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力人

「強き力を持つと人は使わずにはいられへん――それが人の常なり。
 あのヒトラーを名乗る男も、強き力に溺れた人間なんやろうな」

F-1に存在する村。その一角に存在する民家で、一人の大男がポツリと呟いていた。
彼の名は石田銀。その巨躯から受ける印象通りの怪力を持つ――庭球部所属の中学生である。
銀が想起しているのは主催者であるヒトラーのことだ。
アドルフ・ヒトラー。ナチスドイツの総統、二十世紀最大の独裁者。
中学生の銀でも知っている超有名人である。
だが、ヒトラーはとっくの昔に死んでいる人間だ。このような殺し合いなど開けるはずもない。
故に銀は、主催者のことをヒトラー本人ではなくヒトラーの名を騙る何者かだと判断していた。
外国人であろうあの主催者が如何にして日本人である自分たちを拉致し得たのかはわからないが、それは今考えても仕方のないことだ。
今考えるべきは今後の身の振り方。そう銀は判断する。
そのためにも、今は自らの持ちうる情報と力を確認する必要がある。
まずはこの場に知り合いがいるのかどうか。
この殺し合いに呼ばれたのが全員無関係な人間とは考えにくい。
あの部屋で主催者に名指しで声をかけられていた参加者がいたことからもそれは判断できる。
いるのは四天宝寺のチームメイトか、数多の好敵手たちか、それとも家族か。
知り合いがいなければそれに越したことはないのだが。そう思いながら銀は名簿を開く。

「……ぬう」

名簿を読んだ銀の目が一瞬見開かれ、その後すぐに閉じられる。心を鎮めるための瞑想だ。
そう、銀の願いも虚しく名簿には自らの知り合いの名が刻まれていたのだ。
数分が経過した後、銀は目を開く。
そして再度名簿を確認し、深いため息をついた。

「……この場に呼ばれているのは青学の越前はんに立海の真田はん、それに金太郎はんか。
 皆揺るぎなき精神力の持ち主であることは明白……この殺し合いに乗ることはないやろ。
 そちらの心配はせんでもよさそうやな」

不幸中の幸いと言うべきか、この場に呼ばれていたのは全員強者と言える男たちだった。
彼らならそれぞれが自らのすべきことをしっかりと見出し、必ずや何らかの行動を起こすだろう。
情報の確認を終え、銀は力――支給品確認に移る。

「む、これは……」

銀が最初にデイバッグから取り出した支給品。それは自分の物ではないが、たしかにどこかで見たことがあるテニスラケットだった。
どこで見たものかと記憶を探り、このラケットの本来の持ち主を特定しようとする。
その行為に、さほど時間はかからなかった。

「……河村隆。まさかおぬしのラケットと再び相対することになるとは……因果やな。
 本来ならばU17の合宿でおぬし本人と再会できたはずだったのやろうが……」

河村隆。全国大会準決勝の場で相対し、自らに勝利した漢。
彼が使っていたラケットが今、銀の手に握られていた。

「こんな殺し合いで自分のラケットを使われるんは本意ではないかもしれんが……有難く使わせてもらうわ」

感慨を抱きつつも、一旦ラケットを床に置き、次の支給品をデイバッグから引っ張りだす。
出てきたのは、何やらやけに重たいアタッシュケースだった。

「何やこれ……? 中身は……麻雀牌か」

アタッシュケースの中には、びっしりと麻雀牌が詰め込まれていた。
刻まれている文字などは市販のものと同一に見えるが、明らかに材質が違う。
先ほど感じた妙な重さがこの材質の違いが原因だろう。

「劣化ウラン牌……酸化雰囲気で削り取ると激しく燃焼する、か。
 何やまた奇っ怪な麻雀牌やな……燃焼する?」

同封されていた説明書を読んでいたその時、銀の脳裏にある考えが浮かんだ。
それは普段ならば実行しようとは思わないような、それこそこの劣化ウラン牌のように奇っ怪な考えだ。
だが、今は殺し合いの真っ最中。このような思いつきでも何か役に立つかもしれない。
そう考え、銀は民家を後にする。左手には好敵手のラケットを、右手には20kgはある劣化ウラン牌入りのアタッシュケースを手にして。


◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆

数分後、銀は青々と茂った樹木の前に佇んでいた。
左手にはラケット、右手にはアタッシュケースの中から取り出した劣化ウラン牌の一筒を持っている。
そしてその一筒を天高く放り投げ、構えを取る。テニスで言うところのサーブの構えだ。
放物線を描き落下してくる一筒を見据え、それが自らの打点にまで到達したそのとき、銀はラケットを振り抜いた。
その刹那、激しい火炎を噴き上げつつ、爆発を思わせるかのようなスピードとパワーで一筒が飛翔する!
打球で人間を観客席の最上段まで吹き飛ばす銀の怪力を受け、その表面が削り取られたのだ!
炎の弾丸と化した一筒は高速で突き進み、轟音と共に樹木にめり込んでようやくその勢いを止めた。

「上手くいったか……。
 名付けるなら火炎式波動牌といったところやな。……いや、これはあの漢のラケットを用いて編み出した技。
 ならば名付けるべき名は……バーニング波動牌、か」

河村が試合中によく口にしていた言葉を思い返しつつ、銀は樹木に近づきその状態を確認する。
牌が着弾した周囲は派手に焦げており、劣化ウラン牌の発する火炎の強さが窺い知れる。
その劣化ウラン牌は樹木の奥深くにめり込んでしまっており、回収することはできそうにない。
残念ではあるが、これは奥深くにめり込む程度の威力を持ち合わせているということの証明でもある。
波動球ならばこの程度の大きさの樹木は圧し折れるのだが、それは牌とテニスボールの大きさの違い故致し方ないことだろう。
編み出した新技に満足しつつ、銀はデイバッグを背負い歩き出す。
その胸に、新技と同じように熱き思いを抱えて。

「主催者よ。この銀……容赦はせえへん」



【F-1/村/一日目・日中】

【石田銀@新テニスの王子様】
[状態]健康
[装備]河村のラケット@新テニスの王子様
[道具]基本支給品一式、劣化ウラン牌@ムダヅモ無き改革
[思考]基本:殺し合いには乗らない
1.知り合いを探す

※劣化ウラン牌の一筒はF-1に生えた樹木にめり込んでいます


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最終更新:2012年01月16日 00:35
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