女子出席番号15番、山本咲【蠢動(トラッシュ)】はキョロキョロと周囲を見渡しながら前に進み続ける。
毎日丁寧に整えている長い髪が乱れるのを構わず静かに動く。
親からもらった自慢の顔に泥が跳ねるのはたまらない。
だが、今はそんな
彼女の能力は物を振動させる能力、固体液体気体問わず全てのものを振動させることが出来る。
やろうと思えば地震だって起こせるし、津波も簡単に呼ぶことが出来る。
防御手段が取れないため、先の戦法は取れないが。
とはいえ、ガチガチに固まったジャムの蓋も簡単に取れるし、お風呂で『ジャグジー♪』とか言いながら贅沢な気分にも浸れる。
日常生活ではそれほど悪くない能力だが、こんな時には全く使えない能力だ。
いや、そもそも人を殺す能力が簡単に手にはいるのも嫌だが。
だから今はこの村越から渡されたベレッタM92Fだけが頼りだ。
もちろんそう簡単に人を殺せるとは思えないが、ないよりは断然マシだ。
あるだけで心が落ち着いてくる。
「おーい、お前山本か?」
その時、突如として声をかけられた。
低い声だから男だ、それでいてこの軽い感じは女にはとことん甘い渡辺哲也(男子17番)だろうか。
渡辺ならば女を殺すことはしないかもしれないし、咲は武器として拳銃を持っている。
拳銃を握り締めながら、意を決して振り返る。
その瞬間に襲いかかるという恐怖を覚えながら、だ。
「お、やっぱ山本じゃねえか。いやはや、ようやく一人目だわ」
「……誰?」
そこに居たのは真っ黒なフルフェイスヘルメットを被った男子生徒だった。
ヘルメットのシールドはスモークがかかっていないが、この薄暗さでは誰か分からない。
体格は普通、制服は着崩している、分かりやすい武器は手に持つアイスピックだけ。
未だに襲いかからないと言うことは率先して殺すつもりはないと言うことだろうか?
咲と同じ、いつの間にか生き残っていたという漁夫の利狙いの可能性が高いだろう。
「って、うお! それ銃じゃねえか! 俺はアイスピックっていうのに不公平じゃねーかこれ?」
「その声……ひょっとして井東?」
「おうおう、井東だよ井東。そこの小屋でヘルメット拾ったから被ってんだ」
ヘラヘラと緊張感のない声で答える。
そこでようやくヘルメットのシールドを持ち上げて、顔をあげる。
井東龍一(男子3番)【不死屍毒(デッドリーハッピーエンド)】だ。
井東に対してはあまり良い印象を持ってはいない。
何故なら井東はいわゆる『不良』なる人種だったから。
見せしめとして村越に殺された角田をいつもツルンでいる仲間とイジメている姿を何度か見かけたことがある。
その際に学級委員の中村翼や生真面目すぎる植木桃子と対立している姿も、印象を悪くしている。
どうせ出会うならあの二人が良かった、もしくは人付き合いの薄い自分でも親しくしている足立莉子と。
そんな咲の考えを知ってか知らずか、相変わらず井東はニヤニヤとヘルメットの奥で笑う。
「さ、ではやりますか」
その一声と共に井東は手に持ったアイスピックを突き刺す。
咲の身体にではなく、井東自身の左手へと。
「……たぁー、痛えー!」
「何、してんの?」
確か井東は能力名から不死系統の能力だったはず。
それに自殺だとしても首ではなく手の甲と言うのは不自然だ。
自傷癖でもあるのだろうか?
どんなにしても傷つかない自分の力に酔って、自らを痛めつけたがると言うのは不自然ではないように思える。
さすがに不気味に感じたのか、咲はズッシリとくる重みを感じながらベレッタを構える。
「なんだよ、怖いなおい。大丈夫大丈夫、これで山本を殺したりなんかしねえよ」
「……」
いっそのこと地面を震わせてしまおうか、という考えが頭に浮かぶ。
だが、万が一木が根元から崩れてきてしまった場合などを考えるとその勇気がわかない。
それに攻撃方法なら拳銃があるのだから、それで十分だろう。
「あー、痛い痛い……」
そう呟きながら、井東は左手のケガを撫でながら、右手に血溜りを作るように血を集めていく。
咲はそれがひどく不快に感じて思わず眉をしかめてしまう。
「さあぁて……じゃあな!」
その言葉と共に、ポイっと、じゃれつく様に手にたまった血を咲へと投げつけてくる。
咲は突然の井東の行動に驚くが、なんとか腕でガードをするように防ぐ。
が、瞬間にガードした腕から溶けるような熱さと凍るような冷たさを感じた。
「くぁ……ぁあ!」
「んじゃ、山本。お前の顔は嫌いじゃないぞ」
何かされた、腕に感じる激痛に苛まれながらもなんとかそれを理解する。
だがそれは意味のない行動だ。
顎に何かが触れる、井東の手だと分かりながらも痛みで抗うことが出来ない。
そして、井東の血に濡れた指と咲の乾いた舌が絡まり。
最後に形容し難い苦味と酸味と甘味と辛味が広がり、咲の意識は吹き飛んだ
◆ ◆ ◆
「あーもう……痛えったらありゃしねえよ……」
スリスリと龍一は既に治癒が済んだ手の甲を撫でながら愚痴をこぼす。
彼の能力、【不死屍毒(デッドリーハッピーエンド)】は血を猛毒へと変える能力だ。
何でもこの血がかかった人間はものすごい苦痛に苛まれ、体内に取り込んでしまった場合はまあ、死ぬ。
目とか鼻の粘膜とかならアウト、皮膚なら痛いだけだ。
ちなみにこの能力のせいで龍一は結構な面倒にあっている。
具体的に言うと献血が出来ない、社会に役立てない間抜けな能力だ。
そして、その血が変わるのに釣られるように彼は死ににくなった。
まるで血をばら蒔いて全員を殺しても龍一だけは死なないようにしてあるかのように。
「化け物みたいであんま好きじゃないんだよなぁ、この能力。
田中の野郎とかはなんか勘違いしてるみてえだけどよ」
頭に浮かんだのは龍一を恨めしそうに見る田中智司の姿。
智司はいわゆる『不良』と呼ばれるグループの中でも、上手く馴染めていない奴だった。
能力へのコンプレックスからだろうか? だとしたら、お笑いぐさだ。
そんなものに劣等感を覚えるのなら、人を殺すことしか出来ない龍一はどうなる。
死ににくいのだって面倒なだけだ、痛みも残るし気絶だってする。
そりゃ最初に「お前は死なない!」と村越に言われたときは龍一も小躍りした。
なにせ死なないのだ。
漫画やゲームならば一気にラスボスクラスの能力、大勢の人間に自慢した。
だが、それが直ぐに間違いだと気づいた。
まずその翌日に龍一は自分が血を流してはいけないことに気づいた。
万が一にも怪我をしてしまった場合、それだけで大勢の人間が死ぬ。
一時はノイローゼに陥ったものだ。
(そー言えば、俺って上条ちゃんにカウンセリング受けたよなぁ……あれってひょっとして村越も絡んでたり?)
そこまで考えて村越の催眠能力を思い出す。
カウンセリングを続けて一ヶ月、龍一はびっくりするほど何も気にせずに生活出来るようになった。
それが催眠の仕業だと言われれば納得できる。
「元々、これが目的だったのかねえ……
殺し合いに乗せるためにそういう感情を無くさせたとか?」
村越の催眠は疑えば疑うほど怪しく思えてくる。
一年の頃からの担任と言うこともあって、いつから仕込んでいたのか読めないのだ。
となると、殺し合いが円滑に進むように催眠をかけた相手は龍一だけでないかもしれない。
いつもツルンでいる舘野悠斗(男子7番)や吉田春樹(男子16番)なども何か催眠をかけられているかもしれない。
そして、その舘野や吉田とも殺し合わなくてはいけないのだ。
「……ちっ、しょうがねえだろ。死にたくなんてないんだから」
なるべく山本の死体を見ないように龍一はベレッタを回収する。
ズシリと腕にかかる重さにその凶暴さが伺える。
こんなの相手に戦うハメになってたかもしれなかったのかよ……と龍一は思うが、今はこれを手に入れた。
有利になったことを素直に喜んでおこう。
(あーあ、せっかくのカワイイ子がこんなことに……山本って見た目だけならかなり好みなんだよなあ)
山本咲といえばクラスの男子連中にも見た目はかなり評価されていた女子だ。
出来る事なら殺したり殺されたりなんて関係よりも、手をつないだり別の箇所を繋いだりする間柄になりたいタイプ。
少し性格は面倒くさいが、それを補って余りある容姿を持っている。
「にしても、徹底的にカウンター能力なんだよな……俺。
頭潰されたらどうなるかも知らねえし……まあ、上手くやるしかねえか」
とりあえず逃げの姿勢を取り続け、気づいたら生き残っていた。
それがベストだろう、幸いにもそこの小屋でバイクのヘルメットを見つけた。
頭の防御も大丈夫だし、銃で死ぬことも少なくなった。
一番心配なのは身体能力を釣り上げる能力者のことだ。
龍一は死ににくいとはいえ身体は普通の中学男子。
タコ殴りにされて死にたくても死ねないままということが続くかもしれない。
「やだねぇ……ホントにそういうのだけは勘弁だよ」
こうしてか弱い不死者のバトルロワイアルが始まった。
【山本咲(女子15番)死亡】
【一日目/深夜/E-2森】
【井東龍一 男子3番】
【不死屍毒(デッドリーハッピーエンド)】
[装備]:アイスピック、ベレッタM92F、フルフェイスヘルメット
[所持品]:支給品一式、予備弾倉
[状態]:ブレザーにフルフェイスのヘルメット姿
[思考・行動]
0:なんとしてでも生き残る。
男子3番 井東龍一【不死屍毒(デッドリーハッピーエンド)】
自分の血が猛毒に変わる能力、自分の意志でのON・OFFを切り替えることが出来ないオート式。
不死の能力も備えている。
頭を潰されたり重火器の弾幕を食らうと死ぬかもしれないが、内蔵潰されるぐらいならば大丈夫。
女子15番 山本咲 【蠢動(トラッシュ)】
自分に触れているもの全てを振動させることができる。
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最終更新:2009年12月23日 18:43