アットウィキロゴ

outsider

『あれ………ここ、どこ……?』



 見渡す限りに広がる暗黒。
 それが自分の深層意識であると気付くこともなく、白宮つぐみは困惑する。
 瞼を閉じた時のような、この世で一番深い闇が、彼女の精神を徐々に侵食していく。
 思い出す。
 愛しい、この世で一番大切な少年を守る為に修羅となる決意をして、そしてその直後にそれを喪失した。
 まったく――――情けない限りだ。


『みーは、何もかも足りないんだ』


 生きていても死んでいても同じだと思って、伽藍洞の心で生きてきた十二年間の日々。
 予定調和のように下らない、色あせた日常から、失望の底にいた自分を救い出してくれたヒーローだった恋人。
 彼は何度も彼女を助け、二人でいろいろと無茶なこともやってきた。
 二人で一人だと思っていた。
 なのに肝心の自分は恐怖に打ち勝てないまま、強くなれずに一歩を踏み出せない。

 闇に染まる精神をよぎるのは、数多くの思い出。
 墓場まで持っていきたい幸せな時間の記憶が、走馬灯のように去来する。
 春。桜の木の下。
 夏。夜に抜け出して裏山の秘密基地で一夜を過ごし、後でこってり怒られた。
 秋。文化祭実行委員として二人で最高の文化祭を作り上げた。
 冬。一度大喧嘩をして学校でもちょっと評判になった。仲直りもまた、劇的なものだったけれど。
 そして春――――すべてが終わった。


『何でだろう、なんでこうなっちゃうんだろうね』


 瞳から零れ落ちる大粒の涙。
 塩辛い味が口の中にまで伝わるも、自分たちに課せられた運命を嘆くことしか出来ない自分の弱さが何より、嫌だった。
 いつも助けられてばかりで、自分はいつだって、守られる姫君だった。
 ようやく弱さを捨てられても、結局あんな獣にも勝てない。


 救世主だった少年と、救世主に頼ってばかりだった少女。
 白宮つぐみという少女は弱い。
 運動も出来ないし、人付き合いも得意な方ではない。いつだって、神無月恭一が現れるまでは一人だった。
 そこに、そのルールを打ち砕いてくれる救世主が現れて、依存してしまった。
 勿論そんなものは長く続くはずもなく、少女は惨殺され、蘇ってもこうして失意の底に沈んでいる。
 神からの罰なんだと、つぐみは思う。
 幸せに依存して、不幸と向き合うことを恐れた自分への、残酷な真実。


 嫌だ。
 恭とは離れたくない。
 いつまでだって、一緒にいたい。
 ―――半端者にはそんな権利は与えられない。
 朧気な記憶の深淵にある、本当の両親の記憶。
 きっとこんな子供だから捨てられたんだろう――と、今なら信じられる。
 弱虫の癖して強くなろうなんて考えもせずに生きてきた。
 恋人に依存して、ロクな人間関係も築くことなく、身勝手な愛情を捧げてきた。
 いつだって自分勝手に。
 そんな子供を、育てたいなんて思う人間はいない。


そんな当たり前に気付けず、自分は不幸だと思い込み、自分を振り返る事を忘れて生きてきた、これも一つの末路か。


 それでも。
 それでも白宮つぐみには、諦めきれない。
 あの少年との日々を捨て去る事が出来ない。
 夢幻の幻影だったと諦めてしまえば良いものを、無様にみっともなく、幻想にしがみついている。
 我ながら惨めだと思った。
 やっと手に入れた玩具を手放したがらない幼子のように、みっともない。
 ああ。そんな自分が―――つくづく、嫌になる。


 逃避の手段ばかり覚えてきた。
 波風の立たない、頑張らなくてもいい人生を生きる為に。
 痛みを感じたくなくて。
 傷付くことから逃げ出すために、自己中心的に生きてきた。

 だから、自己中心的な人間に、全てを踏み躙られた。
 痛かった。
 苦しかった。
 辛かった。
 寒かった。
 怖かった。
 嗤う二人の人間が怖くて。
 増えていく裂傷が痛くて。
 純潔を貪られることがどうしようもなく苦しくて。
 血液が消えていく感覚が辛くて。
 そして生命の消えていく時が寒くて――――
 結果最期には、愛しい恋人に死に目を看取って貰うことさえ許されずに、死んだ。


 思い出す。
 血液を繋ぐパイプが断ち切られて、命が流れていく光景を。
 どんなに泣いて叫んでも止まることない暴虐を。
 そして――――月明かりに照らされて不気味に輝く、二人の化物の笑顔が、つぐみに恐怖として蘇る。
 天罰は終わっていない。
 まだ、始まったばかりだ。


『分かんないよ………』


 少女は小さな身体を震わせながら嗚咽混じりの呟きを漏らした。
 つい先刻まではあんなにくっきりとしていた決意が薄れ、年相応の少女のそれに戻ってしまっている。
 自分がどうすればいいのか、依存しきって生きてきた弱い少女には分からない。
 挫けてしまった覚悟を戻す方法も。
 どんな風に生きれば、強くなれるのかも。
 何もかも、つぐみにとっては難題として立ちはだかる。
 普通の人が通って生きていく苦しみを避けて生きてきたツケが今ここで回ってきた。

 嫌だ。
 弱い自分を変えたい。
 恭の隣に相応しい人間になりたい。
 せめて、恭を支えてあげられるような人間に、なりたい。

 ヒーローを助ける裏方でもいいから、強さがほしい。
 この、狂ったゲームでなら、二度目の生でなら、獲得できる。
 自分を変えて、強くなってやることができると思っていた。

 なのに心は折られ、瞼を上げればへたりこんで泣きじゃくる情けない自分の姿がある。


なんて、ザマだ。
 一つも成し遂げられずに、こうしているつもりなのか。
 弱い自分のままで。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。


「早く行かなきゃ………恭が、あの獣に狙われてる、のに。みーだけが、こうしてるなんて……できない」


 震える身体を無理に立ち上がらせ、壁に凭れる。
 ――――どうして、みーはこんなにも弱いんだろう。
 恭はどうして、こんな弱者を選んで、文句ひとつ言わないでいてくれるんだろう。
 もう、頭の中がごちゃごちゃだ。


「ほんと、なんで」

 もはや呆れを通り越して笑えてくる。

 争奪戦、バトルロワイアル。
 殺人という禁忌が正当化されて、善人が異端の存在になる。
 暴力が正義となるこのゲームで、恭は今頃どうしているだろうか。

「もう、分かってるくせに」

 神無月恭一という人物は、屈しない。
 頑として、このようなバトルロワイアルは認めないだろう。
 たとえ、どんな未練があろうとも。
 他の参加者達のことまで案じて、時には身を挺してでも他人を守る。
 彼は、そういう人間だ。

「みーなんかじゃ、逆立ちしたって敵わないよ」

 だけど、それでも近付きたかった。
 彼の強さを欲したというのもあるが、もっと大きいのは別の理由だ。
 隣にいたい。
 最愛の人に、ずっと隣に並べるように、なりたかった。
 病める時も健やかなる時も、永遠に隣同士でいるために。
 なのに今の自分はどうだ。
 恭一のずっと後をついていっているだけ。
 これじゃあ、隣に並べるようになるなんて夢のまた夢だ。


「ダメだなあ――――みーは、ダメだなあ」


 こんなに自虐しているのに、それでも心は奮い立たない。
 震えるのは身体ばかりで、肝心の自分自身は少したりとも変わっていない。


「もう、さ」


 凭れ掛かったまま、泣き腫らした両目を手で拭い、呟こうとする。
 自分が弱い人間だと決定付けてしまう、言うならば最後の防衛線。
 全ての痛みから逃げて、面倒を回避して、波風の立たない退屈な人生を歩んでいた頃でさえ、白宮つぐみという一人の人間のプライドで禁じていたNGワードを。
 情けない、本当にみっともないと忌避していた四文字。

 それらの矜持を、まとめて破壊する。


「………死んじゃいたいな」


 あんなに苦しんだのに。
 そんな逃げの言葉が、出た。
 生きている意味がない。
 誰の役にも立てず、誰かに護られ庇われないと生きていけない。
 そんな自分に、生を謳歌する権利など、ないのではないか。

(恭は、どうしてみーを選んでくれたのかな)

 恭一のことを想う。
 彼は魅力的な、まさに理想的な男性だ。
 女子からも人気が高いし、何故自分と付き合っているのか分からない人間も少なからずいただろう。
 妬んだ者がいたっておかしくはない。
 星の数の候補の中から、わざわざ自分を選んでくれた。
 それから今までずっと、愛してくれている。自分も勿論、愛している。


「…………あーあ」


 誰にも恭一は否定させない。
 その強固な心さえも、禁断のワードを口にして崩れていく。
 がらがらがらがらと、時が無駄になっていく。

 なんて、無意味。
 なんて、無様な。
 つぐみは自虐的に微笑む。


「………もう、みーはいない方がいい」


 言ってしまえば、それまでだった。
 無駄な存在。
 神無月恭一に重圧をかけてしまった罪悪。


「――――ふうん。じゃああたしが殺してやるよお嬢ちゃん」


 独り言に返事があった。
 女の、まだ少女のものと思われる声。
 ――――それが、白宮つぐみの死神だった。
 茶色の毛髪をボーイッシュなカットで切り揃え、活発そうな服装をしているがその瞳は暗く、深い。
 武器は持っていなかったが、両腕を覆い隠すように巻かれた包帯が不気味だった。

 白宮つぐみの役が『死亡者』ならば彼女の役は『被験者』。
 人生を科学に狂わされた人間の姿をしているも、中身は当に人間のそれではないという怪人。
 憤怒でもなく、ただただ無感情な面で、彼女は拳を振り上げる。



 ――――――――鈍い音が響いた。


◆ ◆


「え?」


 鈍い、肉を打ち付ける音が響いた。
 つぐみは迫る拳に目をぎゅっと閉じていたが、何時まで経っても拳の衝撃がやってくることはない。


「………ッ、がぁっ!?」


 吹き飛ばされたのは、包帯の少女の方だった。
 これにはつぐみの方が面喰らう。全く予期せぬ救援に、呆然とせざるを得なかった
 少女を殴り飛ばした軍服の男は、感情の動きを感じさせない、空虚な瞳でつぐみに振り返る。


「そこにいろ。こいつは俺が殺しておく」


 さも当然のように、普通のことのように、男は言った。
 殴り飛ばされた少女は最初こそ信じられない、という面をしていたが、すぐに憤怒を露にする。
 自分を捨ててまで手に入れさせられた力、それに泥を塗られることを彼女は許さない。
 しばし二つの視線がぶつかり合っていたが、どうやら互いに、一筋縄ではいかない難敵だと見なしたようだ。
 だが、それで勝敗を諦められる程、二人は諦めが良くなかったらしい。 科学によって強化された肉体に対して男の持っているのは変わった形状の銃一丁のみだ。
 勝てる、と被験者の少女は思う。
 多少場馴れしている様子だったが、数分とせぬ内に改造されたスタミナが打ち勝ち、あの整った顔面に鋼の拳を打ち込むことが出来るだろう。
 そしてまた、乱入者の男にも、相手がどんな相手だろうが勝てる、という確信があった。


「あたしは古賀雅ってんだ! この国の昔ながらの伝統に則って、自己紹介しておくぜ」
「蒼神天良だ、覚える必要は無いぞ。貴様はここで死ぬのだからな」
「ははっ、いいねぇっ」


 先に駆け出したのは、科学の怪人古賀雅。その突撃を視認してから、蒼神は銃を構えた。
 しかしながら最新科学の結晶たる怪人の速度にそれで対抗できる筈もなく、銃を盾にしてその拳を防ぐも、蒼神は勢いよく壁に叩き付けられる。しかし、表情は動かない。
 駆け寄ろうとするつぐみを片手で制し、追撃を加えんと拳を引いた古賀に返し手の銃撃を放った。
 爆音と共に放たれた鋼鉄の塊が古賀の胸の中央、丁度心臓の地点に衝突するも―――傷一つつかない。
 流石は最新鋭の装甲、そう簡単には破らせてくれないか―――蒼神はそう呟き、一度距離を取った。

「………ん? 待てよお前。今のおかしくないか? 」
「ああ、どうしてお前の装甲をあたかも『知っていた』かのようなことを言ったか知りたいのか?
簡単だよ、俺はな、そもそもこの争奪戦の正規の参加者じゃないんだ。
過去に未練なんてものを持っちゃいないし、俺はただ『あいつ』を奪還しに来た。それだけだ」

 …………――――と。静寂が、三人の中に吹き荒れた。
 参加者じゃない。ならば彼は、時空研究局に招待された人間に成り済ましたというのか。
 乱入者、というワードがつぐみの脳内に浮かぶ。


「さあ、第二ラウンドだ」


 まだ古賀が状況を理解できていない内に、蒼神は銃の引き金を引く。
 しかし、弾丸の威力が如何程のものか一度身を以て体感した古賀は、それが自らの装甲を破ることはない、蓄積しているダメージを加味しても恐れるに足らないと判断し、正面から弾丸を受けその威力を封殺して必殺の突貫をかける。
 ちっ、と舌を打って蒼神天良が真横に反復横跳びの要領で飛び退き、紙一重で死神の拳を避ける。



攻撃を受けた壁が無惨な姿を晒している。
 あれをもし人体で受けてしまえば、間違いなく一撃受けるだけで敗北が決定してしまうだろう。

(だが何より厄介なのはあの装甲―――あれがある限り、どんな攻撃も通らん)

 蒼神天良の攻撃手段は、基本的に銃弾しかない。
 少なくともあの化物相手に格闘で戦えば、ものの数秒とせぬ内に死の直撃を受けるに違いない。
 一応、提げているディパックの中には破片手榴弾が入っているが、果たしてこれで仕留めきれるか。

 どのくらいの攻撃なら通るのか、それさえ分かれば攻略することも不可能ではないのだが、相手には一瞬で距離を詰める強靭なバネと、重機にも匹敵する鋼の拳がある。
 実験的な攻撃を重ねていればいつか、相手に追い付かれる可能性だって出てくる。
 バンバンバン、と連続して銃弾を的確に古賀の装甲を破るために放つも、やはり一発とて通らない。
 蓄積しているダメージもあるだろうが、それに頼るとなれば相当な長期戦を覚悟しなければなるまい。


「しっかし! あんたのそれ、弾切れって概念がねえのかよっ!!」
「生憎俺の才はこれだけだ。不便極まりないが」


 そうかいっ!! と叫んで、古賀はその長い脚を伸ばし、軸足をバネにプロペラのように鋭く回転する。
 回し蹴り―――言葉にすればそれまでだが、生じる風圧、そして古賀と同じように回転する装甲に弾丸を撃ち込めば、跳弾を受ける危険性もあった。
 しかし蒼神天良は、この瞬間を逃さなかった。


 衝突は死を意味する、さながら死神の鎌のような脚の回転を紙一重で潜り抜け、一気に距離を詰める。まさかこんな自殺行為を犯してくるとは思いもしない古賀であったが、そこは被験者としての、人間としての尊厳と引き換えに手に入れた力の出番だ。
 常人なら無理な反応速度だって、彼女には容易。
 多少パーツに負荷をかける行為ではあるものの、限界レベルの速度で脚を引き戻し、蒼神を迎撃するために構えをとる。


「――――終えだよ!」


 強く握られた、鋼の拳。
 人間の範疇を遥かに超えた運動神経から放たれる超高速の一撃。
 あまりの高速作業に腕が悲鳴をあげるが、それで勝負を終わらせられるなら構うものか。
 が、それもまた無駄に終わる。

 『すかっ』という、気の抜けたような感覚。
 足元に転がっているのは、パイナップルのような形状をした何か――――手榴弾。

 それの危険性は十分に承知していた。
 ピンを抜いて投げる、たったそれだけでかなりの被害をもたらす、凶悪な武器だと、知っていた。
 爆風の威力よりも、飛び散る破片で敵兵を比較的広範囲に渡って抉ることのできる、こう言ってはなんだが戦争家たちからすれば利便性の非常に高い武器なのだろうと、知っていた。
 しかし自分には無敵の装甲。
 弾丸を弾き、封殺して、格闘も剣戟も受け付けない絶対の鎧がある。
 だからこそ古賀雅は避けなかった。
 全身の装甲に衝突した破片が、弾かれて床に突き刺さっていく。案の定、ダメージは零だ。


 ぱんっ。


 ――――――ピィィィィィ―――――――バァン。


「ッ、が」
「分かっていたよ。お前が手榴弾を避けようとすることくらいな――しかし、首輪がある」
「が、はっ。銃で、首輪だけを狙い売ったってのか」


「冥土の土産に教えておこう。俺の職業は落ちこぼれの錬金術師だ。黄金の錬成なんて夢のまた夢。
ただ『弾丸を無限に生み出す』ことにのみ特化した術師。だが、自分の弱さを知っているからこそ相手の強さを掻い潜る『弱さ』を割り出すことだけを覚えていたら、こうなっていた」
「、ぐ……ははっ。そりゃ、勝てる訳ねえわな。バカみてえに力だけのあたしじゃ、アンタには逆立ちしたって届かねえ」


 首輪を起爆されて、喉を吹き飛ばされたというのに、古賀雅は未だその意識を保っている。
 しかし全身の機能は低下に向かっているようで、ただ人体に施された無数のギミックで即死を回避しただけに過ぎないようだった。
 その顔色に恐怖や絶望といった類の感情は一切見受けられず、むしろどこか安堵しているようにさえ見える。
 やはり、彼女も辛かったのだろう。
 ロクな青春も歩んでいない内に、肉体を滅茶苦茶に改造されて、生きることが苦痛だった。
 そう考えれば、古賀という少女の願望はこの『死』をもって成就されたのかもしれない。


「あー、流石にもう死にそうだ。アンタ――蒼神だったか。一つだけあたしからありがたい言葉をくれてやる。耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ」
「………聞かせて貰おうか」
「そこのお嬢ちゃん―――助けたんなら責任持って守れよ。もしも冥土でその子と会うようなことがあったら祟ってやるからな」


 自分の方に視線を向ける、虫の息の少女。
 つぐみは身体の震えも忘れて彼女に駆け寄り、何か言いたげな彼女の言葉を聞くために、恐怖を振り切って近くに座り込む。
 破壊された喉笛からは機械のコードのような物が見えていて、どれだけ非人道的な処置が為されていたかが窺えるというものだった。
 震える、真の意味で限界を超えた肉体を動かし、古賀はつぐみの頬に手を添える。


「アンタは昔のあたしに似てるんだよ。いつもメソメソ泣いて、死にたいって思ってたからな――――。
だけどアンタはあたしみたいになるな。アンタは生きろ」


 命の灯火が、見る見る消えていく。
 瞳の光彩が消え始め、彼女の下に広がる鮮血の湖ももう広がりを見せない。
 蒼白の顔面で、微笑みを形作って、ゆっくりとその瞼が閉じられる。


「――――心得た。この少女は俺が責任を持とう」


 機械のように冷酷に銃弾を放って戦った男の声を聞くと、安らかに、つい先刻まで暴れていた人物と同一人物とは思えない程に穏やかな表情で、古賀雅は、強さを憎んだ少女は、その鼓動を止めた。
 これで、一人が脱落。
 残る参加者の数は、多くとも十三人ということになる。
 目の前で死んだ少女の姿を見て恐怖しない訳がなかったが―――それよりも、白宮つぐみの心に与えるものがあった。
 それは、生への欲求。
 古賀の最期の言葉が、彼女の心に何かを残す結果となった。


「すまないな。俺は人間を助けることが苦手でな……こうする他なかった」
「ううん。みーを助けてくれてありがとう、蒼神さん」


 つぐみの心を侵食していた恐怖とか、そういった負の感情は何時の間にか、どこか彼方に消え去っていた。
 死にながらも伝えた少女と、自分を助けるために辛いカードを切った青年。
 二人の『強者』の存在が、白宮つぐみの中に巣食っていた悪いものを、まとめて食い尽くしてくれたように。
 震えは止まっていた。
 自分の強さが足りないことを承知して、泥臭く足掻いてでも―――彼女の最期の言葉を、無駄にだけはしたくなかった。
 両の瞳に、明確な強い光を宿して、つぐみは蒼神天良の前に立つ。
 そして、その小柄な体躯を更に小さくするように、その頭を垂れるのだった。
 他力本願ではなく、自分もこの悲劇のストーリーに、キーパーソンとして関わる第一歩を踏み出すために、彼女は言う。


「お願いします、蒼神さん。みーに―――『わたしたち』に、力を貸してください。守りたい人がいるんです」
「………それは俺の目的に関与しない事だな。ならば俺に、何かメリットというものがあるのか?」
「ありません。―――でも、っ。必ず」


 蒼神天良は、素直に驚いていた。
 この白宮つぐみという少女は、最初の様子から見て臆病な人物だと思っていた。
 まさか、こんな勇気を持っているとは思わなかった。
 古賀雅の言葉通りに、彼女を出来る限り守ってやろうとは思っていたが、協力関係を求められるとは。
 しかもその瞳には、必ずこの争奪戦を台無しにしてやる、という強い意志が、見て分かるほどにはっきりと輝いている。


「――――必ずっ! ハッピーエンドに、してみせますからっ!!」


幻影のような、陽炎のような曖昧な人生を過ごしてきた少女は、弱い。
ありとあらゆる困難から目を背けてきたツケとして弱さばかりが大きくなっている。
それでも、この場所をきっかけに踏み出せると、つぐみは今は心の底から信じていた。


「了解した。契約成立だ」


蒼神天良は、数か月振りに、笑顔を見せた。



【古賀雅 死亡】




【A-2/病院/朝】


【白宮つぐみ@死亡者】
[状態]健康
[装備]コンバットナイフ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:ハッピーエンドを目指す


【蒼神天良@大学生】
[状態]疲労(小)
[装備]特注の銃(弾数無限)
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『とある人物』の奪還。白宮つぐみとの契約遵守。


【名前】 蒼神天良(あおがみ・てんら)
【性別】 男
【年齢】 21
【職業】 大学生、錬金術師、孤児院のアルバイト
【身体的特徴】 軍服を着て、本来参加する筈だった人物に成りすましている
【性格】 無口で何を考えているのか読み取れないが感情は人並にある。
     しかし目的遂行のためならいくらでも冷酷になることのできる冷たい、機械のような一面もある
【趣味】 家事
【特技】 射撃
【経歴】 普通の大学生だったが『銃弾を自動的に、無限に生み出す』錬金術を習得。
     孤児院のアルバイトをしていて、一年前にあった『事件』以来人が変わったようになった。
     銃は高名な錬金術師に作らせた特注品
【好きなもの・こと】 トレーニング
【苦手なもの・こと】 女性との交際
【特殊技能の有無】あり
【備考】 争奪戦に本来参加する筈だった参加者になりすまして会場に侵入。
     ある少女を奪還するために行動する



【名前】 古賀雅(こが・みやび)
【性別】 女
【年齢】 18
【職業】 高校生
【身体的特徴】 髪の毛をボーイッシュに切り揃えていて両腕が包帯でぐるぐる巻き
【性格】 底抜けに明るい性格だが、スイッチが入ると無感情になる
【趣味】 散歩
【特技】 友達を作る事
【経歴】 ある科学者に拉致され、無理やり改造実験の被験者にされる。
     その一件から異常なる肉体を手に入れるもこの肉体を憎み、過去に戻って拉致されることの回避を望む
【好きなもの・こと】 運動
【苦手なもの・こと】 勉強
【特殊技能の有無】あり
【備考】 肉体の各所を科学のパーツなどで強化しており体内にはサイボーグのようなコードまで通っている

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年04月06日 12:29
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。