かさかさ――という足音が、森の闇から歩み寄る。
新緑と茶色い幹をくぐって、平野へと姿を現したのは、森の獣ではなく人の少女だ。
宵に映える紅髪は、さながら獅子のたてがみのように、風を受け堂々とたなびいていた。
「……どうしたもんかね」
いまいち緊張感に欠ける声で、少女がため息と共に呟く。
きらびやかなステージ衣装と相まって、この実験場に放り出されたにしては、あまりにもアンバランスな様子を示していた。
少女の名は、天羽奏。
当時人気絶頂を極めていた、アイドルデュオ・ツヴァイウィングの片割れである。
そして本来ならば彼女は、既にこの世にはいるはずのない存在でもあった。
享年17歳――彼女は今から2年前に、命を落としていたはずだったのである。
(あたしは確かに、さっき死んだはずだったんだけどな……)
ぎゅ、と己が身を右腕で抱く。
風鳴翼の感触は、辛うじて身体に覚えている。
奇妙な話だ。
ツヴァイウィングのパートナーの腕に抱かれ、生涯に幕を閉じたという記憶は、確かに頭に残っていた。
人を襲う怪物・ノイズと戦い、全ての力を出し切った己は、肉体の崩壊により消滅したはずだった。
にもかかわらず、生きている。
死んだはずの身体が蘇り、確かに両足で大地を踏んでいる。
ここはあの世か? 答えは否だ。
先ほど確認した名簿には、生者であるはずの翼の名前もある。
何より天国というものが、死んだ人間に再び死を強要するような、無慈悲な場所であるはずがない。
「しゃーない……生き返ったってんなら、やれること、やらなきゃならないことをやるだけさ」
にっかと不敵に奏は笑う。
死人が生き返ったというのなら、生き返らなければならない理由が、そこにはあるはずだと呟く。
少なくともこの実験とやらには、奏は大反対だった。
伝説の鎧・シンフォギアを纏い、人々のために戦ってきた彼女には、到底許せるものではなかった。
最初の動機が復讐だとしても、今に固めたその想いには、偽りや曇りなど何一つない。
故に、奏は歩を進める。
どうやって自分が生き返ったかだとか、そうした細かい疑問の数々は、全て思考の片隅へと追いやる。
いの一番に考えるべきことは、このふざけた
殺し合いの打開だ。
そしてそのためにも、恐らく自分と同じことを考えるであろう翼とは、速やかに合流しなければならない。
両翼揃ったツヴァイウィングは、どこまでだって羽ばたいてゆける。
どんな逆境にあろうとも、必ずや血路を切り開いていける。
「あっ……そういやあの子、無事だったかな?」
と。
その時になって思い出したのは、あのライブステージに置いてきた、1人の観客の命だ。
自分よりいくつか歳下の、活発そうな女の子だった。息を吹き返したからには、一命は取り留めたはずだ。
元気になってくれてるといいな。
そんなことを考えながら、奏は平野を歩いていった。