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断罪

うなじに僅かにかかった短い髪をかき上げながら、はるか遠くへと広がる水平線を眺める女子生徒が居た。
少女は冷ややかな目で壮大な海を眺め続ける。
その目には今ここにいない誰かを見下すような色が多分に含んでいる。
彼女の名は植木桃子(女子3番)、元・演劇部部長でクラスでも一ニを争うほど気難しい生徒だ。
勝気で高慢で自尊心が高く、弱者へ哀れみを向け強者へ敵意を向ける、気の難しい少女。
自他共に厳しい性格の持ち主だが、不正を許さない正義の人でもあった。
下級生の万引きを見かけた際に、鉄拳で相手の前歯を折ったというエピソードを持つほどである。

その桃子にとってこの殺し合いは許せるものではなかった。
命を粗末にしてはいけない、人を傷つけてはいけない、小学生にだって分かる理屈だ。
聖職者であるべき教師がそれを破ったのだ。
桃子はあんな悪に教えを乞いていたと思うと自分が情けなくてたまらなかった。

「村越一……屑そのものね」

汚物を見た際に唾を吐くような機嫌の悪さでつぶやく。
村越一、もはや先生をつけて呼ぶ必要などない。あれは『悪』だ、紛れが一切ない悪そのもの。
しかも村越単独での行動でなく、副担任や校長すらも絡んでいると言うのではないか。
まさかこんな近くに悪がノウノウと生きていたとは、桃子の胸中は歯がゆさでいっぱいであった。
断罪しなければいけない。桃子のポリシーが悪だと決め、桃子のポリシーがそう断罪すると決めた。
教師だけではない、薄汚いクラスの不良どももそうだ。
清潔感とは程遠いあの汚らしい者は必ず力の弱い生徒に牙を向く。

そう、例えば同じ演劇部の棚橋玲奈(女子11番)のようなか弱い生徒に。

棚橋玲奈は中学に入った時に同じクラス同じ部活ということで桃子とはかなり仲が良い。
付き合いづらいタイプの人種である桃子にも嫌な顔ひとつせずに共に居た。
この学校でもっとも桃子と近しい人間。
そして、玲奈は人間どころか虫一匹殺せないようなおとなしい人間だ。


ならばやるべきだ、今こそが玲奈のような力無き弱者の剣となる時なのだ。



「変――――――」



右手を天高く捧げ、左手を腰に当てる。
さながら天空にそびえる月を、いや天空自体を掴むような大仰な仕草。
そして、僅かにピタリと動きを止め、一秒ほどで直ぐに動き出す。
開いていた手は拳の形に強く握り締め、右手をシャンと右へと向かい伸ばし、素早く腰へと持っていく。
そして腰に固定していた左手を天空へと掴むように伸ばす。
これは予備動作に過ぎない。
桃子の超能力【昏迷執行官(カレイドスコープペナルティ)】を使うために必要な動作なのだ。
最後に一言、溜めに溜めた言葉を発すれば彼女の能力は発動する。
彼女は天空をじっと見つめていた視線をゆっくりと正面へと下ろしていき。




「――――――身」



そのキーワードを意思の強い語調で発した。


桃子が一瞬だけだが、全身から光を発する。
その光は刺々しく、見るもの全てから世界を消すような光だ。

そして光が消えたときには、すでに彼女の姿はなかった。
意思の強いきりっとした釣り目、機能性を重視した紙、中性的な凛々しい表情。
彼女を彼女として示す全てがそこにはなかった。

代わりに立っていたのは一人の漆黒と僅かに桃が混じった騎士のような何か。
真っ黒な全身を覆う鎧と言うよりも、ぴっちりとしたスーツと言った方がしっくりとくる。
そのスーツは機能性を重視していると言うよりは、子供向け番組に出るキャラクターのような安っぽいものだ。
だが、桃子はこれを好んでいた。
それでいい、子供の英雄にも成れない騎士に存在する意味などない。
【昏迷執行官(カレイドスコープペナルティ)】、かつてテレビの先に居たヒーローになれる能力。
そう、ヒーローショーを見に行った際に、うっかり転んで車に引かれそうになったときに、身を体して守ってくれたあのヒーローに。
桃子が演劇部に入っているのはその思い出が今も残っているためだ。
あのような人になりたい。人を守れる、子供の憧れに成りたい、そう思ったから。

そう、あの時の桃色のスーツを着た、あの綺麗な女性のように。

桃子はあの女性をもはや崇拝していた。
あんな人になりたい、その一心で努力をし続けた。
体の線が醜くならないように慎重に鍛え続け、頭脳も常に学年上位で居るように寝る間も惜しんで勉学に励んだ。
演劇部でも浮いている、と思えるほどにのめり込んだ。全てはあの女性に近づくために。
別にその中の人が運動神経バツグン、頭脳明晰というわけではない。
桃子の頭の中でそういう像が勝手に作られていたのだ。

そして今、桃子はこの殺し合いの中でも素体能力だけならばトップクラスに入るほどの超人となっている。
だが、桃子は率先として殺し合いに乗るつもりはない。
それは正義ではない、それはあの女性のやり方ではない。
彼女がやること、それはこの地獄を開いた者たちへの断罪に他ならない。

愚者の牙はもぎ取らなければいけない。
今の彼女は無力な女子中学生ではない、力を持った一人の執行官だ。
牙無き弱者の牙となる、執行官なのだ。
変身した際に共に作られた腰元の剣を手にとり、水平線へと向けて真っすぐに差し出す。
そして、大声で、ともすれば演技がかったとも取れるほどの口調で宣言した。

「全ての悪を断罪する! 悪を断つ我が剣に一切の曇り無し!」

【一日目/深夜/E-6崖】
【植木桃子 女子3番】
【昏迷執行官(カレイドスコープペナルティ)】
[装備]:執行官の剣
[所持品]:支給品一式、不明支給品
[状態]:漆黒をベースに桃色の装飾が入ったスーツ
[思考・行動]
0:村越一ら教師を断罪する。
1:この殺し合いに愚かにも乗った愚図を断罪する。
2:棚橋玲奈ら、力無き弱者のための剣となる。

女子3番 植木桃子 【昏迷執行官(カレイドスコープペナルティ)】
変身能力、身体能力が大幅にアップする。
それ以外にもなにか効果があるかもしれない、今は秘密。

   <<変身講座>>

 右手を上空に捧げて、左手を左腰に。
⇒素早くヘソの前まで振り下ろして、直ぐ様右へと真っすぐと右腕を伸ばす。
⇒代わりに左腰においてあった左手を上空に、そして前を見て『変身』と唱える。

これで君も直ぐに【昏迷執行官(カレイドスコープペナルティ)】だッッッ!!!!!


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最終更新:2009年12月23日 18:44
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