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過程上のバッドエンド

殺し名。
裏の社会で有名な戦闘集団の総称であり、圧倒的な殺人能力を誇る。
《匂宮》《闇口》《零崎》《薄野》《墓守》《天吹》《石凪》。
裏の世界の人間なら誰もが知っている、恐怖と忌避の象徴でもある。

圧倒的な殺人能力。
比喩でも何でもなく、彼らは殺しにとにかく秀でている。
《匂宮》は頼まれれば誰でも殺す《殺し屋》。
《闇口》は主の為に殺す《暗殺者》。
《零崎》は理由なく殺す《殺人鬼》。

各個が異常。殺人を躊躇しない、一般人には理解できない境地。
対極に《呪い名》があるが、ここでは関係ない事柄だ。

話は変わってバトルロワイアル。この殺人ゲームにも、二人だけ招かれている。片方は匂宮の史上最高最大の失敗作、匂宮出夢。片割れを失った人喰い。
もう片方は闇口の一族・闇口崩子。ただし、一族からは家出中の身。
とはいえ殺し名としての性質は持ち合わせている。
既に匂宮出夢は槍使いと戦い、痛み分けに持ち込んでいる。


そして今度のお話は、闇口崩子。殺し名から外れた少女のお話。
彼女のバトルロワイアルの《はじまり》のお話。
彼女が、とある男と出会う、ただそれだけのお話だ。
既に主を定めた彼女。

その彼女が、どう動くか。
これは、彼女のスタンスが確定するまでの過程。


それでは、物語を始めよう。



殺し合い
岡部倫太郎の語彙を漁っても『イレギュラー』としか形容できない。

数多くの運命を経験してきた彼は、不測の事態――――即ちイレギュラーを人より確実に多く経験している。少なくとも心が擦り切れそうなくらいには。
しかし、これはあまりに予想の範疇を越えすぎている。

一人の少女を救うために幾多の世界『線』を越えてきた彼の経験上、《シュタインズゲート》に至るまでの物語は秋葉原の、自分の身近で展開されなければならない。
そういう法則(ルール)だ。
法則(ルール)が破綻した式は、存在できない。


「…………嘘だろ」


まさか。
まさか。まさか。
まさか。まさか。まさか。

岡部の脳内を、絶望に限りなく近い恐怖が駆け巡る。
死など今更恐れてはいないし、死と比べて尚勝る恐怖。


だって、考えてもみろ。

殺し合いなんてものが、世界に紛れ込むなら。

ただでさえ数多の広がりを見せる世界が、更に分岐する。

参加者一人一人の行動がもたらす結果の一つ一つが結末を左右。


そして、何よりも最悪なのは。

俺の頼みの綱、タイムリーブマシンが手元に無いことだ。

それはつまり、今まで当たり前だったやり直しが出来なくなる。リセットボタンが無いゲーム機のようで、人間のあるべき姿。

シュタインズゲートに辿り着けない。


俺のやってきた事は。



―――何もかも、無駄だったってこと―――




「……っ、ふざけるな……ふざけるなぁぁああああああああッ!!」

ただ、やり場のない怒りを、絶望を、ぶつけて叫んだ。
それで何か道が開ける訳でもなく、ただの酸素の無駄に過ぎない。
だが、そうしなければ。
自分で自分を壊してしまいそうで、たまらなく怖かった。

岡部倫太郎は、観測者だった。
本質は大きく異なったが、それが彼を表すのに一番適していたろう。

もう、そんな甘ったれた立場は終わりだ。
岡部はこの世界線においては、《参加者(プレイヤー)》にならなければならない。観測して考察する立場はもう、通用しない。

失敗なんて許されない。
傲慢かもしれないが、岡部以外に、あの幼なじみの少女を救うことの出来る人間はこの世に居ない。否、自分が救わなければ。

この地球に存在する630000000人の人間の誰にも、背負わせない。

救世なんて大袈裟なものでなくたっていい。
あの少女の終わりだけは、認めない。
岡部倫太郎の命を懸けてでも終わり(バッドエンド)を否定する。

絶望してはいられない。

岡部が目指したのは148人全員の救済。
誰も最終的に泣かなくて済む、そんな終わりを成し遂げたい。

『最終的に』。


岡部倫太郎は、覚悟を決めた。
今まで繰り返した途方もない時間の苦痛を越えるほどの苦痛に苛まれようが、彼という一人の人間の価値観を破壊しようが、絶対に止まらず理想を成し遂げる覚悟を。


「やってやる――――――何もかも壊してから、何もかも救ってやる―――――――――――――――――――エル・プサイ・コングルゥ」


道なき道を往く。そこに居ても、待っていても、何も始まらない。
《観測者》から《参加者》に。
《救世主》から《極悪人》に。

変革の時は来た。
さあ、物語を始めよう。
その果てに何が在ろうと、後悔だけはしないと誓って。



面倒なことになりましたね――――――と、闇口崩子は険しい顔で言う。
彼女の記憶では、自分は病院に居たと記憶していた。
《橙なる種》。



想影真心によりアパートが破壊され、病院に搬送された。
早い話が、何らかの方法で拉致されたということなのだろう。

しかし、殺し合いときた。
闇口崩子はつい最近、傷を負わされている。肉体より心の方の。

《十三階段》と関わる中。
先の《橙なる種》に惨敗した帰りに、大切な人を一人、失ったのだ。
それは彼女を一度、壊した。
戯言遣いに、もう戦えないと判断させるほどまでに。
今は不完全ながら立ち直ったものの、本当に酷く、破壊された。

だからといって、この状況でその理由は通らない。
崩子は戯言遣いを守らなければならないのだから。
主と定めた相手を、守る。闇口の姓を持つ者として、大前提だった。
たとえ誰を殺めても。
たとえ自分がされたような手段を用いてでも。
《戯言遣いのお兄ちゃん》を守るために、行動する。殺す。

覚悟を決めるのに時間は必要なかった。むしろ、とっくに出来ていた。

殺そう。戯言遣いを守ることにつながるのなら。
守ろう。戯言遣いを守ることにつながるのなら。

矛盾は無い。主のために、殺す一族。それが《闇口》だ。


「……待っていてください、戯言遣いのお兄ちゃん」


強く宣言した。

崩子はすぐに支給品の入ったデイバックを開き、中身を確認する。

一つ目。何の拘りもなさそうな、シンプルなナイフ。
本来、直死の魔眼遣いの少女の所持していたナイフだ。

所持者・両儀式にすれば一撃必殺の手に馴染む最高の武器だったのだろうが、魔眼の類を一切持たない崩子にはただのナイフでしかない。
だが、ナイフが支給されたのは彼女にとっては幸運だった。
オーソドックスながらも手に馴染む、彼女の好む凶器がナイフだ。

二つ目は杭。
たった一本の、不気味なオカルティックな装飾の杭。
さすがにこれは使えそうにない。

間違ってはいない、闇口崩子にはこの杭の真価を引き出せない。
この杭の真名は『傲慢のルシファー』。
煉獄の七姉妹と呼ばれる悪魔の杭。七つの大罪『傲慢』の罪を抱えた者になら使役することが出来る。魔力の有無は関係なく、呼び出せるのだが。

主に尽くしたい、という崩子の思想では、傲慢の罪とはほど遠い。


「とりあえず、このナイフは役に立ちそうですね」


杭をデイバックにしまい、ナイフを巧妙に隠し持つ。
まずは戯言遣いを探す。危険な相手・邪魔な相手は排除していく。
逆に、利用できそうな相手は利用。


闇口崩子のバトルロワイアルは始まった。


ダァン!と、破裂音が響く。
銃の型はジグザウアーH226。

覚悟を決めていた少女と決めた男は、早速開戦していた。
しかし、抜けているとはいえ《殺し名》。一般人の殺しのスキルとではセンスが違う。銃とナイフの差でも、素人に銃ならナイフを持った《殺し名》の方が上手だ。

「(……くそっ!!)」
「温いですよ――――――あなたは、とても温い」

ナイフの切っ先が前髪を少し掠める。
岡部は若干の冷や汗を流すが、体格差を利用した攻めに出る。

蹴りを交えた、自己流かつ超即席の格闘術。
通用するとは思っていない。あくまで、牽制のための一時凌ぎだ。
隙があったら、容赦なく射殺する。覚悟はとうに決まっている。

崩子は身を少し屈めて岡部の蹴りを避ける。
不安定な体勢からの発砲。あまりに不安定なそれは崩子を掠めもしない。

直後。岡部の胸元を、崩子のナイフが浅く切り裂いていた。
だが、違和感。
殺しのセンスを持つ者だからこそ分かる。今の攻撃は、避けられた。なのに、目の前の男は受けた。たまたま距離のせいで致命傷にはならなかったが、危険はあった。
直後岡部は怯みもせずに白衣を翻す。

「(しまった――――視界を、封じて―――!?)」

崩子の肉体は白衣を払おうとするが、体格差はどうにもならない。
やっと視界が戻った時には、銃口が崩子の胸に向いていた。

ダァン!と、乾いた音がした。
が、崩子の肉体に傷はない。胸元に、空気を感じただけだった。
つまり、空撃ち。素人こその、凡ミスだ。
王手は回避した。今度は崩子の王手だ。むしろ、チェックメイトか。

岡部は迫る死に恐れも見せず、まだ闘志を漲らせている。
負ける訳にはいかない。
たとえどれだけの卑劣に成り果てようが、負けられない。
銃床。意外とそれは堅く、殴るだけでもそれなりの威力になる。

岡部はそれを振りかぶろうとし、そして――――――――




意識を、失った。




結論、最初の傷が痛かった。
決して深くは無いが、決して浅い傷でも無かったのだ。
そして、結果的にこうなる。

「………それじゃ、わたしの勝ちですね」

後は簡単だ。崩子はその手にあるナイフで、岡部の首を裂けばいい。
子供でも至れるような簡単な選択。ゆらり、と崩子は近寄っていく。
岡部の表情は悔しげだった。意識は失っているが、とても、悔しげ。
崩子は何も知ることはない。


彼が全てを賭して、修羅道を歩んでさえ求めた目的を知ることはない。
ここで、闇口崩子と岡部倫太郎の因果は切断される。
彼の死により、彼女の手で。
二度と繋がることはない。どうせ代替可能なのかもしれないが。



「―――――――――――――――さようなら」




「ちょぉぉぉおおおっと待ったぁぁああああああああああ!!」

甲高い声がした。そして、高校生くらいの少女が走ってくる。
崩子は相手のうかつさに呆気に取られるが、すぐに岡部の肉体を抱き寄せ、首元にナイフを当てる。脅しだ。妙なことをすればこの人の命はない、と、暗に警告する。
崩子は何も皆殺しなど考えてはいない。
《戯言遣い》を守る、そのためだけに行動するのだ。
だから、戦意がない相手に危害は加えない。ただ、視界から外す。

だが、この少女に敵対の意思があったなら話は別だ。それは闇口崩子の排除対象になる。当然、容赦情けは一切掛からない。血飛沫をあげて斬り殺されるだけだ。単純ゆえに残酷。
ひとまず彼女の脅迫は効いているらしく、相手はただ睨みつけるだけだ。

「……動かない限り、わたしはあなたに危害を加えません。ただこの人を殺して、おしまいです」


「やだなぁ、はるちん、そんなに穏やかな性格してないよ」

『はるちん』と名乗る少女・三枝葉留佳は、敵意を剥く。
彼女はデイバックから支給された刃――――かつて世界の終わりを夢見たとある組織の『刀鍛冶』が捜し求めた逸品《無銘》を取り出し、崩子に向ける。
その瞳は挑発の色を含んでいたが、諦めの色さえ見えた。
しかし彼女は止まらない。否、ブレーキはとっくに破損している。
ブレーキの壊れた車は、ただ走るしか能の無い猪と成り果てる。


「はるちんと戦え。もし私が勝ったら君を殺す」


返事は無かった。
崩子は言葉も無しに勢いよく駆け出す。今の宣言を以て三枝葉留佳は完全に彼女と敵対した。葉留佳の武器は彼女のものより強力だと理解していたが、勝算はある。
そして、再び殺し合いが始まった。


「………俺、は…………?」

岡部倫太郎は、血生臭い目覚めを迎えた。その命は、保たれて。
胸の傷にはある程度の処置がされており、傷の大きさからしても命に別状は無さそうだ。だが、何故自分は生きているのか?あの場で、行き永らえられたのは何故だ?
答えは本当に、すぐ近くにあった。


「あ―――――――目、覚めたね」


少女が、倒れていた。腹には一つ、明らかに深い刺し傷がある。
そして理解する。この血生臭さは彼女の血によるものだと。
更に、自分が生きているのは、この少女のおかげなのだと。

「………おいっ!死ぬな……待ってろ、今、止血を……」
「やはは……無理、だよ。血が、足りなすぎるから……君の、傷は、あの子が、処置してくれたんだよ」

何があったのかは岡部には分からない。
ただ一つ言えるのは、彼が気絶している間にここで一つの殺し合いがあったこと。闇口崩子はその果てに、岡部を助ける選択をしたこと。

結論、岡部倫太郎の生命は一人の少女の命と引き替えに救われた。

「……最後に、おね、がい」
「………何だ」
「君が、私を、殺して。私を、終わらせて―――」

儚い願いだった。
きっと三枝葉留佳は、岡部が殺し合いに乗っていると気付いていたのだろう。その上で、彼を助けた。自分の命よりも、殺人者の命を優先した。

岡部はデイバックからジグザウアーH226を取り出し、弾を一発だけ、装填した。すぐに、彼女の願いを叶えてやるために。
安全装置を外し、発砲できる状態にする。
即死させる。

そのために、葉留佳の額の真ん中に銃口を当てた。
後は引き金を引くだけで、儚い消えかけの命は失われる。
人差し指に意を決して力を込める。最期に、葉留佳はこう紡いだ。


「――――――がんばれ、かなた」


乾いた破裂音と、一人の男の叫びが木霊した。
家系に翻弄され、疲弊しきり、死を望んだ少女、三枝葉留佳。
彼女は、ようやくすべての鎖から解き放たれた。
最期に想ったのは愛しい仲間たちのことか、それとも。



敵対していた、けれどどこか心配な、姉のことか。




【三枝葉留佳@リトルバスターズ!】  死亡
【残り140/148人】


【深夜/B-6】
【岡部倫太郎@STEINS;GATE】
[状態]胸に切り傷(処置済)、悲しみ
[所持品]ジグザウアーH226@現実、無銘@戯言シリーズ
[思考・行動]
0:殺し合いを勝ち抜き、殺し合いをなかったことにする
1:くそっ――――――――。
2:紅莉栖たちには会いたくない。
3:闇口崩子にとりあえずは警戒しておく。
※『境界面上のシュタインズゲート』前からの参加です


闇口崩子は、血に汚れたナイフをデイバックにしまった。
殺した。殺人の経験は無かったが、思ったより来るものがある。
まさか、刺された直後に殺人者の処置を乞われるとは思わなかった。
慣れない処置だったが、とりあえずは大丈夫の筈だ。

ついこの前『壊された』ばかりの彼女の心に、このバトルロワイアルは彼女の把握するより遙かに大きな負荷をかけている。何時、また壊れるかは分からない。
しかし不幸にも。B-6エリアには、最悪の男がいる。
人を壊し、人の悲しみや呪詛の声を糧とする自覚した破綻者が。

『神父』言峰綺礼と、闇口崩子が遭遇するまで、遠くない。

【闇口崩子@戯言シリーズ】
[状態]健康、心に負荷
[所持品]式のナイフ@空の境界、ルシファーの杭@うみねこのなく頃に
[思考・行動]
0:戯言遣いのお兄ちゃんを守る。
1:お兄ちゃんに危害を加えそうな人物、邪魔な人物は殺す
2:岡部倫太郎は次に会ったら殺す
※『ネコソギラジカル』、いーちゃんが見舞いに来た後からの参加です
※無自覚ながら殺人行為がストレスとして蓄積しています、何時再び壊れるかは分かりません

※言峰綺礼が接近しています

走り出した想いは何時までも―――― 投下順 [[]]
GAME START 三枝葉留佳 GAME OVER
GAME START 岡部倫太郎 [[]]
GAME START 闇口崩子 [[]]

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最終更新:2011年10月30日 20:50
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