者の一人。
暦が殺し合いに『わずかにまよった』理由は、ひたぎを守るためでもある。
暦かひたぎのどちらかが優勝して、もう片方を生き返らせればいいのだ。
だが。戦場ヶ原ひたぎという一人の少女はそれで喜ぶのか?
暦はそんな訳が無いと断じた。
―――戦場ヶ原は、そんなことで喜ぶほど弱くない。
だから、暦は殺し合いへの反逆を決めたというのに、この有り様だ。
失意の少年は気付いていなかった。
彼の元に、最悪の狂戦士が近付いていることに。
■
霧が、『彼』を薄く包んでいた。
パラメータすら隠匿するそれは、『彼』の参加していた戦いでは便利なものだった。
鎧の奥から邪悪に光る双貌を覗かせて、『彼』は理解できない声をあげる。
「■■■■■■■■――――!!」
右腕には、黒く染まったイビツな棒のようなものが握られている。
元々ただの廃材だった『それ』は、『彼』により破壊力抜群の宝具と化している。
『騎士は徒手にて死なず』―――触れた物全てを『彼』の宝具に変えてしまう。
彼の目指すは、一度は忠誠を誓った気高き騎士の王―――――の、命。
『人の気持ちがわからない』王の命を奪うために、『彼』は叫ぶ。
『彼』――――サー・ランスロットは、復讐の狂戦士と化していた。
彼には『騎士は徒手にて死なず』だけが全てではない。
もう一つ、伝説の宝剣がある。
皮肉にもランスロットの憎む騎士王の宝剣『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と対を成す宝剣、『無毀なる湖光(アロンダイト)』が。
復讐鬼は駆ける。
その向かう先には、能力を失った一人の『元』吸血鬼の姿があった。
■
グキャリ。
鈍い、嫌な音がしたな、と暦はまるで他人事のように感じた。
―――その音は、阿良々木暦を殺した一撃の音だったと気付くのが、一瞬遅れた。
「■■■■■■■■■■■■■……」
背後には、真っ黒に染まった角材を持った鎧の騎士の姿。
その角材は、暦の背中を背骨ごと抉り、不可避の『死』を彼に与える。
―――ごめん、戦場ヶ原。僕は―――
「……あれ?」
いつまで経っても死なない。即死クラスの傷なのに、死ねる気配がない。
暦は事態を理解する前に、大きく後退した。
背中の傷は既に完治し、痛みもいつの間にか消えていた。
『全て遠き理想郷』。正確には、それをモチーフにした『
オリジナルの模造品』。
再生できる回数は三回まで。
尚、死ぬほどの傷でなければ発動しない。
そんな説明が、暦の脳裏に直接流れ込んでくる。
不幸などではなく、阿良々木暦はある意味幸運であったのかもしれない。
が、それだけだ。
目の前の怪人は相当な、暦が戦ってきた怪異を越えるレベルの強者である。
ただの人間に逆戻りした暦がどんな戦いをしても、あと二回であれは倒せない。
逃げるにしろ、あの角材を投げられでもしたらこれまた最悪だ。
と、思案する暇はそこまでだ。
怪人(バーサーカー)――――サー・ランスロットが角材を持ったまま、駆ける。
殺し損ねた暦の息の根を止め、その命を蹂躙すべく、唸りながら迫ってくる。
万事休すか―――、そう思った矢先。
池袋最強のバーテン服の男が、その胸板に回し蹴りを叩き込んだのだ。
この世には―――池袋という町には、絶対に敵対してはいけない人間が何人か存在する。
世界単位で見れば、球磨川禊のような『過負荷』や衛宮切嗣のような殺し屋たちが該当するであろう、『超危険人物』の烙印。
彼―――平和島静雄もまた、その一人だ。
参加者中でも最高クラスの身体能力を持つ黒神めだかにも、『完成』無しの純粋な殴り合いでなら打ち勝てるほどの圧倒的な力。
一度怒れば止められない、彼もまた狂戦士に近い。
ランスロットがかなり後退させられる。
英霊を、人間がここまで吹き飛ばしたという、出鱈目な事実だ。
「兄ちゃん、とっとと行けや。ここは俺が抑えとくからよ」
不思議と冷静な声色で、静雄は暦に促した。
自分だけ逃げることは出来ない、と反論しようとして、暦は口を止めた。
三回の再生しか出来ない暦には、静雄の手助けにもならないのだ。
―――だけど。僕にも、出来る手助けがある。
暦は静雄の懐に飛び込み、自らの体内から『偽・全て遠き理想郷』を取り出し、彼の胸にそれを差し入れた。視界が空転する。
静雄が暦を投げ飛ばしたのだ。
「……あんたはそれで、後二回までは死なない。僕に出来ることはこれくらいしかないから」
そうとだけ言い残して、暦は静雄に背を向けて走り出す。
―――強く、なる。
吸血鬼の力に頼らずに、殺し合いを潰せるくらいに。
阿良々木暦は、希望の道へと歩きだした。
【深夜/A-1】
【阿良々木暦@化物語】
[状態]健康、強い決意
[所持品]爪楊枝
[思考・行動]
0:この殺し合いを徹底的に潰す。
1:力が無くても誰かを守れるくらい強くなる。
2:戦場ヶ原を探す。
※『つばさキャット』後からの参加です
※吸血鬼としての性質が全て奪われています
◆
二度、死なない。
平和島静雄は下らねえ話だ、と一蹴した。
アニメや漫画じゃあるまいし、そんなものを簡単には信じられない。
だが。『池袋の喧嘩人形』の顔は、笑顔の形を作っていた。
「―――死なねえなら、全力出して、滅茶苦茶に戦っても良いんだよな?」
崖の近くにベンチがあるという、割とシュールな風景。
平和島静雄は、そのベンチを軽々と素手で引き抜いた。
彼にこそ許される、余りにも無茶苦茶な戦い方。しかし、彼にとってそれは奇抜な戦い方でも何でもない。武器を持った静雄は、まさに破壊の化身となるのだから。
ベンチをフルスイングする。
ランスロットはそれを角材で止めるが、静雄の腕力に押し切られそうになる。
ランスロットは横に跳び、静雄に角材を振りかざす。
ベンチと角材が衝突し、鈍い音が響き渡った。
戦いが始まる。
【サー・ランスロット@Fate/Zero】
[状態]健康
[装備]角材(宝具化)、不明支給品1
[思考・行動]
0:アーサー王(
セイバー)を殺す。
※六巻、セイバーと戦う前からの参加です
□
ゲーム開始数時間前。これは、開幕宣言後の『舞台裏』の話。
平和島静雄は、拘束されていた。
光の鎖のようなもので拘束され、さしもの彼といえども破壊できない。
即ち。勝手な真似をされた静雄の怒りは頂点に達していた。
「やあ、お目覚めは如何かな――――シズちゃん」
黒い髪の、端正な顔立ちをした青年が、静雄の前に出る。
彼の姿に、声に、態度に、静雄は聞き覚えがありすぎた。苛立つほどに。
彼もまた、池袋において敵に回してはいけない相手の一人。
『情報屋』―――――折原臨也。
今この場に彼が居ること。
つい先ほどに行われた悪趣味な開会式。
これから始まる殺し合い。
全ての散りばめられた手がかりが一気に収束し、怒りが爆発しかける。
折原臨也は、主催者だ。
「……そんなにぶっ殺されてえのか、イザヤくんよぉ……!?」
「おぉ、怖いね。だけど、怒るのは俺の話を聞いてからでもいいんじゃないかな?」
臨也は、その内ポケットから一枚の写真を取り出し、静雄に見せる。
写っているのは、どこか無機質な顔の青年だった。
彼こそ平和島静雄の弟、平和島幽。
大人気アイドル『羽島幽平』の顔を持つ、静雄を支えてきた弟だった。
何故、今これが出てくる?
意味するのはたった一つの可能性。
平和島幽の命は、折原臨也の掌に握られている。
「青筋を立てないでよ、まったく。こちらからも条件があるから、君次第では幽くんの命は助けてあげよう」
紡ぐ。
「シズちゃん、君には殺し合いを盛り上げる『ジョーカー』の役をお願いしたいんだよね」
冷たい沈黙。
平和島静雄の『暴力』を、ある意味では正しい方法で使う。
彼なら、主催とのコネクションでそれなりの武器を与えたなら。きっと、殺し合いを勝ち抜くことは難しくない、最悪の殺人鬼となるだろう。
だが。静雄は、一言だけ臨也に言い放つのだった。
「俺がぶっ殺すのは、臨也、てめえだけだ」
そこで、彼の意識はブラックアウトしたのだった。
殺し合いにて最高のアドバンテージを得られる『ジョーカー』への勧誘を、最愛の弟さえ投げ打って、静雄は折原臨也への反逆を誓った。
最強の男は、最強の戦いで、最悪の敵を討つ事が出来るのか。
答えは、きっと神のみぞ知る。
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]健康
[所持品]ベンチ、『偽・全て遠き理想郷』@オリジナル
[思考・行動]
0:殺し合いを止めて、臨也の野郎をぶっ殺す。
1:目の前の鎧を倒す。
※原作六巻終了後からの参加です。
※主催者の一人に折原臨也を確認しました。
| それが彼のジャスティス |
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最終更新:2011年09月17日 22:06