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EDL――――Advance・8

そこに、唐突ながらに、彼はそこにいた。
愛しき彼が、意図せずそこに立っていた。

楔音契也。

癖の特にないけれど一本だけ目立つアホ毛を有する漆黒という呼び方似合うその髪。
気だるそうなそのダウナーな瞳は私を虜にする。
中性的な端正な顔つきは文化祭の時榎本さんの提唱により実現と移された女装姿の時にも遺憾なく発揮され、ますますあたしもメロメロである。
柔らかそうな頬肉や体つきは正に至極の一品。
白いブレザーの制服に映えるその姿なりはまさしく芸術といってもいいんでしょう。

その人物に私は駆けよった。
何も考えずに。
何も思わずに。
何も案じずに。
何も念じずに。
何も疑わずに。
何もしないで一心に駆け寄った。
怖かったんだろう、きっと。

拳銃を突きつけられて、もう拳銃が他者に渡ってしまったと知って。
もう――――勝ち目なんてほとんどないと知って。優勝できる可能性なんて、零に等しいと知って。私は……。挫けたのよ。負けたのよ。
何もかもを放棄して、死にたい気分になってくる。
いえ実質もう死んだも同然なんでしょう。
強い力は全てを狂わせるのよ。
過剰な自信は、暴走する。……経験談。

故に私は、もうどうしようもなく。終わっていた。役目を果たしていた。
駆けよる私の足音を聞いてか、ようやく契也は私――いやぼくに気付く。

「ん? ああ榊田じゃない。どうしたの?」
「もう……ダメだよ、契也。拳銃は柳沼さん……あと榎本さんの手に渡っちゃった」
「ああ、そうなんだ」

抱きつこうとするが避けられる。実に酷い。
今気付いたけど彼の手には、鉄パイプが握られている。
まあ別に当然の装備だとは思うけれどね。

「うーん、そうなの」

しれっと、それでもしれっと彼は言葉を返す。
……? いやまあそりゃまあ柳沼さんと榎本さんと言えば、このクラスの中でも安泰な二人ではあるんだけれど。
樫山さんもまあ乗ってないんでしょうが。……楓之さんに限っては噂が噂だから何とも言えないけれどね。
ともあれ。
彼、契也は人に興味を抱かないのがうん、アイデンティティだったはずだし。
柳沼さんの人となりをそこまで深くは理解していないはずなのに、この馬の耳に念仏状態。……。
いくら気まぐれな子だからと言って。さすがにこの状況でそんなこと言ってる場合じゃないことぐらい、分かるでしょうに。
なんだろう、この変な胸騒ぎ。ざわざわと。ぞくぞくと。
この心臓を叩く、鳴らす、いやな、いやな、感覚は。
なんだろう。なんだろう。なにが―――――――――――。

刹那。

頭が――――揺れた。


「――――え?」


見ると。鉄パイプをぼくにぶつけて、怪しく笑う契也の姿が、そこにはあった。
…………え?
…………は?
…………――――?


…………………



 ○


「うん、楓之さんのときの教訓を活かして僕は今回さっさと片付けることにしましたよー!」

近くには、幼馴染である榊田神菜の死体を見ることもなく、高らかとそんな事を叫んだ。
実に非情である。
よもやこの男、ここまで他人に興味を抱かないとは、常識を身につけていないとは、さすがの榊田にも分かるまい。
否、ピンク色の色眼鏡をしている榊田ゆえにそこまで頭が回ってなかった、とも言い変えられるのかもしれない。

ともあれ。
たった今、榊田神菜という人間は「死んだ」のだ。

「ふむ、しかし銃か。……そうだ! 理科室の薬品でなにか面白そうなのないかな?」

されどそれを気に留めることにもなく。
あっけらかんと、彼は進む。
ただただ、実に感慨も、感動も、そこにはなく、さっぱりとしたものだったことは、言うまでもない。


【榊田神菜:死亡中:もちものなし】
【楔音契也:生存中:鉄パイプ】
【4人】


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最終更新:2012年04月09日 12:08
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