黙り込む繁華街。騒々しいはネオンの輝きのみ。
そこに、新たに光が生まれる。
光はやや大きく、尖った頭部と滑らかなラインを型どり、やがて消失してしまう。
それに取り残されたのは頭上で煌めく冠とは不釣り合いな白いペンギン。
彼こそが魔界で名を馳せる、ベルゼブブ931世・ベルゼブブ優一である。
「はぁ~~、面倒なことになった」
上げた第一声は誰に届くわけでもなく、空虚に溶けていった。
ベルゼブブはこの命を掛けたババ抜きゲームにおいて、自身がどのようなスタンスをとるか迷っていた。
別に、誰かを殺すことに抵抗があるわけではない。人を不幸にしてこその悪魔なのだから。
ただ主催者の言うことに素直に従うのも塵。かと言って、こんなところでのたれ死ぬのも御免だ。
ベルゼブブがこの姿で召喚されているということは、相手は相当の手練れ。そうでなくてもこのうざったい首輪がある限り、主催者への真正面からの反す逆は不可能だろう。
(さて、どうしたものか…。おや?)
目の前に出現した白光する塊に、直ぐ様思考を停止させる。
来たるは敵か、それとも―――。
□ ■ □
少しでも視線を感じれば、晒し者になっている気分になる。
笑い声が聞こえれば、自分の陰口で盛り上がっているのだと勝手に落ち込む。
“本質”孤独。
誰かに憧れるような取り柄、無し。
唯一出来ることは“本質”による“影遊び”。
コンプレックス、十個以上。
女顔。チビ。貧相。ひ弱。色白。コミュ障。童貞。眼鏡。男の割に妙に高い声。友達0、などなど。
根暗少年・
香山伊織はいかなる場面に於いても、自分の“本質”を貫くつもりだった。
…のだが。
不幸なことにゲーム会場なるこの島への転送が完了したと思えば、既に目の前にはペンギンが。
予期せぬ出来事にあちらも驚いたのか「おや」などと短い声を漏らしているが、相手の眠たげな表情には微塵も変化は無い。
「貴方も運が悪いですね。一番最初に出逢ったのが、このベルゼブブとは。
しかし安心なさい。別に取って喰おうなどとは思っていませんから。
で、貴方はこのゲームに乗るのですか?」
「……」
「…チッ、だんまりかよ。まぁ、恐怖で声が出ないのでしょうね。何だか芋っぽいですし」
「……」
「……」
常に返事は無言。呆れた相手もとうとう口を閉ざしたなら、場の支配者は沈黙になる。
ペンギンの言うことは惜しいだけで、正解ではない。
伊織のだんまり癖の根本的な原因は、相手に対しての“恐怖”ではない。
確かにこのゲームに対して、自身の命の危機に対しての恐怖は少なからずあるけれど、その感情と話さないこととはほぼ無関係である。
ただ、誰かと関わりたくない。
“あの日”を境に関わりたくなくなった。
関わることが嫌いに、なってしまったから。
酷く億劫になってしまった。誰からも逃げたくなってしまった。
全て捨てたしまいたくなった。だから全てを捨てて、生まれ持った本質“孤独”を受け入れた。
だから、話さない。目を合わせない。ひたすら無言を守り通す。
「…」
「はぁ、コミュ障かよ。
…本当はこの状況でこんなことはしたくないのですか。したくないのですが!
何も言わないのなら仕方がない、無理にでも心中を吐かせてさしあげましょう。
貴方はゲームに乗るのですか?全てを白状しなさい」
緩く瞬いたペンギンは演技じみた大袈裟な溜め息をついて、三歩ほど伊織へと歩み寄った。
まずいと感じ後退するも意味はない。ペンギンの鋭い眼光に捕らわれて、遂に伊織は口を開いた。
「…ゲームには、乗ってないよ。僕はただ、―――」
□ ■ □
香山伊織を名乗る少年と邂逅を果たして約一時間。
能力を駆使したベルゼブブは些か疲労を感じて付近の飲食店に伊織を誘った。
首輪による制限か、連続して使えなくなった職能“暴露”では引き出せなかった分の情報を得るためだ。
能力の効果が切れればまたもや黙り込むかと思った伊織も、少し悩みながらも素直に応じていた。
「未来を生けるエイリアンと人間の“混血”、ですか」
「…あ……うん…。未来っていうか……その…僕にとっては……今、なんだけど…」
伊織によれば、混血とは皆一様に生まれた時より“本質”が定められ、同時に頭は良くないが凄まじい怪力を誇るパワー型・力は無いが速さは随一のスピード型・運動能力は他2タイプに負けるが驚異の頭脳と回復能力を持つ計算型の3タイプからどれか一つの才能が与えられるという。
血の濃さやタイプにもよるが基本的に回復能力や身体能力は人間とは桁違いであり、何万年という年月を寿命とする生物。
その生物は自分以外にもこの会場には九人ほど存在していて、その内、伊織と同じ“高校十二学生”は
福原隼人・
小森ひなた・妹尾大樹・園村理緒・危険人物である四条瑞季の五人であること。
四条瑞季の名は、先程職能を使用した時にも出てきたため掘り下げて聞いてみたが、黙秘された。
――恐らく、これ以上追求したって無駄。
そもそも四条が注意すべき人物ということさえ知れたなら、職能を使ってまでも二人のしがらみを知る必要は無いだろう。
それに、こちらから与えた情報にだって穴はある。
ベルゼブブが明かしたのは“悪魔使い”の佐隈りん子のこと、自身やアザゼルの職能、悪魔そのものの再生能力に関してのみ。
悪魔にとって唯一の弱点となるグリモアについては一切触れていない。
隠し事をしているのは伊織だけではないのだから、 お互い様なのだ。
「それで、これからどうするんです?ゲームに乗らないということは、ゲームに抗うということですか?それとも、さっき私にしたようにスルーを決めるつもりですか?」
「………あ…いや、えっと…とり、あえず………一人で…」
「とりあえず一人で、何もしないでやり過ごすということは出来ないと思いますよ。
自分可愛さに、ジョーカーとやらを抹殺するために無差別に殺して回る輩だって居ないとは言い切れない。
貴方、自分が殺されそうになっても何もしないんですか?逆に、その時は一人で対処出来るんですか?」
「…う……」
「まさか何も考えていなかったのですか?」
「……あぁ…う、うん…」
何という考え無しの駄目男。典型的な雑魚野郎である。
話す度に、もじもじもじもじと鬱陶しいくらいの擬音が聞こえてくる。面倒臭くて仕様がない。
ここで捨て置いても良いのだが、知り合いが多い分、充分手駒になる人物であることは確か。
結局のところベルゼブブ自身の方針もまだ定まってはいないが、利用出来るものは手元に置いてあった方がいざというときに役に立つということで、一つ提案をしてみることに。
「…それでは私と協力して、このゲームから皆で脱出する方法を考えませんか?」
「…ぇ……ぁ…そんなこと、出来るの…?」
「私一人では不可能でしょうけれど、少しでも仲間が居れば可能性はあります。
例えばこの首輪を外せるほどの力を持つ人物だとか」
「…居る、かな……?」
「うじうじうじうじうっせぇな。良いから黙って協力しろやクソが」
「………………」
こほん―――わざとらしく咳払いをして軌道修正。
「私が居ると、貴方も何かと便利でしょう。重度のコミュ障ですし、一人だと挙動不審すぎてゲームに乗ってる怪しい奴と思われても仕方がありませんよ」
「………あ、…う、うん…そっか」
歯切れは悪いけれど、上手く事を運ぶことは出来た。
最後にもう一度念を押すように、欠片も思っていないことを、心を込めて言い放つ。
「さあ、行きましょう。勇敢に主催陣に立ち向かい、このゲームから皆を救うのです!」
【深夜/D-3、繁華街・飲食店内】
【ベルゼブブ931世・ベルゼブブ優一@よんでますよ、アザゼルさん。】
[状態]健康
[装備]無し
[道具]基本支給品、アイテム×1~3
[思考] スタンス:思案中。表面上は対主催。
1:伊織を利用
※香山伊織と情報交換をしました。
【香山伊織@
オリジナル】
[状態]健康
[装備]無し
[道具]基本支給品、アイテム×1~3
[思考] スタンス:ゲームには乗らないことを前提に思案中。
1:ベルゼブブと協力する。
※ベルゼブブと情報交換をしました。
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ベルゼブブ931世・ベルゼブブ優一 |
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香山伊織 |
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最終更新:2012年05月16日 22:14