たとえば千歳遊は、同情できる殺人犯である。
生まれてからの十七年間、冗談でもなんでもなく『死ぬために生き』、その人生の半分以上は『殺すために生きて』きた少年。
千歳遊は、十八歳の誕生日に、実の姉に斬り殺される。
遊の役目は、なるべく人を殺し、自分の身を血で穢すこと。そして遊の姉・結は、そんな彼を苦しませて殺す。
この狂気じみた儀式の理由を綴ると、本が一冊できてしまうので、とてもとても全部は書ききれない。けれどまあ、一言で書くならば姉弟が生まれた家には≪そういう風習≫があるということだ。以上。
千歳遊が軍に所属しているのは、より多くの人間を殺すため。
そしてラン・アルフォードの恋心にこたえないのは、どうせすぐに死ぬからだ。
ね、可哀相な男でしょう?
……さて、でも今回のお話の主人公はそんな阿呆ではない。
カイネ・リバーだ。
カイネ・リバーは同情できない殺人犯である。
千歳遊と同い年の少年で、彼と同じく軍に所属している。まあ、軍自体は違うのだが。
カイネ・リバーは吸血病の少年である。
≪私≫風に要約するなら、「血を舐めたり吸ったり飲んだりしたくなる」病気だ。もっと詳しく知りたいのならば、各自自由に調べるといい。
カイネの場合は、他人の血を舐めたり飲んだりしたいのだという。
今回はそんな彼の話をしよう。
今、カイネ・リバーは興奮していた。
「これは……チャンスだろぃ……?」
彼の手にはしっかりと名簿が握り締められている。そして彼の瞳は、まるでずっと欲しかった玩具を手に入れた幼子のように爛々と輝いている。
彼の目線は、とある名前の前で止まっていた。
ジェラール・サトゥルクオン。
カイネと同じ王国軍に所属し、カイネが唯一認める「自分より強い相手」だ。
現在ジェラールは、このバトルロワイアルで恐らく一番頭がいいであろう白澤と、このバトルロワイアルで一番「善人」であろう鴉天狗と共に行動しているわけだが……、
そんなことは気にしない。
関係ない。
どうでもいいのだ。
カイネの目的は一つ。
この機会に、ジェラール・サトゥルクオンへ再戦を申し込む。
カイネ・リバーは王国軍三番隊の隊長である。だが、自分から立候補したわけではない。
殉職した前隊長のかわりにと、カイネは三番隊隊長に指名された。
副隊長を繰り上げればいいのに、と当時のカイネは文句を言っていたが、残念なことに、副隊長も殉職していた。
けれどもカイネは全力で隊長職を拒否していて、「だって隊長になったら忙しくなるんだろ」「忙しくなったら人が殺せないだろ」「そもそも人に指示すンのは嫌い」などと子供じみた理由を並べていた。
そんなとき、当時から一番隊隊長だったジェラールが、カイネに向かってこういった。
「俺と勝負しないか?」
ジェラールに勝てば、隊長にならなくていいし暫く殺人の仕事はカイネにまわす。ただし負けたら無条件で三番隊隊長になる。そういうルールだった。
ジェラールがこういう、ある意味最終手段に出たのには、微妙な流れがあるので、ついでだしここで説明しておく。
「もういっそ別の者を使えばいいではないか」
これは五番隊隊長、ジン・シュレーディンガーの意見である。意見としては間違っていないのだが、この意見には、ジンがカイネを嫌っている、というのもなくはなかったのかもしれない。
だが、これは少々難しかった。
なぜならカイネほど強者は当然ながら中々いない上に、数少ない猛者たちは直前の戦争で粗方死んでしまったし(隊長や副隊長もそうだ)、残った「まあ、隊長にしてもいいかな」な者たちも、普く重傷である。
今すぐに活動できるのはカイネだけだったのだ。
ジンはその重傷者の中から選べといったわけだ。
「医療ででも魔術ででも動かせばいいだろう」とは、非常にジンらしい言葉であったが、これに四番隊隊長のレイチェル・キールがキレた。
「人命をなんだと思っている!」これは、医療班として活動している四番隊の、流石隊長といったところだろうか。
このあとジンとレイチェルの喧嘩は、人命を題材に取り扱った口論が、人命をかけた戦闘に発展した。
「人命は何より尊ぶべきだよ、このロイヤルストレート冷血漢!」
「理想論ばかり並べるな、この理想論グレートグロス女」
……などという意味のわからない口論を続けたあげく、二番隊隊長ラクト・ベルフォラグルから「軍に所属している段階で人命もクソもないから」という横槍が飛び出たあたりで、ジェラールが立ち上がった。
「俺がカイネを殺してくる」
まあ勿論、言葉通りの意味で殺すわけではない。
ジェラールとしては、カイネの意見を殺し、隊長にしてくる。と、言いたかったらしい。
四人の意見は「三番隊隊長をはやく決めたい」ということで一致していたので、「あのジェラールが動くなら」ととりあえず納得したわけである。
頭脳面はジンやレイチェルに劣るものの、戦闘能力は群を抜く男。それがジェラールである。
正直、カイネ「ごとき」が勝てる相手ではない。
けれどカイネは、ジェラールからの勝負を受けた。
王国軍内での個人的な戦闘は禁じられていて、つまりカイネはジェラールと戦ったことが無い。まあ、今回は「三番隊隊長候補の実力試し」という建前を無理やりにひねり出していたので、「個人的な戦闘」には値しないのだが。
カイネは戦闘狂である。
そんな彼の知るところに、強いと評判の男がいる。
カイネが戦いたがらないわけが無いのだ。
だからカイネは、ルールなど気にせず、「ジェラールと戦える」と、それだけの理由でこの勝負を受けた。
さて。
その数時間後。
場は王国軍三番隊の訓練場。ここには、ラクトとレイチェル、ジンという隊長格と、審判を務める一番隊副隊長のシャオリン・ユウ。そしてこの戦いの中心、ジェラールとカイネが中央に存在していた。
二人の距離は役十五メートル。シャオリンは二人の中心に立ち、右手をしっかりと前に突き出している。
静寂。
勿論、その静寂を破ったのはシャオリンの声である。
「では、お二方、準備はよろしいですね?」
形だけの問いかけ。二人が頷けば、シャオリンが手を振り上げて合図をする。
「――――はじめ!」
声と同時にシャオリンが後ろに下がる。
当然だ。片や軍最強、片や戦闘狂である。その場にとどまっていたら危ない。
見事なバックステップで後ろにさがったシャオリンが、片膝を立てて跪き、二人の戦いを見る――――。
で、カイネが負けたと。
戦闘の描写が一切無いのは、まあ単純にそこを描写したところで本筋とは関係ないからである。
重要なのは、カイネが負けたことで。
「とても強くて驚いたよ」とは、後のジェラールの言葉であるが、そこは問題ではない。
最初はゼロだった野次馬が、見る見るうちに集まって、けれど二人の戦闘のあまりの恐ろしさに、チトセ・ダン(勿論彼女はシャオリン目当てだ)以外全員が逃げ出したとか、そんなことは問題じゃない。
二番隊隊長のラクト・ベルフォラグルは終始立ったまま寝ていたとか、そんなことはどうでもいい。
一番隊副隊長であるシャオリン・ユウがジェラールを羨望のまなざしで見つめていたとか、その隣でチトセ・ダンが嫉妬心全開の瞳でジェラールを睨んでいたとか、こんなことはどうでもよくないが問題にはならない。
要するにカイネは負けたのだ。
「うむ、やはりジェラールの勝ちか」
「おーい二人とも、怪我治療してやるから暴れるなよー」
「え、あ、終わった? おはよう」
「お疲れ様ですジェラール様。只今お茶を淹れてきますね」
「あ、待ってシャオリン! そんな雑務私に任せて! シャオリンが火傷なんてしちゃったら私耐えられない……!」
……だれがどの台詞を言っているのか一目でわかる。気が向けば当ててみるといい。
まあ、当のカイネとジェラールは、暫くものをいわなかったが。
「…………ええと、大丈夫、ですか?」
折れた刀を拾い上げたまま動かなくなったカイネをみて(勿論折ったのはジェラールだ)、流石に心配になったのだろう、ジェラールが先に声をかけた。
ラクトとシャオリンはジェラールに、ジンとレイチェルはカイネに注目する。残る一人は、勿論お茶を淹れにいっている。
カイネは暫く動かなかったが、やがてバッとジェラールの顔を見た。
「……あは」
その唇が、横に裂ける。
負けたのに。
あんなに嫌がっていた、隊長にならねばいけないのに。
「あはは、はははははははは!」
カイネは、笑っていた。
それはこの訓練場全体に響き渡る大声で。
「あはははははははははははははははははははははははは!!」
声は、長くやまなかった。
「ひぃ……っ!?」
がしゃん、と。
食器を落とす音と、液体がこぼれる音がした。
訓練場の外から紅茶を運んできたチトセ・ダンが。
その笑い声に驚いて紅茶セットを落とした音である。
その音と共にカイネの笑い声もとまった。
今度は全員がカイネに注目する。
「サトゥルクオン、隊長」
先ほどの狂気じみた笑い声の主と同一人物とは思えない落ち着いた声だった。
「そっか、サトゥルクオン隊長は隊長なのに弱くないんだね」
隊長でも強さは衰えないんだと。
今更ながらに思い知ったカイネは、あっさりと、こういった。
「俺、隊長、やるから」
……と、ざっくり話したこの流れが、カイネの隊長就任のための隊長たちの動きだった。
後にジンが、もう本当に気分を害した顔で「煩いから金輪際笑い声を上げるな」と指摘し、微妙に気を使ったカイネが、以降は「けひひ」と笑うことになったとかは、また別の話。
さて、時間軸をもどして、現代にしよう。
現在のカイネは、一人の少女を前にしていた。
「……と、いうわけで、私は神社を再興しなければならないの」
どうやら少女の名前は「君菊 裕」というらしいことと、なんか神社を再興したいらしいことは、カイネの耳にも届いている。
けれど、カイネ自身に話を聞く気が一切なかったため、
(あー、ユウってきくと、一番隊副隊長の苗字しかでてこないなー、あの馬鹿でかい三つ網女、そろそろ死んでるかな)
とか、君菊裕には関係ないことを考えていたのである。
そしてこれも全く関係ないが、前に話した同情できる殺人犯・千歳遊も「ユウ」である。どうでもいい。
「だから私は、どうやってでも優勝せねばならないの」
「……」
「そして、あなたは私にあってしまった」
「……」
「けれど、私はあなたの雰囲気から、私自身が勝てないことくらいわかっ」
「あー、うざい!」
カイネは長話が嫌いだった。
「いいよそういうの、何? 一行で述べろよ」
カイネの適当な対応に、君菊裕は多少いらだちつつも呆れたような顔をして、結論を述べだす。
「……要するに、私と殺人同盟を組まないか、と聞きたいの」
「殺人同盟?」
「そう。多分、あなたは私と同類よね? だったら、二人で組んだほうが効率的に数を減らせると思うの。私とは途中で別れてくれてかまわないわ。だって私は優勝狙いだもの二度目にあったときは殺しあいましょう。
別れるまでは、お互いに近くにいた参加者を殺す。私には弟がいるけれど、そいつも気にせず殺していいわ。だってあいつも私を殺すと思うし。あなたの関係者も容赦なく殺すけれど怒らないで頂戴」
「ふうん…………」
多少、カイネが考えるような素振りを見せる。
それを君菊裕が期待したように見つめていた。
長い沈黙。
「……これが、僕の武器」
妙にゆったりした口調のカイネが、デイパックから妙に緩慢な動きで武器を取り出す。
それは、刀身まで大きな刀だった。
「重そうね」
武器を見せてくれたことで、同盟を組めると思ったのだろう。
まだ鞘から抜いてもいないその大剣を、鞘の上から刀をなでた。
と、その瞬間。
君菊裕の体が右に大きく跳んだ。
「――――ッ!?」
声すらも出ない、裕のどちらかというと細身な身体が、容赦もなく木に叩き付けられる。
大きな刀を振り回し、裕の体を力任せに投げ飛ばしたのは勿論カイネだ。
裕が体勢を立て直す前に、鞘から刀を抜いたカイネが。
ずばんと、裕の腹部を刀で引き裂いた。
「がっ……うぁ……?」
悲鳴を上げないのか、あげられないのかはわからないけれど。
殺人鬼を夢見た少女は。
「うそ…………つ……き……」
夢を見たまま、夢に沈んだ。
「……けひひ」
カイネはといえば、盛大に返り血がついた服を全く気にせず、まずぺろりと刀身を舐めた。
次いで裕の腹部――丁度子宮あたりの位置――に口をつけて、じゅるりじゅるりと血を啜る。
別に血を吸いたくて殺したわけじゃない。
それに裕は強そうでもなかったから(事実強くなかった)、戦う価値も見出せなかった。
だけど殺した。
理由は一つ。
カイネは、長話が嫌いだったのだ。
さて、カイネはこの後自分のデイパックと大剣を担いでふらふらとこの場を立ち去ったわけだが。
≪私≫は一番大事なことを紹介し忘れていた。
そう、この≪私≫の名前である。
えーと、おほん。
……口調をかえるのは、やはり疲れますわね。
ということで、以上、解説は主催者柚希でした。ちゃんちゃん。
【8-G/道/一日目-昼】
【カイネ・リバー@UNKNOWN】
[状態]:健康
[装備]:大剣@八神拓真
[持物]:基本支給品
[方針/目的]
基本方針:ジェラールに再戦を申し込む
1:その他うざいのがいたら全部殺す
2:別に脱出したいとかそういうのはない
[備考]
※ 戦闘狂
※ 吸血病に関しましては、柚希が言っているだけであり、実際に吸血病なのかは不明
【6-D/鎌石小中学校/一日目-昼】
【柚希@革命】
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:?
[方針/目的]
基本方針:主催
1:基本的に深いことは考えていない
【君菊裕@亡國ノ村:死亡】
【残り57名】
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最終更新:2013年02月10日 19:46