音無結弦。
死人。
死因は事故による怪我と過労。
最期にドナーカードを遺し、多くの人命を事実上救った。
死後の世界におけるイレギュラー。
長らく続いてきた生ける死者たちの集団を終わらせた。
様々な者を救って、最後に彼が消えた。
―――――目を開けたら、悪夢(コロシアイ)だった。
□
「畜生………!!一体どうなってんだよ………!?」
苛立たしげに地面を蹴りつけた。靴が泥で汚れたが、気にしていられない。
有り得ない。こんなこと、有り得る筈がない――――!!
音無は死後の世界に来てから暫く記憶が戻らなかった。………もしかすると、催眠術による援助が無かったら記憶はずっと戻らなかったのかもしれない。
だが、今は記憶がある。生前どころか『死後』のものさえ。
これが意味するのは、自分たちは成仏しきれていなかったということ。
――――――――否。
『成仏などしていなかった』ということになる。
此こそが神様の試練とでもいうのか?だとしたら最悪の趣向だった。
仮にそうだとしても尚疑問が残る。あの時成仏したのは自分を含めて五人。だが、
殺し合いに呼ばれているのは三人だ。ゆりと奏、そして音無結弦の三人。
あの時。
『卒業』した時に居た二人――――日向英樹と直井文人は、どうした?
あの二人だけはこのふざけた催しを回避できたというのか?
だとしたら越した事はない。
こんなもの、避けて通るに越した事はないから――――だが。
音無の視線は、とある名前に釘付けになっていた。
顔写真も載っている。銀髪に、雪のように白く穏やかな顔つき。
音無が死後の世界に遺した、たった一つの未練。
「……………奏」
立華奏。
最初は音無が属していた『戦線』の敵、『天使』と呼ばれていた少女。
不思議な雰囲気を醸し、意外と素直で天然な
生徒会長。
そして―――――音無結弦の心臓に救われた、少女。
音無は奏を愛していた。奏も音無を愛していた。けれど、終わった。
成仏。世界からの卒業という形で、二人の恋物語は終わりを告げた。
しかし今、奏の名前はここにある。
守りたいなんて大層な目的ではなく、ただ会いたかった。
「………情けねえ面で、あいつには会いたくねえよな」
薄い笑みさえ浮かべて、音無結弦は清々しい星空を見上げた。
自分は立華奏を愛している。
だから、彼女を守れるような強い男になって奏の前に立つ。
その為に音無は立ち上がった。
怖くはない。
―――――もう何も怖くない。
■
「…………はぁ?」
音無は思わず素っ頓狂な声を漏らしていた。
目の前で繰り広げられている余りにも現実離れした光景に思わず声を漏らした。
正確には、つい最近まで見ていた光景だったのだが。
死後の世界で繰り広げられている戦いとこの世界は全く違うのだ。何しろ殺し合いなどという悪辣な趣向の催しにおいて、こうも早く戦いが始まっているとは思わなかった。
眼鏡にライダースーツの女性と、黒髪で瞳の光彩が消えた少女が銃撃戦を行っている。技術的には前者が勝っているのだが、殺し合いの立ち回り―――隠れる・避けるを心得ているのは後者だった。丁寧かつ正確な射撃と、安全かつ堅実な戦い方。
二人の戦いはまさに拮抗している。
音無はバックから一本のサバイバルナイフを取り出す。ナイフを扱った経験など戦線に居た頃でも少ないから不安ではあったが、牽制くらいには使えるかもしれない。
どちらか殺し合いに否定的な方につく。
どちらも乗っているなら、奇策を使ってでも戦いを止めてやる!
「―――――おい、待てよ!!」
夜の空間に、彼の声はよく通った。
二人の動きが止まる。しかし音無は、眼鏡の女を見た。
口だけを動かして、何かを呟いたように見える。
その顔には、僅かに悲しみの色が貼り付けられていた。
次の瞬間、破裂音がした。
音無の頬を熱い何かが掠めていき、一筋の紅い滴を垂らさせる。
少女が発砲した。そう気付いた時には、眼鏡の女が少女に発砲していた。
音無は状況から見て少女の方が危険と判断し、眼鏡女の援護に回る。
殺しても死にはしない。自分たちはとっくに死んだ身なのだから。
逆もまた然りだったが、やはり自殺志願する気にはなれない。
とりあえずこのふざけた催しを止めるために、その一貫として殺し合いに乗った者たちを止めていく。それが音無の決定した殺し合いでの在り方だった。
そこに致命的な誤認識があることにも、彼は全く気付かないままに。
ナイフ片手に、少女を牽制するように動く音無。
眼鏡女が少女に向けて何度目か分からない発砲をし、少女が倒れる。
殺したらしい―――――二人は同時に認識した。音無は同時に、自分たちが皆死者というのに、人を殺すことへの罪悪感が払拭出来ないことに苛立ちに似た感情を覚えた。
自分は甘い。そう分かっているのに、この殺しが正当化できない。
音無は、大きな間違いを二つ犯している。
まず、このバトルロワイアルにおいて『死者』は生き返らないということ。
そして、もう一つ―――――少女が死んでいるという誤認識。
それに気付く間もなく。
戦場に渇いた音が響き、音無の体が真後ろに倒れた。
少女が、走り去る。
その姿を追わずに眼鏡女が音無に駆け寄り―――――暗転した。
□
SERN。
世界最大手の研究機関にして、数多の機密を持つ闇に満ちた組織。
具体的に言うなら、不完全なタイムマシンを用いた実験を行い、その果てに幾人もの死者を出して。死者が出たこともタイムマシンのことも全て秘匿している。
やがて世界線によっては世界を支配することになるのだが、それは別の話。
桐生萌郁、彼女はその中でも危険なグループに属している。『ラウンダー』ーーー諜報から暗殺戦闘、挙げ句の末路は使い捨てというまさに危険極まりないグループだ。
彼女はつい最近、全てを知った。
自分の敬愛する上司の正体も、別世界線で犯した許されざる罪も。
敬愛していた
『FB』天王寺裕吾は死んだ。
自分も彼の娘に刺されてきっと、死んだのだろう。
しかし、桐生萌郁は確かに此処にいる。
罪を滅ぼしたいと彼女は思った。大切な仲間たちを裏切った罪を。
罪は赦された。だからこれからは、やり直す時だ。
しかし、殺し合いに乗った少女と戦った時には、迷わなかった。
殺さないように配慮していたが、本気で撃ったものもあった筈だ。
変わりたい。人殺しを許容する『ラウンダー』から。
そんな儚い理想を胸に抱きながら、萌郁は撃たれた青年を手当てする。
相手が丁寧な射撃をすることができなかったことは幸いだった。
傷は腹に着弾していて、出血も多いがまだ何とかなりそうである。
即死さえしていなければ手段はある―――未来の道具で、助けられる。
萌郁はデイバックから奇妙なカバンを取り出した。『お医者さんカバン』という道具で、ある程度の傷なら治してくれるという非常に便利な代物である。三回使うと壊れるなんて制限が存在するようだが、それだけあればかなり生存率が上がるだろう。
後は治療の成功を願うだけ。桐生萌郁は、一つため息を漏らした。
―――バトルロワイアル。殺し合い。
萌郁の頭の中でこの二つのワードが反響する。
勝とう。
主催者たちに勝とう―――と、桐生萌郁は小さく呟いた。
【深夜/D-1】
【桐生萌郁@STEINS;GATE】
[状態]健康、強い決意
[所持品]FA-MAS@現実、お医者さんカバン(残り二回)@ドラえもん
[思考・行動]
0:主催者たちに勝ち、罪を滅ぼす。
1:男の子(音無)を保護する。
2:岡部くんたちにも会っておきたい、会ってもう一度謝りたい。
3:『FB』は………。
※天王寺綯に刺された後、死亡直前からの参加です
【音無結弦@Angel Beats!】
[状態]腹に銃創(治癒中)、出血(中)
[所持品]舞弥のナイフ@Fate/Zero
[思考・行動]
0:奏を守れるくらい強くなってこの殺し合いを終わらせる。
1:………。
2:皆死んでるん……だよな?
※『成仏』直後からの参加です
※此処が死後の世界という認識に僅かな疑問を抱いています
◇
追跡がないことを確認して、少女―――青木百合は木にもたれ掛かった。
荒い息を整えて、粘つく唾液を飲み込む。
襲撃には成功した。結果的に一人、傷を負わせられたのだから。
手に持った銃、Stg44を黙って見つめ、一息吐く。
彼女はバトルロワイアルを一度運営した。最期はある男に殺害されたが、今彼女はこうして此処に居る。誰が何の目的でそんな事をしたのかは分からないが、素直に彼女は自分を蘇生した『誰か』に感謝していた。もう一度、最愛の人を蘇らせるチャンスを得られたのだから。
青木林。『
DOLバトルロワイアル2nd』にて命を落とした百合の兄。
彼を生き返らせるために、彼女は殺し合いの主催者にまでなった。
そんな彼女の目的など考えるまでもなく、優勝だ。
青木林を蘇生させるために、殺して殺して殺し尽くす覚悟が彼女にはある。
口元が歪む。粘ついた涎が口内で糸を引くのも気にせずに彼女は笑った。
狂った少女、青木百合。
彼女に対する救いは果たして、訪れるのだろうか。
【青木百合@非リレー型バトルロワイアル・リピーター】
[状態]健康、精神汚染(大)
[所持品]Stg44@現実
[思考・行動]
0:優勝してお兄ちゃんを生き返らせる。
1:目に付いた参加者は殺す。
※DOLオリロワ、死亡後からの参加です
最終更新:2011年12月12日 14:15