「あぁ、最悪だ」
コール・マグラスは心底から気怠そうな声を吐いた。
最後の記憶はRFIを発動させた瞬間。
世界が青色に包まれ、色をなくした瞬間だった。
あの後世界がどうなったのか、コールには分からない。
それでも、人々を救えていればと思わずにはいられない。
人々を、親友を、救えていれば。
そうであれば悲しき事件の末に生まれ、そして滅んでいくコンジットたちも幾らか救われるだろう。
だが、今のコールに世界の行った末をゆっくりと考えていく暇などなかった。
オジマンディアスが語った
殺し合い。
この状況をまずは何とかしなければいけなかった。
「くそっ……次から次に」
幸いアンプはそのまま装備されている。
能力にも大きな変化はない。
周囲は市街地であり、コールが生きるに不可欠な電気はそこらかしこにある。
戦う分には問題はないはずだ。
「……どうする……」
殺し合いという異常な状況。
自分はどう行動すべきかを思考するコール。
コールは少し考え込んだ後、携帯タブレットを起動させた。
確認するのは参加者名簿だ。
道標となるかもしれないある一つの『ルール』を思い出したのだ。
オジマンディアスが語った色の分別。
参加者が『青色』に染まれば、殺し合いは終了する。
何をすべきか見当もつかない状況であったが、参加者達の『色』は確認しておくべきだろうと、コールは考えた。
見ると、参加者の三分の二ほどは既に『青色』だ。
コールはというと、コールもまた『青色』であった。
何故だかは分からない。
自身が『青色』である理由など、まるっきり見当もつかなかった。
「何……!?」
参加者名簿には、更にコールの苦悩を深まらせる名前があった。
ビースト。
それは宿敵の名前であり、コールの人生を一変させた存在であり―――激闘と数多の犠牲の上に滅ぼした筈の存在であった。
何故この名前があるのか、今度こそコールの困惑は極みに達した。
「どういうことだ。あいつが……生きているのか?」
理解できぬ事実に俯き考え込むコール。
それは考えたところで分かる筈のない問題。
彼はグルグルと回る思考の渦に陥りながら、立ち尽くす。
「くそ、どうなってやがる……!」
苛立ちを吐き出しながら、タブレット端末を睨むコール。
そう、口にした憤りの通り、コールは何もかもが分からなかった。
自身が殺し合いに巻き込まれた理由も。
オジマンディアスがこんな狂った殺し合いを開催した理由も。
『色』やら何やらといった謎の『ルール』も。
『ルール』を提唱した理由も。
何もかもが、分からない。
分からないからこそ、苛立ちが沸きあがる。
ふざけやがって、とコールが苛立ちに任せてタブレット端末を投げ捨てようとしたその時であった。
―――パキリ
木の枝を踏み折る音がした。
甲高い音。
その音がコールを我に返した。
顔を上げ、周囲を見渡す。
コールは自分を中心に弱い電磁波を飛ばし、周囲を探った。
その参加者がいたのは直ぐ近くであった。
草薮の陰にて息を殺し、身を縮こませる者。
その人物の元へと足を進めるコール。
「よう―――」
コールにしては出来るだけ優しく声をかけたつもりであった。
だが、その意図はどうやら伝わらなかったらしい。
「―――きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
返答は絹を切り裂くような甲高い絶叫であった。
草薮の陰にはまだ二十歳にも届かないだろう少女がいた。
整った顔立ちに背中まで流れる長い髪。
日本人、コールからすれば見慣れぬ人種だ。
叫び声に顔をしかめて思わず耳を抑えるコール。
そんなコールに、その少女は恐怖のまなざしを向ける。
それは、もう慣れっことなってしまった瞳だ。
拒絶と恐怖に染まった瞳。
この異能を手に入れたその時から、街を歩けば殆どの人々がそんな視線を向ける。
善行を繰り返し、街での評判が上がった後でも、そんな人々は存在した。
時には石を投げられる事もあった。時には侮蔑の言葉を投げられる事もあった。
そんな事にいちいち構ってもいられない。
「おい、落ち着け! 別にとって食おうって訳じゃないんだ」
穏やかに声をかけるが、叫び声は止まらない。
逃げようと足を動かしているのだが、腰が抜けてしまったのかがりがりと踵で地面をひっかくだけに終わっている。
思わず溜息がでかける。
このような事態でなければスルーを決め込むような相手だ。
「よしこれでどうだ。これで俺は手ぶらだ」
考えあぐねたコールは手中のアンプを投げ捨て、両手を頭上に上げる。
俗に言うホールドアップ。無抵抗を表す姿である。
アンプが落下するガチャリという重い音に、女性は叫び声を止めた。
怯えの色はまだあるものの、コールをしっかりと視界に捉えている。
恐慌状態からは何とか脱したらしい。
良い傾向だと、安堵を覚えるコールであった。
「落ち着いたな。良い子だ。自分の名前は言えるか?」
「あ、秋山澪……」
「アキヤマミオ。俺はコール。コール・マグラスだ。俺達はこんなクソみたいな状況で出会った。
何の因果かは分からないが、出会っちまったんだ。だから手を取り合わなければならない。分かるな?」
「は、はい……」
しっかりと視線を合わせて、言い聞かせる。
信用されているかは分からないが、今は真摯に語りかけるしかできない。
ぎくしゃくとしながらも頷いた澪に、コールもまた頷く。
「よし、じゃあ先ずは場所を変えるぞ。良いな?」
「え。な、何で?」
「さっきお前があげた絶叫を覚えてないのか? ありゃあ会場の端にいたって聞こえるぜ」
「あ……」
「どんな危険な奴がいるかも分からない状況だ。とりあえず移動しておいた方が良い」
コールの指摘に顔を赤く染めて俯く澪。
恐怖にかられての行動だったのだ。仕方がないとはいえ、思うことが無い訳でもないのだろう。
そんな澪の様子に小さく口を緩ませながら、コールは言葉を飛ばす。
「立てるか?」
「は、はい……あ、あれ? 足に力が……」
大分平静を取り戻したものの、身体はまだ着いていかないようだ。
立ち上がろうとするも、澪の下半身は全く言う事を聞いていなかった。
そんな澪へ無言で手を差し伸べるコール。
それが何を意味するのか分からず、澪は呆けたような表情を浮かべる。
男の人から手を差し伸べられるなど、澪には経験のないことだった。
「どうした? 掴まれ」
コールの言葉に、澪もようやくその意味を理解した。
おずおずと手を伸ばす澪の手を掴み、引き起こす。
その動作はとても力強く―――今の澪にはこれ以上なく頼もしく感じた。
「あ、ありがとう……ございます」
「気にするな。最初に驚かしたのは俺だ」
今にも消え入りそうな細い声で礼を言う澪に、コールはそれだけ言って歩みを始めた。
暗闇の中を先陣切って歩いていくコールの背中が、澪にはとてつもなく大きく見える。
それは平凡な女子高生と、世界を救う罪深き
ヒーローとの出会い。
二人のバトルロワイアルが始まった。
【D-4・市街地・深夜】
【コール・マグラス@inFAMOUS】
[状態]健康、充電率100%
[装備]アンプ@nFAMOUS
[道具]支給品一式
[『色』]青色
[思考]
1:移動する
2:澪を何とかする
3:ビースト……
【秋山澪@けいおん!】
[状態]健康
[装備]エリザベス@けいおん! 澪の携帯@けいおん!
[道具]支給品一式
[『色』]赤色
[思考]
1:コ、コールさんは良い人なのかな……?
2:死にたくない。帰りたい。皆と会いたい
最終更新:2013年01月21日 21:14