案外と人は簡単に死ぬものだ。君菊涼はそれを知っているからこそ、今まさに殺人を犯した。
少女は即死だった。涼の姿を見て駆け寄ってきたその少女は、涼の声を聞く前に事切れた。
「ああ、良かった! ここに人がいたのね、私、一人じゃとても不安で……」
これが少女最期の言葉だったが、涼の耳には届いていたかもわからない。
名も知らぬ少女を出会いがしらに殺害した涼の右手には、血塗られた短刀が握られていた。
彼女の口の中に押し込まれていたその短刀を、涼が引き抜いたのはつい先ほどのことだ。
(口ン中つっこむと、案外血がとばねえもんだな)
涼は短刀の血を少女のセーラー服で拭い、それから少女のデイパックを持ってその場を去った。
君菊涼は優勝狙いである。彼には裕という二つはなれた姉がいたが、優勝のためなら彼女をも殺して良いと思っていた。
なぜなら、裕も自分を躊躇なく殺すだろうと思っているからだ。
君菊姉弟最大の願いは、彼らの祖先が造った君菊神社の再興である。
英雄と称えられている君菊宗次朗を現人神として祀ったその神社は、涼が生まれる前こそ多くの信者を集めたが、現在は廃れきっているのだ。
宗次朗の子孫であることを人生最大の誇りとしている君菊姉弟は、彼らの神社に再び多くの信者が集まることを願っていた。
……そして、そのためならどのような犠牲をはらっても良いと思っている。
だから殺すのだ。裕もそう思っているに違いない。もしうまくいったら、自分と裕だけが生き残る展開になる。
そのときは巫女としての裕、覡としての涼、より余力の残っているほうが優勝者になることだろう。
(……つまんねえ支給品だらけだ)
先ほど涼が殺した少女――――アリッサ・エルゼーンのデイパックの中にあった支給品は、基本的な支給品と、スタンガンだった。
(スタンガンじゃ気絶程度しかさせられねえだろ)
はあ、とため息をついた涼は、彼女のデイパックの中から食料だけを取り出して自分のデイパックの中に突っ込んだ。
アリッサ・エルゼーンは上流貴族の少女である。彼女の住む国で「エルゼーン」といえば確実に彼女の家のことを指し、自分がエルゼーンの娘だといえば、殆どの者が頭を下げた。
けれど、そんな彼女に戦える能力などなく、今回のゲームにも恐怖しか抱けなかった。だからアリッサは柚希の「棄権するなら手を上げて」にも従い、挙手をした。
しかし彼女は「見せしめ」に選ばれず、結果としてトラウマとも言える記憶が増えてしまっただけである。
彼女には兄と姉が一人ずついて、彼女は彼らを探そうと思っていた。アリッサとは違い頼れる兄、アリッサとは違い頭脳明晰な姉。彼らといれば、よりはやく脱出できると思ったのだ。
そう、「よりはやく」だ。
アリッサは、こんなおそろしいゲームに乗ったものなど誰もいないと思っていた。自分の命をかけたゲームである。そんな怖いことをできる人などいない、そう思っていた。
彼女は必死に自分が出来ることを考え、そして思いついた。より多く仲間を仲間を集めること。
彼女自身は無自覚であったが、彼女はとても人懐こい性格をしている。だから彼女の周りは殆どいつも人がいて、彼女の周りに笑顔は絶えなかった。
兄や姉にばかり無理はさせられないと、アリッサは彼らを探す道中、なるべく人に会おうとしていた。勿
論、「頭がよさそうだから」「運動が出来そうだから」という理由で選別するわけではなく、会った人全てと「友達」になろうと思っていた。
だって、彼女の無垢な瞳には、殺意など全く見えなかったのだから。
彼女の純粋すぎる性格と、運のなさが招いた結果は上記の通り「刺殺される」という極めて悲惨なものであった。
けれど、涼の誤算が一つ。アリッサの支給品はスタンガンひとつではなかったことだ。もう一つはポケットの中。
参加者探知機だ。
首輪を目印に、参加者をさがす。アリッサはこれを目印に涼を見つけたのだった。
アリッサの身体が地面に崩れると同時にポケットから三分の一ほどはみ出たのだが、涼はそれに気づかなかった。
そして。
涼でもなく、もちろんアリッサでもなく、参加者探知機を拾った者がいた。
「……ご冥福をお祈りいたします」
しゃがんでから小さく呟き、アリッサの見開いた目を閉じさせる少年。名を、西行氷哉という。
彼は彼の師である青年(といっても、外見上の年齢はさほどかわらないのだが)・鬼一樹月の教えに従っただけなのだが、しゃがんだ視点になって、はじめてアリッサのスカートからはみ出した機械に気づいた。
「なにこれ、携帯?」
手にとって初めて気づく。これは自分の首輪に反応していると。
画面に映る無機質な線(周辺五百メートルが映っているようだ)と、赤い丸。この丸が首輪を示しているのだろう。
近くにデイパックが無いので(勿論涼が持っていったからだが、当然氷哉はそれを知らない)、説明書も落ちておらず、詳しい使い方はわからない。
そして。
赤い丸が画面には三つ映っていた。両方とも氷哉を中心とした円の半径三百メートル圏内だ。
(……ま、いじれば使い方はわかるかな)
「拝借しますよ、死ぬまでね」
氷哉はアリッサにそっと頭を下げ、足早にそこを去っていった。
【5-D/茂み/一日目-午前】
【君菊涼@亡國ノ村】
[状態]:健康
[装備]:短刀@支給品
[持物]:基本支給品+アリッサから強奪した食料
[方針/目的]
基本方針:優勝狙い
1:出会ったものは基本的に殺す。が、あからさまに自分の勝てなさそうな相手は観察してから考える
2:なるべく生き残る
【5-D/茂み横の道/1日目-午前】
【西行氷哉@黄昏シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:???
[持物]:基本支給品+アリッサから(死ぬまでという期限付きで)拝借した参加者探知機(映っていた赤い丸は氷哉と涼と???。死んだアリッサの首輪は表示されませんでした)
[方針/目的]
基本方針:???(生き残る気はあるようです)
【アリッサ・エルゼーン@UNKNOWN:死亡】
【残り63名】
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最終更新:2012年02月08日 10:52