『え―――、ではここに、表彰式を開始致します』
私は静粛にその言葉を聞く。
『○○町○○消防署所属消防隊員、見上壮一。貴殿の灰影デパート火災事件における功績と、これまでに救助してきた人数は誠に賞賛の至りである。
かく言う私も、最愛の愛娘を救って頂いた……感謝してもしきれない。
よってここに、私から個人的に礼を言わせて欲しい』
違う。
私は賞賛されるような人間ではない。
『ここに―――最優の消防士として見上壮一消防士を表彰する!』
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち――――――――。
止めろ。
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち――――――――!
私は拍手を受けていい人間ではない。
『おめでとう!』
『これからも頑張れよ!』
『よっ! 世紀の
ヒーローさんよー!』
私は認められてはいけない。
後ろの『この娘』に―――申し訳が立たん。
そんな目で私を見ないでくれ。
私は蔑まれるべき悪人なのだ、罪を告白することも出来ずにここまで生きてきた罪人なのだ。
朦朧とさえしてくる視界の中で、もはや家族よりも見慣れた『彼女』の姿が見えた。
身体は半透明で、向こう側の人間の姿が透けて見える。
中学生くらいのまだ発達途中に見える肉体を見ると、私の犯した罪が何れ程罪深いものかが分かる。
彼女は小さな口をぱくぱくと動かして、悪意に満ちた笑顔をしている。
『あなたのせいだ』
その口は、声を出していない。
――――そうだ。私がいなければ、君は死ななかった。
◇ ◇
見上壮一。
職業消防士、弱冠三十五歳にして救助した人命は数百人。
彼が赴いた火事場はどれだけ大きな規模の惨事だろうと、一人の死者も出ない。
勿論そんなものは後付けの噂話に過ぎず、彼とて悲劇の現場をいくつも見て、その度に成長した。
一人でも多く、一人でも多くの命を守るために、時にはかなり危険な賭けにさえ出て、その卓越した『人を守る技』を活用して人を助ける。
その姿が仲間の士気を高め、相乗効果を生んだ結果――今では前述の噂も真実になりつつある程だ。
そんな彼は一つの重い重い、十字架を背負って生きてきた。
そんな彼だからこそ――――此度の『争奪戦』に相応しい人材ではないか。
◆ ◆
二十歳の年だった。
当時大学生だった私は、仲間とつるんでよくやんちゃしていたものだ。
有名な心霊スポットはほとんど巡ったし、今だから言えるが怪しい薬にも興味本意で手を出してきた……まぁ、幸運なことに私にはその手の品は合わなかったが。
とても大っぴらには言えないようなことばかりしてきたが、毎日楽しかったよ。
気の合う仲間たちと過ごす時間は何物にも代え難いものがあったーーー若者のスラングでは確か『DQN』とか言うのだったと思うが、悪いことをすることが楽しいと言うよりも、仲間達と一緒になって何かをすることが好きだったんだろう。
あれは、とても蒸し暑い真夏の夜だった。
今でも鮮明に覚えている。
町外れの廃墟で談笑をしていた。
特にすることもないから、煙草を吸って酒を飲んで、下らない馬鹿話を三時間はしていたな。
――――その翌日、その廃墟は無くなった。
私共が帰った後に、旅行客のとある一家が肝試しに立ち寄ったらしい。
しかし、私達の火の不始末が原因で発火し、その一家の長女がガス中毒で死んだ。
新聞には小さく片隅に載っていただけだったがな、あの時私は少女を見捨てた。
怖かった。
忘れ物を取りに来てみれば廃墟からは火が出ていた。
まだそこまで大きくはなかったから忘れ物を取りに入っていって、ガスを吸い込んで倒れている少女を見つけた………私達のせいでこんな目に遭った少女を。
だが、どうしても世間体が邪魔をした―――この火災を起こしたのが自分たちだと知れれば当然大学にも話が行く。
下手をすれば前科者だ。私は結局、我が身可愛さに走り去った――少女は死んだよ。
翌日の朝刊の記事を見てようやく、自分の犯した罪に気付いた。
その時にはもう、私の背後にはこの少女が、怨めしげな冷たい眼をして立っていたよ。
不思議と怖くはなかったな。
ただ、とめどなく溢れてくる涙と、口から漏れる後悔の念が、私を苛んだ。
結局今の今まで、ずっと私は十字架を背負い続けている。
消防士になったのだって罪滅ぼしなんて上等な理由じゃないさ―――ただ、私は自分を赦したかったんだ。
馬鹿みたいに一心不乱になって人を助けて、自分の罪を塗り潰そうとした。
でも――――あんな風に表彰されてもまだ、私の十字架はほんの一グラムだって軽くなってはくれない。
喋らずにいつだって視線で私を責め続ける背後の少女に、私はいつ償いきれるのだろうか。
自ら命を断って償うことも考えた。
だが、所詮臆病者の半端者たる私には出来なかったよ。手が震えてしまってな。
「畜生………畜生っ………!」
家路への近道のこの路地はまず誰も通らない。
物好きな連中でさえ、立ち込める腐臭と不衛生な環境を嫌って通らない場所。
しかし人殺しの、穢れきった人間にはお似合いの場所だろう。
強いて言うなら、私が死なせてしまったこの名も知らぬ少女を付き合わせてしまうことが心苦しい。
八つ当たり。
散らばった廃棄物を思い切り蹴り飛ばす。
途端にむせ返るような腐臭が溢れ、えづきそうになる。
「御待ちしていたよ、見上壮一氏」
通路の先に、不気味な笑顔を浮かべたスーツの男が立っている。
眼鏡の奥から覗く瞳には底知れぬ何かが感じられ、手に持った鞄がやけに似合っていなかった。
「………悪いがセールスならまた今度にしてくれ。今日くらいは酒に溺れたい気分なんだよ」
「ふむ。折角表彰されたのにお前はまだ自分を赦さないのか―――『その子』を殺したことを」
私の中の何かが、張り詰めた一本の何かが、ぶつんと切れた。
男の胸ぐらを掴み上げ、自分でも分かる程の鋭い目付きでその瞳を睨み付ける。
何故こいつが知っている。
私以外には、誰も知っている筈のない真相を―――何故。
「おいおい離してくれ。俺はお前の敵じゃない、むしろ救世主だぜ」
「冗談は程々にしておけよ、若造」
「まあまあせめて話だけでも聞いてくれ。絶対悪い話じゃないぞ。
ま、少し突拍子もない話だがな」
私が少し力を緩めると、男はまるで魚か何かのようにするすると拘束を破る。
そして、その不気味な雰囲気とあまりにそぐわない真っ白な鞄の中から、一枚の紙を取り出した。
そこには、『タイムマシン使用権利争奪戦! 今すぐやらなきゃ百年待ち』とある。
胡散臭い―――話を聞くまでもなく、こいつは下らない詐欺師だ。
世の中にはこういった方法で儲ける悪人が存在するからな―――そもそもこれは騙す気があるのか?
数珠か何かを売り付けた方がよっぽど手っ取り早いと思う。
「ま、見ての通りだ。見上壮一、お前には『タイムマシンの使用権』の争奪戦に参加する権利が与えられた。
どんなルールかは公正さを尊重する為に話せないが、お前なら勝ち抜けるかもしれないぞ。何せ最優秀の消防士様だ―――見させて貰ったけどな、お前おかしいよ。
それだけの体術スキル、いくら火事場をかいくぐってきたって身に付くもんじゃない。
そんなお前だからこそ、俺もこの争奪戦を斡旋したい。優勝の可能性は平等じゃなきゃ面白くないってのもあるが、見上。お前は間違いなく優勝候補だ」
「そりゃあどうも。で、私は何と応えればいい? まさかタイムマシンなんざの存在を本気で信じろと言う訳ではあるまいな―――馬鹿馬鹿しい。どこから私の過去を調べ上げたのかは分からないが」
「あー待て待て。証明してみせた方が早いか……面倒臭えな。タイムパラドックスが発生しないようにするの結構大変なんだぞ……っと、あったあった」
私の言葉を遮って男が取り出したのは、一冊の冊子だった。
表紙には悪趣味なことに『見上壮一』と黒字で印刷されている。
「19××年、××町の町外れの××デパート跡でたむろしていた見上含む数人の大学生。
彼らの起こした火災に肝試しに訪れていた親子が巻き込まれ一人娘が中毒死。放火と世間には公表されたが、その真実は警察さえ掴めていない。
そして犠牲になった少女を見上は見捨てている。現場に置き忘れた宝物、死んだ母からプレゼントされたお守りを取りに戻った、その時に倒れていた少女を発見するも見上は逃走。
尚、見上壮一が救出していれば少女が死ぬことはなく、後遺症も残らなかった―――ははは。
酷いじゃん、お前の過去」
「馬鹿な――――どうしてお前がそれを」
「うちの同僚に調べさせたんだよ、勿論タイムマシンでな」
眩む。視界が眩んで、目眩がする。
男はにやにやと微笑みながら私に黒光りする何かを向けて、笑いながら言った。
「ごめんごめん。実は拒否権とかないんだわ。これは見ての通り銃だが、弾丸はゴムで、対象を気絶させることだけに特化したもんだから心配しなくてもいいぜ」
少女は無表情で、私をぼうっと見つめている。
男は銃を私の胸に向ける。
私は何も考えられずに、眩む視界の中で自分を見失わないようにしているだけ。
程なくして、経験したこともないような衝撃を腹部に受け、同時に痺れが全身を駆け巡る。
最後に見たのは、私を無表情で見下ろす、少女の透けた姿だった。
◇ ◆
頭が割れるように痛い。
眠り過ぎたのか―――いや、私はあの裏路地で撃たれたんだったか。
私は寝かせられていたソファから立ち上がり、痛む頭を押さえて立ち上がり、今の自分が置かれた状況を確認する。
部屋の中心に置かれたパンフレットの表紙に描かれているのは大海原を往く船。
それを見てようやく、私は今船の個室に閉じ込められているのだと気付く。
向かう先なんて想像するまでもなく、『争奪戦』とやらのフィールドに決まっている。
ふと後ろを見れば、あの少女が立っていた。
相変わらずの無表情で、私を責めるでもなく、ただ見下ろしていた。
もう慣れた視線に会釈すら返さず、置かれたパンフレットを開き、読み進めていく。
◆ ◇
拝啓、過去に未練を持つ皆様。
手荒な真似をして申し訳ありませんが、貴重な機会に恵まれたと思って御容赦ください。
さて、皆様にはお話した通り、『タイムマシン』の使用権利を巡ってとある『争奪戦』をして頂きます。
大変申し訳ないのですが、我々としても機密事項を漏らす訳にはいきませんので、途中退船、『争奪戦』開始後の棄権はお断りさせて頂きます――――ごめんなさい。
では本題に参りましょう。
今回皆様に『争奪戦』をして頂くのですが、争奪する物はズバリ、『命』。
平たく言えば
殺し合い、バトルロワイアルと言えば分かって貰える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
生き残れるのはたった一人。
十四人の参加者を蹴落とし、殺し、逃げ回ってでも、生き残った方にのみ、未練を晴らすことができます。
詳細なルールは後々冊子として配布しますので、それに代えさせて頂きます。
――――――――それでは、あなたの『過去』に光あれ。
◇◆
「何だ、これは」
狂っている、としか言いようがない。
殺し合いをして未練を晴らせ―――未練を晴らす為には、新たな未練を背負わなければならないのか。
タイムマシンなんて物が仮に実在したとしても、こんなことでは、本末転倒だ。
ふざけるな。私はこんなことの為に、十数年もの時間を償いに費やしてきたのでは、断じてない。
人を救うべき消防士が人を殺すなどありえない―――我ながら、偽善も甚だしい考えではあったが。
少女と目が合う。
十数年を過ごしていながら私は彼女の名前を知らないし、声だって聞いたことはない。
そもそも彼女は喋ることが出来ないのかもしれない。
意志疎通が出来たところで、口先だけの謝罪を並べたところで私の罪が消えることはないのだから、特に必要性を感じなかったのもあるが、今ほど彼女の意志が知りたいと思ったことはなかった。
「なあ、お前は私にどうしてほしい」
答えはなかった。
私は最低な男だと、つくづく思う。
自分が殺めた少女に、『お前への罪滅ぼしの為に人殺してやるか?』と聞くような、暴挙だ。
何がヒーローだ、何が正義の味方だ。
お前らが拍手を送った男は所詮こんな、どうしようもないクズ人間なんだよ。
もういい加減に、私を責めてくれ。
否定して、貶めて、嘲って、罵って、私の存在を徹底的に破壊してくれ。
この『争奪戦』で優勝して過去を改変すれば、こんな哀れで惨めな未来も変わってくれるだろう。
私が壊してしまった彼女もまた、誰かと結ばれて幸せになる未来がある。
もしも、タイムマシンなんて物があるなら、これは紛れもない千載一遇のチャンスだ。
見上壮一の犯した大罪は消える。
過去が変われば、見上壮一は未練を持たないのだからこの『争奪戦』には参加しない。
よって、罪は消える。
半透明の少女は幸せになる。
他ならぬ私にも、違う人生が待っている。
こんな馬鹿みたいな、処刑台に立ったような気分で生きることもなくなる。
(それは)
子供達の憧れの的、ヒーローと呼ばれた消防士。
彼らが見たならきっと、軽蔑してしまうだろうな―――ヒーローが悪党だったなんて。
ヒーローの皮を被った犯罪者、紛れもなく私本人である犯罪者は、考える。
(――――――最高だな)
ハッピーエンド。
それは私にとって、あまりに甘美な響きだった。
誘惑に乗ろうと、手の届く範囲にある結末への切符を――――
『やあ、諸君。手荒な真似をして済まなかったね……良かったらテレビをつけてくれ』
昨日の男とはまるで違う、優男だと声色だけで分かる穏やかな声が、電源の点いていないテレビから聞こえた。
普段ならばこの怪奇な現象に顔をしかめたろうが、生憎驚きもなくなってきた。
私は無言でテレビの電源を点け、画面に映し出されたそいつの顔を瞼に焼き付ける。
銀髪の、色白な男だった。
口許は薄い笑みを作っているが、その瞳には相手を飲み込むような深みがある。
昨日会った男も大概だったとは思うのだが、こいつのそれは明らかに別格。同じステージにさえ立たせてもらないような、格差めいたものさえ感じる。
研究者然とした白衣の胸元にはペンダントの青い宝石、サファイアとおぼしきそれが光った。
発光する宝石なんて聞いたことがない、こいつらはどこまで常識を超えているのか―――――考えるだけ無駄だろう。何せ時空を跳躍する装置を作るような奴等だ。
しばらくすると、男はフランクな笑顔を浮かべて自己紹介を始めた。
『初めまして。私は白宮雨雲と申す者だよ……職業は見ての通り研究者。今回の争奪戦を企画した『時空研究局』の局長でもある―――だが一つ先に詫びておくよ。
済まなかったね、私の部下達が君達に失礼な態度をしてしまって』
わざとらしく頭を下げる男―――白宮雨雲。
あの男は下っ端に過ぎなかったというのか。
凄まれても微動だにせず、底知れぬ悪意とも善意とも取れぬ感情を振り撒いていたあいつが。
あんな奴が複数人いるとは、『時空研究局』……相当濃い連中揃いか。想像したくもないな。
『では、改めて言おう。君達には今日、過去の改変――タイムマシンの使用権利を手に入れるために命の争奪戦、バトルロワイアルをしてもらう!
………とは言ってもね。正直僕ももう少しスマートなやり方があったんじゃないかとは思った。
藪から棒に、ほぼ拉致に近い形で君達に殺し合いを強要するのは非常に心苦しい。
ただし―――こちらにも譲れない目的があってね、悪いんだけど今更退くことは出来ない』
白宮の語り口は巧い。
本当に藪から棒に現れ、反感さえ抱かせるあの男のものとは確実に違っている。
相手に時には譲歩し、しかし肝心なところは絶対に譲らない。
正直、時空研究局なんて胡散臭い場所にいるよりも、会社の一つでも立ち上げればいいと思う。
『さて。残念ながらあまり時間は残っていないんだ。『会場』にはあと十分とせずに到着する。
そうしたらすぐに命の奪い合いを初めて貰うことになる、ルール無用、非人道と理不尽の塊だ。
ここで、追い討ちをかけるようだが―――ちょっと悪趣味な映像を見てもらう。ああ、嫌な人はテレビを消してくれ。音声だけでも大体何が起きたのかは分かるから。
結構ショッキングだからね、耐性のない人は下手すると吐くよ』
ちらり、と背後の少女に目をやる。
いつもの無表情だが、何となく澄まし顔のような気がした―――気のせいだろうけどさ。
勿論テレビは消さない。
雨雲の奴のことだ、本当に音声だけでも理解できるんだろうが、私は戒めとしてでも、映像を見たい。
恐らくは、『最低限のルール』に違反すればどうなるか、というもの。
この目に焼き付ける。
違反者の末路を。そして、これから始まる絶望の争奪戦の残酷さを。
『ピィ―――――――ザザザザザザザッ』
ノイズ音が流れ、画面がどこかの巨大な『ケージ』のような場所を映す映像に切り替わる。
決して人間を収容するものではないだろう巨大なそれの中に、数人の男女が入れられていた。
若い者から年老いた者まで、様々な人間たちが収容されて、まるで処刑を待つ死刑囚のように、暴れている。
出せ、何で俺が、ふざけるな、殺してやる、この裏切り者が――――等々。
雑音のような怒鳴り声。
こいつらは自分達の末路を知っているのだろう。
これから自分達がどんな目に遭わされるか知っているからこそ、迫り来るその時に必死に抗っている。
曲がりなりにも消防士である私には、心が痛む光景でもあった。
火事場で自分の運命を悲観して嘆く者たちとどうしても重ねてしまい、助けたくなる。
しかしそんな私の心とは裏腹に、雨雲の声は、ケージの中の彼らにとっては死刑宣告にも等しい声は、何の躊躇いもなく淀みもなく放たれるのだった。
『まぁ、後々配られるルールブックを見て貰えれば分かるんだけど、いくらルール無用の殺し合いだからって最低限のルールってものがある。規則、だね。
詳しく話していると時間が無くなるから、その辺は各自で確認願うよ。
――――で、だ。
そんなことはないと信じたいけれど、僕の信用を裏切って規則に背いた者がいたとしよう―――本当に心苦しいが、その者にはこうなってもらう。
見てくれ、彼らの首には首輪がついているだろう』
気にはなっていた。
彼らには皆一様に首輪が装着されていて、それが何を意味しているのか図りかねていたのだ。
しかし、こうまでくれば嫌でも分かる。分かってしまう。
その首輪の意味、それは処刑。
『反逆者への見せしめ』として、理不尽に行われる――――殺戮の小道具。
ドガァン!!と、鈍い音が響く。
次の瞬間、一人の女性が崩れ落ちた。
頭部を木っ端微塵に吹き飛ばされ、断末魔さえ赦されずに、彼女は生命活動を停止する。
『あれは爆弾だ。特殊な信号に反応して爆発する物でね、僕が開発したものだよ。
僕の期待に背いて、僕の心を踏みにじってくれた人にはああなってもらう』
連鎖して、連続した爆発音がスピーカーから溢れんばかりの音声で放出された。
次々とケージの中で閃光が巻き起こり、一人また一人と頭部を失った屍に変わっていく。
阿鼻叫喚。
この状況を形容するには最も相応しい言葉であったろう。
やがて、最後に残った初老の男の壮絶な絶叫が響き渡り―――最後の一人もまた、死んだ。
画面は何事もなかったかのように最初の、白宮雨雲だけが映し出された画面に戻り、あの悪趣味なスプラッタ映像がなかったことになったように、彼は口を開いた。
『ちなみに今死んで貰ったのは、君達に失礼を働いた僕の部下共だ。
死を以て責任を取って貰ったから赦してあげてくれ、残念だが僕にはあれ以上のやり方が思い付かなかった。
―――――お、そろそろ到着だね』
おいおい。
あの男が、あの底知れない何かを持った男が、あんなにも呆気なく殺されたのか。
自分の部下を、まるでゴミでも捨てるかのように、群がる蟻を踏み潰すように、虐殺した。
私は初めて、人間という生物にこれほどまでの恐れを抱いた。
あれは人間なのか。
私がヒーローの皮を被った犯罪者であるように、あれもまた、人間の皮を被った化け物なのではないかと思わざるを得ない、背筋を這い回るようなあの男への畏怖。
だが意外でもあった。
私にもまだ恐怖という人間らしい感情が残っていたとは思わなかった。
安心した、という訳でもないが。
『では会場に到着したところで、悪いが君達にはもう一度眠って貰うよ。
僕のもっと『低脳な』部下共に、眠った君達を会場にランダムに配置して貰う。
ああ、目覚める時間云々は心配しなくていいよ。全員が会場から撤退し次第首輪から電流を流して強制的に目覚めさせてあげるから、公正さは損なわれない』
雨雲がぱちん、と指を鳴らす。
すると、個室のエアコンから白い煙が勢いよく放出され、たちまち私の気管へと潜り込んでいく。
即座に遅い来る、眠気と言うには獰猛すぎる倦怠感。
たまらず倒れ伏す。
薄れ行く意識の中、唯一まともに働いてくれる聴覚が捉えたのは、声。
『さあ 争え、奪え。
過去を改変したくば、世界への反逆を望むならば、殺すがいい!
人間よ、超能力者よ、異形よ、魔術師よ!――――勝機は全てに平等に与えられる!
今日ここに神は居ない!よって天罰は下らない、全ては君達次第だ。
だが安心しろ、君達の願いは必ずや叶う。掴み取れ……栄光を………!!』
そんな、こと。分かるかってんだ――――
【残り14人】
□ ■
「ふぅ。演説ってのは疲れるね」
誰も居ない部屋に、病的なまでに白い部屋に、彼は君臨していた。
白宮雨雲。此度の『争奪戦』の総取締役であり、時空研究局の局長でもある男。
ポケットから取り出したスマートフォンに何かを打ち込むと、椅子から立ち上がり衣服の皺を伸ばす。
銀の髪に深い、見る者を飲み込む程に深い瞳、やけに似合う白衣、サファイアとおぼしきペンダント。
彼は笑う。
全てが自分の手の内で踊っている感覚に酔うように、または何かに期待を隠せぬように、笑う。
「規則なんて言ったけれど、僕達に反抗してくれる正義がないとつまらないんだよね………まあ、その辺りは心配しなくてもいいかな」
正義のない世界ってのは退屈だしさ、と、誰にともなく白い男は呟く。
両手を広げながら室内を闊歩し、独り言を紡いでいく。
ぼそぼそと、本当に自分の為だけに紡がれる言葉の数々。
しばらくそうしている内に満足したようで、今度はしっかりとした声量で、最後に呟くのだった。
「――――神の副産物。『彼女』には、頑張って貰わなくちゃね」
【名前】 白宮雨雲(しろみや・あまぐも)
【性別】 男
【年齢】 24
【職業】 時空研究局局長
【身体的特徴】 銀髪で色白、瞳に異様な深みがある
【性格】 掴み所がない
【趣味】 空想
【特技】 話術
【経歴】 ???
【好きなもの・こと】 研究
【苦手なもの・こと】 愛情
【特殊技能の有無】 ???
【備考】 時空研究局の局長であり今回の争奪戦の総取締役
最終更新:2012年04月02日 13:40