『風子、参上!』 - (2008/10/23 (木) 21:49:58) の1つ前との変更点
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『風子、参上!』
トリステイン魔法学院恒例、二年生への進級試験を兼ねた使い魔召喚。それは神聖なる
サモン・サーヴァントの儀式。
ハルケギニアのメイジなら必ず行い、運命に導かれた主従となるべき生物が召喚の門を
通ってやってくる儀式だ。それは、このトリステイン王国の魔法学院でも変わりはない。
ただ変わっていたのは、この儀式で最後に召喚を行っていたのは『ゼロ』の二つ名を持つ
ルイズであった事。
ルイズは延々と召喚を失敗し続けた。何度も召喚魔法を唱えたが、使い魔となるべき生
物なんか現れない。ひたすら爆発が続くばかり。
既に召喚を終えて使い魔を従えた他の学生達がヤジを飛ばすのも飽き始めた頃、土煙の
中に影があった。
『どうやらお困りのご様子。ですが、この風子が来たからにはご安心を!』
その影は、人影だった。
ルイズは、目の前に召喚された存在が理解出来ない。
召喚の儀を取り仕切っていた教師コルベールは唖然呆然としてしまう。
それは、間違いなく人間。小柄なルイズと同じくらい小柄な少女。
長くて黒っぽい髪を揺らす、小さな三角帽を被った、ミニスカートの女の子。
使い魔はメイジが従える動物。人間は召喚されない。そんな記録は存在しない。
だが、間違いなく召喚されたのは、人間だったのだ。
『困った人を見過ごす事など出来ません。この風子、お姉ちゃんの結婚式に出てくれた人
達への恩返しのため、そして世のため人のためにやって参りました!』
周囲の生徒達は言葉を失った。
人間が召喚された事自体が異例なのだ。
しかも少女の格好は奇天烈の極みだ。木彫りの星形を右手に掲げ、白玉をてっぺんに付
けた緑と赤のストライプ模様な三角帽を被り、やたら上質そうなクリーム色の上着に紺色
のストッキングを履いている。長い髪を薄紫色の大きな可愛いリボンでまとめている。
聞いた事もない言語で、なにやら高らかに宣言しているのだ。
「見ろ、平民だ!しかも異国の女の子だぞ!」
「人間を召喚するなんて、さすがルイズ?」
「にしても、かなり良い服を着ているわ。メイジじゃなさそうだけど、ただの平民という
わけでもなさそうね」
周囲の生徒達は、ある者はゼロのルイズが召喚を失敗したと囃し立てる。またある者は
どこの国の女の子だろうと訝しむ。そしてまたある者は、これって使い魔を召喚した事に
なるの?と首を捻った。
「ミ、ミスタ・コルベール!やり直しを、召喚のやり直しを要求します!」
しかしコルベールは、生徒の視線から気の毒そうに目をそらし、小声で答えた。
「それは出来ません、召喚の儀は神聖な儀式で、やり直しは―――」
「で、でも、人間が召喚されるなんて―――」
そんな周囲の人々のやりとりに、自分の世界に入って口上を叫んでいた風子はようやく
気が付いた。キョロキョロと周りの学生達、そして彼等の傍らに控える見た事もない動物
たちに。
『な、なんと!風子は外国に来てしまっていたのですね!?これは困りました。風子は高
校入学初日に事故で入院して以来、ずっと英語の授業を受けていないのです!これでは伝
説の競技、ヒトデヒートのルールを説明する事が出来ません』
そう言って、風子は必死に抗議するルイズと困り果てるコルベールの隣にトコトコと歩
み寄ってきた。
『というわけで、帰って良いですか?』
申し訳なさそうに、風子は二人へ申し出た。日本語で。
ルイズは、そんな少女をギロリと睨み付ける。
そして―――
「こ、これは使い魔の儀式なんだからね!だから、ノーカウントだからねッ!」
ぐわしっと風子の頭を左右から捕まえる。
『な!?何をするんですか!放してく』
ちゅっ
ルイズは、風子の言葉を自分の唇で遮った。
風子の大きな目は更に大きく見開かれ、体が驚きのあまり硬直する。
周囲の男子生徒は、思いもかけぬ眼福に感激の歓声を上げてしまう。
ようやく我に返った風子が、服の右袖で唇を拭きながら思いっきり後ずさった。そして
突然ハルケギニア語を話し始めた。
「な、何と言う事をするんですか!いきなりこんな事をするなんて、あなたは悪人だった
のですね!?…って、え!?
痛い、イタタタ!キャアッッ!!」
瞬間、風子は左手を押さえながら悲鳴を上げる。
自分の唇をハンカチで拭いていたルイズが冷たく言葉を投げかけた。
「使い魔のルーンが刻まれてるのよ。すぐ済むから安心なさい!まったく、なんで女の子
とキスなんか…」
そんな愚痴を言っている間に、風子の左手にルーン文字が浮き上がった。
「ふむ、珍しいルーンだな…」
と言ってコルベールはルーンのスケッチを取ろうと、左手を押さえてうずくまる風子に
近寄ろうとする。が、慌てて風子は二人から思いっきり跳びはねて、二人から距離を取っ
た。
ちょっと転びそうになった風子は、二人をズビシッと指さす。
「なんて人達ですか!助けに来てあげた風子をいじめるなんて、信じられません!そんな
人達には、この風子のサイン入りヒトデはあげられません!
さよならです!」
言うが早いか、風子は広場からトトトーと学院正門まで走っていく。そして門から外に
駆け出してしまった。
「あ!ちょっと待ちなさい!使い魔のクセに、勝手にどこへ…」
そう言ってルイズは慌てて風子と名乗った少女を追いかけて、学院の門を出た。
だが、そこには誰もいなかった。
ルイズは右を見る。
慌てて左も見る。
目をこらして遠くを見渡す。
だが、少女の姿は全く見えなかった。
ふと上を見ると、コルベールが宙に浮いていた。『フライ』で空から少女を捜している
らしい。しばらくして、コルベールは地上のルイズへ向けて、すまなそうに首を横に振っ
た。
魔法も使えないはずの女の子が、ついさっき学院の門をくぐったばかりのはずなのに、
完全に消えてしまった。何の痕跡も残さず、まるで最初からいなかったかのように。
「というわけで、坂上智代さん!」
風子は、夕暮れの桜並木を歩く生徒会長の前に立っていた。
「私をいじめた悪人を、懲らしめて下さい!」
「・・・はぃ?」
智代は困惑した。
この目の前の女の子は、いきなり何を言い出すんだろう。以前から町のあちこちで何度
も遭ってるけど、誰なのかどうしても思い出せない風子と名乗るこの子は誰なんだろう、
と。
助けを求めて後ろを振り返る。そこには一ノ瀬ことみ、藤林姉妹、古河渚といった彼女
の友人達、そして自称ライバルの春原陽平に、岡崎朋也などがいた。皆それぞれに、一体
全体この風子という子は何者で、なんでいきなりこんなことを頼みに来たのかと頭を捻っ
ている。
「あ~…その、ねぇ…風子さん、だっけ?」
「はい!」
ほとほと困った生徒会長の呼びかけに、元気よく当然のように風子が返事する。
「事情がよくわからないのだけど…いじめられたって、どう、いじめられたのか?」
「これです!」
風子が智代の眼前にズビシッと左手の甲を突き出す。そこには使い魔のルーンが描かれ
ていた。
「こともあろうに、あの人達は私の左手に落書きをしたのです!許せません!是非あの人
達に天誅を下して下さい!」
なるほど彼女の左手には、なにやら字が書かれていた。
だからといって、なぜ智代が風子の仇を討つのだろうか。一同は混乱するばかりだ。
「確かに…我が校の生徒がいじめられたのなら、生徒会長として許しがたい事だが…一体
誰にやられたのだ?」
尋ねられた風子は、顎に手を当てて考え込む。
そして、ポンと手を打った。
「分かりません!」
全員、ズッコケた。
「よく考えたら、私は彼等の名前も聞いていませんでした!外国語で話していたので、尋
ねる事も出来ないのでした!
なので、今から確認してきます!」
そう言って、風子はトテトテ~…と桜並木の向こうに消えていった。
「一体、あの子は誰なのだ…?どこかで会った気がするんだが…」
生徒会長の疑問に、その場の誰も答える事は出来なかった。
「と、言うわけで、悪人め!正々堂々名乗りなさい!」
「誰が悪人よ、ていうか、どっから現れたのよー!」
寮塔、ルイズの部屋。
使い魔に逃げられ、椅子に座ってしょげかえっていたルイズが振り返ると、そこには腰
に手を当てて仁王立ちする風子がいた。
『風子、参上!』
トリステイン魔法学院恒例、二年生への進級試験を兼ねた使い魔召喚。それは神聖なる
サモン・サーヴァントの儀式。
ハルケギニアのメイジなら必ず行い、運命に導かれた主従となるべき生物が召喚の門を
通ってやってくる儀式だ。それは、このトリステイン王国の魔法学院でも変わりはない。
ただ変わっていたのは、この儀式で最後に召喚を行っていたのは『ゼロ』の二つ名を持つ
ルイズであった事。
ルイズは延々と召喚を失敗し続けた。何度も召喚魔法を唱えたが、使い魔となるべき生
物なんか現れない。ひたすら爆発が続くばかり。
既に召喚を終えて使い魔を従えた他の学生達がヤジを飛ばすのも飽き始めた頃、土煙の
中に影があった。
『どうやらお困りのご様子。ですが、この風子が来たからにはご安心を!』
その影は、人影だった。
ルイズは、目の前に召喚された存在が理解出来ない。
召喚の儀を取り仕切っていた教師コルベールは唖然呆然としてしまう。
それは、間違いなく人間。小柄なルイズと同じくらい小柄な少女。
長くて黒っぽい髪を揺らす、小さな三角帽を被った、ミニスカートの女の子。
使い魔はメイジが従える動物。人間は召喚されない。そんな記録は存在しない。
だが、間違いなく召喚されたのは、人間だったのだ。
『困った人を見過ごす事など出来ません。この風子、お姉ちゃんの結婚式に出てくれた人
達への恩返しのため、そして世のため人のためにやって参りました!』
周囲の生徒達は言葉を失った。
人間が召喚された事自体が異例なのだ。
しかも少女の格好は奇天烈の極みだ。木彫りの星形を右手に掲げ、白玉をてっぺんに付
けた緑と赤のストライプ模様な三角帽を被り、やたら上質そうなクリーム色の上着に紺色
のストッキングを履いている。長い髪を薄紫色の大きな可愛いリボンでまとめている。
聞いた事もない言語で、なにやら高らかに宣言しているのだ。
「見ろ、平民だ!しかも異国の女の子だぞ!」
「人間を召喚するなんて、さすがルイズ?」
「にしても、かなり良い服を着ているわ。メイジじゃなさそうだけど、ただの平民という
わけでもなさそうね」
周囲の生徒達は、ある者はゼロのルイズが召喚を失敗したと囃し立てる。またある者は
どこの国の女の子だろうと訝しむ。そしてまたある者は、これって使い魔を召喚した事に
なるの?と首を捻った。
「ミ、ミスタ・コルベール!やり直しを、召喚のやり直しを要求します!」
しかしコルベールは、生徒の視線から気の毒そうに目をそらし、小声で答えた。
「それは出来ません、召喚の儀は神聖な儀式で、やり直しは―――」
「で、でも、人間が召喚されるなんて―――」
そんな周囲の人々のやりとりに、自分の世界に入って口上を叫んでいた風子はようやく
気が付いた。キョロキョロと周りの学生達、そして彼等の傍らに控える見た事もない動物
たちに。
『な、なんと!風子は外国に来てしまっていたのですね!?これは困りました。風子は高
校入学初日に事故で入院して以来、ずっと英語の授業を受けていないのです!これでは伝
説の競技、ヒトデヒートのルールを説明する事が出来ません』
そう言って、風子は必死に抗議するルイズと困り果てるコルベールの隣にトコトコと歩
み寄ってきた。
『というわけで、帰って良いですか?』
申し訳なさそうに、風子は二人へ申し出た。日本語で。
ルイズは、そんな少女をギロリと睨み付ける。
そして―――
「こ、これは使い魔の儀式なんだからね!だから、ノーカウントだからねッ!」
ぐわしっと風子の頭を左右から捕まえる。
『な!?何をするんですか!放してく』
ちゅっ
ルイズは、風子の言葉を自分の唇で遮った。
風子の大きな目は更に大きく見開かれ、体が驚きのあまり硬直する。
周囲の男子生徒は、思いもかけぬ眼福に感激の歓声を上げてしまう。
ようやく我に返った風子が、服の右袖で唇を拭きながら思いっきり後ずさった。そして
突然ハルケギニア語を話し始めた。
「な、何と言う事をするんですか!いきなりこんな事をするなんて、あなたは悪人だった
のですね!?…って、え!?
痛い、イタタタ!キャアッッ!!」
瞬間、風子は左手を押さえながら悲鳴を上げる。
自分の唇をハンカチで拭いていたルイズが冷たく言葉を投げかけた。
「使い魔のルーンが刻まれてるのよ。すぐ済むから安心なさい!まったく、なんで女の子
とキスなんか…」
そんな愚痴を言っている間に、風子の左手にルーン文字が浮き上がった。
「ふむ、珍しいルーンだな…」
と言ってコルベールはルーンのスケッチを取ろうと、左手を押さえてうずくまる風子に
近寄ろうとする。が、慌てて風子は二人から思いっきり跳びはねて、二人から距離を取っ
た。
ちょっと転びそうになった風子は、二人をズビシッと指さす。
「なんて人達ですか!助けに来てあげた風子をいじめるなんて、信じられません!そんな
人達には、この風子のサイン入りヒトデはあげられません!
さよならです!」
言うが早いか、風子は広場からトトトーと学院正門まで走っていく。そして門から外に
駆け出してしまった。
「あ!ちょっと待ちなさい!使い魔のクセに、勝手にどこへ…」
そう言ってルイズは慌てて風子と名乗った少女を追いかけて、学院の門を出た。
だが、そこには誰もいなかった。
ルイズは右を見る。
慌てて左も見る。
目をこらして遠くを見渡す。
だが、少女の姿は全く見えなかった。
ふと上を見ると、コルベールが宙に浮いていた。『フライ』で空から少女を捜している
らしい。しばらくして、コルベールは地上のルイズへ向けて、すまなそうに首を横に振っ
た。
魔法も使えないはずの女の子が、ついさっき学院の門をくぐったばかりのはずなのに、
完全に消えてしまった。何の痕跡も残さず、まるで最初からいなかったかのように。
「というわけで、坂上智代さん!」
風子は、夕暮れの桜並木を歩く生徒会長の前に立っていた。
「私をいじめた悪人を、懲らしめて下さい!」
「・・・はぃ?」
智代は困惑した。
この目の前の女の子は、いきなり何を言い出すんだろう。以前から町のあちこちで何度
も遭ってるけど、誰なのかどうしても思い出せない風子と名乗るこの子は誰なんだろう、
と。
助けを求めて後ろを振り返る。そこには一ノ瀬ことみ、藤林姉妹、古河渚といった彼女
の友人達、そして自称ライバルの春原陽平に、岡崎朋也などがいた。皆それぞれに、一体
全体この風子という子は何者で、なんでいきなりこんなことを頼みに来たのかと頭を捻っ
ている。
「あ~…その、ねぇ…風子さん、だっけ?」
「はい!」
ほとほと困った生徒会長の呼びかけに、元気よく当然のように風子が返事する。
「事情がよくわからないのだけど…いじめられたって、どう、いじめられたのか?」
「これです!」
風子が智代の眼前にズビシッと左手の甲を突き出す。そこには使い魔のルーンが描かれ
ていた。
「こともあろうに、あの人達は私の左手に落書きをしたのです!許せません!是非あの人
達に天誅を下して下さい!」
なるほど彼女の左手には、なにやら字が書かれていた。
だからといって、なぜ智代が風子の仇を討つのだろうか。一同は混乱するばかりだ。
「確かに…我が校の生徒がいじめられたのなら、生徒会長として許しがたい事だが…一体
誰にやられたのだ?」
尋ねられた風子は、顎に手を当てて考え込む。
そして、ポンと手を打った。
「分かりません!」
全員、ズッコケた。
「よく考えたら、私は彼等の名前も聞いていませんでした!外国語で話していたので、尋
ねる事も出来ないのでした!
なので、今から確認してきます!」
そう言って、風子はトテトテ~…と桜並木の向こうに消えていった。
「一体、あの子は誰なのだ…?どこかで会った気がするんだが…」
生徒会長の疑問に、その場の誰も答える事は出来なかった。
「と、言うわけで、悪人め!正々堂々名乗りなさい!」
「誰が悪人よ、ていうか、どっから現れたのよー!」
寮塔、ルイズの部屋。
使い魔に逃げられ、椅子に座ってしょげかえっていたルイズが振り返ると、そこには腰
に手を当てて仁王立ちする風子がいた。
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