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こちら第一回放送

雅礫(がれき)の上司】

柚希は機械に弱くない。
けれど強くない。
普段は自分の持つ魔力でなんとかしているのだが、気まぐれに自分の手で機械をいじってみたのだ。

「ええと……? この赤いボタンはなんだったかしら」
それは参加者全員の首輪が爆発するボタンだ。

「この青いボタン、押してみようかしら……?」
それは参加者の首輪のいくつかがランダムで爆発するボタンだ。

「ああ、この毒々しい紫、素敵ですわぁ」
それはいくつかのエリアが爆発するボタンだ。

「……なんだか嫌な予感がいたしますわね」
そのとおり。

数十秒機械を眺めた柚希は、結局魔力に頼って作業を開始した。


第一回放送の開始である。





【雅礫の友達】

『はーい皆さーん、柚希ちゃんですよーぅ』
きいん、と響いた放送の声に、一番気分が良くなった男の話をしよう。

「きた、これは、きた……!」
ついさっきまで女の首を絞めていたその男が立ち上がる。
首を絞められていた女――藤咲 瑛(ふじさき あきら)は、ごほごほと咳き込んで、その好きに男の下から這いずって逃れる。呼吸が整うまでまともに動けなかった瑛は、暫く男を見ていたが、男はもう瑛に頓着せず、ひたすらに放送を聞いている。
瑛は迷った。今この男を殺さなければ、自分どころかほかの人も殺されるかもしれない。瑛はさほど身体能力があるわけでもないし、先ほど組み敷かれていたのだって、瑛に力がなかったのが原因の一つだろう。
まあ、「ねえ」と声をかけられ、振り返れば十メートルほど後ろに学ランの男がいて、その距離なら大丈夫かと会話を開始した瑛が、「何をすれば、いいのかな」と聞かれ、脱出方法かと思って少し警戒をといたあと、その直後に「とりあえず殺そう」とまで話が飛んだら、反射神経だけで逃げられるとは思えないが。
結論として、瑛は、男のデイパックを抱えて逃げ去った。殺したことにはならない。
瑛は咄嗟に考えられなかったのだろう。
荷物を二つ持つということは誰かと接触し、デイパックを奪ったということ。黙ってデイパックを取られる人がいるとはあまり思われない(ここにいるのだが)。故に。このままデイパックを抱えていれば、「藤崎瑛は人を殺してデイパックを奪った」というレッテルを貼られることだろう。
或いは、この男が、デイパックのないことに気づいて、誰かの荷物を強奪するかもしれない。けれど、今の瑛には「これであの男は行動ができなくなるかもしれない」としか、考えられなかったのだ。



【1-E/道/一日目-昼】
 【藤咲 瑛@亡國ノ村】
 [状態]:パニック(中)
 [装備]:葵志貴の基本支給品
 [持物]:基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針:特に定まっていない
  1:とりあえずどうしよう
  2:ににに荷物持ってきちゃった……
 [備考]
 ※ 詳しいことはまだわかりません





この男の名を葵 志貴(あおい しき)という。

放送の主――柚希の盲目的な信者で、彼自身も弱くはないものの、信仰する(支持する、ではない)相手を間違えたせいで、間違えた道を進んでいるのだ。
何度も思い返せと言われた。
けれど志貴はその度に言い返すのだ。「お前こそが思い返せ」と。
志貴は頭がよくないのだが、彼には頭のいい友人がいた。雅礫という。雅礫はよく謙遜したが、志貴は知っている。彼はとても頭がいいのだ。
「だって俺にできない計算も、俺に読めない漢字も、雅礫は、わかるんだもん」

話を戻して放送の話。
「ええと……何から話すんでしたっけ? ああ、そうでしたわ。まず、死亡者からでしたわね?
じゃあ行きますよ、驚いて喚くのは勝手ですが、それで何か聞き逃したり、誰かに存在を知られても責任は負いませんわ。
あ? あっと……これ名前順? それとも死亡順? それとも生年月日順? ああん、面倒ですわね、楽しいだけかと思っていましたわ」
無駄話が多い開始の仕方だった。
けれども志貴は、そんなことも思わず、ただただ、信仰する女の声を聞く。
暫く柚希は放送の向こうで何か呟いていたが、マイクから遠のいたのかよく聞こえない。

結局彼女は、死亡順に読み上げることにしたようだ。
「英語の綴りは苦手だわ……。ええと、
アリッサ・エルゼーン
安藤裕一
ルーナ・セレージュ
ツクモ・サーシャ
円千代
らちぇ……違うわね、レイチェル・キール
君菊裕
はんせる……ん? ああ、これはヘンゼルですね。

というわけで、計九人!
これは少ないのですかね、きっと少ないのですわ。
もっと殺しなさい。もっと美しくて、もっともっと凄惨な死に様がみたいですわ。

さて、次は、禁止エリア……。
じゃあ、十四時に6-D、十六時に8-Eですわ。固まっていないで、さっさと動きなさいな」
ぶつ、っと無遠慮に放送は切れた。

そのあと、十分ほど、志貴はただぼうっと佇んでいた。
やがて、彼の体はわずかに震え始める。
「……柚希様。みていて、ください。俺。いっぱい殺して、柚希様を、満足、させます」
独特のゆったりしたテンポで言葉を紡ぎ、
葵志貴は、自身のデイパックが盗まれたことにも気づかず、ふらりとその場をあとにした。



【1-E/道/一日目-昼】
 【葵志貴@黄昏シリーズ】
 [状態]:健康、興奮
 [装備]:なし
 [持物]:なし
 [方針/目的]
  基本方針:奉仕(柚希)
  1:柚希に褒めてもらう
  2:そのためにはより多く殺す
 [備考]
 自分が丸腰になったことには気づいていません。





【雅礫とその上司】
教室から首輪をつけた者たちがいなくなったあとも、柚希はしばらく教卓に座っていた。何を考えているかわからない微笑を浮かべ、中空を見つめている。大胆に露出した足を組みなおしたり、髪をくるくると指に巻きつけたり。暫く暇そうに時間をすごしていた。
そしてある時、とんと床に足を着いて立ち上がり、
「ねえ、いつまでそこにいるつもりかしら? 水の入ったバケツを御所望?」
ドアの向こうに声をかけた。
「……てめェが隙を見せるまで」
ドアを開けて姿を現したオッドアイの青年に、柚希が艶っぽく微笑む。
「酷いわ。元飼い主にそんな口の聞き方しないで頂戴よ、雅礫」

青年――雅礫は式神である。
もともと妖狐だった雅礫を、式神として使役し始めたのは柚希がはじめだった。だが、雅礫は現在葵志貴に使役されている。
柚希の遠い親戚・葵志貴。明かりのついたばかりの教室で、柚希の名を叫んだ少年である。

「雅礫、廊下に立ってないで入ってきたらいかが? すこしお話しをしましょう、――あなたが首輪の爆発を恐れないなら、の話だけど」
ぎしりと床に悲鳴を上げさせながら、雅礫が教室に再入室してくる。彼の瞳は鋭く柚希を睨んでいた。
「やりたいことがあるのでしょう? やってごらんなさいな」
もしかして夜にやりたいことかしら、と挑発する柚希に、雅礫は、

動かない。

殺気を含んだ気配を纏い、見るだけで血をも凍りそうな眼光を放つ雅礫は、睨むだけで行動に移さない。時間にして四十秒程度。そろそろ柚希が声をかけようかとしたところで、やっと雅礫が口をあけた。
「……殺してやりたかった」
「どうしてやらないの? 過去形って事はあきらめたのかしら?」
「もう、無理だ」
「何故?」
「……てめえが一番わかってるくせに」
「……」
そう、柚希が一番よくわかっている。

能力制限だ。

参加者同士での能力差が大きすぎる故に、柚希が行った「能力制限」。人間ではない雅礫は、当然多くの制限を負っていた。常時の能力でも雅礫は柚希に勝てない。それならば、今の状態で柚希に一対一で挑むなど、それこそ本当に自殺行為だった。
例えば、いつもなら自由に操れる毒が無い。
例えば、いつもの四分の一以下のスピードでしか移動できない。

例えば、志貴がいなくても、志貴の許可がなくても、自由に行動できる。

最後の例について。
自由、というのは一般に良いものとして扱われるが。雅礫に対しては違うのだ。
式神。単純に表すなら「高性能コンピューター」であった。所謂、スーパーコンピューターである。決められたことを「正しく入力されたら」完璧にこなす。それが彼、雅礫だった。そう、つまり。
「入力されたことしか出来ない」のだ。
笑えといわれたら笑う。怒れといわれたら怒る。死ねと言われれば死ぬ。アイデンティティーだとかポリシーだとか、そんなものとは無縁の存在、それが式神・雅礫だった。
今まではずっとずっとそれこそ何千年も志貴の言うことだけを聞いてきたのだ。その前は柚希の「所有物」だったが、それはすでに雅礫にとって「忘れたい記憶」である。
忘れたい記憶、柚希から下った最初の指示は「私に従え」で、最後の指示は「志貴の玩具になれ」だった。これは雅礫が最期まで持っていく記憶だろう。
そしてもう一つ、志貴から下った最初の命令は「友達になって」だった。
瓦礫のなかから拾い上げたから「ガレキ」、美しい柚希に似合う雅な式神になるように「雅礫」。柚希から渡されたその名前を志貴に名乗ったときの志貴の顔。生まれて初めて笑ったかのようなぎこちない、その顔。その顔は今でも、今からも、雅礫だけのものだった。
志貴に名乗ってから数千年、志貴と共に血と悲鳴に穢れた仕事をこなし、志貴の「友達」をした。

そんな式神に初めて与えられた「命令」。「自由に行動せよ」。雅礫は考えに考え、決心した。自分に指示を出した。
「志貴を守れ」
たった五文字の単純な文字列。たったそれだけの「打ちこみ」に雅礫の思考は数十分持っていかれていた。それほどに「自由」は彼にとって苦痛であったのだ。
だが。目的を打ち込まれればあとは簡単である。

「式神・雅礫はこのバトルロワイアルの最中、如何なる状況に置かれようとも葵志貴を保護するためだけに活動する」
以上、五文字の指示から雅礫が生み出した自分の存在意義。
雅礫が彼の思考能力をフル活用して考えた「志貴救出策」は以下の通り。
  • 柚希の殺害。
  • 志貴を探し出し、直接保護する。
  • 志貴と自分(と柚希)以外のものを殺害し、最後に自害する。
  • 首輪を解除する。
志貴を探し出す。不可能ではないが、見つけるまでに志貴が死んでいる可能性を否定できない(身体能力のみをみれば、志貴はバトルロワイアルトップクラスではあるのだが、何分人格が幼すぎるのだ)。
皆殺し。いつもの雅礫ならまだしも、現在の雅礫ではまず実現不可能。雅礫は既に名簿を確認しているが、名簿に「鬼一樹月」「土御門伊織」「北上将士」といった「有名な」妖怪たちが含まれていたのだ(ちなみに、上記三人の種族はそれぞれ鴉天狗、白澤、鬼である。長い説明は割愛するが、雅礫が一対一で勝てる相手ではない)。
首輪の解除。解除したところで殺し合いが終わる保証は無い。
……よって、現時点で一番実現可能だったのは「柚希の殺害(まあ首輪の解除と似たようなものだったが)」だったのだが……前述の通り、既に不可能である。
この時点で雅礫の行動目標に修正が必要となった。その結果は以下の通り。
「志貴を確実に救命できる方法を実行し、成功するまで死んではならない」。実現可能である。
そしてプラスアルファ。「手に入れられる情報は出来る限り手にする」この追加情報が今の雅礫を構築していた。

「…………ねえ、雅礫」
凛と響く、柚希の声。
「……!?」
先ほどまで雅礫の目の前に立っていたはずの柚希、その声が、雅礫の背後から聞こえた。目を離していないどころか、瞬きすら、していなかったのに。
雅礫が反射神経を頼りに飛びのくよりはやく、柚希の白くて細い腕が雅礫の胴に絡みつく。
「うふふ、あなたの心音が聞こえるわ。いつもより速いんじゃない。どうして? 恐怖から? 緊張から? それとも」
興奮しているの? ねっとりと絡みつくような柚希の声。雅礫は一瞬、さまざまな感情が混ざった顔をしたが、結局柚希を振りほどきはしない。
「……俺に「抱け」と言っている様に聞こえるが?」
「いいのよ、別にそれでも。来る?」
「断る。それに別に俺でなくてもいいんだろ?」
「大・正・解。志貴は嫌だけどね」
「だったら他の男でも連れてくれば? 俺はてめェの暇つぶしに付き合う気がおきねェよ」
「そうねえ……」
少々考えるような柚希の気配。雅礫には耐え難い沈黙が数十秒。背中に当たる大きくて柔らかい二つの「ソレ」は、いくら雅礫が怒りに燃えているといえど、無視できるようなものではなった。自分が男であることを自覚して、たまらなく切なくなる。
と、そんなとき。
ちろりと赤く官能的な舌が、
雅礫の首を這った。
「……ッ」
一瞬呼吸が止まる。誰の舌かなんて、この場合考えなくともわかる。そもそも「生暖かいものが触れた」としか捉えられなかった雅礫の思考に、柚希の声が染み込む。
「血、吸っちゃおうかしら」

柚希。その名は、妖怪たちがすむ国「黄昏」には知れ渡っている。その力一つで「なにもかもが」壊れると言われるその女は、吸血鬼だった。
総じて美しい姿をしている吸血鬼。柚希は例に漏れるどころか、吸血鬼の中でも見目麗しい存在だった。ある者からは羨望のまなざしを向けられ、ある者からは憎悪の念を送られる。そんな彼女。
雅礫の脳が、一瞬でひやりと冷める。

「……俺の血は、今のあんたには毒だろうに」
「そうよ。とってもまずいはず。そもそも式神の血を吸う気が起きるほうがおかしいけれど」
柚希と同じく吸血鬼である志貴。彼は雅礫の血を好んで飲んだ。
吸血鬼としてはかなり弱い分類に入る志貴は、「妖怪の血」を吸ってやっと本来の吸血鬼の力を出せるのだ。しかし、彼の身体は弱く、個々の個性が強すぎる妖怪の血は毒なのだ。
そこで、「元妖怪、今は志貴の操っている」雅礫の血を使う。自分が操っているわけだから、雅礫の「エネルギー」には志貴と同等のものが色濃く出ている。
故に、雅礫の血なら「自分の血を吸っているような気軽さで、他の妖怪の血が吸える」のだ。吸血鬼は自分の血を吸うことに抵抗を示すが、これなら問題なく、且つ強くなれるし病にもならない。だから志貴は雅礫を使うのだ。
だが、他の吸血鬼からすると、「他の妖怪の式の血」は恐ろしくまずいのだ。それだけではなく、身体の中で拒否反応が起きる者もいる。

柚希はしばし逡巡して、やがて離れた。
そして思い出したように教卓に座り直して、わざとらしく時計を指差してみせる。
「よろしいのかしら、雅礫? ここって、禁止エリアになってしまいますわよ」
「……まだ、時間があるだろう」
「ありますわよ。ですから、私とここで時間を潰してもいいんですけれど……うふふ、よろしいの?

その前に志貴が死んでしまうかもしれませんわ。

あの子、脆弱だから」
雅礫の顔がさあっと青褪める。

いくら確証のないことでも、それだけは雅礫の思考を鈍らせる。
志貴とはただの友人だ。その関係を彼が望んでいる。
けれど式神とその操り主、そういった関係であることにも間違いはないのだし、主の危機といえば、動かないわけには行かない。
ぐう、と雅礫が苦しそうに唸る。
眉間に皺がより、顔には影が指す。

「ああ、おやめなさい。せっかく私が美しく構成した顔を、そんな風に崩さないでくださいな」
柚希の白魚のような指が雅礫の眉間を抑える。

「……絶対に、許さないからな……!!」
その手を払い、雅礫は駆け出す。
どこにいるかもわからない、友人兼主人のために。


勿論だが、デイパックを忘れるようなことはしない。



【6-D/鎌石小学校/一日目-昼】
 【雅礫@黄昏シリーズ】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針:奉仕(志貴)
  1:盲目的に志貴を探す
  2:コンピューター脳面倒くさい





【雅礫の敵】

彼女は静かに涙を流していた。
「……私は、あなたたちを信じているから」
彼女――土御門伊織は、顔に動揺を滲ませない。ただ、静かに、表情を崩さず、涙を流していた。

「私は、あなたたちが死んだら、こんなふうに、泣くわ」
あなたたち。
土御門伊織とともに行動する鬼一樹月と、ジェラール・サトゥルクオンに宛てた言葉だった。


「貴方の涙は珍しいものですね」
樹月が笑わずに答えた。
ジェラールは、答えない。

土御門伊織は、先ほど聞いた第一次放送で、大事な部下を失った。
ただの人間だった円千代。彼は妖怪である伊織についていくために自ら命を絶ち、「幽霊」という強さを得た彼。彼とは長い間……伊織にとっては「長くない」時間。
千代が自殺した瞬間、伊織はすぐ目の前にいた。
人は死ぬと、知識を捨ててしまう。身体に残していってしまうのだ。
だから、亡霊になりたての千代は、目の前の女のことを覚えていなかった。
「そうなること」を伊織は知識として知っていたから、彼女は千代の自殺を監視し、魂が逃げる前に、「身体に押し戻す作業」をした。
白澤である彼女に、その程度のことは容易い。
まあ、存命の千代にはひよこのようについて回られた伊織だ。「ひい、誰なんだあなたは!」と逃げ腰で叫ばれて、全く傷つかなかったわけではないのだが。

死んだ魂を死んだ身体に戻しても、息を吹き返しはしない。「幽霊」が「亡霊」になるだけなのだ。
亡霊になって知識を取り戻しても、思い出せないものがある。
名前だ。
名前はモノを表す記号ではない。それだけで強大な意味を持ち、結界をはる。
千代もそうで、存命時の名前は思い出せないのだ。記憶の中の自宅で、表札に「末吉」と書いてあったので、どうやら苗字が「スエヨシ」だということはわかる。
けれど、親や友人に何度も呼ばれたはずの、名前だけはどうしても思い出せなかった。
だから彼は伊織に「自分の名付け親」になってほしいと頼んだ。
伊織は了承し、苗字はそのまま、「千代」と名前をつけた。
「千年に代わる知識」と、永遠と不死の象徴とされる「蝶」をかけたのだ。女性的な名前だから嫌がるだろうか、と、おもったが、彼は喜んで了承した。
苗字も変えたいと千代が言うので、「輪廻」から連想して「円」、語呂よく「まどか」と読ませることにした。

伊織は、千代に向かってこんな話をしたことがある。
「ギリシア語では、魂や息を意味する単語は、蝶をも表す発音なのです」
伊織自身、ギリシアの知識には乏しい。少し自信がなかったが、そう教えた。すると千代は嬉しそうに笑ったのだ。その顔を、伊織は忘れない。



ジェラールは、泣かなかった。
けれど、第一回放送の段階で、彼の知り合いが三人も呼ばれてしまったのだ。
「話したことはなかったけれど」、ジェラールの普段暮らす国で、有名な財閥の娘である、アリッサ・エルゼーン。
「会釈程度しかしなかったけれど」、ジェラールの普段暮らす城で、メイドをしていた、ツクモ・サーシャ。
そして、「顔を合わせない日はなかった」、ジェラールと同じ軍で働く、気丈な軍人、レイチェル・キール。
伊織と千代ほど、密接な関係である者はいなかった。
けれど、三人。打撃でないはずがない。
とくにレイチェルの死は、彼の心に一抹の不安を生む。

自分が怪我をすれば、説教をしながら治療してくれた治療隊の、その隊長であるレイチェル。
無意味に人を殺すようなことはしなかったが、治療隊に入れておくにはもったいないほどの戦闘力を誇るレイチェル。

――そんな彼女が、殺されたのか?

ぐらりと視界が歪む。目眩だ。バランスを崩さぬよう、必死に踏ん張る。

「……休息は必要ですか」
伊織に向けたのだろうか、それとも、ジェラールにだろうか。
樹月が口を開いた。
「大丈夫ですか」という心配でもなく、「どなたか、お知り合いでしたか」という確認でもなく。「誰か知り合いが死んで、打撃を受けている」ということまで理解した上での問だった。
まあ、片や涙を流し、片や目眩でふらついたのだから、傍から見て気づかない方が珍しいはずだが。

けれど(見た目は)年下である樹月が、そんな風に余裕だったのが気になったのだろう、ジェラールが息を吐いてから問いかける。
「鬼一さんのお知り合いは、いかがでした?」
「そこの伊織さんが大打撃なこと以外は、特に……特に」
二回目の「特に」を、樹月は強調した。
続きがあるのかと構えるジェラールの前で、樹月は左手で顔を覆い――。

「おやめなさい。あなたはその短気を速やかに治すべきだわ」
ジェラールの三歩先、樹月の一歩前を行く伊織が、振り返らずにぴしゃりといった。

びっくりしたように、ジェラールと樹月が伊織の後ろ姿を見つめる。彼女の背筋はぴんと伸び、髪の毛は乱れもなく流れている。後ろ姿だけを見ると、完全に立ち直ったように見えた。
勿論そんなことはないのだろう。けれど彼女の周りで「親しい者」が死んだのはこれが初めてではなかったし、蹲っている暇はないのだ。
「とにかく。我々のように、ただ進んでいるだけではいけません」
伊織は振り返らず、寧ろ歩速を早めながら語りだす。

「まずは、「速やかに」「きちんと」計画をまとめます。我々は頼られる側の存在にならねばならないのです。なぜなら、


我々が、最も柚希の弱点を知っているのですから」




【9-G/道/一日目-午前】
 【土御門伊織@黄昏シリーズ】
 [状態]:動揺(大)、怒り(極大)
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針:生き残る
  1:千代……申し訳ありません
  2:樹月の提案した「柚希マジ殺す作戦(仮」には参加する。ただし計画をきっちりしましょう
  3:ジェラールのことは疑っていないが、少々利用させてもらおうと思っている
 [備考]
 ※ 白澤という妖怪です
 ※ 柚希とは知り合いです



【9-G/道/一日目-午前】
 【鬼一樹月@黄昏シリーズ】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針:柚希殺す
  1:生き残る気はあるようだ
  2:二人の周囲が死んだやばい
  3:無駄に殺人を犯す気は無い
 [備考]
 ※ 鴉天狗です
 ※ 柚希とは知り合いです


【9-G/道/一日目-午前】
 【ジェラール・サトゥルクオン@UNKNOWN】
 [状態]:動揺(小)
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品
 [方針/目的]
  基本方針:なるべく多くの人間とともに脱出する
  1:柚希には本気でイラついてます
  2:アリッサ様……ツクモちゃん……――レイチェル
  3:疑われていると思っている



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最終更新:2013年02月10日 19:46
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