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無邪気【キョウキ】

なんて、滑稽なお話。
箱の中に捕らえた虫たちに殺し合いをさせるなんて、まるで某呪術だよね。
まいかは人殺しなんて御免だよ、そんなことしたら警察に捕まっちゃうし。
どんなに酷い目に遭わされたって、人を自分の都合で『殺しちゃう』のはだめ。そんなことする人はもう人じゃなくなっちゃうよねえ。そうなっちゃったらおしまいだよ。
人を殺したりしていいのは魔物だけ。
魔物とか妖怪とか、『ひとごろし』をお仕事にしてる子たちはいいの。
食べなきゃ死んじゃうんだから、むしろ殺させてあげないといけない。い~~~~~~~~~っぱい食べて、ながいきするのがお仕事なんだから、邪魔しちゃだめ。
なのに『にほん』の人間さんたちは酷いよ。
桃から生まれた人なんて、鬼さんたちにだって都合があったかもしれなかったのに、突然島にやってきて暴力を振るったりして。人間としてさいてーだよ、ほんと。
この国の人たちは、自分たちのじょーしき外のモノにすっごく冷たい。
自分たちのじょーしきが正しいなんて誰が決めたのか知らないけれど、魔物さんたちからすれば人間さんたちのじょーしきなんてちっとも理解できないんだよ。
自分たちに分からない存在を認めない、哀れ。

自分たちのことしか考えてない、さいてーの差別行為だよ。
だけど自分たちが差別されると怒って言い返すなんて、終わってる。
まあこれは『せかい』の何処にいったって大して変わらないと思うけど。
とにかく!まいかが言いたいことはたった一つ!


自己に陶酔するなよ、無能な豚共が。


―――――ありゃりゃ。
『うにゃー』が代わりに言っちゃったよ。言葉がきついんだから……
ごめんね。うにゃーはまいか以外の人間さんがだいっ嫌いなんだ。
え?ああ、うにゃーはまいかのたった一人のお友達だよ。生まれてから十二年の間、ずっといっしょにいる大切なお友達。乱暴な言葉遣いだけどとっても優しいんだよ?
本当のお名前は教えてくれないから、見た目からで『うにゃー』。
おかーさんとおとーさんはうにゃーとまいかを長い間檻の中に閉じこめてた。うにゃーのことが嫌いなのかなあ、こんなに優しくていい子なのに。
まいかからしたらおかーさんたちの方が怖いし、気持ち悪いけどなー。
だから、バチが当たったんだよね。
神様は、うにゃーとまいかを助けてくれたんだ。おかーさんたちからね。



―――あれ、うにゃーおなか空いちゃったの?






12歳という年齢で、130cmにも満たない身長は余りにも小さすぎる。
バトルロワイアルという極限状況において、彼女が纏っている雰囲気はあまりにも無防備――――それは傍から見れば『状況を把握できない無垢な幼女』にしか見えなかったろう。
しかし、それは一部間違っている。

日本人らしい黒髪が膝の裏辺りまで伸びていて、服は埃や泥で煤けた洋服を着ている。幼い頃より監禁に等しい生活を送ってきた中、入浴の権利こそ与えられていたが、まともな衣服など用意してはもらえなかったようだ。
瞳の色はごく一般的な茶色で、髪の毛はきちんと手入れが為されている。
が。その華奢で小さな身体には水色の太い『何か』が絡み付いていた。
質感はスライムのそれで、数本近くの空間から突き出て蠢いている。
見た目はとても綺麗であったが、原理不明のそれは見る者を戦慄させるだろう。
その触手こそが少女―――『璃神妹花』の保有する能力であり、間違いなく15人のサイキッカーで最悪の力。
幼い頃より自他共に『魔物』としてきたそれは、まさに解明不能の力。

人喰らいの触手。
人間に食らいつき、それを喰らって栄養分を得る『超能力』による産物だ。
そして彼女は今、触手の餌を探しに行くと言った。それはつまり、人喰いを意味する。

彼女の価値観は、当の昔に崩れ去っていた。



あー、これは面倒なことになってしまいましたね。
いつも通りに『仕事』をこなした帰りに、よもやこんなことが起きるなんて。
場所を地図で確認するまでもなく、此処は遊園地のようでした。
残念ながら懐に隠していた銃と閃光弾は没収されてしまっているようですね、まあゲームとやらを公平にする為といったところでしょう、余り気にしないことにします。
大体あんなものは元より必要ありませんし。
私には『力』さえあれば他には何も必要ないんですよ、むしろ邪魔なくらい。

右の掌で、空間がテレビの砂嵐画面のように乱れていきます。
やがて現れたのは一本の包丁、全く以ていつも通りの質間が手によく馴染みます。
ふー。ぶっちゃけこれが使えなかったら私なんてただの女子高生ですからね。殺し合いなんて出来ないくらい非力で平凡な女の子になってしまいますから、これは素直にラッキーでした。
だけどちょっとくらいは抑えてると思った。


こんなにも普通で非力な私が闇の業界を渡り歩けるようになるくらいの力なのに、それを普段通りに使わせちゃったら完全な出来レースってもんだと思いますけど。
あの楓坂って人、あんまり頭良くないのかな?

「まあいいですよ。全員地獄送りにしちゃえばいいんでしょ」

包丁を左手からも出して、つまらなそうに私は呟きます。
はっきり言っちゃえば、私はこのゲームとやらに逆らう気はありません。
殺し屋が正義の味方を気取るだなんてばかばかしいことはしたくないし、私のポリシーに反する行動を取ってやる気もこれまたなかったりします。
いつも通りに、目に付いた『標的』を狩る。
たとえ私と同じような能力者が相手でも、ちっとも負ける気はしません。
はっきり言いますが、勝つのは私以外にありえない。
もし私を殺せる可能性があるとすれば―――。

「死神、舞凪。よりによってあのヒーロー気取りが呼ばれてるとはね」

死神一家と言えば、裏の世界ではかなり有名な極道一家。
悪辣な手段や卑怯な罠を張ってくる、とにかく凶暴な性質。
正直私は二度と関わりたくないですね、初めて死ぬかもしれないと思いましたよ。
私は一年前に、死神一家の長を暗殺しました。

仕事自体は成功させたんですがね、帰り道にそこの孫娘に襲撃されまして。
疲れていたので逃げさせて頂きましたが、いやはや厄介な相手でしたよ。
あれは死神というより『狂戦士』ですね。
私たちみたいな『強者』の敵なんでしょうよ。

それでもあいつの語るのは私たち以上にトチ狂った理想論でしたけど。
しかし、私こと魅上礼を阻める者がいるとすれば死神舞凪くらいでしょう。

話を変えましょうかね。
次に、私なりにこのゲームについて考えてみましょう。
楓坂は集めた15人のことを『異常能力者(サイキッカー)』と称しましたが、一体どうやってそんなことを調べ上げたというのでしょう。
私は自分の力を自覚して、その上で仕事に利用していました。
ですが、皆が皆自らの能力を自覚しているとは限らない。本人さえ知らないことを、もしかすればまだ発動したことさえないかもしれない能力のことを、どうやって知り得たのか。
奴もまた異常能力者だと考えるのは容易ですが、それでも分からない。
『能力者を感知する能力』なんて線もあるにはあるけれど、楓坂闇薙の能力は恐らくこの殺し合いの舞台を生み出したような『空間操作』の能力だと思います。


というか殆ど間違いないと思いますね。
このマップを見てみると、エリアの内容が余りにも不自然すぎる。
どうやら此処は小島のようですが、この小ささで遊園地とアミューズメント、神社に商店街が所狭しと配置されている島なんて余りにも非現実的ではないですか。
大体こんな小島にこんな立派な遊園地があることがまずありえないし。
だから、私は割とすぐに楓坂の能力は『空間操作』だと確信したんです。

「でもまぁ。そんなこと分かったからってどうにもならないんですけどねぇ」

そうでした、必要ないことを深く考えてしまうのは私の悪い癖なんですよね。
何人殺しても何人潰しても、私の抱えた黒い感情――――自分すら理解していない、悪に塗れた衝動が消えることがないのと同じく、こんなつまらない癖一つ直せない。
人間って、つまらないものですよ。
どんなに怨念の言葉を吐かれようと、どんな奇策で迎え撃たれようと、人はつまらないというたった一つの認識が私の中から消えたことは未だかつて一度だってありませんし、きっと未来永劫消えることはないのでしょう。
墓場まで持ち帰り、死んだら地獄でまた同じことを考えます。
つまらない救いなんかよりも。
下らない苦しみの方がよっぽどマシってものですよ。


ではそろそろ往きましょうかね。
此処に開くは地獄の扉、落とすのは14人の能力者たち。
最低最悪と呼ばれてから早3年、もはや数えるのが困難なほどの人数を殺してきた殺し屋として、こんな生温い殺し合いを日和ることなど絶対に出来ない。
『悪夢(ナイトメア)』と呼ばれた殺し屋として。

「殺す。絶対に一人も逃がしてやらない、皆殺し決定です、確定です。
 殺し屋は人を殺したっていいんですから。お仕事は、さぼっちゃいけません♪」

あはははははははははっ、と自分でも狂った笑い声をあげてみた。
こうしてると、猫被ることって本当に損だと思えますよね。
ストレスは発散しなきゃ体に悪いです。
だからたまにこうして、私の中の黒い何かの好きにさせてあげてるんですよ。
こうしてあげてると私、今自由なんだーって、とっても気持ちよくなります。
自由って言葉は、とっても良い言葉です。
我慢って言葉は、とっても悪い言葉です。
私は、良い言葉に従えとお父さんから教わってきました。
自由に行動することは良いこと。だから自由に殺してしまいましょう。
神様も、きっと私をベタ誉めでしょうね。



「あはははははははははははははははははははっ。楽しいな、わくわくしますよ。
 自由に、何にも縛られずに人を14人も殺せるなんて!!
 殺し屋として鼻が高いってもんですよ、バトルロワイアルを勝ち抜いたりしたら!」

溢れ出す感情。
ただしその色はきっと血の赤色なんでしょうけどね。
両手には新品同様の光沢を放つ包丁、私の一番信頼する武器。
これが私の能力、『如何なるものでも刺し貫き、切り裂く包丁を生み出す』能力。
その刃は振り下ろされればコンクリートだろうがダイヤモンドだろうが、硬度というものの一切を無視して原子レベルで切断してしまう、構成物質・原理が一切不明の刃。
勿論、人体を切断することなんて朝飯前です。

近くに立っていた鉄柱を斬りつけると、いつも通りにまるで野菜でも斬るように切断されました。
やっぱり最高の切れ味です。いつ見ても惚れ惚れします。
今まで斬った中で一番大きかったのは確か高層ビルだったと思います、まあ当然一振りで完全に斬れるサイズではありませんでしたから、それなりの時間が掛かってしまいましたが。
これなら勝てる、人の体は当然鉄よりも柔らかい。


―――じゃあまずあの小さな女の子を斬ろう。






「―――――――――――はぁ?」

素っ頓狂な声がしました。
しかしそれは私が殺そうとした女の子のものではありませんでした。
私の、魅上礼の口から漏れたものだったのです。

「危ないなー、お姉ちゃん。
 うにゃーが助けてくれなかったらまいか死んじゃってたよ?やっぱり人間さんっていうのは冷たい、醜い生き物だよね。
 でさでさ!今うにゃー………この子がお腹空かせてるの。
 だからさー、ご飯探してるの」
「何ですか………それ……。ありえないでしょ……何で斬れないのよ!?」

私の包丁から腕にかけて、水色のスライムみたいなものが巻き付いています。
確かに刃先は触れている。なのに、このスライムが切断されない。
おかしいですよ。『包丁』は如何なる物質さえ原子レベルで切断するはず。
はず――――なのに。

「お姉ちゃんさ、ご飯になってよ」

戦慄が走る、という言葉の意味を身を持って体感しましたね。
この子は異常です。
その周囲から伸びている触手も勿論そうですが、この子自体も相当な異常者ですよ。
無邪気ほど怖い邪気(モノ)はない――――私の信条だったりするんですけれど。
この子はあまりにも純真で、無邪気な子。
無邪気だからこそ、その行動は邪悪じゃない。
自らの行動が邪悪だという認識が欠如している。
他者から見れば邪悪極まりない行いさえ、本人にとっては邪悪ではない。
私は、こういう人間が一番怖い。
この子は殺さなければいけない、殺さなければ私は確実に破滅する。
殺し屋として極めた身体能力。それを最大限に使って包丁を触手から引き抜き、勢いよく後方に跳躍します。女の子は相変わらず無邪気な笑顔で私を見つめてる。
包丁二本を両手に。
私は完全に『殺し屋』として―――地面を蹴りました。


「あはっ」


口から漏れる笑い。我ながらとても不気味な笑いでした。
それを開戦の合図として、魅上礼のバトルロワイアルは始まったのです。

「………こーしょー、けつれつ?」

可愛らしく首を傾げてみせる女の子。
しかしその動作を私が視認した時には、水色の美しい触手が空間より伸びていました。
あれが何かは分かりませんが、とにかく危険だとは理解できた。
次に包丁を絡めとられたら、一本失うことは覚悟しなければいけないでしょう。
押し寄せてくる触手を屈んでかわし、包丁で斬りつけてみます。
すると今度はいつも通り簡単に切断できました。


ここで私は確信しました。
この触手には二つの性質がある。
攻撃に利用すれば、防御が失われ。
防御に利用すれば、攻撃が失われる。
防御状態の時には私の包丁でさえ切断できないほどの防御性能になる。
なら、攻撃体制の時に斬るしかない。

「あっ―――ははははははははははははははっ!!」

つい先ほどまで立っていた地面が抉れる。
触手の攻撃による威力は金属バットの一撃くらいでしょうか。
人体で食らえばさすがにまずいですね。
触手の数は今見えているだけで18本。さすがに無尽蔵ということはないでしょうが、これだけの数を捌きながら相手に接近して一撃をかますのは至難の業。
てかこれチートすぎじゃないですか、楓坂さん?
でも逆に言えばそのチートさが弱点でもある。
見たところあの子自体の戦闘能力は年相応。私になら呆気なく殺せます。
触手を攻略すればそれだけで、私の勝ちは確定という訳ですよ。

「………うにゃー、守って」

触手が渦を巻いて盾の形になり、私の行く手を遮る。
しかし殺し屋の前にはそんなもの壁にすらならない。
地面を蹴り付け、その盾よりも上に跳躍。包丁を振り上げ、急降下します。
呆然とする女の子。
勝った。
殺し屋には人によって『必殺距離』というものがあります。
その範囲に入れば相手を抹殺できる、王手の領域。
私の必殺距離は他の人に比べれば短い1メートルちょっきりです。しかし、その範囲に入ることが出来た時の殺害成功の確率は100%。
そして今ここに、必殺距離が成立しました。

「―――――あはっ♪」




「よくできました、うにゃー」

足元には物言わぬ一つの骸が転がっている。
簡単に言ってしまえば、最後の一手で魅上礼は敗北した。
包丁を振り上げて着地し、そこから獣さながらの動きで標的を斬り殺す算段だった。
それが誤りだったのだ。
璃神妹花自身の戦闘能力は同年代の子供よりも更に低い。
だから、跳躍した状態で包丁を投げつけでもすれば殺し屋の腕力で放たれた包丁は高速で妹花に向けて進み、その『如何なる物さえ斬り裂き、貫く』刃が幼い肉体を突き破っていただろう。
触手の追いつく前に、璃神妹花を殺害することが出来た。

―――着地までの間に、触手が防御に使用されることもなく。

妹花は多くの人間を喰らってきた一つの怪物に等しい。
魅上は脳で、幼い妹花は動揺でパニックになってしまうと誤認してしまった。

故に、触手の防御に対応できず。
最期は触手の一本に背後から腹部を貫かれて、狂った生涯を終えた。

「あぶなかったー。うにゃー、助けてくれてありがとー」

向日葵のような笑顔で、蠢くスライム触手を撫でる。
その顔には、人を殺したことに対する罪悪感など微塵もない。

「ごほうび。食べてもいいよ、うにゃー」

その言葉を皮切りに、触手たちが餌に食らいつく犬のように骸に食らいつく。
いや、傍から見ればただ単にスライムが骸に触れているだけにしか見えない。
しかし少しずつその骸は小さくなっていき、最後には欠片も残らず消えた。
『うにゃー』は生命活動を停止した死体を吸収して養分にすることができる。そしてその養分は妹花の体に生命維持の為に流れ込むのだ。
ただ一つ。彼女は誤解している。
『うにゃー』は自律行動こそ出来るが決して会話・思考が出来るわけではない。
彼女が監禁生活の中で生み出した、ただの仮想人格に過ぎないのだ。
つまり。

―――――この世に、璃神妹花の味方はいない。



【魅上礼  死亡】


【深夜/A-2遊園地】
【璃神妹花《人喰らいの触手》】
《状態》健康
《所持品》不明支給品、魅上礼のデイパック
《思考・行動》
0:殺し合いなんてしないよ。
1:うにゃーのお腹が空いたらご飯を食べさせてあげる。
※しばらく《食事》は必要ありません。


【璃神妹花】
12歳の少女。しかし身体の成長が極めて遅く、身長は130cmに満たない。
幼い頃から彼女の力を恐れた両親に監禁されてきたため、人との付き合いが苦手。
彼女の家は神主の家系で、鉄格子付きの地下牢に幽閉されていたが両親を『食事』して逃走。
能力は《人喰らいの触手》を自在に操るというもの。
最大35本を一度に操れる。攻撃と防御の二つに使用でき、攻撃でなら金属バットで殴るくらいの威力、防御でなら如何なる能力さえ遮断、ショットガンクラスでなければ破れないほどの硬度になる。
ただし、自分の前方にしか防御は発動できない。



【魅上礼】
17歳。髪色はオレンジ色、普段から制服以外をあまり着用しない。
闇の世界に生きる人間からの依頼を受けて報酬と引き替えにターゲットを暗殺する殺し屋で、『最低最悪の悪夢(ナイトメア)』と呼ばれ恐れられている。
自らの力を自覚し、利用してターゲットを確実に抹殺してきた。
能力は《如何なる物質も刺し貫き、斬り裂く包丁を生み出す》。
包丁は二本で替えはない。

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最終更新:2012年01月10日 10:07
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