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暗闇

 そこは暗いという言葉が一番似つかわしかった。
 目を覆うのは黒。純粋な黒。それが暗いというものの最高潮だ。
 やがてそれは下降し、ほんのりと何かが見える。多くの者は目が慣れたころだ。
 塔のようにそびえ立つ何かに多くの人間が取り巻いている。その様子は万博で太陽の塔に群がっている観客のように見えた。
 一体、何だ。あれは何だ。というか周りの者は誰だ。ここは何処だ。なぜ暗いんだ。いや、
 なぜ自分はここにいるんだ?
 その答えを知る者は明かりの先にいる。バッと閃光が彼らの目の中へ入り込んだ。
 現れた塔に皆は驚愕する。
 まずは頭部。骸骨とも面ともつかない白いものが顔であり、髪型はウニのような白いオールバック。ナポレオンが着てそうな服。どう見ても人間ではない。
 またもう一人も人間なのだろうか。褐色系の肌に白いロング。小柄な体で愛嬌のある顔。露出度が高い服であった。
 その少女は口を開く。
「貴様らには殺し合いをしてもらうのじゃ」
 まったく合わない言葉である。そのギャップが多くの者を戦慄させる。
 彼女はそれが狙いではなかったのだろう。何も気にせず、笑顔で話を進めた。
「ではルールを説明するぞ。
 一つ、最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう。生き残った者にはなんでも願いを叶えてあげよう。
 二つ、貴様らには支給品を与える。全員同じ通常支給品と各々違うランダム支給品じゃ。よく判断して使うがいい。
 三つ」
「待った」
 そこで声が聞こえる。何の躊躇もなく話を遮った。
 女声と思えば女が出てきた。また白い髪だ。浴衣姿だがこんどは学生服のギャンブラーでも出てくるのだろうか。
「おかしいだろ。簡単にポンポンポンポン話を進めてさ。いきなり殺し合いを始めろなんて狂気の沙汰だよ。わけわかんないし、それ以外に納得がいかない人間もいるんじゃないかなあ」
 もっともだ。まず目の前の化け物達の素性もわからないのだから、多くの者はこの意見に賛同する。もっとも
「僕から見ればお前らも平等にカスなんだから」
 これ以外は。しかし殺し合いをしようなんて考える者には頭のおかしい者をぶつけるのが一番なのかもしれない。
 その言葉が聞こえるな否や、弾くような音が聞こえる。大男の指パッチンだ。
 すると侍が三人現れる。さっきまで何もなかった所にだ。どうみても侍、三船敏郎に似ているといえば似ている。
 三人は日本刀を抜き、刃先を女に向けていた。構図はシュールである。
「殺せ」
 大男の命令に従い、三人は女に向かう。攻撃範囲に近づくと日本刀を振りかぶった。それぐらい淡々としたものであった。
 そして淡々と女は姿を消した。彼女は侍三人の後ろにいる。いきなりだ。瞬間移動でもしたのだろうか。
 すると侍三人は宙に上がる。そして次の瞬間、爆発した。
「汚ねえ花火だ」
 女は呟く。汚いというよりグロい。腸も心臓も眼も金玉も肝臓も肺も腎臓も全てが拡散し、何人かは吐いたほどだ。
「女、強いようだな」
「ああ、ベジータ並みだよ。もっともベジータより僕はピッコロ派だけどね」
 わけがわからない。ただわかるのは女の周りに汚い死体が拡散していることだけである。
「お前がいるとバランスが崩れるな。死ね」
 その瞬間、女の首が飛んだ。
 死体が増える。先ほどのインパクトほどではないが、あっけなく、爆発音のような音と共に首が飛んだ。
「三つ、お前らの首には爆弾付きの首輪を括り付けている。さっきの女のようにボン、だ。脱出なぞ考えないことだな」
 皆は首元に目を向ける。そこには意外にも軽いのだが、逆に言うとこんな軽いもので人が死ぬのである。
「それでは健闘を祈る」
 そう言われても困るとしか言いようがなかった。恐怖よりも意味がわからない。
 目覚めたら謎の空間にいて、化け物が表れて、殺し合いをしろと言われて、強い女が死んで。
 全てが唐突。荒唐無稽。
 だがこの殺し合いは荒唐無稽に唐突に人が死ぬ。その前触れでもあったのだろう。


 参加者の移動が完了すると、少女ことムルムルはトウモロコシを手に出した。食べながら巨人、デウス・エクス・マキナに話しかける。
「これでお前は神を決めるのじゃな」
「ああ。何か悪いか?」
「いや悪くはないじゃろう。十二人から五十八人に増えたのだから、よりいい人材が出てくるじゃろう。競争も増えるしな」
「そう、フラスコだ。多くの物質から一つに絞るフラスコの役割だ。それでこそ神の座を着くにふさわしい」
 時空王は後ろを振り向く。
「なあ、これがフラスコ計画というやつか? 安心院なじみよ」
 そこには先ほど首を飛ばされて死んだはずの女がいた。だが生きているのはもっともである。
 1京2858兆519億6763万3865個のスキルを持つ彼女が死んだ因果を逆にするスキル「手のひら孵し(ハンドレッド・ガントレット)」を持っているのだから。
「ああ。しかし上手いもんだね。あれで黒神めだかも死ぬ可能性がある」
 彼女は宙へ浮く。時空王の眼前に迫ると話を進めた。
「なぜならこれは群像劇だ。群像劇には脇役はいても主人公はいない、そう全員が脇役だ。主人公補正を引くのは彼女と言えども難しいだろうね」
「私にはお前の言っていることがよくわからないがな」
 時空王の言葉に彼女は「ほう」と感心したように言う。
「だけどお前も脇役と一緒だぜ。特に僕から見ればお前が神であってもカスなんだから」
 これは本当。演技をするには若干の真実を混ぜた方が効果的なのである。
「では仮にお前の言う主人公と脇役の関係があったとしよう。だが主人公が死ぬ場合というのはこの世にいくつもあるだろう?」
「そんなのジャンプ的じゃないだろ。まあ、ここでは誰が死ぬかわからない登場人物だけどさ」
 会話は続く。意味深で超越的。
 だがその通りとも言えよう。突き詰めればこの世の主人公は全員である。なぜなら人生の主人公は自分しかいないのだから結果的にそうなる。
 それが殺し合いをするだけなのだから。
(なんだかよくわからんのう)
 もっともよく理解をしていない、いやしようとしていない者もいるのだが。

 こうして始まる殺し合い。
 誰が死に、誰が生き、誰が嘆き、誰が苦しむのか。
 それはまだ誰にもわからない。全ては暗闇の中である。

時系列順 夜の街

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最終更新:2011年12月26日 18:18
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