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それが彼のジャスティス

衛宮切嗣は駆ける。
殺し合いに乗った人物『我妻由乃』を殺害する為に。
何故少女に固執するのか。それは単に、由乃が『手慣れていた』からである。

気配を消し、迷いを捨てて殺害を行うのは非常に難しいことだ。どうしても僅かな迷いが隙となり、犯行を完璧なもので無くしてしまう可能性が高い。
事実、切嗣のようなプロの暗殺者でさえ、指先と心を切り離すのは数年かかる。
――――尤も衛宮切嗣は特異な例で、最初からその技術を持っていた『異端』なのだが。

それを、あの若さで克服している。あの若さで、あんなに『冷静に狂える』。
単刀直入に切嗣は考えた。我妻由乃を生かしておけば、必ず多くの犠牲が出ると。
が、自分になら殺すことが出来る。その自信は彼の持つ『魔術』から来る。
固有時制御。肉体に大きく負荷を掛ける代わりに、自分の移動速度を調整できる魔術。
間違いなく、只の人間相手になら最高の相性である。

我妻由乃。彼女は確かに切嗣には厄介な存在と見なされた。
――――あくまで『厄介』なだけだが。

『危険』な人物。衛宮切嗣が危険と称する相手は本当に危険な、最悪の相手を指す。
殺し合いに呼ばれているのは自分や舞弥だけではない。

例えば、切嗣が聖杯戦争の中で見てきた英霊たち。彼らも非常に厄介な存在だ。
騎士王のセイバーは敵対こそせずとも、切嗣から協力を求めるなど御免だった。
ランサー・ディルムッドにバーサーカー・ランスロット。ライダー・イスカンダル。
どれもかなりの強者で、各個が優勝候補だ。
しかし、彼が『危険』と見なしたのは英霊や化物などではない。
あくまで只の人間―――切嗣と同じ人間を、彼は『危険』と断じる。

その人物の名は、言峰綺礼。
第四次聖杯戦争の『代行者』であり、アーチャー・ギルガメッシュのマスター。

切嗣の妻と、相棒的存在の久宇舞弥が束になっても敵わない相手、まさに怪物。
八極拳の達人にして異端を狩る黒鍵の使い手を、衛宮切嗣は最も警戒していた。
そして綺礼は間違いなく殺し合いに乗るという確信もある。
殺さなければならない。切嗣の生涯最悪の敵に、鉛弾を撃ち込まなければならない。

衛宮切嗣の着く先はC-2の病院。入らなければならないと思ったのは何かの因果か。
右腕にデザートイーグルを握り、彼は建物に入っていく。



「……どうして、ですか」

高校生の割には小柄な体格の少女・伊吹風子は呆然と呟いた。
その『どうして』は、殺し合いに呼ばれた事に対する『どうして』ではない。

伊吹風子という少女は、『まだ』自分の肉体で動き回ることができない。
交通事故に遭い、現在は昏睡中―――ということになっている。
彼女を形容するなら『幽霊』という単語が一番似合うであろう存在。
風子は最愛の姉のために、結婚式に客を招待するために努力し続けていた。
そして、明らかになる現実。
忘れられていく存在。
消えていく思い出。

全てが叶って、一区切り。

―――風子が知らないだけで、『魔法』にとってはそれぐらい造作も無いことだ。
昏睡中の病人が目を覚ますという『奇跡』さえ、起こせてしまうのだから。
だからこれは当たり前。風子もまた、困惑はしたものの理解することは出来た。


違う。違う。これらの名前だけはあってはいけない。

参加させられるのは自分一人で十分だから。


希望とはかくも裏切られるもの。無情にも、『彼らの名』が記されていた。

岡崎朋也。
藤林杏。
春原陽平。

短い間だったが、友達になってくれたかけがえのない大切な人たちである。
何故、あの人たちが殺し合いなんてしなければならないのか。理解できなかった。

残念ながら、現実的に見て漫画のように『努力が才を越える』など有りはしない。
もし岡崎たちが手を取り合ったところで、最初の少女と同じようになってしまう。
主催者の力が強大だということは理解しているつもりだった。

「―――――――――本当に。どうして、ですか」

伊吹風子は気付いていない。彼女の様子を窺う一体の『兵器』の存在に。
死んだ魚のような濁った目。まるで『死体』が歩いているような風貌をした少女の姿をした兵器。かつてとある殺し合いにて暗躍した彼女の名は―――――、


――――――――――――小神さくら、と言った。


手にはコルトバイソン銃を握り、無機質な瞳が風子の姿を捉えている。


死体から兵器を作り出す技術。軍の超極秘事項であり、切り札のようなもの。
生体兵器ながら、超人的な身体能力を持つ兵士を作り出す計画である。
紅い髪の妖狐獣人・小神さくらもまた、生体兵器。
『俺オリロワ2nd』と称される殺し合いでトップの殺害数を見せ有能性が実証された。

彼女が行うことは変わらない。
無感情に、無目的に、無関係に参加者を殺し続けていく、それだけだ。

風子の頭に銃口を向ける。後は引き金を引けば、儚い命はあっさりと散るだろう。
しかし。前回ほど順風満帆にはいかなかった。

小神の視界が一人の男を捉え、男が発砲した。そこには微塵の迷いも無く、あるのは冷たい殺意だけだ。小神と同じように、殺戮マシーンのような存在。
かつて正義の味方を目指し、その過程で歪んでしまった一人の男。



『魔術師殺し』――――――衛宮切嗣が、『殺し』を行う。



切嗣は懐のデザートイーグルを持ったまま、小神から僅かに距離を取る。
自販機が遮蔽物となり、小神の射撃を妨害できるかを確かめるための行動だった。
風子を守りながら戦うなど切嗣には出来ない。

まずは風子を遮蔽物の陰に移動させ、そこからが殺し合いのスタートだ。
相手の武器はマシンガンの類ではない。切嗣の魔術を用いれば安全に風子を守れる筈。

 固有時制御      二倍速
「Time alter―――double accel!」

衛宮切嗣が加速する。反動の痛みが体を駆け巡るが、気にしてはいられない。
セイバーの宝具・『全て遠き理想郷』があれば話は別だが、今はその補助が無い。
肉体にかかる負荷を考慮して、暫くは使うべきではないと判断する。
が。切嗣は暗殺者だ。

―――感情を持たない相手はせいぜい『厄介な相手』でしかない。
―――恐怖の無い相手ほど卸しやすく、仕事は結果的に楽になる。

生体兵器・小神さくらと衛宮切嗣の相性は致命的に悪かった。

小神の射撃。しかし、二倍の速度に弾丸など恐れるに足らず。
全ての弾を避け、風子の体を抱える。

肉体に激痛。行使する時間が長すぎた。
言葉すら発さずに、淡々と安全な遮蔽物の陰に風子を隠す。

「君は此処で待っていてくれ。僕が、全て終わらせる」

そうとだけ言い残して、衛宮切嗣は小神さくらとの殺し合いに赴いた。




両者無言。
音の無い空間に、二人の銃が放つ鋭い破裂音だけが連続した。
どちらの身体能力も常人の域では無いが、やや小神の方が高いといえただろう。

格闘などは存在しない。如何に上手く、場所を確保しながら戦うかが課題だった。
両者まさに一歩も譲らぬ戦い―――というには、少々空気が無機質だったか。

硝煙の臭いが立ちこめる中、切嗣は勝機を見い出す。
デイバックに入っている、制圧力が非常に高い銃・イングラムM12。
フロアの構造はあらかた把握したし、作戦が成功しやすいポイントも既に見つけた。
後は、詰め将棋のようなもの。
一手のミスが生死を分ける、ミスの許されない慎重な戦いが求められる。

尤も、両者にとってそんなことは問題にすらならなかったのかもしれないが。

 固有時制御     二倍速
「Time alter――――double accel!」

激痛。本当に発動は無理をしたものだったが、これが最善手であった。
目指すのは小神さくらからの逃走。風子と離れた場所に、小神を引き付けるため。

激痛に耐えながらも、駆ける。背後から響く銃声は無い。弾切れだろう。

切嗣が辿り着いたのは、病院の中でも古い―――タイルの剥げた床のある場所だ。
イングラムの銃口を向けて、跳弾も気にせずに弾丸を放つ。床は崩れない。
それで良かった。後は切嗣の腕にかかっている。
失敗しなければ勝つ、詰みの段階。

小神さくらが近付いてくる。片手に弾を込めた銃を持ちながら。
床の損傷から、切嗣の意図を理解した小神は、その場で銃を切嗣に向ける。

ダァン!
という破裂音の後、弾丸が衛宮切嗣の右肩口を浅く裂く。
直後、切嗣が掃射した。床一面に無数の弾を蒔き散らせる。
後退の暇など与えない。小神が体勢を立て直す前に、その背後に回る。

デザートイーグルの射撃を二発背中に叩き込み、崩壊した床に突き落とす。

「………」

何も感じない。
やはり、『魔術師殺し』は異端だった。
後味の『無い』殺し合いを終え、切嗣は再び道を引き返す―――――。

慣れた殺しに、味は無かった。



衛宮切嗣。と男は名乗った。

伊吹風子。と少女も名乗った。

小神さくらの殺害を終えた切嗣は風子の元へと再び戻ってきていた。
情報の交換などの目的もあったが、やはり心配だったというのもある。
切嗣と風子は自己紹介を軽く済ませると、早速互いの情報の交換を始めた。

――――――――――危険人物。
サー・ランスロット、言峰綺礼、雨生龍之介、我妻由乃。

――――――――――信頼できる相手。
岡崎朋也、藤林杏、春原陽平、久宇舞弥。

切嗣は単調に、ありふれたメモ用紙にそう書き綴る。
風子の情報も合わせると、新たに信頼できる相手の名前も明らかになった。
これは大きな収穫だ。もし次に彼らと会えたなら、更なる情報も期待できるだろう。

『魔術師殺し』の顔に戻った切嗣は不思議と、煙草が欲しいと思った。
そんな他愛もないことを考えている最中に、目の前に木製の『何か』が差し出された。

「――――ヒトデかい?それとも星かな」
「おおっ、いきなりヒトデと見抜ける人は珍しいですっ」

嬉しそうにする風子を見て、置き去りにしてしまった娘を思い出してしまう。早く、帰ってやらなければならない。

感傷に浸るのは僅か。次にはこれを何の為に渡したか、という疑問が浮かび上がる。
まさか代金を求められるのではあるまいな、と思っていると、答えは向こうから来た。

「衛宮さん。それの代わりに、一つだけ、お願いしてもいいですか」
「……いいよ。僕に出来ることなら、何なりと」

一呼吸。
一呼吸。
一呼吸。
一呼吸。
一呼吸。


「風子のお友達を、―――岡崎さんたちを、助けてあげて下さい」


他人を助ける。
そんなことを頼まれたのは一体何年ぶりだったろうか。
『魔術師殺し』となってからは、久しく正義の味方より、悪の行動をしていた。


―――そうだ。僕は、正義の味方になりたかったんだ―――


「―――――分かったよ。風子ちゃんの友達は、僕が必ず救ってみせる」

どんな手を使ってでも。
やはり、彼は歪んでいた。
正義の味方に戻った悪の暗殺者は、正義と悪を右往左往する。

―――――衛宮切嗣と伊吹風子。二人の行き着く先は如何に?


【深夜/C-2】
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]魔術の反動、決意
[所持品]デザートイーグル@現実、イングラムM12@現実、木製のヒトデ@CLANNAD
[思考・行動]
0:殺し合いを潰し、主催者を殺す。
1:伊吹風子の『友達』を助ける。
2:殺し合いに乗る者は殺す。

【伊吹風子@CLANNAD】
[状態]健康
[所持品]不明支給品1
[思考・行動]
0:友達を守りたい。
1:衛宮さんと行動する。
※風子ルート終了後からの参加です


衛宮切嗣は一つ失策していた。
小神さくらを落とした部屋がシーツや毛布を管理する部屋とは知らなかったのだ。
濁りきった瞳で天井を見つめる小神は一言呟く。

「衛宮、切嗣―――――――――――――――。」

その言葉に何の意図があったのかは分からない。
だが。衛宮切嗣という人物が、僅かな興味を抱かせたのは事実であった。

【小神さくら@非リレー型バトルロワイアル・リピーター】
[状態]背中に二発の銃創(行動に支障なし)
[所持品]コルトバイソン@現実
[思考・行動]
0:参加者を殺す。
1:衛宮切嗣に僅かな興味
※死亡後からの参加です。

殺し合い『卒業生』『新入生』 投下順 益荒男の武闘会
GAME START 衛宮切嗣 [[]]
GAME START 伊吹風子 [[]]
GAME START 小神さくら [[]]

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最終更新:2011年09月17日 22:02
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