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ゼロの黒魔道士-12 - (2008/12/11 (木) 07:24:23) の1つ前との変更点
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#navi(ゼロの黒魔道士)
「ミス・ロングビル!本当にこんなところにフーケのアジトが?」
……あったかいお日さまの光も届かない森の中、
「えぇ、元々は木こりや狩人の仮宿として使われていたそうですよ?」
……あるはずの鳥のさえずりも無くて、
「フーケも、なんでこんなところにアジトなんk―…あいたっ!?キュルケ、気をつけなさいよっ!!」
……聞こえるのはボクたちが前に進む音だけで、
「しょうがないじゃないのよー!邪魔な木の枝を払わなきゃ進めやしないんだし」
……その小屋はホントに突然
「静かに、もう着く」
……ボクたちの目の前に現れたんだ
「よっしゃー!おっぱじめるぜーっ!!」
「「「デルフ、静かに!!!」」」
……でも緊張感が無いのはなんでなんだろう……?
―ゼロの黒魔道士―
~第十三幕~ 独りじゃない
……その廃屋は、廃屋っていうわりにはこじんまりとしてこぎれいだった
……ん~、まぁこれだったら、野宿するよりはマシだし、住めなくはないかなぁ……?
「それで?どうする?一気に燃やしでもしちゃいましょうか?」
「ちょ、ちょっとキュルケ!そしたら『破壊の肉球』までも燃えちゃうじゃないっ!ちょっとは考えなさいよっ!!」
「いや~ね、冗談じゃない♪」
「策はある」
……ずっと黙ってたタバサおねえちゃんは、ずっと考えてたらしい……
なんか、こういうの手慣れてるのかなぁ……?
……タバサおねえちゃんが地面に絵を描いて作戦を説明していく
……つまり、偵察が1人、廃屋を偵察して、フーケがいればおびきだす、いなければ探索するって作戦……
「えっと……探索してる途中でゴーレムが襲ってきたらどうしよう……?あんなに大きいのだと、小屋ごと潰されちゃうよ……?」
「探索の間は見張りを外に置く、この場合ルイズが適任」
「へ?私?」
「爆音で知らせる。発動が早い」
……確かにあの爆発だと音がすっごくよく聞こえそうだ……タバサおねえちゃん、色々考えてるんだなぁ……
「あははっ!確かに『施錠』でも爆発するんだから、発動は一瞬よね!」
「くっ……これが終わったらあんたのそのフザけたこと言う口でも『施錠』してやろうかしら!」
「いや~ん、ルイズに爆発で殺される~♪ビビちゃん助けて~♪」ギュッ
「だからあんたは毎度毎度ーっ!!」
……えーとー……もっと緊張感をもった方がいいと思うんだけどなぁ……?
「おぅおぅおぅ、娘っ子ども!ここぁ敵さんの陣中だぜっ!ちっとぁ気ぃひきしめなっ!!」
……でも、デルフに注意されるのは、なんか、違うと思っちゃうのはなんでなんだろう……?
「あの、それで――どなたが偵察を?」
……ロングビルおねえさんは……緊張してるのかなぁ……?
でも目つきがちょっと違うような……?
なんかこう……今から大仕事だ!っていうときみたいな……
「私が適任」
……タバサおねえちゃんが自ら宣言する
……うーん……やっぱり、タバサおねえちゃんがこの場では一番頼りに……いや
いけないんだ、そんなんじゃ……ボクはルイズおねえちゃんの使い魔なんだから
「よぉよぉ、相棒、ゴーレム出てきたらどーするつもりでぇ?」
……タバサおねえちゃんが偵察に向かってすぐ、デルフがヒソヒソ声で聞いてきた
「うーん……ここなら、迷惑にならないと思うし……『フレア剣』かなぁ……?」
……昨日みたいに、学院にゴーレムが密着してる状態でやったら、壁ごと壊してたかもしれないもんね……
「ゲ、やっぱアレかよ!いや、俺様輝いてる瞬間はいいのよ?でも叩きつけられる瞬間、意識飛びそうなぐれぇガッツリ衝撃がくんだけどよぉ~」
「う~ん……ボクと一緒に旅してた人と『フレア剣』は何回かやったけど……剣は全然壊れなかったし……多分大丈夫じゃないかなぁ……?」
……そういえばスタイナーおじちゃんは剣をしっかり手入れしてたっけ……それで剣があんなに丈夫だったのかなぁ……?
ボクも後で剣の手入れの仕方を調べなきゃいけないなぁ……
「お?ちょい待ち!その言い方ぁ聞き捨てなんねぇなぁ!まるで俺様がヤワに見えるみてぇじゃねぇか!」
「え?い、いやそんなことは……」
……うーん……実際、ちょっとサビサビだから気にはなってたんだけど……
「っかぁ~!相棒にそう思われるようじゃ武器の名が廃るぁ!上等でぇ!『フレア剣』だろーが『ズレタ剣』だろーが何度でも耐えてみせらぁっ!!ガンガンやりやがれ相棒っ!!」
「う、うん……き、期待するね?」
……デルフがやる気になってくれて、多分、良かったんだよね……?
……でも『ズレタ剣』かぁ……確かに、デルフってどっかずれてる気がするなぁ……
「あ、タバサからの合図よ、フーケいないって」
「じゃ、探索と、私は見張り……ちょっとキュルケ!私が見張ってあげるんだから、フザけないできっちり探索しなさいよっ!!」
……ボクとデルフが気の抜けた会話をしちゃってた間に、タバサおねえちゃんの偵察は終わってた……
うーん……ボクも緊張感がなかったのかなぁ……
「あ、それでは私は念のため、反対側の見張りを」
「え?あぁ、そうね。お願いします、ミス・ロングビル」
……ロングビルおねえさんは廃屋の向こう側の見張り、ボクとキュルケおねえちゃんとタバサおねえちゃんで探索だ
「おいおい、俺様忘れるんじゃねぇよ、相棒っ!」
……う~ん……剣がどうやって探索するんだろ……?
「しっかし埃だらけねぇ~、こんなとこ、ホントにアジトにしてたわけ?」
……テーブルの上や階段、そこら中が埃まみれになっている小屋の中、
……床だけが埃がきれいに掃除されてる……フーケって、几帳面なのかなぁ?ズボラなのかなぁ?
「あった、『破壊の肉球』」
……盗まれた『破壊の肉球』っていう宝物はあっさり棚の中から見つかった……
「何よ、アッサリ見つかるじゃない!なんかつまんな~い!」
……そのアッサリ見つかった『破壊の肉球』は……
「え!?そ、そ、それが『破壊の肉球』なのっ!?」
「そうよ?私、去年の授業で宝物庫の見学をしたときに見たそのまんまで――ビビちゃん、どうしたの?」
「おいおい、どーしたってんだ相棒?その猫の前足みてーな棒っきれがどうしたってんだ?」
……間違いない、これは、この武器は、旅の仲間が持っていたあの武器に……
……同じ種類の武器の中では最強の威力を誇るあの武器にそっくりだった……
でも……
「なんで……なんでこれがここに?」
ドォォンッ!!
外から爆音が響き渡る、それと同時に……
「危ない」
「きゃっ!?」
ゴシャァッと叩き潰すように土の塊が……巨大なゴーレムの腕が小屋の屋根を貫いたんだ……
「あ、相棒っ!」
「だ、大丈夫っ!に、逃げなきゃっ!!」
「そうねっ!『破壊の肉球』は取り返したし、任務は完了よっ!」
「戦略的撤退」
急いで小屋の出口から出るボクたち……でもそんなボクたちの目の前にあったものは……
「このぉーっ!フーケっ!!『ファイア・ボール』!!」ドォォンッ
おっきなおっきなフーケの土ゴーレムの体と……それに立ち向かう……
「このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが相手よっ!かかってきなさーいっ!!」
「ルイズおねぇちゃんっ!?な、何してるのっ!?」
ルイズおねえちゃんが、手当たり次第にゴーレムの体を爆発させてたんだ……
でも、あとからあとからゴーレムの体が治っていってしまう……まさか『リジェネ』?
「再生可能なゴーレム、手がつけられない」
「タバサの言うとおりよ!ルイズ、逃げるわよっ!!」
……キュルケおねえちゃんの言葉を聞いて、ルイズおねえちゃんが、学院長室で握りしめたよりも、ずっと、ずっときつく、杖を握りしめたんだ……
「嫌よっ!!」
「る、ルイズおねえちゃん!?」
「ちょっと、ルイズ!!あんた状況分かってんの!?」
「私は!私は貴族よっ!!!魔法が使えるだけじゃない!!相手に後ろを見せないのが貴族よ!」
……そのとき、また分かった気がしたんだ……
……ルイズおねえちゃんは、エーコに似て意地っ張りで素直になれないだけじゃないんだ……
……スタイナーおじちゃんや、ダガーおねえちゃんみたいに……『責任感』っていうのが強いんだ……
……「~として」、「~だから」……そういった言葉で、いつでも自分のなすべきことをハッキリさせてる……だけど……
……ときどき、自分自身の目指すものに、溺れそうになるんだ……
……溺れて、ボクたちが、ここにいるのに、見えなくなっちゃうんだ……
……そう、あのときのジタンも……
……だったら……ボクが言うべきことは、やるべきことは……
「……ルイズおねえちゃん、大丈夫だよ」
帽子をギュッとかぶりなおす……大丈夫だよ、ルイズおねえちゃん、怖いものなんて、何も無い……
「ビビ!?あんたは下がってなさい!こいつは、私が!!」
「だからあんたには無理だってルイズ!!いいから逃げrキャァァァッ!?」ブォォンッガキィィンッ!!
思いっきりふられたゴーレムの腕を、デルフを地面に突き立てて防ぐ
……そう、ボクのやるべきこと、それは……
「……ルイズおねえちゃん、『使い魔を見れば、メイジの力が分かる』なんだっけ……?」
「な、何よっ!い、いいからそこをどきなさいっ!!あんたも爆発に巻き込むわよっ!!」
「……それなら、ボクが……ボクが、ルイズおねえちゃんの力になる!!」
「は!?何を言って――」
「ルイズおねえちゃん!ルイズおねえちゃんは……独りじゃない、よ!!」
……ボクが、ボクらがいるんだ!!
デルフを地面から引っこ抜いて、思いっきり走る、走る、走る!
……今までのボクだったら、こんなに早く走れなかった、すぐにコケてばっかりだった……
左手の模様が、キラキラと光る……
「っかぁー!なかなかいいセリフ吐くじゃねぇかよぉ!相棒!!」
「デルフ!!意識飛んじゃうかもしれないけど、行くよっ!!」
「おう、かかってこい、だぁ!『使い手のルーン』と同じぐれぇ俺様を輝かしてみせやがれってんだ!!」
「滅びゆく肉体に暗黒神の名を刻め
始源の炎甦らん! フレア!」シュォォォォォ
「ッヒョォ!来た来た来たぁっ!!相棒っ!狙いはついてんのかっ!?」
「足っ!!まずは動きを止めなきゃっ!!」
サラマンダーが言っていた、「どんなモンスターでも、足さえ止めりゃぁ後は壊すだけだ」って……でも……
「ち、近づけないっ!?」
ゴーレムが、腕をブンブン振ってボクの行く手をはばむ、必死に避けるしかない、ボク……
「相棒っ!魔法でっ!『フレア』ってぇのを当てちまえばいいんじゃねぇか!?」
「そ、それが……」
……やっぱりボクってうっかりしてるのかなぁ……
「う、動きながらだと狙いがつけられないっ!!」
「はぁぁぁぁっ!?じ、じゃぁ何考えなしにつっこんでやがんでぇこんちきしょぉぉっ!?ここまできちゃ引っ返すことぁできねぇぜ!?」
「ど、どうしよう……」
……考えるんだ、考えるんだ……左手の光がボクに避ける力をくれている……だから、考えるんだ!
ピコン
強制ATE ―焦りといらだち―
ルイズは、焦っていた
自分の使い魔が、
彼女に異国の寝物語をしてくれた使い魔が、
彼女に今は形にならずとも大切な言葉を話した使い魔が、
今、窮地に立たされている
「ビビぃぃぃぃっ!!!キュルケっ!!離してっ!!ビビを助けなくちゃっ!!!」
スパァンッと小気味いい平手の音がルイズの脳天に響く
それが自身の頬に打たれた戒めの楔と気づくのはその一瞬後
「いい加減にしなさいっ!!ビビちゃんは、あなたの我儘で今ピンチなのよっ!!貴族だの何だの言うなら、状況をもっと見極めなさいっ!!」
「今、彼は何とか回避できている。あなたが入れば、彼はあなたを守るためにより難しい動きを強いられる」
それが分からない彼女ではない
しかし、ただただ悔しいのだ
何もできない自分が、
爆発させることしかできない自分が、
貴族としての力を持たぬ自分が
タバサの手にする獲物が、ルイズの目に入る
マジック・アイテム?それにしては奇妙な形だ
猫の掌にも似せた布製の器が、棒の先端についた物体
しかし、冠する名前は『破壊』、ならば――
「タバサ、それ貸して!!!」
「ルイズ!?」
無理やりタバサからそれを奪い取る
使い方など分からない、でも、それでも――
「私の使い魔からっ――」
上半身を風に押される柳のごとく反らせ――
「離れなさいっっ!!!!」
棒ごと前方に投げ出す――
それは魔力の塊なのか、
はたまた使い魔に答えんとする意思の結晶か、
白き光が、集いて、押し固まり、
棒の先端の器から放たれた――
ドゴォォォォンッ
「ルイズっ!?」
「すごい貫通力」
――まったく見当違いの方向へ、ゴーレムのはるか右10メイルの位置へ
だが――
「――これなら、いける!」
――彼女は確信する
「ビビ!!あんたは……あんただって!!『独りじゃない』んだからっ!!!」
――自らの、『できること』を
#navi(ゼロの黒魔道士)
#navi(ゼロの黒魔道士)
「な、なんなのよコレっ!?」
ズゥーン、ズゥーンと大きな音が響き渡る……
「ゴーレム!?でも大きすぎじゃないっ!?」
二つの月を覆い隠す大きな影……
「お、おでれーた!?なんなんでぇこいつぁ!?」
そいつは校舎の壁を叩きつけ……
「おそらく、“土くれ”」
こっちを睨みつけた……え?こっちを?
「う、うわぁぁっ!?」
ボクらのこと、バレてるっ!?
―ゼロの黒魔道士―
~第十二幕~ 追い立てる思い
急いでその場を逃げたんだ……
ゴーレムの上に乗ってた人(影しか見えなかったけど…)はゴーレムを伝って壊した壁の中に入っていった……
「“土くれ”って――今日街で聞いた盗賊の?ちょっとぉ、こんな大きなゴーレムなんて聞いてないわよぉ!」
「“土くれ”のフーケ、壁を土くれに変え、ときには巨大なゴーレムで襲うことで有名」
「おでれーた!とんだ盗賊がいやがったもんだなぁ!あんなゴーレムそうそうお目にかかれねぇぜ!こいつぁおでれーた!」
息も切れ切れになりながら、ゴーレムから見えなくなる死角の壁までたどりついたんだ……
「な、何よっ!“土くれ”!?た、たかが盗賊じゃないのよっ!!」
ルイズおねえちゃんが突然立ち上がり、来た道を戻ろうとしたんだ……
「る、ルイズおねえちゃん!危ないよっ!」
マントの裾をつかんで止めようとする……
ズルズルとそのまま引きずられちゃった……
「ルイズ!あんたじゃ何もできないでしょ!!」
「危険」
「娘っ子ぉ、ここぁ大人しくしときな!」
「うぅ~!目の前にいるのに~!!」
「だ、だから危ないんだと思うんだけど……」
……ルイズおねえちゃんを止めるので精いっぱいで、
……ボクたちは、ゴーレムを、“土くれ”のフーケを見送ってしまったんだ……
……確かに、倒せたのかもしれない、でも……
……ルイズおねえちゃんを危険な目に合わせるわけには……いかないよね?
「――…ふむ、つまり、そのまま逃してしまった、と」
翌朝、ボクたちは学院長室に目撃者として呼ばれたんだ……
……やっぱり昨日のゴーレムは、“土くれのフーケ”だったんだ……
壁にしっかりと、「『破壊の肉球』、確かに領収いたしました 土くれのフーケ」って書いてあったんだって……
わざわざそんなこと書くなんて、ジタンみたいな盗賊だなぁ……
「はい、申し訳ございません、取り逃してしまって……」
ルイズおねえちゃんが、悔しそうに、拳をにぎりしめて言う……
「いやいや、仕方あるまい、おぬしらに怪我が無くて何よりじゃよ」
オスマン先生が髭をしごきながら言う……
う~ん、オスマン先生って、マジメなときは偉そうでかっこいいんだなぁ……
「大体、宿直の教師は誰だったのかねっ!!職務怠慢では!?」
「だ、誰だってサボってたりしてましたでしょっ!?ご自分の勤務態度はどうでしたの!」
……何人かの先生たちが言い争いをはじめる……
……それを見て、ルイズおねえちゃんがよりいっそう拳をかたく握りしめる……
……うーん、たしかに、これって『みにくいあらそい』って感じだけど……
「喝っ!!」
オスマン先生の声が、ビリビリ響く……思わず、帽子をギュッとつかんじゃったんだ……
「教師の怠慢については我々全員が責任を感じ折り入って恥じるべきじゃろう!が、しかし、今はそれを議論する場では無いっ!!」
……オスマン先生、すごいなぁ……空気が一気にひきしまる……
なんかこう……気をつけの姿勢のまま石化しちゃうような感じ……
「しかし、こんなときにミス・ロングビルはどこへいったんじゃ!彼女の尻でもなでんと考えがまとまらんわいっ!!」
……うーん……やっぱり、オスマン先生って『ダメな大人』なのかなぁ……?
「あら、皆様お揃いで」
「おうおう!ミス・ロングビル!『噂をすれば尻』じゃな!あ、やめて、こめかみは地味に痛いからやめてやめてやめてぇぇ……」
……ロングビルおねえさんは、にっこり笑って、羽ペンの先の方でオスマン先生のこめかみをツンツンつついたんだ……
うぅ……あれはけっこう痛そうだなぁ……
「――…コホン、ミス・ロングビル、この非常時に一体どちらへ?」
コルベール先生が話を戻したんだ
……その一言で、その場の空気がまた元の会議っぽいものに戻ったんだ……
「えぇ、朝から急ぎ、調査を」
「ほぅ、調査とな?」
「えぇ。朝からフーケの噂を聞きまして、急ぎフーケの逃げ去ったとおぼしき方面へ調査を……」
「そ、それで、どうだったんですか!?」
……コルベール先生って、興奮すると汗でさらに眩しくなるんだなぁ……
「付近の農民数人に訊きこんだところ、村外れの森にある廃屋に入っていった黒ローブの男を見た、とのことです。恐らくその者フーケであり、その廃屋はフーケが隠れ家として使っている所ではないかと」
「なんと!その廃屋はどこに!?」
「ここからですと、徒歩で半日、馬なら4時間ほどといった場所です」
……すごいなぁ、そんなことまで分かっちゃうんだ……
でも、フーケ、バレバレだよね?……ジタンだったら「プロじゃないなぁ」とか言うのかなぁ?
「な、ならば早急に王室に報告しましょう!王室衛士隊に今回の事を依頼し、兵隊を差し向けてもらわなければ!」
「喝っっ!!浮足立っておるぞ、ミスタ・ゴールドヘルム!」
「……あの、私、コルベールですが……」
……オスマン先生って、空気を引き締めたいのかなぁ?それとも、思いっきりダラけさせたいのかなぁ…?全然分かんないや……
「ともかく、じゃ!そんなことをしている間にフーケはもっと遠くに逃げよるわ!第一、自分達を襲う火の粉を自分達で満足に払えんで貴族も何もあるものか!」
「――…お言葉は立派ですが、人のお尻を触りながら言うのはやめていただけます?」
「あたたたたたた、眉間はやめて、眉間もやめて!?目に入りそうですっごく怖い!?」
……オスマン先生って、ホント何がしたいのかなぁ……?
「お、オホン!!!しかるに!魔法学院で起こった問題は我々だけで解決せねばならん!!そこでじゃ、フーケの捜索隊を編成する事にする!我こそはと思うものは杖を掲げよ!」
……ちょっとダラけた空気が引き締まる……
でも、さっきとは違う、どこか冷めきった引き締まり方だったんだ……
「これ、誰も杖を掲げんのか?名を上げる良い機会じゃぞ?」
……さっきまで 『みにくいあらそい』してた先生達も顔を下げっぱなしだ……うーん、確かに、あのゴーレムは怖いもんね……
「み、ミス・ヴァリエール!?」
「え?る、ルイズおねえちゃんっ!?」
……いつの間にか、ルイズおねえちゃんの杖が、天井の高いところまでしっかりと指し示すように上げられてたんだ……
「ミス・ヴァリエール、あなたは生徒ではありませんか!昨日の事態を目撃したなら、どれほど危険なことかお分かりでは!?」
「誰も、杖を上げないではないですか!!!」
……ルイズおねえちゃんの拳がプルプル震える……
ルイズおねえちゃん、悔しいのかなぁ、昨日のことが……?
「み、ミス・ツェルプストーまで!?」
キュルケおねえちゃんと……その影に隠れてタバサおねえちゃんも杖をしっかり上げていた……
「ルイズにだけ、いい格好はさせたくありませんもの!」
「心配」
……ルイズおねえちゃん、良かったね!
こんなに強い友達……ううん、違うね!「仲間」ができたんだ!
「ほほほ、気概があるのは生徒ばかり、か!まぁ情けなくもあり頼もしくもあり!!よかろう!諸君らにフーケのことは一任しよう!!」
「そんなオールド・オスマン!生徒達だけに任せるなどと!?」
「なんじゃい、ミスタ・ガトー!ならばお主が行くか?」
「わ、私はギトーで……いえ、何でもありません……」
「それに、じゃ!ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士と聞いておる!」
……水をかけられたように部屋の中の空気がざわめく……シュバリエって何だろ?
「本当なの?タバサ?」
「……ルイズおねえちゃん、シュバリエって……?」
「は!? あ、そっか、あんた知らなかったのよね……シュバリエっていうのは、純粋に個人がなした偉業に対して王室から与えられる称号よ!」
「つまり……タバサおねえちゃんってすごいってこと?」
「そりゃもう!……タバサって普段無口だけど、あの若さでシュバリエなんだ……」
「も~!タバサ、つれないじゃな~い!親友の私に教えないなんて~!」
「聞かれなかった」
……騎士って聞いて、『プルート隊』のことを思い出したんだけど……このざわめき方だと、きっともっとすごいんだろうなぁ……
「それに、ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を多く輩出した家系の出で彼女自身が出す炎魔法も強力と聞いておる!!」
……キュルケおねえちゃんが胸をはってオスマン先生の紹介に答える
……軍人さんの家か……きっと、鎧とかがいっぱいあるんだろうなぁ……
「そして、ミス・ヴァリエールじゃが……」
ルイズおねえちゃんが今か今かと構えている……
「えー、そのー、なんじゃ、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女であり、えー、将来有望なメイジと聞いておる!!」
……ルイズおねえちゃんが、ホントに「ガクッ」て音がしそうなぐらい肩を落としたんだ……
……また拳がプルプルふるえてる……うーん、なんとかしてあげたいなぁ……
「そ、それに、その使い魔であるビビ君は、異国のメイジとして、祖国を救った英雄の一人と聞いておる!!」
「え?ぼ、ボク!?」
……突然の紹介に驚いて、辺りを見回すと、先生達がこっちを見てる……うぅ、恥ずかしいなぁ……
「そうですぞ!それにビビ君はガンd」
「ゲホゴホウォッフォン!!あぁ、風邪でもひいたかの!うん!」
……?オスマン先生、さっきまであんなに元気だったのになぁ……?
「……さて!ともかく、諸君らに全てを任せる!ミス・ロングビル、すまんが、道中の案内と監督を頼めるかの?」
「えぇ、もとよりそのつもりでしたわ」
「うむ、では、魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する!!」
「「「杖にかけて!!!」」」
「え?え?えと……あの……で、デルフにかけて!?」
……何となく、合わせないとダメなのかなって思っちゃったんだ……
「はぁ~いい天気ね~!このままピクニックでも行っちゃいたいぐらいだわ~!」
「キュルケ!気をぬきすぎよ!!私たちは魔法学院の期待を背負ってるんだからね!!そ・れ・と!!ビビに勝手に抱きつかないでっ!!」
「え~、いいじゃな~い!まだ道のりは長そうなんだし~!」
……ボクたちは、天気のいい中、フーケがいるっていう森を目指して馬車の中にいたんだ……
タバサおねえちゃんは読書、ルイズおねえちゃんとキュルケおねえちゃんはいつもの喧嘩……それで……
「ミス・ロングビル!何もあなたが御者をしなくてもよろしいですのに~」
「いえ、私は貴族の名を失ったものですから……」
……ロングビルおねえさんが御者さんをやっていたんだ
……「貴族の名を失う」って言うときのロングビルおねえさん……なんか、悲しそう……?
「あら、その辺りのことを詳しく聞きたいですわ!」
「ちょ、キュルケ!やめなさいよ!人にはね、言いたくないこととかあるものなの!!貴族なんだから、慎みをもちなさい!!」
「え~、だって退屈じゃな~い!じゃビビちゃんといちゃつく~♪」
「あぁっ!こらーっ!!いい加減にしなさーいっ!!」
「娘っ子たち、元気だなぁ~……」
「う、うん……元気だね……」
デルフは最初から鞘から出しておいたから今もしゃべってる(戦闘になったときに鞘から出せないって危険だもんね……)
……そんな春のあったかい日差しの中、あのおっきなゴーレムと戦わなくちゃいけないかもしれないって中を、
ボクたちはピクニック気分で馬車に揺れていったんだ……
「――こんなこっていいのかねぇ、相棒?」
「な、なんとかなると思うよ?……多分……」
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