―――さて。『計画』の実行にあたり、一度自己を見直してみましょう。
私の名前は時之坂祠。ときのさか、ほこらと読みます。
これでも魔術に精通した者なら知らぬ者はいない、といえるくらいには名の知れた老魔術師でございます。尤も、大半は私の『悪名』が知れ渡っているだけでしょうが。
魔術会イギリス支部爆破。
大魔術師クレメア・クローズレノン暗殺。
高濃度魔力による大地汚染。
十年ほど前には世界最悪の悪人とか言われていましたねえ。
世間一般では数百人の魔術師に潜伏先を叩かれ死亡したことになっている。
しかし時之坂祠は確かに此処に存在している―――まあ、あれは私の最高傑作のコピー人形に過ぎませんでした、ということですね。『錯覚だ』とでも言いましょうか。
私は生き延びました。今は辺鄙な農村で細々と暮らしておりますよ。
――――ま、研究八割、農業二割といったところですが。
私の生涯最悪の大魔術『世界創世(ワールド・クリエイション)』。
その完成の為に、設備を整えるのに三年。
全く困りましたよ。村人が騙されやすい馬鹿でなければもっとかかった。
結果オーライですけどね。
そもそも私が表舞台を退いたのはある事実の為。
禁断の魔術により突き止めた、世界の秘密。
平行世界という言葉がありますね。例えば、道で転んだか転ばないか。ただそれだけの下らない事で世界は分岐する。そういう理論のことですね。
私が突き止めたのは『世界の根本』ですよ。
分岐元の世界は三つある。
『魔術師』の世界。
『超能力者』の世界。
『無能力者』の世界。
こんな事実が明るみに出れば、世界の知識は数百年進むでしょう。
しかし、退屈なお偉いさん共にこの事実を明け渡すなど御免だ。
しかし私が生きている限り私は逃亡しなくてはならない。だから死にました。
時之坂祠の最大の悪行の為に、死んだんです。
私が創るのは第四の世界。
そしてそこに選抜した特殊な者たちを集め、ある遊戯をさせる。
それが終わった時―――『時之坂祠』の人生は最高の形で終わるのです。
私は『第四世界計画』の終焉を以て『神』となる―――。
と、回想は終わる訳です。
「魔術師様。そろそろ定刻です、準備して下さい」
おやおや。時間に厳しい方だ。
この方はエレナ・クルヴィーンさん。
私の呼んだ『駒』の中で唯一意識を取り戻した無能力者の世界の人間。
彼女は神の加護を顕著に受けているのです。
如何なる魔術でも拘束出来なかったので、仕方なく協力者にしたのですが。これがなかなかどうして有能だ。魔術こそ使えないが、仕組みや理論を理解し新たに開発し―――彼女のおかげで、大分『計画』の穴は埋められました。
妹さんが『駒』になるというのに、何も感じない辺りこの計画にお誂え向きだ。
「………お・い・そ・ぎ・く・だ・さ・い」
おっと、彼女を怒らせるのは怖い。
神の加護を受けているだけでなく武道も達者なんですよね。
「はいはい、今行きますよ」
じゃあ、始めますか。
最低最悪最高最良最上の、バトルロワイアルを。
□ □ ■ ■
――――駒よ目覚めよ――――
――――ただし、口を開くことは許さない――――
ぱっ、と。30体の『駒』達が一斉に意識を覚醒させた。
魔術師様の『暗示魔術』のせいで声は出せないようだが。
私も魔術師様みたいに回想したいけど、開会の儀式を終えてからにしよう。
きょろきょろと辺りを見回す者、隣の人に寄り添う者。
ああ、か弱い女の子を殺意たっぷりの目で睨まないで欲しいな。
「お忙しい中お呼び立てしてしまい申し訳有りません。私は時之坂祠と云う者です。まあ――御存知の方は十名ほどいらっしゃるのではないですかな?」
あ。あからさまに驚きやら恐怖やら見せる人が確かに居る。面白ーい。
さすが、『第二世界最悪の男』の通り名は伊達じゃないみたいだねっ。
おっと、説明役は私だった。
「皆様、計30人の方々をお集めしたことには理由が御座います」
安心させて、その後一気に絶望の底に叩き落とす為にこの台詞は必須です、なんて魔術師様は言っていましたが、どうも魔術師様の名前を聞いた人たちの反応を見た他世界の人たちは既に私達が絶対的な悪だと理解してしまったようで意味はなさそうですね。
ごくり、と唾を飲み込む音が幾つか聞こえました。
「………今日は皆様に、とある『ゲーム』を行って頂きます。内容は簡単。最後の一人になるまで『どんな手段を使ってでも生き抜く』こと―――平たく言えば
殺し合いですね」
絶望が空間を支配した。
魔術師様に聞いたよりは味気ないものだね、人間の絶望に満ちた顔。
ってうわ、魔術師様が恍惚の笑みを浮かべてらっしゃる。きめえ(笑)
おや、私の妹も絶望してるみたいだね。
私が主催側だと知ったショックの方が大きいみたいだけど。
「制限時間などは御座いません。しかし、12時間の間一人も脱落者―――死者が出なかった場合は」
―――碑文ヶ谷遊星の声帯閉塞を解除―――
―――速やかに起立し、時之坂祠の隣まで来い―――
―――ただし、一切の反抗的行為は認めない――
―――また、『 』以外の発声を禁ず―――
暗示魔術が碑文ヶ谷遊星君にかけられる。
起立。不満そうな表情を顔にありありと表しながらも魔術師様の隣に立つ。―――正しくは『立たされる』か。魔術師様はにやにやと下卑た笑みを浮かべている。
まあ、この人からすれば『そそる』シチュエーションなのか。
本当に、狂ってる。
「12時間の間一人も死者が出なかった場合、そして我々の定めた区域から脱走した場合―――貴方方の体は、ざっとこんな風になります」
―――自動暗示起動―――
―――碑文ヶ谷遊星、速やかに生命活動を停止しろ―――
魔術師様の暗示の一つ。
いわば『決められた行動を取ると発動する』暗示魔術だよー。
まあこんな事が出来る魔術師なんて、現代には彼を含めざっと四人しか居ない。
暗示というものは難解な魔術だから、相当な使い手でないと使えない。
おっと、遊星くんの眼球が破裂した。
「ぎゃああああああああああああああああがあああああっ!?」
次に手足。
ぶちぶちと嫌な音がして手足が乱暴に引き千切られる。
もう五臓六腑は滅茶苦茶に悲惨なことになっているんだろう。
口から濁流のように血を流しながら、声にならない叫びをあげる遊星くん。
ああ、これは面白いな。
最期の時には胸元が大きく陥没して、呆気なくその生命を終わらせた。
痙攣が完全に止まり、碑文ヶ谷遊星くんは絶命したようだ。
「とまあこんな風に、我々の禁止した行為を行うと地獄を見ます」
自分でも驚くほど淡泊に、私は青ざめる駒たちに告げていました。
さて、後一つ適当に説明したら終わりだ。
ルールの説明をここで行ったところで、ヒトの記憶力が順応出来るか分からない分時間の浪費でしかない。魔術師様の魔術を使って、開幕セレモニー後に記憶に強引にねじ込む。
だから説明は後一つ。
「何も見返りなしで
命を賭けろとは言いません。見事勝者となった方には」
「我々に不利益が生じない範囲で、一つだけ願いを叶えましょう」
―――意識を断絶―――
―――指示があるまで覚醒を禁ず―――
暗示がかかる。
さて、面倒なセレモニーはおしまい。
私も回想でもしようかな。
後はお願いしますね、魔術師様。
□ ■ □ ■
私は教会に生まれた。
双子の姉として、相当に両親から溺愛されていた記憶がある。
虐待紛いの教育を受ける妹を慰めながら、内心見下していた。
そう―――私は神に愛されていながら、冒涜に塗れていたのだ。
神は信じていたけれど畏敬の念なんて抱いたことはなかった。
父や母、街の人々に持て囃されながらも陰で虫を潰しているような子。
私は幼くして狂っていたんだと思う。
そんなある日、家族で海外旅行をする予定が立った。その頃も妹は虐待紛いの躾を受けていたが、街の人々にそれを悟られまいと連れていくことにしたらしい。
飛行機は私と両親がファーストクラスで妹はエコノミー。
それで、私達の飛行機は墜ちた。
エンジンの整備が不十分で海に真っ逆様。
乗客は私以外全員溺死、私だけは近くにあったバカンス用浮き輪に捕まって助かった。
私は故郷に帰った時『可哀想に』と言われた。
妹は故郷に帰った時『何故あなたが助かったの』と陰口を叩かれた。
私は恵まれて。
妹は疎まれた。
なのに泣き顔一つ見せないあの子が私は嫌いだった。
たったそれだけ。
魔術師様に協力した理由はそれだけ。
トルタ・クルヴィーンを絶望させ、悲惨に死なせる。
妹を殺す為に、それを嘲笑する為に―――バトルロワイアルを行う。
ああ、楽しみだ。
後、私の人格は収支安定しない。それが悩みだ。
【厨二オリキャラでバトルロワイアル 開幕】
【時之坂祠(ときのさか-ほこら)】
75歳の老人。今回の殺し合いの主催者であり発案者。
『第一世界』の人間で『世界最悪』『人類の良点であり汚点』と呼ばれている。人の不幸と絶望を愛し恍惚する異常者。後は本文参照。
【エレナ・クルヴィーン】
17歳の少女。今回の殺し合いの主催者。
『第三世界』の人間で『神に愛された少女』。圧倒的な幸運を持ち、如何なる魔術や超能力も受け付けない。彼女の弱点はむしろ物理攻撃である。
妹のトルタ・クルヴィーンの破滅を強く望む異常者。
人格が安定せず、普段は隠している。
最終更新:2011年12月26日 10:00