狂っている。とりあえずその一言に尽きた。
「ふざけんなよ、あの野郎……っ」
思わず呟いた。野郎じゃないと言うことは、まあとりあえず気にしないでおく。
なにより先に気にしなければならないことがあるからだ。双子の弟である琴。盲目である琴に、多分あのバカみたいなルールを生き延びられる確率は殆ど無いだろう。
俺にだって殆どないが、一人でいるよりはきっと平気に違いない。
琴には、自分の身に何かが起こったとき口笛を吹く癖があった。ぴゅーっというその音は、勿論俺に助けを求めているわけではない。寧ろ、琴は盲目を理由に贔屓されることを嫌っていた。
例えば雨が降っていると気付いたとき、例えば猫の鳴き声を聞いたとき、琴はただ単純に「何かに気付いたこと」を音に乗せるのだ。まあ、さっきは流石に自重してたみたいだけど。
だけど俺は、その音を頼りに、ふらりといなくなる琴を探していた。ああ、口笛が届く距離に琴がいるんだと思うと、すごく安心できたんだ。
今、俺の耳に口笛は届いていない。遠くにいるからか、あえて口笛を吹いてないからか、それとも口笛を吹ける心境じゃないからか。
まあ、俺の頭を容赦なく叩きやがったし(まだ痛いぞ、あの野郎)、あの口調からすれば、多分最後のはない、かな。
強がっただけかもだけど。ならば、遠くにいるか、あえて吹かないか、だ。
俺らにはもう一人兄さんがいるけど、名簿を見る限りその人の名前は無い。
さて、どうしようか、とりあえず学校前にいるのはまずいかな、と思っていたところで、茂みの中から女の子の泣き声がしていることに気づいた。
怯えているのだろう、声を殺したそれは、とても悲痛だった。
一瞬聞かなかったことにしようかとも思う。だって俺は出会った子を片端から助けていけるほどの実力もないし、お人好しでも無いんだから。
だけど。
「蘭お兄ちゃん……っ」
少女の声が紡いだ音は、確かに「お兄ちゃん」と言った。「ラン」とは兄の名前だろうか(女性的な名前だが、気にしないことにする)。
彼女は兄とわかれてしまったのだろう。そんな彼女と琴が一瞬重なった。いや琴はこんなめそめそした性格じゃないんだけど。
「ねぇ、そこの子」
茂みの中に潜っていくと、セーラー服姿の女の子がうずくまって泣いていた。
……この子、見るからに小学生だよな……?
呼びかけると女の子はびくりと大げさなほどに肩を跳ねさせ、顔を上げてこちらを見た。
人に会えた安心と人に会ってしまった恐怖がが顔に滲んでいる。……隠れてるつもりだったんだろうけど、ちょっと鋭い奴にはすぐバレるレベルだったと思うぞ。
「お兄ちゃん……一人?」
女の子の声。やっぱりすごい怯えてるみたいだ。
「うん、そうだよ」
安心させようかと思って近づいたら、逆に後ずさられた。うーん、やっぱ難しいよな、こういうの。
「あ、大丈夫だよ。俺、さっきの話に乗るつもりないし」
というかこの子はバトルロワイアルのルールを理解できているのか(俺だって覚えてるか怪しいぞ)?
だけどとりあえずこの子が、「本当?」と可愛らしく首を傾げてくるので、ぶんぶんと首を縦に振って答えた。と、彼女はすこし安心したような顔をする。
「鈴は、鈴はね、立花鈴っていうの」
「へえ、リンって、どんな字なのかな」
「ちりんちりん鳴る鈴の「りん」だよ!」
「そっか、良い名前だね。俺は浅井想。「浅い」、井戸の「井」に、思想の「想」。あ、井戸ってわかる?」
「お兄ちゃんも良い名前だね。「井」はね、鈴のお兄ちゃんの、お友達の家にあるお井戸の「井」の字と同じだよ」
……君の兄貴の友達はどんな日本家屋に住んでいるんだい? ……まあいっか。
少女……鈴ちゃんは、すこし会話すれば先ほどよりは大分安心したようで、涙は乾いて笑顔を作っていた。
……可愛いんだけど、こんな場面弟に見られたら、二ヶ月は「ロリコン」ってからかわれるな。…………二ヶ月? そこまで生きられたらいいんだけど。
さて。ここで鈴ちゃんに協力をお願いしてみたいと思う。唐突だって? 俺だって今考えたんだからしょうがないだろ。
「ねえ、鈴ちゃん」
「ん、なあに?」
「鈴ちゃん、お兄さんがいるんだよね?」
「え、何で知ってるの?」
「……さっき鈴ちゃんが呟いてたから」
盗み聞きだと思ったなら謝ります、ごめんなさい。
と、思っていたのだが、鈴ちゃんはといえばちょっと恥らったかのような表情をしてから、こくりと頷いた。
「えっとね、お花の「蘭」で「らん」お兄ちゃんって言うんだけどね」
「うん」
知ってる。
「お兄ちゃん、多分さっきの教室にいたの。だからね、探したいの」
やっぱりか。
「そうだよね。俺も弟がいるんだけど、やっぱり兄弟が見つかると安心するよね。……だからさ」
「だから?」
「一緒に探さない? 二人いたら探せそうな気もするし」
……というか、この子をここにおいとくと危ないから、って意味もあるんだけど。
鈴ちゃんは、提案を聞いてすぐ力強く頷いた。
「うん! お兄ちゃんの弟さんも一緒に探そうね」
「ありがと、嬉しい」
「お兄ちゃんの弟さんは、何てお名前なの?」
「楽器の「琴」でそのまま「こと」って読むんだ」
「王が二つ、その下に今って言う字の「こと」は、「きん」じゃないの?」
「よく知ってるね」
……あれ、この子案外頭良い? 年にしてはの話だけど。
「それで、その琴はさ、目が見えないんだ。だからはやくみつけてあげないと」
「あ……危ないものね」
「……そうだね」
鈴ちゃんは言葉を濁した。それはそうだ。殺す、なんて簡単に言える言葉じゃない。
とりあえずここにいては危ないと、彼女の手を引いて立ち上がらせる。
「荷物もって。ここにいたら危ないからさ、とりあえずどっかにいこう」
「あの……想お兄ちゃん」
控えめな鈴ちゃんの声。何かと聞けば、荷物が重いらしい。デイパックを持って固まっている。
「重いの? 持ってあげようか」
問えば、いかにも申し訳なさそうに荷物を渡してきた。渡されつつ思う。
二キロ半といえばランドセルに教科書突っ込んだ程度じゃないか? 相当力が弱いのだろうか。
まあいいや、重いなら無理させることも無い。俺が持ってもそんなに辛くないし。
「重いというよりはね、大きくてもてないの」
「ああ、なるほど」
そういえばこのデイパックは鈴ちゃんの胴ほどもある。なるほど、肩に下げるには大きすぎるんだ。
だから俺が両肩に下げてみたんだけど、なんか無駄にシュールで気持ちが悪い格好になったので(しかもちょっと動きにくい)ちょっと対策を練らねばと思う。
「お兄ちゃん、重いの?」
「いや、そうじゃなくて。俺が全部持つことにかわりはないんだけど……あ」
そうだよ、このデイパック化け物なんだった。五キロを二キロ半に出来る上に、サイズも半分に出来る方法があるじゃんか。
「うん、ちょっとごめんね」
鈴ちゃんのデイパックをあけて、中身を見る。とりあえず、なんか危ない人がいたときように、武器だけでも出しとこうと思うんだ。
がばりとチャックをあけて出てきたランダムアイテムは……えっと、なにこれ、銃じゃねえか(ついでにこのタイミングで俺のデイパックの中身もはじめてみたんだけど、武器は小刀だった)。
とりあえず鈴ちゃんの武器のほうが使えそうだったから、これを外に出し、鈴ちゃんのデイパックを俺のデイパックの中にしまう。
そんで銃をその次にしまって、俺のデイパックをしめた。そんで持ち上げてみる。
「……本当だ」
重さはさっきと変わらない。ついでに形状も変わらない。……これって例えば鈴ちゃん入れても重さかわんないの? いや、やらないけどさ。
とりあえずは当初の目的どおり、この茂みの中からでることにする。できるだけこの学校から離れて、且つ安全なところを見つけて、琴と蘭さんを見つける。……なるべく生きてる状態で。
【6-D/学校付近の茂み/1日目-午前】
【浅井想@盲目の唄】
[状態]:健康
[装備]:???
[持物]:基本支給品×2(自分のもの、鈴のもの。自分のデイパックに突っ込んで所持)
[方針/目的]
基本方針: できれば琴とともに脱出する。さらにできれば鈴と蘭も一緒に。死にたくない。
1:琴を捜索
2:鈴を守りつつ行動。蘭も捜索
3: 殺したくないけど殺されたくない。いざとなったら……
[備考]
現時点では鈴より琴優先です
【6-D/学校付近の茂み/1日目-午前】
【立花鈴@亡國ノ村】
[状態]:健康
[装備]:手ぶら
[持物]:手ぶら
[方針/目的]
基本方針:蘭に会う
1:想と共に蘭・琴を捜索
2:蘭合流後は蘭の言うことを聞く
[備考]
想のことは簡単に信じました
最終更新:2012年03月03日 13:40