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稟の燈と歌うゴスロリ女

「プリムラ……ごめんな、守れなくて」

木々に囲まれ鬱蒼とした深夜の森。
草木が眠り、静寂な空気が辺りをひんやりとさせる。
その深夜の森にはあまりにもミスマッチ過ぎる異端、ブレザーを着た青年、土見稟はグスグスと泣いていた。

「俺は……何もできなった。ただ家族が無残に殺されるのを見ているだけ。
 なんだよ、俺酷すぎるじゃねえか。屑にもほどがあるぜ」

自傷する稟の表情はあまりにもひどく見るに耐えないものだった。
涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃで瞳には意志の光がない。
全てに絶望したかの表情だった。

「俺に生きる価値はあるのか?……なぁ、プリムラ。
 俺はもう限界だよ。楽になりたいよ」

返事は帰ってこない。当然だ。プリムラはもうすでに“死んでいる”。
意味が無いのだ。いくら嘆いても、涙を流しても、怒りを顕にしても。
還ってこないものは還ってこない。
もう楽になりたい、こんな辛い気持ちになるぐらいならいっそ、と思っていた稟を留めているもの。
それは。

「楓、シア、ネリネ、真弓、樹」

稟と同じようにこの島で行われる殺し合いに参加している友人達。
それが稟を死という逃げ道に向かうのを妨げていた。
仲間を残して自分だけ勝手に死ぬことは自分勝手すぎるんじゃないか?
稟の気持ちは搖れに揺れていた。

「俺は……」

稟は顔を上げ、夜空を見上げる。
再び頭に浮かぶ自分の知り合いの笑顔。

「だめだ……やっぱり」

みんなを助けないで死ぬのはひどすぎる。
顔を上げた稟はぐちゃぐちゃの表情は依然としてかわりないが目は違っていた。

「まだ死んじゃ駄目だよな。助けないといけない奴らがいるもんな。
 それに、俺なんかよりも楓にシア、ネリネ、真弓の方がよっぽどショックなんだ」

“眼”。
さっきのように絶望に濡れて終りを感じさせる“眼”ではない。
どれほど叩かれても諦めない不屈の眼力。
燈――希望の意志。

「まだ諦めるには早い。ここには樹もいる。俺なんかと違ってあいつは冷静だ。
いろいろと脱出方法について練ってるはずだ。俺がこんな風にグズっててどうする!」

稟はまだ全てを失ったわけではない、と強く自分に言い聞かせる。
自分に尽くしてくれる幼なじみ。
こんな自分を好きだと言ってくれた二人のお姫様。
仲の良い二人の友人。
稟は心に、そしてプリムラに誓う。

(悪い、プリムラ。そっちに行くのは遅くなる、俺は頑張って生きなくちゃいけないから。
 みんな無事に帰ったら、プリムラのお墓を作るよ。
 だから見守っていてくれ)

稟は止まっていた自分に喝を入れて一歩を踏み出す。
この殺し合いを終わらせるための一歩を。
それに。

『稟……頑張れ……』

プリムラのそんな声が稟には聞こえたから。



◆ ◆ ◆



稟が誰か他の参加者と接触するために歩き始めて数分後、何かが聞こえたのだろうか、耳を澄まして立ち止まった。

「何だ、これは?話し声にしちゃ大きすぎるな」

何とも言えない気分になってしまった稟はその場に立ち止まり考える。

(どうする?接触するべきか。リスクは……五分五分だな。
 これが殺し合いに乗ってない人を呼び寄せるなら、当然のごとく危険だ。
 逆にこの状況を理解していない場合だったら早急に止めないといけない)

どう行動すべきか。これは大きな分岐だ、と思いながら。

「見てみなきゃ始まらないか……
遠巻きに見て怪しそうじゃなかったら接触、その逆なら即座に逃げよう」

とりあえずは近づこうと思い、稟は声の震源地を目指す。
吉と出るか、凶と出るか。それは行ってみなくちゃ分からない。
万が一乗ってる参加者だった時の威嚇用に腰には支給品として入っていた大型のリボルバーを二挺差して。

「できれば使わないことを祈りたいけど、もしもの時はこれを使うしかないんだろうな」

そう願って森の中を進む稟を待っていたものとは。



◆ ◆ ◆



(あれは本気でやっているのか?この状況で……)

待ち受けていたのは、稟の目に映るのは黒のゴスロリ服を着た薄紫色の長い髪の女性。
稟より少し年上だと言ったところか。
だが、そんなことを差し置いて稟が一番驚いたことがある。

「あふれーるそのやさーしさー」

歌を歌っていることだ、それも、満面の笑みで呑気に。
傍から見ればかなり変な人である。稟は思わず大きなため息を吐き、頭を抱える。

(この人、どうしよう、このままだとまずいよなぁ。こんなの、自分はここにいますよ、
 早く殺しに来て下さいと言ってるようなもんだ。自殺行為にもほどがあるぞ
 やめさせないと!)

「おい、あんた!」
「だからいまはもー……ふぇ?」

稟は思い切って隠れていた茂みから飛び出し、女性に声を掛ける。
女性も呼びかけを聞き、歌うのをやめ、稟の方へ体を向ける。女性の顔は相変わらずの満面の笑みだった。

「はいー、なんでしょうかー」

女性が間延びした声で答える。アニメで聞くような柔らかく聞く人をほんわかさせるような声だった。
だがこの非常事態では、意味をなさない。

「何で歌ってたんだ。ここで大きな声を出すのは自分から死ににいくようなもんだぞ!」

稟は引き続きこの女性がなぜあんなに大声で歌っていたのかを問いかける。

(この人……裏があるのか?それともただの天然なのか。まだわからないな。
 話を聞いてみないことには始まらない)

残念なことに真剣に考えていた稟のをあざ笑うかのように女性の出した答えは想像の遥か斜め上のことだった。

「うーん、寂しかったから、かなぁ」
「へ……それだけですか?」
「うん!それだけだよー!だって一人は寂しいじゃない。
一人よりは二人、二人よりは三人って言うじゃない」

あっけらかんとした答えに絶句する稟に依然とニコニコとした女性。
実におもしろい構図である。

「あのさ……えっと「綺堂渚だよ、私の名前」……渚さん、今自分がおかれている現状とか理解していますか?」
「はいー、殺し合いですよね、嫌になっちゃいますねー」

これからの事を思い浮かべるだけで頭痛がしてくる。
稟はそう思った。
稟が渚に大きな声をだすのが危険だということをわからせるのに時間がかなりかかったのはまた別の話――

【C-3/一日目・深夜】

【土見稟@SHUFFLE!】
【状態】精神疲労(大)
【装備】『死』@操り世界のエトランジェ、『死』@操り世界のエトランジェ
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、特性予備弾@操り世界のエトランジェ、不明支給品0~1
【思考】
0.ゲームには乗らない
1.綺堂渚をどうするか。
2.知り合いとの合流。

【綺堂渚@キラークイーン】
【状態】健康
【装備】
【持ち物】 支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
0.稟君っておもしろーい
1.稟君の話を聞く
※綺堂渚の歌声がF-3に響きました。その周りにも聞こえてる可能性もあります。

【『死』@操り世界のエトランジェ】
闇宮冥の特注武器『刻死夢葬』の『死』の部分。
かなり大型のリボルバー。威力が普通の拳銃の何倍。
掠っただけでもアウトである。ちなみに二挺セット。



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最終更新:2010年04月25日 00:55
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