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神邂逅 -かみがきたりて-

「黄泉……」
 かつん、かつんと靴音を、灰色の段差で鳴らしながら。
 ゆらり、ゆらりと灯りを揺らし、少女は静かに独りごちる。
 超自然災害対策室所属の少女退魔師――土宮神楽は、ランタンと名簿を携えながら、1人石階段を上っていた。
 最初に目についた名前は、自分の姉貴分であった、諫山黄泉という少女だ。
 そして現在は、重傷を負い病床に囚われた娘であり、同時にそこから姿を消した、行方知れずの娘でもある。
(ここにいることが分かったのは嬉しいけど……)
 恐らくここに書かれているのは、彼女の知る黄泉本人だろう。
 諫山という姓も黄泉という名も、どちらもそうそうお目にかかれない、極めて珍しいものだ。
 しかしなればこそ、神楽の胸にこみ上げるのは、喜び以上の不安だった。
 元々彼女は、何者かによる襲撃を受け、再起不可能な傷を負わされていた身だ。
 身体はろくに動かないし、声を発することもできない。戦う力がないどころか、一生寝たきりだろうとさえ言われている。
 当然、このような場所に放り込まれれば、とてもじゃないが、無事では済まされないだろう。
(……私が助けなきゃ)
 だとすれば、この手で保護しなければならない。
 誰が敵かも分からない今、唯一の知り合いである自分が、彼女を助けなければならないのだ。
 他の顔見知りである諫山冥も、この場に限っては信用できない。
 既に死んでいるはずの彼女は、スタンス以前に得体が知れないからだ。
「ふぅ……」
 かつん――と乾いた音が鳴り、神楽はその階段を上り終える。
 真っ赤な鳥居の先に建つのは、厳かな木造の神社だ。
 会場の端であると知りながら、ここまでわざわざ上ってきたのは、見晴らしを優先しての判断だった。
 視界の悪い森林地帯だが、高台に位置する神社からなら、ある程度は遠くまで見渡せるかもしれない。
 そうすれば黄泉を発見できる確率も、少しは上がるかもしれない。
 仲間も剣も頼れない今では、たとえわずかな可能性であっても、試すに値するものだった。
「さて、と」
 というわけで、来た道を振り返り、一望。
 ぐるりと視線を走らせて、地上に生い茂る森を巡る。
 鈴虫も鳴かぬ森の中、冷たい夜風に撫でられながら、神楽は想い人の姿を捜す。
 案の定、視界は悪い。相当に広い上、木々も多い森のようだ。ここからでも捜索は困難だろう。
 それでも、捜すしかなかった。
 たとえどれほどの障害があったとしても、それに尻ごみしていては、彼女の命は救えないのだ。
 せめてここから見える部分だけでも、くまなく視線を走らせなくては――
「――そこで何をしているんだい?」
 と。
 思った、その矢先。
 風より響くその音が、びくりと神楽を震わせた。
 声が聞こえる。
 背後から人の声が聞こえる。
 誰もいないと思っていた神社から、他の参加者が話しかけている。
 悠長な様子から察するに、敵意はないということか。
 それにしても、自分に気配を感じさせず、ここまで接近してくるとは。
 己の未熟を恥じ、相手の力量に驚嘆しながらも、神楽はゆっくりと振り向く。
「……貴方は……?」
 そこに立っていた者は、いくらか想像の範疇から外れた、奇妙な風貌の女だった。
 赤を基調とした和風の服。これはいい。
 独特に広がった紫色の髪。これもいい。
 しかしそのその背にでかでかと背負った、巨大な注連縄のリングだけには、唖然とせずにはいられなかった。
 こればっかりはどう考えてもおかしい。何度も何度も見返しても、冗談にしか思えない。
 されど、その悠然とした佇まいが、ふざけているわけではないのだと、雄弁に物語っている。
 燃え立つ緋色の双眸が、伊達や酔狂などではなく、至って真面目なのだと語る。
「我は山の守矢が神――八坂神奈子とは私のことよ」
 それがこの、奇抜な装束に身を包んだ、神を名乗る女の自己紹介だった。


「幻想郷、ですか……そんな場所があったなんて」
 衝撃的な遭遇から、数分ほど経過した後。
 神社の拝殿に腰かけた神楽は、同じく自分の隣に座る、八坂神奈子と情報交換を行っていた。
 いわく、この神は神楽の住む社会の裏――幻想郷と呼ばれる秘境から、この場所に呼び出されたのだそうだ。
 そこは妖魔や魔導師など、現代の科学に淘汰され、幻想と見放された者たちの、最後の楽園とのことである。
 神奈子は信仰を獲得するため、未だ神が信じられている、その里へと移り住んだ神だったのだ。
「ま、幻想郷の存在は、外界には秘密にされているからね。あんたが知らないのも無理はないわ」
 受け答える神の口ぶりは、意外にもフランクなものだった。
 いわく、こうして接する方が、信仰が得られやすいのだそうだ。
 人懐っこい方が好まれるのは、人間も神も一緒らしい。
 もちろん、威厳が全くのゼロというわけではない。それは初対面の瞬間を振り返れば、否応なしに理解できる。
「そうですね……それに私達にとっては、いわゆる悪霊との戦いは、日常の一部でしたから」
「私としては、そっちの方が意外だよ。
 少なくとも私のいた頃は、外の世界の妖怪共は、ほとんど見かけなくなっていたんだけどね」
 返される言葉に、首を傾げる。
 どうやら、相手の説明に納得がいかないのは、神奈子の方も同じだったようだ。
 彼女の認識における表の世界では、ほとんどの妖怪変化は死滅している。
 幾百年の長きに渡り、今日まで続いてきた悪霊との戦いは、今では起こり得ないものだと言うのである。
 幻想郷に飛んだとはいえ、数年前まではこちらにいたのだ。
 なればこそそれが伝聞ではなく、神奈子自らが見聞きした、確かな情報であると信じられた。
「認識の違い……並行世界? スキマの賢者さえいれば、少しは詳しいんだろうけどねぇ」
 はぁ、とため息をつきながら、神奈子は明後日の方を見上げた。
「神奈子様は、この実験場にお知り合いは?」
「レミリアって奴くらいかね。山のふもとに住んでるのだけど、まぁ吸血鬼だし、何とかなるでしょ」
 今度は吸血鬼と来たか。
 幻想郷というものは、相当に節操無い環境らしい。
 大和の神の住まう神社と、西洋の魔物の巣食う洋館――奇妙な和洋折衷を連想し、神楽はがっくりと脱力した。
「そういう神楽はどうなのさ?」
 そうする神楽に、神奈子が問う。
 それを訪ねるお前には、この場に知り合いはいないのかと。
「………」
 神奈子に尋ねられた神楽は、しばし沈黙し考え込む。
 そんじょそこらの連中に、遅れを取るつもりは更々ない。
 しかしこの殺し合いの場は、神や吸血鬼すらも呼び寄せる、混迷を極めた戦場だ。
 あるいは彼女らクラスの敵も、この場には潜んでいるかもしれない。
 であれば、神を自称する彼女の力は、是非とも手に入れておきたいところだ。
 殺し屋の攻撃から逃れるためにも、黄泉を捜索するためにも、人手は多い方がいい。
「……神奈子様、折り入ってお願いがあります」
 そうと決まれば話は早い。
 真剣な面持ちを浮かべながら、神楽は神奈子へと向き直った。
「ここには私の友達が……大切な人がいるんです。どうか彼女を捜すために、力を貸していただけませんか」
 深々と頭を下げ、願う。
 厳格な父の指導の下、礼儀作法も身につけてきた。
 今はそこをわきまえるべき場だ。それに値する問題に向き合っているのだ。
 こうべを垂れる少女の前で、女神はふむ、と小さく呟く。
 彼女の口から返事が出るのは、それから一拍の間を置いた後だった。
「ならば、我に信仰を捧げよ。さすればこの八坂の力、お前を救うために使ってやろう」
 返されたのは、そんな言葉だ。
 最初に対面した時のような、厳然な気配を身にまといながら、神は少女に信心を求めた。
「……信徒でなければ、救わないと?」
 視線だけで、神奈子を見上げる。
 お前は自らに利を与える者だけを、選り好みするような神なのかと。
「自分を信じてもくれない者を、一体誰が信じられる?」
 うっすらとほほ笑んで、神楽へと応える。
 自らを信頼する者でなければ、己が味方と見なせないのは、人間も神も変わりないのだと。
「………」
 しばし、沈黙がその場に流れた。
 夜風がゆらゆらと髪の毛を揺らし、木の葉がさわさわと音を立てた。
 月明に照らされる境内に、向かい合う2人だけがある。
 青白く注ぐ光の中、学生服と黒髪の少女と、注連縄と紫髪の女が、青と赤の瞳で対峙する。
「……分かりました」
 ややあって、最初に口を開いたのは、願う神楽の方だった。
「私は貴方を信じます。私の悲願を叶えるために、神に信仰を捧げます」
 信用できる言葉だった。
 神奈子の言葉には、納得がいった。
 信仰とは言うなれば誠意の形。
 貴方の力を信じているから、その力で我を救えという、人間と神の信頼の認識。
「ですから、神よ。どうか私に、その御力を貸してください」
 信じないなら救えない。
 自分を信じてもくれない者を、信じて肩入れすることはできない。
 だから、まずはそこからだ。
 人の絆も神の絆も、全てはそこから始まるものなのだ。
 少ない言葉に理解を込めて、神楽は神へと懇願した。
「いいだろう」
 僅かな間の後に、返答。
 優雅に笑う八坂の神は、少女の願いを快諾する。
「なればこの八坂の力で、お前の願いを支えてやろう。土宮神楽の信仰が、我が神力を繋ぐ絆だ」
 信じなければ救えない。
 それは信じている限りは、力を貸すという意の裏返し。
 相手が己の力を信じ、頼りにしてくれるというのであれば、それが人と人の絆となる。
 信頼で結ばれた者同士は、いかなることがあろうとも裏切らない。
 相手に裏切られない限りは、いくらでも力になってやれる。
 信じる者のためならば――信じれくれているもののためなら、神はその力を与えてやれる。
「ありがとうございます」
 契約はここに結ばれた。
 神を讃える名を持つ少女と、幻想の神は絆を結んだ。
 一層の礼儀と、感謝を込めて。
 神楽は眼前の神に対し、一層深々と頭を下げた。
「さて……そうと決まれば、移動しようか。ここは少し居心地が悪い」
 それで終わりということなのだろう。
 荘厳な威容を一瞬にして解き、元のフランクな様子に戻ると、神奈子はよいしょと腰を起こした。
「居心地……? 神は、神社にいるものではないんですか?」
「いやまぁ、そうなんだけどね……」
 後を追い立ち上がる神楽に、神奈子はばつの悪そうな顔を浮かべる。
 先ほどの凛々しくも優雅な姿とは、まるきり別人のような困り顔だ。
「多分、本物じゃないんだろうけどさ……ここ、別の宗派の神社なんだよ」
 神の指差すその先には、博麗神社と刻まれた、真紅の鳥居が佇立していた。


【一日目/深夜/A-7 博麗神社】

【土宮神楽@喰霊-零-】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】基本支給品、不明支給品1~3
【思考】
基本:この殺し合いから脱出する
1:黄泉を捜索し、保護する
2:冥は保留。信用していいかどうかは分からない
【備考】
※第10話にて、黄泉の失踪を知った後からの参戦です。
※諫山冥の存在に対して疑念を抱いています。

【八坂神奈子@東方Project】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】基本支給品、不明支給品1~3
【思考】
基本:この殺し合いから脱出する
1:今は神楽に同行し、力を貸す
【備考】
※東方神霊廟終了後の参戦です。



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最終更新:2012年04月22日 12:12
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