そして黒に染まる

(なんなんだよこれ……)

会場東部の森林エリア、そこで参加者の少年が困惑していた。
少年――八坂真尋はどうしてこうなったと、先程の惨劇を思い出す。
つい最近恋人になった居候の邪神との相変わらずな一日を過ごし、自室で眠りに就いたと思ったら、
いきなりあのホールで目を覚ました。
当初はまたどっかの宇宙人の珍騒動に巻き込まれたかとため息を吐きつつも、どうせニャル子達が解決するだろうと楽観していた。
だが見せしめと称し二人の人間が無残に殺された時、そんな考えは吹き飛んでしまった。

(よく分からないけど、これは今までのアホな騒ぎとは違う…。)

これまでも、アホらしい動機で発生した地球規模の事件に度々遭遇して来ている。
一ヶ月程前にニャル子が地球に来て以来、心休まる日など無いドタバタの連続。
続けてクー子やハス太までが八坂家に住むようになってからは、更にふざけた騒動に巻き込まれ頭を痛める日々が続いた。
だが人死が起きた事は一度も無いし、ニャル子たちだってここまで悪趣味な真似はしないはず。
普段から邪神へ容赦なくツッコミをしてるだけあって、真尋のメンタル面は強い方である。
とはいえこれほど明確に死を近くに感じた事など一度もない。
噴水のように血が噴出する頭部の無い死体。
思い出すと、想像以上のグロテスクさに吐き気がする。

(とにかく早くニャル子かクー子を探そう。僕だけじゃどうしようもない)

名簿には我が家に居る邪神の内、二体の名前があった。
あのニャル子たちまでもを拉致した主催者に戦慄を覚える。
とにかく今は彼女たちと急いで合流しなくては危険だ。
フォークで邪神を撃退できる真尋だが、この異質な場で普段のノリが通用するとは思えない。
支給された自衛に使えそうな手斧を持ち、まずは森を抜けようと歩き出す。

数分歩いたところで前方に人の姿が見えた。
緊張により汗ばむ手で手斧を握り締め、慎重に近付く。
そこに居たのは真尋と同年代と思われる少女だった。
青いショートヘアで、スリットの入ったロングスカートに胸元が大きく開けた服。
顔立ちは整っており、美少女の部類に入るだろう。

露出度の高い服装に一瞬、真尋が恥ずかしげに視線を逸らし考える。
彼女は殺し合いに乗っているのかどうかを。
少女とは大分距離があり、見た所武器も持っていない。
ここから声を掛け、大丈夫そうならそのまま近付き、危険そうなら逃げる。
これでいこうと決断し前を向く。

その僅かな間に、真尋の目の前に少女が移動していた。

「なっ!?」

驚く真尋だが少女はそのリアクションを無視し、彼の腹部に蹴りを入れる。
突然の衝撃に呻く真尋の首根っこを掴むと、地面に叩きつけた。

「ガっ…」

少女は痛みに身をよじらせる真尋を片足で強く踏みつけ動きを封じる。
その際真尋の手から落ちた手斧を拾い、片手で弄ぶ。
真尋を冷たく見下ろしながら、少女が話しかけてくる。

「あんな無用心に近付いて来るなんて…。あんた、状況分かってるの?」
「ぐっ、な、何が…」
「殺し合いよ、こ・ろ・し・あ・い。
ま、ロクに反応できないってことはニードレスでもない、レジスタンスでもないただのガキなんでしょうね」
「お、お前殺し合いに乗ったのかよ…」
「ええ。あいにくこっちはこんな所でモタついてられる程暇じゃないのよ。
それに丁度良くあいつらも来てるみたいだし、纏めて殺すには良い機会だわ」

平然と殺すと宣言する少女を見て、真尋は己の不運を呪う。
よりにもよって最初に会ったのがこんな危険人物だとは。
抵抗しようにも、それを阻止するように足に力を込められ、自分の胸に痛みが走る。

真尋は知る由も無いが、少女の名はセツナ。
アダム・アークライト率いる、巨大製薬企業シメオンの少女部隊の一員。
そしてミッシングリンク級のニードレス。
人を殺すのに躊躇などする筈も無い相手である。

「おしゃべりはここまでね」

弄んでいた手斧を握りなおし、振り下ろす為に構える。
真尋は青ざめた顔で尚も身じろぎするが、やはり抜け出す事はできない。

(こんなとこで死ぬのか……?)

真尋の頭に絶望の二文字が浮かぶ。
このまま自分の支給品で頭をかち割られ死ぬ。
ニャル子達と過ごす日常も悪くは無いと思えてきた矢先、こんな理不尽な死を迎えるというのか。

(僕は……)
「バイバイ。どっかの誰かさん」















「二人、か」







ゾクリと、真尋とセツナが共に悪寒を感じた。

セツナは振り下ろしかけた手を止め、真尋は目前に迫る死を一瞬忘れ、声の主を見る。
彼らから少し離れた場所、そこには夜の闇とは違う、黒が居た。

漆黒のマントと仮面に身を包んだ異形。
マントの下には同じく黒の装甲服と、金の刺繍が入った紫のボディスーツ。
スーツ越しに強調された肉体は、鋼のように強靭な印象を見る者へ抱かせる。

男の名はゼロ。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが魔女C.C.との契約により生まれ変わった姿。
エデンバイタルより与えられた使命を遂行する魔王。

バキリと地面に転がる枝を踏み折りながら、ゼロは固まる真尋達へ近付く。

「っ、ディーンドライブF・H(フォックスハウンド)!!」

ゼロが何かを仕掛けるよりも先にセツナが動いた。
真尋にやったよりも速く、速〈スピード〉の能力でゼロへ拳を繰り出す。
が、その一撃は容易く避けられた。
しかしその程度はセツナにとっても予想の範囲内。
能力を駆使し、繰り出されるは無数の拳。
柔な一般人なら全身風穴になる程の威力を持つそれが、魔王へ襲い掛かる。

「ほう、ヤツと同じような能力か」

ゼロはそれらを全て避ける。
契約で得た超人的な肉体を用いれば、実に容易い。
セツナは拳だけではなく、次第に蹴りも織り交ぜゼロを叩き潰さんとする。
だがゼロはその全てを躱し、両手でいなす。
時折何発か当たるものの、怯む様子は見られない。
反撃の暇を許さぬセツナの攻撃だが、決定的な一撃は与えられずいた。

「くっ…」

埒が明かず苛立つセツナ。
更に速度を上げようとした時、左右から黒い布が襲い掛かった。

「っ!?」

攻撃を中断し布を回避。
そこへ追撃とばかりにゼロが拳を突き出した。
咄嗟に両腕でガードするが、勢いは殺せず後退してしまう。
腕の痺れに顔を顰めつつ、油断無く構え直す。

(そういえばあいつは?)

チラリと真尋の方を見るが、彼の姿はそこに無い。
セツナとゼロが争っている間に逃げたようだ。

「一人逃げたか」
「ええ、でもいいわ。あんたを殺した後で追いかけて殺す」
「あの程度のスピードでか?」

ゼロの言葉に嘲るような笑みを浮かべるセツナ。
あれが限界だと思っているのならば見せてやろう、更に上の速さを。
そしてそのまま無様に死ね。

「ディーンドライブ…」

静かに構え、

「B・B(ブラックバード)!!」

突進する。

DD・FF(ディーンドライブ・フォックスハウンド)よりも上の速度を持つ必殺技。
一撃で決めようと拳を強く握り締め、


「――――えっ」


唐突に能力が解除された。
何が起こったか分からず顔を上げると、目の前にゼロが立っていた。
その手には紋様のようなものが浮かび、光を発している。

(まさか、こいつの能力――)


―――ゴッ!!


セツナの腹部に衝撃が来た。
ゼロの拳による一撃が容赦なく彼女を襲ったのだ。
木々をへし折りながら勢いよく吹き飛ばされ、それでもどうにか受身を取る。

「ガっ…あっ、うぅ……」

激痛に倒れそうになるがどうにか踏み止まる。
今は倒れている場合ではない。
確実にトドメを刺すべく、ゼロが追いかけてくるだろう。
傷ついた体に鞭を打ち、再び能力を発動する。

「ディーンドライブ・FF(フォックスハウンド)!」

己が技の名を叫ぶ。
声を聞いたゼロは迎え撃たんと構える。
だがセツナからの攻撃は一向に来ない。

「逃げたか」

あちらは重症、こちらはほぼ無傷。
不利を悟っての撤退か。

「さて…」

落ちていた手斧を拾うと、デイバッグ内に放り投げる。
セツナの居た方向と、真尋の逃げたであろう道を見比べ、やがて片方へ駆け出した。




「ハァ、ハァ、ぐぅっ……!」

木に背中を預け、痛みに耐えるセツナ。
少しでも遠くへゼロから逃げるために、彼女は能力を発動し続けた。
だが戦闘によるダメージと、全身に重く圧し掛かる疲労に耐え切れず、座り込んでいる。
警戒を緩めず周囲を睨み付けるが、ゼロや他の参加者が現れる気配は無い。
一先ずは逃げ切れたのだろう。

「クソっ、畜生っ!」

悪態が口を突いて出る。
少女部隊の人間としてあるまじき下品な言葉。
ここにマダム・ブラックが居れば、罰は免れないだろう。

「なんで!なんでなのよ!どいつもこいつも…っ!」

セツナの脳裏に浮かぶのは、殺し合いの直前に行われていた戦闘。
シメオン本社で、復活した照山と自分達を裏切った未央。
梔と共に二人と戦っている最中、照山が聖痕(スティグマータ)の保持者である事が明らかになった。
培養ポットから取り出された照山の死体に、未央が手に入れたエデンズシードを刺したことで照山は復活。
その時エデンズシードの影響で、偶然彼に聖痕が浮かび上がったのだ。

だがセツナにとってそんな経緯はどうでもいい。
重要なのはミッシングリンク級のニードレスである己が、三流のニードレスである照山にあっさり追い越された事。
この事実はセツナのプライドを大きく傷つけた。
何故血の滲むような努力で少女部隊のトップの座に上り詰めた自分ではなく、あんな雑魚にミッシングリンクを越える証が浮かび上るのだ。

それにさっきの仮面の男。
能力をいとも簡単に無効化し、手痛い一撃を食らわされた。
立て続けに自分よりも上の能力者に遭遇しプライドを傷付けられた事で、彼女の心は酷くささくれ立っていた。

「殺してやる…!照山もあの仮面男もみんな…!」

この場に居る仲間は梔のみ。
残りはブレイド一味と裏切り者の未央、そして顔も知らぬ有象無象。
敬愛する主、アークライトの下へ戻るためなら幾らでも手を汚せる。

嫉妬という感情に支配されながら、次なる戦いへ向け少女は体力の癒えを待つ。


【セツナ@NEEDLESS】
[状態]:疲労(大)、全身打撲、腹部にダメージ(大)、両腕に痺れ(徐々に回復)
[装備]:なし
[道具]:共通支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:梔と共に優勝し帰還する
0:今は休む
1:梔を探す
2:皆殺し。特に照山は絶対に自分が殺す
3:優勝したら私にも聖痕が…?
[備考]
※第99話にて照山、未央との戦闘中からの参戦
※制限により速〈スピード〉の連続使用で肉体への疲労増加。
またディーンドライブR・Tは特に負担が掛かる。


(なんなんだよあいつら!?)

ゼロとセツナから必死の思いで逃げ出した真尋。
ニャル子の外道戦法で耐性が付いた真尋だが、殺意を振りまき本気で殺しあう光景には恐怖を覚えた。
それでも何とか正気を保っていられるのは、それなりに場馴れしているからなのだろう。
人間では在りえない動きを平然と行うあの二人も邪神か何かなのかと考えつつ、ひたすら走り続ける。

―――ヒュン。

ふいにそんな音がして、ぐらりと体のバランスが崩れた。
地面に倒れ、何だと思い足を見ると、腿から下が無くなっていた。
体からあるはずの部位が失われているのを認識した瞬間、感じた事のない激痛が真尋を襲った。

「がっ、あああああぁぁぁぁァァァァ!!!」

言葉にならない絶叫が森に木霊する。
のた打ち回る真尋の下へ、マントを飛ばし彼の右足を切断したゼロが近付いてくる。

「無駄だ。私からは逃げられん」

セツナのような能力の持ち主ならともかく、一般高校生としての運動能力しか持たぬ真尋ではゼロを振り切るなど不可能だった。
真尋は痛みに涙を流し荒い呼吸を繰り返す。
その悲痛な姿に心動かされることもなく、ゼロは確実に息の根を止めようと手を伸ばす。




今度こそ終わりだ。
逃れられない己の死が近付いてくる。
まだ死にたくなんてない。
もう一度あの日常に戻りたい。
少し前は本気で嫌だった、けど今は悪くないと思えるあの日常に。

クー子がいて、ハス太がいて、母さんに暮井に余市、それにルーヒーやアト子、シャンタッ君。
そしてあの最も騒がしくてウザくて迷惑ばかり掛ける、大好きな邪神が隣にいる。

そんな日々に戻りたかった。

―――まっひろさーん!

目を瞑れば自分を呼ぶニャル子の声が安易に脳内再生される。
それ程に聞き慣れた、そしてもう聞く事のない声。

(はは…。なんだろうなこれ…)

無性にニャル子に会いたい。
会って、あいつのたわけた話にツッコミを入れて、そうして一緒にいたい。
けど叶わない。

魔王の手が首に掛けられ、持ち上げられる。
霞んでいく視界の中、右手で手刀を作っているのが見える。
この化け物染みた男なら、そりゃ素手でも殺せるよなぁと他人事のように思った。
意識が薄れ何もかもが見えなくなっていく中で、眩しい銀色の長髪が見えた気がした。


「ニャ……ル………ご…………め………………」



【八坂真尋@這いよれ!ニャル子さん 死亡】




心臓を貫き真尋が死んだ事を確認し、首を掴んだままの左手でねじ切る。
血塗れた首輪を外しバッグに仕舞う。
そうして首輪とデイバッグを回収すると、死体には目もくれず立ち去る。

(何故生きている?)

ロロ・ヴィ・ブリタニア。
あの呪われし愚弟は既に死んだはず。
なのに生前と変わらぬ姿のままゼロの前に現れ、彼を含む大勢に殺し合いを強要した。

(仮に奴が本当に生き返ったとして、この殺し合いには何の意味がある?)

奴はこの悪趣味な催しを崇高な儀式と言った。
つまり娯楽目的や自分とナナリーへの復讐という動機ではなく、何か別の目的があるということなのだろうか。
それにロロは『我々』という言葉を使っていた。
協力者がいてその者に何かを吹き込まれたのだろうか。

(…まぁいい。私は私の使命を果たす。それだけだ)

この殺し合いは存分に利用させてもらう。
参加者と主催者は全て殺し、その果てに新たな混沌を生み出す。
そうして世界は明日を迎える。
C.C.との契約を履行し、次代の魔王となったゼロに迷いは無い。
ただ気になる参加者は居る。

ナナリー・ランペルージ。
ゼロとは違う道を選んだ最愛の妹。
殺し合いに反抗するであろうナナリーとの戦いは避けられないだろう。
いずれ敵対する事を告げ旅立ったが、まさかこんなに早くその機会が来るとは予想外だ。

「俺はこの選択を変えるつもりはない。ナナリー、お前はどうする?」


【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、回復中
[装備]:なし
[道具]:共通支給品一式×2、手斧@現実、不明支給品1~3、不明支給品0~2(真尋)、真尋の首輪
[思考]
基本:魔王の使命を果たす
1:全参加者及び主催者を殺す
2:首輪を外したい
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※以下制限
1:身体能力及び回復速度の低下。
2:ガウェイン召喚可能時間10分。再召喚には3時間のインターバル必要。
3:ワープ能力の移動範囲縮小。
4:ザ・ゼロの出力に制限。

支給品紹介
【手斧@現実】
八坂真尋に支給。
主に大工仕事に用いる片手用の斧。



GAME START 八坂真尋 GAME OVER
GAME START セツナ
GAME START ゼロ

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最終更新:2016年06月21日 03:16
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