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Magical Battle

「どういうこと……!?」

中学生くらいの背丈の、しかし若干大人びた雰囲気を纏った少女が、困惑の表情を浮かべていた。
バトルロワイアルに呼ばれたことだけではなく、その他にも複数の異常が、彼女を悩ませていた。
いつも冷静沈着で、滅多なことでは動揺を見せない彼女にとってこれは珍しいことで、そして同時にそれだけ大きなイレギュラー事象が起こっていることをも意味している。
少女の視線は、自らの片腕に装着された『盾』。
自らが『契約』によって得た力の副産物にしてほぼ無限の巨大容量を持つ収納効果と、彼女を支えるとある力を宿した盾を睨んで、美しい顔を驚愕の表情に歪めている。
彼女は暁美ほむら。
見滝原市というごく一般的な町で、陰で平和を守るべく魔女を討伐する正義の魔法少女――だった。
しかし現在彼女は、大切な友達と交わした約束を果たし、その友達を守るためだけに行動している。
多少の犠牲もその為ならばいとわない、魔法少女の在り方とは随分異なったものだ。
過激とも取れるし不審とも取れるそのやり口で反発を買うことには慣れているし、それが『どのタイミングで、いつ』起こるのかも大体、繰り返す内に分かってきた。


――――彼女の魔法少女としての能力(力)は、時間停止と時間の逆行だ。


最弱クラスの力であっても、それを数多の銃器や爆弾で補い、その差を埋めている。
そして、自身の目的が果たせないとなれば、時間を最大1ヶ月、『友達』と出会うその日まで遡り、また1ヶ月を繰り返す。そんな作業を彼女は何度も繰り返し、時間をループしてきた。
たとえば誰が死ぬ世界だとか、そういうことは分かるようになった。
最愛の友を救う上での障害も明らかになり、いよいよ最大最悪の障害と合間見えんとした時だった。
視界に走るノイズと、イビツな『誰か』の悪意に満ちた笑い声。
まるで地獄から蔓延る悪意だけを抽出したのではないかと思えるような声に頭が眩み、不覚にも耐えられず意識を失い、気付けばあの聖堂で演説を聞いてきたのだ。
おかしい。こんな脈絡もない、それこそ魔女どころの騒ぎではない現象が起きたことなど、ない。
まず暁美ほむらは経験のない事態に動揺を隠せなかったが、そこは幾度となく時間を遡った少女。
冷静に、まずはこの『現象』が毎度起きるものなのか、それとも砂粒の確率で紛れ込んだイレギュラー事象であるのかを、確認すると同時にこの時間軸を諦めた。
タイムリープの能力を使って1ヶ月前、出会いの瞬間まで戻ろうとして――だが、無理だった。
がつん、とぶん殴られたような衝撃を感じて、どうしても時間跳躍魔法が使えない。


そこでほむらは、あの聖堂にて、シャルル・ジ・ブリタニアに刃向かった少年のことを思い出した。
確か名は、ルルーシュとかいった気がする。
とにかくその少年は、シャルルに向かって何かしらの『能力』を行使しようとしたのだろう。
しかし結果は不発に終わり、彼自身かなりの動揺を見せていた。
まるで、今のほむらと同じように。

タイムリープは出来ない。
冷静沈着な脳をフル回転させ、ほむらはきっぱりと未練なく結論を打ち出す。
確かに難儀な話ではあるが、譲歩して考えれば、これは友――鹿目まどかを守るチャンスでもある。
この殺し合いで勝利をもぎ取り、願いとやらでまどかを救うよう願えば、それでいい。
しかも都合のいいことに、暁美ほむらは銃器を用いる時間停止の魔法少女。
こと暗殺や隠密行動において、彼女は本職の人間以上に優れている。

が、覚悟の決まった彼女を引き戻したのが、あの時見たツートンカラーのクマの存在だった。
モノクマと呼ばれたあのクマの存在はシャルルの存在感に比べれば随分ちっぽけで、これがこのバトルロワイアルの計画者だなんて信じられないと普通は思うだろう。
しかし、魔法少女であり、全ての真実を知ったことで『絶望』に敏感になった彼女には分かった。
シャルル・ジ・ブリタニアよりも巨大で底の見えない存在、真に恐れるべきはあのクマだと。
彼女が疎む忌まわしき生命体、インキュベーターが『無自覚の悪』だとすれば、あれは『悪』そのもの。他の言葉なんて要らないくらいに、その一文字が良く本質を見据えていた。
ゆえに彼女は疑ったのだ。
彼らが語った『優勝賞品』の話は、本当に信用に足るだけのものなのか? と。
上手い話には穴があることを、特に彼女たち魔法少女はよく知っている。
その穴が引き起こした惨劇を知っているほむらだからこそ、その一抹の疑念を確証に変えられたのだ。

(……とてもじゃないけど、信用できないわ。シャルルだけならまだしも、……あのクマは)

魔法少女の力を奪い、制限するような芸当をどうやってやってのけたのかは未だ謎のままだ。
しかしシャルルは言っていた。パラレルワールドと。
暁美ほむらの時間跳躍とはまた違う、世界線そのものが大きく変革した別世界の理論。
たとえば、『魔法が一般化している世界』や、『魔法少女が存在しない世界』なんかには、個人の能力を封じ込めて操作するくらいの技術は、あったとしても不思議ではない。
それでも、口車に乗せられて大きな破滅を見るよりかは、砂粒の希望に賭けてみるのも悪くない。

暁美ほむらは、バトルロワイアルに反抗することをここに決意した。
彼女らしく合理的な理論で、より利得の大きいやり方として、この道を選び取った。
ふう、と溜め息を一つつくと、彼女は盾の内側に収納していた『それ』を取り出す。
黒光りする無骨な塊――ほむらにとっては最も手に馴染む武器、拳銃である。
銘柄はベレッタM92、豊富な種類がある拳銃の中でも比較的オーソドックスで使いやすい一品。

『盾』の内部に溜め込んできた兵器が全て没収されていた時には流石に苛立ったが、そこは抑えた。
元の武器の中にもあったこれなら、手にも馴染む。
もう2つの支給品については確認こそしたが、どちらもほむらの武器となるようなものではなかった。
他の誰かなら或いは使いこなせたのかもしれないが、慣れない武器にチャレンジしてみるほど、暇はない。四十八時間でバトルロワイアルを解体し、元の世界へ帰らなければならないのだ。
ベレッタの弾薬を確認すると、ほむらはまず一歩踏み出した。


「出てきなさい。いるのはわかってるのよ」


そして、曲者へと銃口を向けた。
此処は廃校。暁美ほむらはその一教室でこうして一連の分析を行ったわけなのだが、その最中感じていなかった気配を、ここで感じた。
まるで予想していない方向からの違和感に驚きはしたが、決して表面に出すことなく止めた。
殺し合いに乗らないにしても、残念ながら『乗っている』人物に対してまでは配慮できない。
いずれ自分やまどかを脅かす前に処理しておかなければならないと、彼女の心は半ば冷酷にそう告げた。

だが、如何にほむらが魔法少女とはいえ――、すべての敵が彼女に遅れを取るとは限らない。


「――ふむ」


ざっ、ざっと重々しい足音を響かせながら現れた人影に、ほむらはベレッタを握る力を思わず強める。


現れた男は、大柄で筋肉質な僧衣の男だった。
見方を変えれば聖職者に見えなくもないのかもしれないが、その目元は陰鬱に落ち窪み、顔中で陰鬱を表してしまっている。
少なくとも、お近づきになりたいかどうかと聞かれればノータイムでノーと答えられるような印象を受ける。

「勘違いするなよ、女。私は貴様をずっと監視していたのだ。なかなかに珍妙な力を持っているようだからな」
「…そう。で、貴方は結局私に何か用があるのかしら?」

あくまで警戒の色は緩めず、ベレッタの銃口も決してずらすことはしない。
この男の前で弱みを見せてはいけないと、本能的な何かが告げている。
冷たいほむらの態度に男はその口元を僅かに歪めて見せると、まるで顧客を得ようとするセールスマンのように、両手を広げた。
若干の高揚が感じられる仕草の中でも、その顔面だけが固まったように陰鬱の色を濃くしている。

「私の目的を果たすことはもう叶わぬと思っていたが、どうやら天上の神とやらはまだ私を見放してはいなかったらしい」

瞬時。
暁美ほむらはベレッタの引き金を、一瞬の躊躇もなく男に向けて引いた。
だが男の肉体を銃弾が射抜くことはなく、右腕を真横に振り抜いた、ただそれだけの動作で銃弾は封殺される。
ほむらの魔力を帯びたことにより、人外の存在である『魔女』にだって通用する威力に調整してある筈――こんなにあっさりと、まるで寄ってくる羽虫を払うが如き動作で回避できる攻撃ではない。
そう、彼が普通の人間であり、纏っている僧衣が普通のものであれば、だが。

男は、魔術師である。
ただ一つの目的に辿り着くために何度敗れようと懲りずに、ストイックに『抑止力』と戦った怪物。
その過程で生じるだろうありとあらゆる障害を取り除いても、抑止の壁はあまりにも高い。
ある少女の肉体を奪うことでようやく求めていた『根源』へ到達できるかと思っても、その少女自体に殺されてしまっては何の意味もないという話だ。
纏っている僧衣は、普段男が着用しているものではない。
ケブラー樹脂が編み込まれ防弾に特化した特注の品。弾丸の衝突による衝撃とて、仏砂利を埋め込んで加護を受けているその腕の前にはまるで無力である。
―――そう、それがたとえ魔法少女の攻撃であったとしても。

「―――っく!?」

ほむらはその想定外の行動に驚きを見せながらも、男の剛脚から繰り出される鋭い蹴撃は避けた。
まともに受けていれば魔法少女のほむらであろうとひとたまりもなかったろう。
只者ではない。ほむらはベレッタを構えるが、その顔色は決して芳しくなかった。
一度防がれた攻撃を繰り返しても、所詮は単なる悪足掻き程度の効力しか生んではくれない。
目の前の得体の知れない難敵に、暁美ほむらははっきりと焦りの色を浮かべる。

(不味いわね……こっちの攻撃はまるで通りそうにない、か)

ベレッタは元々、ショットガンほどの破壊力を備えてはいない。
マシンガンのような銃であれば跳弾で頭を狙うことも出来たかもしれないのだが、生憎これ以外に重火器の類を支給されてはおらず、これだけが頼りだった。
男の足が地面を蹴ると、ほむらの眼前にまで一気にその巨体を詰めてくる。


―――"時間停止"。
この程度の苦境で折れていては、ただ一人の親友を救うために地獄のようなループを送るなど無理だ。
自らが契約の対価として手に入れた力を使い、男もろともこの空間の時空を凍らせる。
男の攻撃の範囲から飛び退くと、空中からベレッタM92の銃弾を一発、男に向けて放った。
無論魔力の籠ったもので、普通の弾丸より威力は上の筈だが、先程は通じなかった。
しかし、時間停止を兼ねた半ば不意打ちに近い一撃ならば、反応することは容易ではない筈。


だが。


「ぐ、ぅっ……!?」


男が取った行動は、実に単純なものだった。
時間停止が解除した瞬間的に頭を下げ、僧衣と仏砂利、そして強靭な肉体のおかげで鉄壁と呼んでも誤りではないだけの強度を実現した両腕で、ただ守る。
ベレッタの銃弾で男の防御を破れないことぐらいは、ほむらにだって分かっている話。
防がれるかもしれないとは思っていたが、それ以前に彼女を苦しませたのは、予想外の痛手だった。
――"時間停止"を使った後に、全身を疲労感が襲ったのだ。
止めた時間は現実世界にして精々六秒程度の筈だが、今までこんな反動を感じたことなどなかった筈。
ソウルジェムの濁りともまた違うダメージに、思わずほむらは一瞬動きを止めてしまう。
むろん、そこを見逃してくれる相手ではない。

「――――粛!」

男が叫ぶと、ほむらの華奢な身体を、強い圧迫感が唐突に襲う。
外側から巨大な掌に握り潰されるような感覚、といえば分かりやすかっただろうか。
時間を停止したところで、魔法少女のポテンシャルを全て余さず発揮しても、逃れられない。
この圧迫から逃れるような力を、生憎暁美ほむらは持ち合わせていなかった。
彼女の知るとある魔法少女――あの青い正義の魔法少女なら、身体を潰された程度では死ななかったろうが。いや、正確にはほむらだって即死するわけではないだろう。
魔法少女は実質的なゾンビ、即ち限りなく不死者に近い存在である。
先の時間停止の一件のように、主催から何かしらの干渉がされている可能性はあるが、それでも魔法少女の特性がある以上は、まだ逆転の可能性はあるのかもしれない。
―――――かなり絶望的な可能性ではあるが。

(……ここでは、死ねないっ……)

暁美ほむらには使命がある。
親友との約束が、守らなければいけない誓いを背負っている。
だからここで死ぬことは出来ないし、こんなところでの犬死になんて絶対にゴメンだ。
しかし、この陰鬱げな男に対して一切の打開策が存在していないこともまた、事実。
どうすればいい、そう思っている内にほむらは、僧衣の男がなかなかその力を強めないことに気付く。

(――……?)

その陰鬱げな面の口元に、僅かな微笑みさえ浮かべて、男はほむらを凝視する。
彼の『世界』には魔法少女なんて存在はなく、代わりに魔術協会などの組織があった。
きっと魔女なんてものが発生しても、聖堂教会の代行者集団が瞬く間に叩きのめすことだろう。
だからか、男は暁美ほむらという魔法少女に対して僅かな興味を懐いたらしかった。
以前に三人の人間に力を与えたように、この少女を駒として使う術を、彼は漠然と模索する。
本来、こういうしっかりしているようで重大な弱さを抱えているタイプの人間を操るには、もっと致命的に弱ったところを狙うのが丁度いいのだが――――。

「否。急ぎ欲する理由もない、か」

――――男は、暁美ほむらを殺害する決断を下した。
何せ彼の目的は今、優勝だけに向いている。
求める者を手に入れて理想に到達する、そのためにこれまで作ってきた駒も此の箱庭にいる。
自ら加速させるまでもなく進行する殺し合いの中、自分がやるべきことなどそれこそ、殺すのみ。

「では、さらばだ」

まどか、と最愛の親友の名前をほむらが呟く。


まさにその瞬間のことだった。



「ハァァアアアアアアアア――――――!!!!」



突如窓ガラスが突き破られ、筋肉質の男が、僧衣の男にドロップキックをかました。
ぬぅっ!? と、ここに来て初めて僧衣の男が動揺の声を漏らす。
それは予想外の襲撃だったからだろうか、それともその攻撃の威力が並のそれではなかったからか。
答えは後者だった。
男にとって不意の襲撃を見抜くことなど些末なこと、その程度は雑作もない。
現に僧衣の右腕は想定外の威力を秘めた飛び蹴りを受け止めて、それでもその威力を見事封殺している。
仏砂利の加護がなければ、鍛え抜かれた肉体とて骨折くらいは免れない威力だった。


「そこまでにしておいて貰おうか」

筋肉質の男――ベルカの守護獣にして時空管理局『機動六課』のメンバー、ザフィーラ。
彼の不意打ちは僧衣の男の魔術を見事解除させ、ほむらに加わる攻撃を断ち切る。
しかしそれで動揺するほど生易しい敵ではない、それはザフィーラも承知のことであった。


(あの体勢から防がれるとはな……これは、手強い相手かもしれん)


片手で、強力な防御ではあるがバリアジャケットには大きく劣る僧衣で、防がれるとは想定外だった。
しかもほむらの様子を見た限り、この男も何かしらの使い手の模様。
……魔導師。それにしては少しザフィーラの知る彼らと違うところがあるものの、この局面ではそう判断するのが一番適切だろう、と思える。


「――粛」


短い文言を男の口元が紡いだ刹那、ザフィーラは半ば直感的にその場から飛び退く。
―――何かを、感じた。殺気に等しい、だが限りなく異なった何かが、あの座標で凝縮した。
恐らく先程までほむらを苦しめていたのもあの魔法だろうと、ザフィーラは推測する。
実力は相当。決して卸しやすい敵ではないようだが―――負けられない理由は十全。
この殺し合いにも呼ばれている自分の仲間を守り、そして他の参加者達だって誰一人死なせたくない。
ベルカの守護獣の誇りに懸けてでも、バトルロワイアルなんてものを許すわけにはいかない。
ゆえに、ここで負けるなんてコトは、絶対にあってはならないことだ――――――!!


「ハァッ!」

瞬、と空気を切って放たれる拳。しかし、男はそれを軽々と避ける。
まるで読まれているかのように錯覚してしまうが、攻めは止めない。
如何に強大な魔導師であったとしても、打ち倒せない相手などこの世にはないのだから。
ザフィーラの猛攻に僅かに顔をしかめる男だが、まともなダメージが通っているようには見えない。
まるで壁に向けて殴っているような感覚にも陥る。だが、状況はそこまで悪くはないのだ。
僧衣の男が相手をしなければならないのはザフィーラ一人ではないのだから。

「避けて!」

声に反応し、ザフィーラは頭だけを左に倒す。
空間を駆け抜けた一発の銃弾は、僧衣の男の右耳を掠めて背後の壁に銃創を刻んだ。
微々たるものではあれど、傷を負わせることができたのは大きい。
二対一でなら、倒せない敵ではない――二人の思考が一致した瞬間に、男はとある行動を取った。

「――分かった。ここは此方の負けだ」

言うが早いか男が取り出したのは、一つの小さな塊。
よく見れば神々しくもあり、だがしかしそれ以上に地獄の魔性をありありと放つ『それ』の効力を知る者は、この場に僧衣の男以外には存在しなかった。
水晶のようでもあるが、ここまでの邪悪を孕んだ『それ』を、誰が水晶の一言で片付けられようか。
そして『それ』は、比喩でもハッタリでも何でもなく、真の意味で起死回生の一手となり得る一品。
破壊と覇道の権化、天下布武を掲げた大魔王の象徴。
その危険性は失われた技術の遺留物――『ロストロギア』に関わったことのあるザフィーラは勿論、絶望の1ヶ月を繰り返してきた暁美ほむらにもしっかりと認識することができた。
あれを使われれば、まずい。
この戦況をただの一瞬でひっくり返すだけの力を、邪悪を、あの紫水晶は秘めている。


「貴様ッ……まさか、ロストロギアを……!」
「――さあ、どうだろうな。とにかく、これを使えば貴様らは間違いなく、ここで朽ち果てよう」


僧衣の男だけは、支給品の説明を読んでその効力がどんなものであるかを把握している。
が、ザフィーラ達にとっては全くの未知である。
藪をつついて蛇を出すような真似をすれば御陀仏になってしまいかねないこの状況。
選択肢など、最初から一つしかない。男の要求を呑む以外の選択肢はどこにも残されていなかった。


「引き分け(ドロー)。それで手を打とう。此方も切り札は温存しておきたいのでな」
「……分かった」
「賢明な判断だ」

ふっと笑い声を出しても、その表情は晴れることがない。
感情を示さぬ能面よりよっぽど不気味だと、ほむらは苦々しげに思った。
結局この男が何者であるのか、そして何を求めて優勝するのかも、何も引き出せやしなかった。
ドローゲーム、そんな不本意な終わり方であっても、命があっただけ幸運と思うべきなのだろうが、どうしても心の奥底に根付く不信感を捨て去ることが出来ない。
そしてそれはほむらだけでなく、ザフィーラもまた同じことだった。
戦いには敗北していない、むしろ一人の少女を守れたことも加味すれば上等な結果だった筈なのだが、何故だか心の中には霧のようなもやもやが残っている。
去り行く僧衣の背中に向けて、暁美ほむらはひとつの問いを投げ掛けた。
それは彼にとって、もはや答えるのに飽きるほど、問われ続けてきた問いだったのかもしれない。

「……貴方は、一体「何」なの?」
「知れたこと」

振り返ることはせずに、重々しい声色で僧衣の男は答えた。


「魔術師――――荒耶宗蓮」


【一日目/深夜/B-2・廃校一階廊下】


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]全身にダメージ(小)、能力使用による疲労(中)
[装備]ベレッタM92(12/15)@現実
[所持品]基本支給品一式、ソウルジェム(穢れなし)、ランダム支給品×1(武器)
[思考・行動]
0:まどかを守り、バトルロワイアルから脱出する。
1:筋肉質の男(ザフィーラ)と情報を交換
2:荒耶と名乗る男には注意。次に出会えば今度こそ殺す。
※第十一話、ワルプルギスの夜との交戦前からの参加です。
※時間停止は使えますが、使った際に疲労が生じます


【ザフィーラ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考・行動]
0:バトルロワイアルを解体する
1:少女(ほむら)と情報を交換
2:仲間たちや他のヴォルケンリッターと合流する
※StrikerSからの参加です



    ■     □     ■


片耳から血を滴らせる、陰鬱げな面持ちの男が廊下を歩いていた。
全身を僧衣に包んでいるからだろうか、その格好だけを見ればどこか老練な神父のようにも見える。
しかし、この世のすべてを憂いているかのような表情が圧倒的に不自然だ。
余談だが、彼が纏っている僧衣の本来の持ち主であった男も、十年後には聖職者らしからぬ邪悪さを秘めたゲームマスターになるというのだから、因果な話でもある。

「両儀――完全に機を逃したと思っていたが、こうしてまた機会が与えられるとはな」

男の名前は、荒耶宗蓮。
誰よりもストイックに魔術を探求し、その悲願を達成せんとした、言葉通りの魔術師である。
幾度の失敗を重ねた上で、万全の準備を整えた上で何度目かの挑戦をしたが、またも結果は失敗。
抑止の力が働かなかったにも関わらず、一人の怪物とさえいえる少女に阻まれた。
悲願の達成を為すために不可欠だった存在に、彼は自分の計画を挫かれたのだ。

「状況で言うならば前回よりも芳しくはないが、これだけのことをすれば抑止力が黙っている筈がない。――どんな手段を使ったのか、どうやらこの『箱庭』は現在、『世界』そのものから弾き出されているようだ」

それは、荒耶宗蓮にとって願ってもいない好機だった。
いつだって人々を阻む高すぎる壁、抑止力。
あれが一切関与してこないのならば、荒耶の目的の達成は大きく、それはもう大幅に近付くのだ。
その鬱屈な面構えからはまるで汲み取れないだろうが、彼は今感謝さえしていた。
『ゲーム』―――バトルロワイアルの主催者どもは、よくやってくれた。
荒耶ほどの魔術師が全力を注いでも届かなかったものへ、こんなにも近付けてくれたのだから。


「……『根源』に至る。そのために精々利用させて貰うぞ」


目的は、鍵となる少女――直死の使い手、両儀式。
障害は排除するか使い潰すかをして、徹底的に取り除く。
此度ばかりは微塵の油断もない。此度こそは、両儀式の肉体を手に入れる。
デイパックから取り出した紫水晶を眺めると、切り札もあることだしな、と荒耶は呟いた。

黒き焔は、暗き魔術師の手にある。



【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]右耳に掠り傷
[装備]言峰綺礼の僧衣@Fate/Zero
[所持品]基本支給品一式、黒ノ焔@戦国BASARA、ランダム支給品×0~1
[思考・行動]
0:両儀式の肉体を入手し、根源へ至る。
1:他の参加者は殺すなり利用するなりする
※死亡後からの参加です。

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最終更新:2012年08月18日 11:48
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