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ルイズと無重力巫女さん-26 - (2009/11/29 (日) 11:51:26) の1つ前との変更点
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平日ならば王宮で仕事をしている貴族や上流階級の商人をよく見かけるトリステインの王宮はいつもと違っていた。
王宮の門の前には当直の魔法衛士隊の隊員達が幻獣に跨り闊歩しており、いつもはこれ程厳重な警備ではない。
数日前からトリスタニアに住む人々の間ではこれは戦争の前兆かも知れないと囁き合っていた。
その話は三日前に隣国であるアルビオンを制圧した貴族派『レコン・キスタ』の存在もあって、現実味を帯びている。
王宮の上空を幻獣、船を問わず飛行禁止命令が出されたり、検問のチェックも激しくなったりすれば尚更である。
トリステイン軍のこの様な異常な行動に市民は恐怖し、いずれ来る戦火に今から怯えていた。
そんな状況であったから、王宮の上に立派な竜籠が現れたとき、警備の魔法衛士隊の隊員達は色めきたった。
三隊ある魔法衛士隊の内一隊であるマンティコア隊の隊長、ド・ゼッサールは部下を引き連れ王宮上空へと飛び上がった。
「全く、私の隊が警備をしてる時に限って厄介事が降ってくるな…」
苦労性の隊長は部下を率いつつ竜籠の方へ向かいながらふと愚痴を漏らした。
出来るならば何も起こらないでいて欲しかった。そうすればすぐに交代の時間がやってきて熱い紅茶とビスケットが食べられる。
まぁ過ぎた事と仕事にこれ以上愚痴を言っても仕方ない。と心の中で呟き、竜籠の方へ視線を移す。
立派な風竜に四隅を持ち上げられた巨大な籠の側面には見知った国旗が貼り付けられており、ゼッサールは目を丸くした。
縦長の赤地に3匹の竜が並んで横たわっているその意匠は、間違いなくアルビオン王国の国旗であった。
「アルビオン王国…だと?そんな馬鹿な」
ゼッサールのみならずその周りにいる隊員達も隊長と同じ事を思っていた。
滅び去った王家の印をつけた竜籠が堂々と空を飛ぶなど、あってはならない事だ。
だが、もしかするとうまく逃げ延びた王族達がトリステインへ亡命しに来たのかも知れない。
そう考えると目の前にある竜籠にも説明がつく。とりあえずゼッサールは竜籠の方へ近寄ろうとした、
しかし、ゼッサールが口を開く前に竜籠が急に高度を下げ、王宮の中庭へ降りようとした。
突然のことにマンティコア隊と中庭にいた衛視達が慌てふためき、一斉に槍や杖を竜籠に向ける。
籠を持ち上げていた風竜は武器を向けられているにもかかわらず平然と中庭の芝生に降り立った。
「ジャスティン、おまえはあの竜をなだめてくれ。俺がドアを開ける」
「了解しました」
マンティコア隊も地上に降り立ち、ゼッサールの指示でジャスティンと呼ばれた一人の隊員がマンティコアから降り、風竜にとりついた。
その間にゼッサールはいつでも呪文が唱えられるよう杖を構えつつ、籠のドアを思いっきり開けた。
そして、ゼッサールは籠の中にいた者達が自分の想像とは180℃違っていたことに、目を丸くした。
てっきりアルビオン王国の王族やその関係者(正妻や側室)が乗っていると思っていたばかりにその分反動が大きかった。
立派な風竜が持ち上げていた籠の中にいたのは、なんとうら若き美少女であった。それも二人。
「ふぁ…何よ、もう着いたの…?」
ゼッサールから見て左側のソファに寝転がっていた桃色がかったブロンドの少女が目を擦りつつそう呟いた。
そして右側のソファには珍妙な紅白の服(ゼッサールの個人的な感想)を着た黒色がかったロングヘアーの少女がその言葉に応えた。
「まぁ、降りたんだから着いたんだと思うけど…アンタ誰?」
黒髪の少女はそう言って、ドアを開けたゼッサールを指さした。
一方、指さされたゼッサールはそれに眉を顰めることも出来ず、呆然としながらも呟いた。
「まさかこんなに年の浅い少女二人が側室…なんてことは無いよな?」
◆
三日前 ニューカッスル城
「レイム…」
既に城の6割が炎に飲み込まれている中、ルイズは自分を助けてくれた霊夢の名を呟いた。
脇腹に出来た切り傷と右胸に致命的なダメージがあるのにも係わらずルイズの危機に飛んできたのである。
一体どうして?とルイズは不思議に思っていると、ふと左手の甲に刻まれていたルーンが光輝いている事に気がついた。
(使い魔のルーン…まさか、学院長の言っていたガンダールヴだっていうの?)
そんな事を考えていると、ふっとルーンから光が無くなり、それと同時に霊夢は仰向けに倒れた。
アッと思いルイズはすぐさま霊夢の傍へ近寄り、そして驚きの余り目を見開いた。
自分の記憶通りならば、今倒れている霊夢は傷を負っている筈である。
脇腹に浅い切り傷、そして右胸にはワルドにつけられた致命的な刺し傷。
今ルイズの目に何も異常がなければ、その二つの傷は『見あたらなかった』
それどころか自分と同じくらいに汚れていた服も綺麗になっており、脇腹に巻いていたリボンもちゃんと頭に戻っていた。
何故?と思いつつルイズは目を瞑って倒れている霊夢に声をかけた。
「あんた、傷はどうしたのよ傷は!?」
「ふぁ…?」
その一声で霊夢は目を開け、眠たそうな顔をルイズの方へ向けた。
顔色の方も健康と言っても差し支えなく、何処も異常はない。
まさかの事に、ルイズは呆然とするよりも先に怒りが沸々とわき始めてきていた。
一方の霊夢はというと、そんなルイズの態度を知らず、ボロボロになった彼女の姿を見て暢気そうに言った。
「どうしたのよルイズ…?雷にでも当たったかのような格好ねぇ」
何気無い一言により、ルイズの中の何かが再びプツンと切れた。
「こんの…バカッ!!!」
「イタァッ!!」
その瞬間、今のルイズに出せる力の約三分の二で霊夢の頭を叩いた。
寝ぼけている状態の霊夢に当然避けれる筈もなく、思いっきりルイズの攻撃を喰らってしまった。
ルイズにとって霊夢は使い魔(召喚しただけだが)であり命の恩人であるが、今の今までいつも召喚の儀式以降に堪っていくストレスの原因の大半も霊夢であった。
だから彼女が自分の目の前から去る前に一度だけその怒りをぶつけてやろと思ってはいたがいつもいつもその怒りを避けられていた。
そして今こんな危機的状況の中でやっと怒りをぶつけられた事にルイズは叩いた後に喜んで良いのか迷ってしまった。
一方の霊夢はと言うと、頭をさすりながら敵意むき出しの目でルイズを睨み付けながら口を開いた。
「何すんのよ。怪我人を虐めるのがアンタの趣味なの?」
霊夢のその冷たい一言にしかし、ルイズはムッとなり咄嗟に返事をした。
「アンタ自分の体見てみなさいよ。怪我なんて何処にもないじゃないの?」
「は?アンタ何言って…――――あ」
ルイズの言葉に霊夢はキョトンとした顔になり、自分の体を見て目を丸くした。
そんな霊夢を見てルイズはもう一言何か言ってやろうかと思ったが、その前に霊夢が口を開いた。
「やっぱりただの夢じゃなかったか…」
「夢じゃない?」
霊夢の口から出たその言葉に、ルイズは眉をひそめた。
一体どういう意味なの、と聞こうとしたとき。後ろから男のうめき声が聞こえてきた。
振り返ってみると、そこにはウェールズ皇子の死体があった。
ただの骸と成り果ててしまったアルビオンの若き皇太子を見て、霊夢が目を細める。
「…もしかして、ワルドに殺されたの?」
霊夢の言葉にルイズは何も言わず、ただコクリと頷いた。その瞬間―
「う…ウゥ…」
てっきり死んでいたと思っていたウェールズの指がピクリと動いた。
突然のことにルイズは驚愕し、霊夢は目を丸くした。
左胸を貫かれて死んだのにも拘わらず、突然口からうめき声を出して指をいきなり動かせば誰でも驚く。
霊夢にとっては死者が突然動き出すということは少し珍しいくらいである。
だからこそルイズのように驚かず目を丸くしただけに留まったのだ。
それからスクッと立ち上がると、指をピクピクと動かしているウェールズ皇子の元へと近づいた。
「ちょ…ちょっとレイム待ちなさい!」
ルイズの制止も振り切り、霊夢はウェールズ皇子の傍に近寄り、声をかけた
「ちょっと、まだ生きてる?」
霊夢の口から出た、その言葉に数秒遅れて返事が帰ってきた。
「う…君…大丈夫だったのか…」
「まぁね、ちょっと夢の中で知り合いに助けられたわ。知り合いって呼ぶのは少し嫌だけど」
死んでいたと思われたウェールズが顔を上げ、霊夢の方を見つめてそう言った。
生きていた皇太子を見て、すぐさまルイズはウェールズの傍へ近寄り、声をかけた。
「ウェールズ皇子、大丈夫ですか!?」
「ミス・ヴァリエール……ワルドの奴め…どうやらわざと心臓を狙わなかったようだ…うぐ!」
ウェールズはルイズに微笑みつつ冗談に交じりそう言ったが、すぐに痛みで顔を歪めた。
左胸に出来た小さな傷からはドクドクと少しずつ血を流れ続けている。
心臓に直撃しなかった分、地獄のような痛みと出血がウェールズに襲いかかっているのだ。
応急処置もせずに、このままにしておけばすぐにあの世へ逝ってしまうだろう。
だがそれでも、ウェールズは痛みを堪えてルイズとその横にいる霊夢に話しかけた。
「もうこの城はお終いだ…地下の港にある竜籠で…脱出を…」
「喋らないでくださいウェールズ皇子!今すぐ応急処置を…!」
なんとかしようとルイズは思ったが治療道具は無く、それどころか応急処置の仕方も分からない。
一応擦り傷や軽い怪我の治療法は知っているのだが、こんな命に関わる大怪我の治し方は流石に知らなかった。
咄嗟に横にいた霊夢の方へ顔を向けたが、彼女の方ももうお手上げと言いたそうな顔である。
そんな顔を見てルイズは目を細めたが、霊夢は文句交じりにこう言った。
「もう諦めなさいな。どうせ応急処置をしても血の出すぎで死ぬのは時間の問題よ」
確かに霊夢の言うとおりである。ウェールズの体から流れ出た血の量は半端ではない。
応急処置を施してもすぐに死んでしまう。要は遅すぎたという事である。
一方のルイズは目の前にある人の死をあっけなく許すような霊夢の言葉に従うことが出来なかった。
「そんな事言わないでよ!―――――姫殿下の…姫様の思い人をむざむざ見殺しにしたりなんか私には…」
小粒の涙を流ししつつも霊夢に反論するルイズを、ウェールズが制止した。
「もういい…ミス・ヴァリエール。…彼女の、言うとおりだ…僕はもう助からないさ」
ウェールズはそう言うと、ポケットの中から一つの指輪を取り出した。『風のルビー』だ。
「ミス・ヴァリエール。僕からアンリエッタへのプレゼントと言って…渡してくれ」
そう言いながらウェールズはルイズに『風のルビー』を手渡した。
アルビオン王家の秘宝を手渡されたルイズは悲痛な面持ちになり、悟った。
――――――――もう、これ以上の説得は無駄なんだと。
「ウェールズ皇子…。――――わかりました。必ず手紙と共にお渡しします」
指輪を手渡されたルイズはコクリと頷くと『風のルビー』を胸ポケットに入れた。
小さくもゴツゴツとした感覚がルイズの胸を刺激し、その存在をアピールしている。
ようやくわかってくれた目の前の少女の顔を見てウェールズは微笑んだ。ニッコリと…
「頼むミス・ヴァリエール…。地下にある港の右端に風竜と竜籠がある…あの竜ならトリステインへ真っ直ぐ行くだろう。それに乗って逃げなさい」
ウェールズの言葉を聞き、ルイズはしっかりと、力強く頷いた。
「そして…アンリエッタにはこう言ってくれ。『このウェールズ、例え死のうとも常に君の傍にいる』と…」
瞬間―――三人のすぐ近くで爆発が起こり、霊夢が咄嗟にルイズの腰を掴み後ろへ下がった。
次いで、倒れているウェールズの直ぐ傍に榴弾が落ち…
爆発した。
◆
王の寝室というのはどこもかしこも豪華な造りをしている。
そしてその妻である王妃や王女の部屋も平民や低級貴族の居室とは比べたら失礼な程豪華な部屋である。
王宮の水系統メイジに怪我を治療してもらったルイズと霊夢の二人はアンリエッタ王女の部屋に招かれていた。
最初は中庭で衛士隊の者達と揉めてはいたが途中からやってきたアンリエッタのお陰でこの部屋へ来ることが出来た。
部屋に入った後、アンリエッタはルイズから手紙と――『風のルビー』を手渡され目を丸くした。
一体どうして…とアンリエッタが思ったとき、ルイズは任務の最中に起こった事の次第を説明した。
説明を聞き終えたアンリエッタは、顔を両手で隠し嘆いていた。
「そ…んな…ウェールズ…様。私が殺した…ようなものだわ」
泣きつつもそのような事を言うアンリエッタの気持ちは、ルイズにもある程度分かった。
愛する者を失い、更には自分が選んだ護衛が愛する者を殺したのだ。嘆くのは無理もない。
一方の霊夢は、まるで目の前で嘆いている王女の事など関係ない、と言いたいかのように紅茶を飲んでいた。
召喚の儀式以来の付き合いであるルイズは霊夢の態度に怒る事は無かった。目は細めたが。
アンリエッタはそれから数分くらい泣いていたがやがて手を下ろし、泣きはらした顔でルイズと霊夢の方へ顔を向けた。
「とりあえずは、ルイズ、そしてハクレイレイム…でしたね。無事に戻ってきてくれて何よりです」
その言葉にルイズは深く頭を下げ、霊夢はカラになったティーカップをテーブルの上に置き、軽く手を振った。
王女の言葉に手を振るだけという行為に流石のルイズもムッとし、立ち上がろうとしたがそれをアンリエッタが制止した。
「構いませんよミス・ヴァリエール。彼女のお陰で今こうして貴方がここにいるのですから」
ソレを言われルイズは固まってしまう。確かに霊夢がいてくれたから、こうして無事でいられるのだ。
(でもどうしてレイムの奴はアルビオンにいたのかしら…まぁそれも後で聞いてみようっと)
今回の無礼は姫殿下に免じて無かった事にしようとルイズが座り直したとき、改めてアンリエッタがこう言った。
「それに…彼女がアルビオンに行く原因を作ったのは私ですからね。多少の事は許さないと」
「あぁ、そうですか――――――――――って、えぇ…!?」
アンリエッタの口から出た一言に、ルイズは勢い余って立ち上がってしまった。
◆
ザビエラ村―――――
ガリア王国の首都リュティスから五百リーグほど南東に下ったところに、その小さな村はある。
人口三百五十人程の村ではつい数週間ほど前に吸血鬼が現れ多くの村人達がその犠牲となった。
その吸血鬼はガリア王国から派遣された騎士を一度は殺したものの、再び派遣された騎士によって葬られた。
悩みの種が無くなった事もあり、『つい先程まで』村で大きな宴が行われて『いた』。
なぜ数週間経った後にそれを行うのか、というのは色々と込み入った事情があった。
死んでしまった村人達の葬儀や吸血鬼が『住んでいた』あばら家の解体など――本当に忙しい日々を送っていた。
そしてようやく全てが片づいた後に皆で食料や酒を持ち合い、和気藹々と村長の屋敷で宴を楽しんで『いた』。しかし…
●
「ハァ…!ハァ…!」
ザビエラ村に住んでいる薬草師のレオンは、どうしてこうなってしまったのか。と思いつつも森の中を駆け回っていた。
彼の背後には自分の家があるザビエラ村があるが、もはやそこは彼の村ではなかった。
三十分前…吸血鬼を自分達の手で退治し、村の英雄と称えられたレオンと数人の仲間達は他の村人達と共に宴を楽しんでいた。
吸血鬼を欺くためとはいえ、自分たちすら騙していたガリアの騎士を追い越して吸血鬼を倒したのだ。そりゃ称えもされるだろう。
そんな楽しげな雰囲気を一気に崩したのは―――――――小さな羽音であった。
まずそれに気がついたのは、レオンと共に吸血鬼が住んでいたあばら家を燃やした男である。
既に酔っ払っていた男は窓に寄りかかり、ワイン瓶片手にリュティスで流行の歌を口ずさんでいた。
そんな時、ふと背後――つまりは窓の外からブ~ン…と虫の羽音が耳の中に入ってきた。
男は思わず何かと思い振り返ると、これまで出したことのないと思ってしまうような悲鳴を上げたのである。
宴を楽しんでいたレオンを含めた他の村人達も何かと思い、そとらの方へと何人かが視線を移した。
すっかり太陽が隠れ、双つの月も今夜は雲に隠れているため窓の外は暗闇に包まれている。
しかし、屋敷の中の灯りのおかげで窓越しに此方を見つめている『ソレ』を見て、多くの者が目を丸くした。
もしもその存在をうまく言い表すならば…『妖精』という言葉が正しいであろう。
クリクリとした栗色の瞳に黒髪のポニーテール、更には人形に着させるようなメイド服まで着ている。
それ『だけ』ならば、伝説上の存在である妖精に巡り会えた事を村人達は始祖に感謝するであろう。
しかし、メイド服を着た可愛い妖精は右手武器として非常に一般的な『槍』を握っていた。
相手の体を貫くためだけに生まれたかのような流線型のフォルムを持つ槍の刃先には、ベットリとした赤い液体が付着していた。それも大量に。
その妖精は、窓越しにジーッと此方を見つめている。――否、自分を見て目を丸くしている人間達の様子をうかがっていた。
それから後の事は、今も尚レオンの脳裏に焼き付いている。
此方の様子をうかがっていた妖精が突如窓を割って屋敷の中に入ってきた。
そして次に背中から生えている羽からブンブンとうるさい音を出しながら天井を飛び回り始めたのだ。
恐らくそれが合図だったのだろう。ガラスの無くなった窓から次々とメイド服を着た妖精が一気に何十体も入ってきた。
突然の事に当然村人達はパニックに陥り、屋敷から出て行こうとする者や勇敢にも妖精の群れに突っ込んでいく者もいた。
しかし、突っ込んでいく者は危機を察知した妖精達に囲まれ、手に持っている槍で血まつりに上げられた。
人間を群れで刺す殺すその姿は、猛毒の針を持つ蜂の群れが敵にトドメの一撃を与えているかのようなものであった。
吸血鬼を退治したレオンや残りの仲間達も、呆気なく殺された村人を見て、部屋から出て屋敷の玄関を目指し走り始めた。
途中自分たちに気づいた妖精達に追われてしまい屋敷のあちこちを逃げ、その途中に仲間が二人もやられた。
ようやく屋敷の玄関から外へ出たとき、その行動が間違いであったとすぐに悟る。屋敷の屋根裏部屋にでも隠れていれば良かったのだ。
レオンと仲間達は見た。先に外に出ていた村人達の成れの果てを。
足下に転がる物言わぬ村人達の死体。そのどれもがミイラのようにカラカラに乾涸らびている。
そして、それらを辿った先には。雲の隙間から漏れる双つの月の光に照らされた少女がいた。
少々青色がかった銀髪に、白を基調としたドレスを着こなし。頭には赤いリボンを着けたナイトキャップを被っている。
だが、その顔には『笑み』が浮かんでいた。見る者を恐怖させる残忍な『笑み』が。
レオン達はその少女の顔と背中に生えている蝙蝠のそれとよく似た黒い翼。そして白いドレスに付着した返り血を見て、瞬時に恐怖した。
●
――――自分たちは吸血鬼を倒したが、あれは手に負えない。
共に逃げた仲間達はあの『少女の形をした悪魔』に次々と殺されていった。
今森から抜け出そうとしているのは、レオンただ一人だけであろう。
――――きっとアイツはこれだけで満足はしない。もっと酷いことが起きる。
今のレオンには目の前に立ちはだかる枝を避けたり足下を注意する暇惜しかった。
その為服が木の枝に引っかかりたり、斜面をころがり落ちても走り続けた。悪魔に追いつかれないために。
――――誰かがこの事を知らせなければ、きっと取り返しのつかない事になる。
その役目こそ自分に相応しい。レオンはそう思いつづけながら一心不乱に走り続けていた。
夜中に森を走り回るなど自殺行為にも等しい。だけど走らなければいずれ殺される。
やがて数十分ぐらい走り続けた時、ようやくレオンは街へと続く街道を見つけることが出来た。
――――そうだ、俺は吸血鬼を見つけた男だ。こんな所で死ぬはずg
さあいよいよ街道に出ようとしたとき、ドサッ…。とレオンは倒れてしまった。
森の中で倒れた彼の後頭部には、青い柄のナイフが深く刺さっていた――――
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