刃物を突きつけられることに俺は縁があるのだろうか。
経験者である俺が語るが生きた心地がしない。首筋に刃物、誰だってビビる。
だからといって、銃を突きつけられたり、巨大な怪物に追われるのがいいかって言われたら声を大にして言いたい。
違う、と。
そもそもそんなのでいいよー、なんて言う奴はいないだろう。
いるのだとしたらよっぽどの自殺志願者だ。
俺は断じてそんなんじゃない。
命は大事にする方だ。
もう一度言う。
「首筋に刃物、誰だってビビる。だからさ、その刃物を下ろしてくれないか。頼むから」
「その要求は飲めません。あなたが
殺し合いに乗っている可能性がまだ否定できませんので。
何か、あなたからは嫌な匂いがする」
後ろから女性に刃物を首に押し付けられている。
女性の声は落ち着いていて少なくとも俺よりは年上だろう。
突きつけられている刃物は鉄のような、冷たい気配が首筋にというかもろ鉄なんだが。
言葉に出した通りビビる。いつこの刃物が引かれて俺の首が飛ぶかわかったものじゃないし。
というか嫌な匂いって何だ、おい。
風呂にはきちんと入っているぞ。髪も洗った。身体も洗った。
服だってキチンとしている。
「だからさ……」
「すいません。信用できないものですから」
もう嫌だな。もう少し冷静になろうと思わないのか。
なら“あれ”を使うしかない。
「いいよ」
「何がですか」
「殺ればいい」
ぶっちゃけもうこのままの状態をいつまでも続けても事態はよくならない。
むしろ悪くなる一方だ。“あれ”を使えばその状況は回避されるだろう。
「あなたは自分が何を言ってるのかお分かり?
この首筋の刃物の感覚がないとでも?」
「いや、自分でも何を言ってるかはわかっているつもりだけど。
それにさっきからその首筋の刃物が冷たくてしょうがない」
事実だ。
刃物の冷たさが俺の首筋をひんやりと冷やす。
でも、もう大丈夫。準備は整って、いつでも“あれ”は実行できる。
「なら、大人しく」
「だって君はもう動くことができない。それに――」
「悪い、もう操ってる――」
女性の動きが止まる。いくら動こうと努力しても動くことはない。
俺が操っているから。
とりあえず俺は悠々と刃物の高速から抜け出て後ろを振り向く。
刃物を突きつけていたのはメイド服の女性だった。
綺麗な銀髪に、スレンダーな体格。出る所は出ていないがそんなことはどうだっていい。
今はなぜいきなり刃物を俺に突きつけたかを聞く時だ。
「……!何を、したんですか、身体が、動かない」
「言ったろ、操ってるって」
彼女が動けないのも無理はない。彼女の“糸”は俺が掴んでいるのだから。
俺の“異能”による“操糸術”によって。
この異能のおかげで俺には生きている全ての“糸”が見える。
そしてそれを操ることによって人の動きを操れる。頑張れば、心でさえも。
便利な、いや危険な能力だ。
ただいつもより“糸”が見えない、いや見にくいとでもいうのだろうか。
さっき操った時も“糸”を見るのに結構時間がかかった。頭に痛みも感じた。
何か、制限みたいな物が加えられているのだろうか。
「さて、なんでいきなりこんな物騒な物を向けたんだ?」
俺は彼女の持っていたナイフを手から取り上げ彼女に迫る。
「こんな状況でいきなり人を信用する方がおかしいと思うけど。
私はそこまでお人好しじゃないし」
「そ、じゃあ安心していいよ。俺、乗ってないから」
そう言って俺は女性の“糸”を離した。
やっぱりいつもより疲れた。何か細工でもしているのだろうか。
前を見ると目の前の女性がため息を吐きながら近づいてくる。
「あのねえ、私が乗ってるとは思わなかったの?
貴方無用心すぎるわよ」
「はぁ、そんなの決まってるじゃないか」
そう、決まってる。簡単な答えだ。
「君が乗っているなら、後ろから何も言わずにナイフでも投げればいいことだろ。
それをしないってことは乗ってないってこと」
相手は目をパチクリして唖然といった表情だ。
そして程なくしてなぜか笑い始めた。
俺は笑われるようなことをしたのだろうか。さっぱりわからん。
「ふふっ、いいわ。お人好しもここまで来ると天才だわ。貴方、名前は?」
「俺は睦月透真。“糸遣い”だ。君は?」
「私は十六夜咲夜。完全で瀟洒なメイドと言ったところかしら」
情報交換といこう。この島からの脱出。
俺は“糸遣い”として脱出の“糸”を掴もうじゃないか。
【H-7/一日目・深夜】
【睦月透真@操り世界のエトランジェ】
【状態】健康
【装備】
【持ち物】 支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
0.殺し合いには乗らない。
1.咲夜と情報を交換する
【十六夜咲夜@東方Project】
【状態】健康
【装備】ミセリコルデ
【持ち物】 支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
0.今は乗らない。
1.透真と情報を交換する
最終更新:2010年06月30日 18:39