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最近巷で噂の盗賊、土くれのフーケは悩んでいた。
今回の獲物を魔法学院の宝物庫に狙い定めて早二ヶ月。正直、かなり手をこまねいていた。
扉や壁に『錬金』の呪文で穴を開けようにも、自分の実力よりも強力な『固定化』の呪文がかけられているため、歯が立たない。
外壁が物理襲撃に弱いという情報を手に入れ、下見に来たのだが。
「こう厚くちゃ、私のゴーレムでも無理そうね」
忌々しそうに、壁を踏みつけた。
ちなみにフーケは、宝物庫のある本塔五階の外壁に、垂直に立っている。
ここまで来てあきらめるのは、かなり癪だ。
かかった時間もそうだが、肉体的、精神的に受けたストレスを思い起こすと、涙が出てきそうになる。
お宝の一つでも、手に入れないことにはやってられない。
そんな思いが、引くに引けずに、ズルズルと時を重ねる原因になっていた。
「さて、どうしたものかね」
フーケの悩みは深い。
喋るボロ剣こと、デルフリンガーは嘆いていた。
剣に生まれて幾星霜、いろんな扱いを受けてきたが。
「こりゃねーだろ」
情けなさそうな声で言ったデルフの呟きは、風に消えていく。
デルフは柄をロープで縛られ、鞘を外した抜き身の状態で本塔の上から吊り下げられていた。
風が吹けば、そりゃもう揺れる揺れる。
隣には、同じように吊り下げられた、見た目立派な大剣があった。
この理不尽な状況について、心ゆくまで語り合いたいところだが、残念、それはただの剣でしかない。
少し時が戻る。
「はぁ~い、ダーリン。これ、あたしからのプ・レ・ゼ・ン・ト♪」
キュルケは入ってくるなり、アオにしなだれながら、両手に抱えた長く大きな包みを手渡した。
「ちょっと、あんた! 人の部屋に勝手に入ってこないでよ!! ……なによこれ?」
ルイズは、アオの手からひったくると、包みをバリバリと破る。
「こ、これは!?」
「あらあら、品がないわよ。ヴァリエール」
驚愕で目を見開くルイズを見て、悠然と見おろすキュルケ。
包みから出てきたのは、あの高くて立派な大剣だった。
「やっぱ剣も女もゲルマニア生まれに限るわよね~」
「あ、あんた、これどうしたの?」
「もちろん買ったのよ」
男のスケベ心を巧みに利用して、値切りに値切って買ったのは内緒だ。
アオはキュルケの剣を握り、鞘を外して構えてみる。
やっぱり、これもか。
湧き上がる力の感覚を自覚する。
街から戻ってデルフや投げナイフなどいろいろな物を試したが、全て同じ反応だった。
それともう一つ。
左腕の結晶を露出させると、刻まれたルーンが光っている。
どんな理屈かわからないが、剣などを手にすると、この感覚と共にルーンが光りだすのだ。
アオは、ベッドでヌイグルミと見つめ合っていたタバサが、自分を見ているのを感じて、結晶をしまった。
また、ヌイグルミと見つめ合うタバサ。にらめっこをしているように見えなくもない。
見つめ合う。
見つめ合う。
……時が止まっているのか。
「ほしいならあげるよ」
アオの言葉に驚くタバサ……無表情だが。
ぬいぐるみと見つめ合う姿も、なんとなくうれしそうだ……やっぱり無表情だけど。
「ダ、ダーリン! あたし、あたしにも!」
「タバサにはいいけど。キュルケ、あんたはダメ」
「なによ、ルイズは関係無いでしょ」
ルイズは、ニヤリと笑った。
「そのヌイグルミはアオが作った、アオの物。
アオはわたしの使い魔。
使い魔の物は、主人のも同然。
つまり……そのヌイグルミはわたしの物だったのよ!」
「な、なんですって―――!!」
ルイズのジャイアニズムに打ちのめされ、キュルケはがっくりと膝を突いた。
「こら」
「あいた」
アオは、ルイズの頭をごく軽く、チョップした。
「ご、ご主人様の頭を叩くなんて、どういうつもり!」
「意地悪は、めーだよ。そんな事をするのが、君の言う貴族、ってわけじゃないでしょ?」
「そ、それは」
言葉に詰まる、ルイズ。
壁に剥きだしの状態で立てかけてあったデルフが、喋りだした。
「おでれーた。主人に説教する使い魔なんざ、初めて見た」
デルフの言葉に、タバサとキュルケが頷く。
「それにキュルケには、この剣のお礼もしなきゃいけないしね」
さて、困ったのはキュルケだった。
確かにヌイグルミはほしかったが、このままではプレゼント作戦が失敗に終わってしまう。
まずい、まずいわね。
我知らず、爪を噛むキュルケ。
「ちょーっと待った相棒!」
「デルフ? どうしたのさ?」
「どうしたのじゃねえよ。相棒には、もう俺がいるじゃねえか。いらねえだろ、そんな剣」
「そ、そうよ! そいつの言う通りだわ。返しなさいよ。アオには、その喋るのがあるじゃない」
ルイズとデルフの剣幕に、アオは困ったように、肩をすくめた。
「いや、剣は何本あっても困らないけど」
「なに言ってんだ! 剣士にとって剣は命! 相棒は、俺ってもんがありながら、そんな剣に浮気するってのか?」
アオがなにか言うよりも早く、キュルケが勝ち誇ったような調子で言った。
「諦めることね、ダーリンはあたしの剣に夢中なのよ」
そんなことは誰も言っていない。
キュルケは勢いで、自分の優位を確立する魂胆だ。
「なにー!!」
「なんですってー!!」
それに、簡単に乗せられる、剣と主人。
「それに、ルイズ。あんただって、そのボロ剣より、こっちの方がいいって、ほんとは思っているんでしょ」
「ぐっ、痛いところを……」
「ひでえっ!?」
唯一の味方の裏切りに、デルフが愕然となる。
あちらを立てればこちらが立たず。今、口を出せばかなり面倒な事になるのが目に見えていたアオは、途中から傍観を決め込んでいた。
二人+一本の言い争いはだんだん、雰囲気が殺伐としてきている。
決闘だなんだと、物騒な言葉が飛びかうようになってきて、そろそろ止めようかと、アオが重い腰を上げようとしたその時、ヌイグルミと見つめ合ったまま、タバサが呟いた。
「いい考えがある」
で、現在に至る。
「おーい、本気か? お前ら」
今にも消え入りそうな声で言うデルフに、アオは口パクで、がんばれと声援を送る。
「それじゃ先に魔法でロープを切って、落とした方の剣をアオが使うってことで、異存はないわね?」
「も、もちろんよ」
キュルケの言葉に、硬い表情でルイズが頷いた。
タバサの提案。それがこの魔法勝負だった。
正直、ルイズに自信はまったくない。
だが、相手はキュルケ。負けるわけにも、逃げるわけにもいかなかった。
「あたしは後攻でいいわ。それと三回チャンスをあげる。ハンデよ」
余裕のキュルケ。
「いいわ」
ルイズは内心、腹を立てていたが、少しでも勝てる可能性を上げる為に、素直にその申し出を受ける。
ルイズが杖を構えると、シルフィードに乗って上空に待機していたタバサが、己の使い魔に命じて、羽ばたきによって風を巻き起こす。
「あ―――!!」
風に翻弄され、デルフが左右に激しく揺れる。
ルイズは覚悟を決めると、狙い定めて、『ファイアーボール』の呪文を唱えた。
だが、杖の先から火の玉は飛び出さず、直後に、デルフの後ろの壁が爆発した。
「ぎゃああああ!?」
悲鳴を上げながら、爆風でもみくちゃになるデルフ。
しかし、ロープは切れなかった。
二度、三度と呪文を詠唱するが、爆発が二回起きただけで、ロープは切れない。
デルフの悲鳴がだんだん小さくなっていったが、原形は留めていた。
「・・・・・・もう、いっそ殺して」
「大丈夫、君は剣だから死なないよ。壊れるだけだ」
アオ、何気にひどい言い草である。
「ほんと期待を裏切らないわね! ゼロのルイズ! ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするのよ!」
キュルケは笑いながら、杖を構えた。
激しく揺れるロープ。しかし、キュルケの『ファイアーボール』は一発で燃やし尽くす事に成功する。
キュルケの剣が落下し、地面に横たわる。
それをルイズは、唇を強く噛み締めながら、視線を逸らすことなく見ていた。
「あたしの勝ちね! ヴァリエール」
キュルケは剣を拾いに小走りで近づくと、抱え上げ、ルイズの様子を見ようと振り返った。
「なっ」
そして目撃した。
地面が盛り上がり、巨大なゴーレムが出来上がるのを。
「厄日かと思ったら、とんだ、たなぼただよ」
フーケはゴーレムの肩の上で、それを操りながら、ほくそ笑む。
宝物庫の壁、デルフが吊り下がっている辺りにひびが入っていた。
ルイズの魔法で爆発した場所だ。
妙な邪魔のせいで、今日は諦めて帰ろうと、様子を窺っていたのだが、なんたる幸運。
自分の魔法では傷一つつかなかった壁に、ヒビを入れたあの爆発も気にはなるが、このチャンスを見逃す手はない。
しかも、目印まであるのだから。
「至れり尽せりだね」
「あー、なんだぁ?」
目印、デルフが爆発のショックからようやく立ち直ると、巨大な拳が目前に迫っていた。
しかも、インパクトの瞬間に鉄に変わる。
デルフごと、拳が壁にめり込む。鈍い音をたてて壁が崩れ、穴が開いた。
もう叫ぶ気力も失ったのだろうか、デルフは振り子のように、ただ揺れている。こんなになってもロープが切れなかったのは、ある意味、驚異的だ。
フーケは杖で、デルフを払い退けると、宝物庫に侵入した。
巨大ゴーレム襲撃の一部始終を呆然と見ていたルイズは、塔の壁に開いた穴から、何かを握って出てきた黒ローブのメイジを見て、我に返った。
あそこは確か宝物庫……じゃあ、あいつは盗賊!!
「そこの盗賊、止まりなさい!
止まらないなら、このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが相手になるわ」
ルイズは、小山のような巨大なゴーレムに、ただ一人堂々と立ちふさがった。
「バカ! なにやってるのよ、早く逃げなさい!!」
キュルケは、その絶望的な風景に、悲鳴を上げた。
「盗賊を前にして、逃げ出すなんて貴族じゃないわ!」
「そんなことを言っている場合じゃないでしょうが!!」
黒ローブのメイジを肩に乗せたゴーレムは、ルイズなどまるで意に介さずに歩き出した。
このまま行けば、ゴーレムにルイズが踏み潰される。
なのに、ルイズは杖を構えたまま、動こうとしない。
アオは駆け出すと、キュルケに向かって叫んだ。
「その剣を僕に投げて!」
「む、無理よ! こんな重い物、投げられるわけ……」
突然、剣の重みが消失する。
タバサが『レビテーション』を剣にかけたのだった。
「ナイス! タバサ!!」
キュルケは羽のように軽くなった剣を、力いっぱい放り投げた。
投げられた時点で『レビテーション』を解かれた事により、重さを取り戻した剣が勢いよく飛んでいく。
アオはそれを空中でキャッチすると、旋風のようにルイズの横を抜け、ゴーレムめがけて突っ込んだ。
そして、その勢いのまま跳躍をした。
踏み出されたゴーレムのひざに乗り、アオを払いのけようと伸ばされた腕にさらに跳び乗ると、一気に駆け上がる。ゴーレムが振り落とそうと腕を動かすよりも早く、助走をつけて跳び上がり、ついに頭部の高さにまで達する。
肩に乗っていたメイジは、慌てて後ろへ跳び退く。
アオは体を捻ると、手にした剣の腹でゴーレムの頭の部分を打ち払った。大量の土を撒き散らしながら、ゴーレムの頭が叩き潰される。
しかし、剣は衝撃に耐え切れずに、根元から折れてしまった。
「チッ」
黒ローブのメイジは舌打ちし、落下しながら指を鳴らした。とたんに頭を潰されたゴーレムが、大量の土砂を巻き上げながら、一瞬にして崩れ落ちる。
だが、その足元にはルイズがいる。
「えっ?」
ルイズは間の抜けた声を上げ、自分に覆いかぶさろうとする土砂を見上げた。
「しまっ!?」
空中にいるアオには、どうする事もできなかった。なにより土煙で視界が覆われ、確認もままならない。
受身もそこそこに着地したアオは、痛みに悲鳴をあげる体を無視して、ゴーレムが崩れてできた土の山、ルイズのいた辺りに駆け寄る。
「ルイズ……ルイズ!」
折れた剣を投げ捨てると、素手で土を掘り返す。
「大丈夫よ、ダーリン」
キュルケが、アオの肩に手を置きながら、彼を止めた。
「で、でも、ルイズが……ルイズが!!」
「慌てないで。上を見て」
見上げると、タバサのウィンドラゴンの足にぶら下がった、ルイズの姿があった。
間一髪のところで、ウィンドラゴンが滑り込み、ルイズを救ったのだった。
パァンと乾いた音が鳴り響く。
「…な…」
地上に降り立ったルイズは、呆然と赤くなったほほを押さえながら、アオを見た。
「勇気と、無謀はちがう! なんであんな無茶をしたんだ!」
ルイズはアオに抱き寄せられた。
「あ、あああああんた、な、なにするのよ! ……ちょっ、ちょっと。…痛い…」
ルイズは、パニックになった。アオが力いっぱい抱きしめるせいで、息が苦しい。
ガタガタと震えるアオ。
ルイズは、覆いかぶさるような格好のアオの横顔を見た。
アオは、涙を流していた。よかった、よかったと呪文ように繰り返す。
肩を落とすルイズ。
叩かれたのはわたしなのに、なんでこいつが泣くのか。
「もう、こんなのって反則よ」
とりあえず泣きやむまで、アオの頭を優しく撫でた。
「……俺、完全に忘れられてないか……」
デルフは、風に揺れながら、空しそうに呟いた。
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最近巷で噂の盗賊、土くれのフーケは悩んでいた。
今回の獲物を魔法学院の宝物庫に狙い定めて早二ヶ月。正直、かなり手をこまねいていた。
扉や壁に『錬金』の呪文で穴を開けようにも、自分の実力よりも強力な『固定化』の呪文がかけられているため、歯が立たない。
外壁が物理襲撃に弱いという情報を手に入れ、下見に来たのだが。
「こう厚くちゃ、私のゴーレムでも無理そうね」
忌々しそうに、壁を踏みつけた。
ちなみにフーケは、宝物庫のある本塔五階の外壁に、垂直に立っている。
ここまで来てあきらめるのは、かなり癪だ。
かかった時間もそうだが、肉体的、精神的に受けたストレスを思い起こすと、涙が出てきそうになる。
お宝の一つでも、手に入れないことにはやってられない。
そんな思いが、引くに引けずに、ズルズルと時を重ねる原因になっていた。
「さて、どうしたものかね」
フーケの悩みは深い。
喋るボロ剣こと、デルフリンガーは嘆いていた。
剣に生まれて幾星霜、いろんな扱いを受けてきたが。
「こりゃねーだろ」
情けなさそうな声で言ったデルフの呟きは、風に消えていく。
デルフは柄をロープで縛られ、鞘を外した抜き身の状態で本塔の上から吊り下げられていた。
風が吹けば、そりゃもう揺れる揺れる。
隣には、同じように吊り下げられた、見た目立派な大剣があった。
この理不尽な状況について、心ゆくまで語り合いたいところだが、残念、それはただの剣でしかない。
少し時が戻る。
「はぁ~い、ダーリン。これ、あたしからのプ・レ・ゼ・ン・ト♪」
キュルケは入ってくるなり、アオにしなだれながら、両手に抱えた長く大きな包みを手渡した。
「ちょっと、あんた! 人の部屋に勝手に入ってこないでよ!! ……なによこれ?」
ルイズは、アオの手からひったくると、包みをバリバリと破る。
「こ、これは!?」
「あらあら、品がないわよ。ヴァリエール」
驚愕で目を見開くルイズを見て、悠然と見おろすキュルケ。
包みから出てきたのは、あの高くて立派な大剣だった。
「やっぱ剣も女もゲルマニア生まれに限るわよね~」
「あ、あんた、これどうしたの?」
「もちろん買ったのよ」
男のスケベ心を巧みに利用して、値切りに値切って買ったのは内緒だ。
アオはキュルケの剣を握り、鞘を外して構えてみる。
やっぱり、これもか。
湧き上がる力の感覚を自覚する。
街から戻ってデルフや投げナイフなどいろいろな物を試したが、全て同じ反応だった。
それともう一つ。
左腕の結晶を露出させると、刻まれたルーンが光っている。
どんな理屈かわからないが、剣などを手にすると、この感覚と共にルーンが光りだすのだ。
アオは、ベッドでヌイグルミと見つめ合っていたタバサが、自分を見ているのを感じて、結晶をしまった。
また、ヌイグルミと見つめ合うタバサ。にらめっこをしているように見えなくもない。
見つめ合う。
見つめ合う。
……時が止まっているのか。
「ほしいならあげるよ」
アオの言葉に驚くタバサ……無表情だが。
ぬいぐるみと見つめ合う姿も、なんとなくうれしそうだ……やっぱり無表情だけど。
「ダ、ダーリン! あたし、あたしにも!」
「タバサにはいいけど。キュルケ、あんたはダメ」
「なによ、ルイズは関係無いでしょ」
ルイズは、ニヤリと笑った。
「そのヌイグルミはアオが作った、アオの物。
アオはわたしの使い魔。
使い魔の物は、主人のも同然。
つまり……そのヌイグルミはわたしの物だったのよ!」
「な、なんですって―――!!」
ルイズのジャイアニズムに打ちのめされ、キュルケはがっくりと膝を突いた。
「こら」
「あいた」
アオは、ルイズの頭をごく軽く、チョップした。
「ご、ご主人様の頭を叩くなんて、どういうつもり!」
「意地悪は、めーだよ。そんな事をするのが、君の言う貴族、ってわけじゃないでしょ?」
「そ、それは」
言葉に詰まる、ルイズ。
壁に剥きだしの状態で立てかけてあったデルフが、喋りだした。
「おでれーた。主人に説教する使い魔なんざ、初めて見た」
デルフの言葉に、タバサとキュルケが頷く。
「それにキュルケには、この剣のお礼もしなきゃいけないしね」
さて、困ったのはキュルケだった。
確かにヌイグルミはほしかったが、このままではプレゼント作戦が失敗に終わってしまう。
まずい、まずいわね。
我知らず、爪を噛むキュルケ。
「ちょーっと待った相棒!」
「デルフ? どうしたのさ?」
「どうしたのじゃねえよ。相棒には、もう俺がいるじゃねえか。いらねえだろ、そんな剣」
「そ、そうよ! そいつの言う通りだわ。返しなさいよ。アオには、その喋るのがあるじゃない」
ルイズとデルフの剣幕に、アオは困ったように、肩をすくめた。
「いや、剣は何本あっても困らないけど」
「なに言ってんだ! 剣士にとって剣は命! 相棒は、俺ってもんがありながら、そんな剣に浮気するってのか?」
アオがなにか言うよりも早く、キュルケが勝ち誇ったような調子で言った。
「諦めることね、ダーリンはあたしの剣に夢中なのよ」
そんなことは誰も言っていない。
キュルケは勢いで、自分の優位を確立する魂胆だ。
「なにー!!」
「なんですってー!!」
それに、簡単に乗せられる、剣と主人。
「それに、ルイズ。あんただって、そのボロ剣より、こっちの方がいいって、ほんとは思っているんでしょ」
「ぐっ、痛いところを……」
「ひでえっ!?」
唯一の味方の裏切りに、デルフが愕然となる。
あちらを立てればこちらが立たず。今、口を出せばかなり面倒な事になるのが目に見えていたアオは、途中から傍観を決め込んでいた。
二人+一本の言い争いはだんだん、雰囲気が殺伐としてきている。
決闘だなんだと、物騒な言葉が飛びかうようになってきて、そろそろ止めようかと、アオが重い腰を上げようとしたその時、ヌイグルミと見つめ合ったまま、タバサが呟いた。
「いい考えがある」
で、現在に至る。
「おーい、本気か? お前ら」
今にも消え入りそうな声で言うデルフに、アオは口パクで、がんばれと声援を送る。
「それじゃ先に魔法でロープを切って、落とした方の剣をアオが使うってことで、異存はないわね?」
「も、もちろんよ」
キュルケの言葉に、硬い表情でルイズが頷いた。
タバサの提案。それがこの魔法勝負だった。
正直、ルイズに自信はまったくない。
だが、相手はキュルケ。負けるわけにも、逃げるわけにもいかなかった。
「あたしは後攻でいいわ。それと三回チャンスをあげる。ハンデよ」
余裕のキュルケ。
「いいわ」
ルイズは内心、腹を立てていたが、少しでも勝てる可能性を上げる為に、素直にその申し出を受ける。
ルイズが杖を構えると、シルフィードに乗って上空に待機していたタバサが、己の使い魔に命じて、羽ばたきによって風を巻き起こす。
「あ―――!!」
風に翻弄され、デルフが左右に激しく揺れる。
ルイズは覚悟を決めると、狙い定めて、『ファイアーボール』の呪文を唱えた。
だが、杖の先から火の玉は飛び出さず、直後に、デルフの後ろの壁が爆発した。
「ぎゃああああ!?」
悲鳴を上げながら、爆風でもみくちゃになるデルフ。
しかし、ロープは切れなかった。
二度、三度と呪文を詠唱するが、爆発が二回起きただけで、ロープは切れない。
デルフの悲鳴がだんだん小さくなっていったが、原形は留めていた。
「・・・・・・もう、いっそ殺して」
「大丈夫、君は剣だから死なないよ。壊れるだけだ」
アオ、何気にひどい言い草である。
「ほんと期待を裏切らないわね! ゼロのルイズ! ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするのよ!」
キュルケは笑いながら、杖を構えた。
激しく揺れるロープ。しかし、キュルケの『ファイアーボール』は一発で燃やし尽くす事に成功する。
キュルケの剣が落下し、地面に横たわる。
それをルイズは、唇を強く噛み締めながら、視線を逸らすことなく見ていた。
「あたしの勝ちね! ヴァリエール」
キュルケは剣を拾いに小走りで近づくと、抱え上げ、ルイズの様子を見ようと振り返った。
「なっ」
そして目撃した。
地面が盛り上がり、巨大なゴーレムが出来上がるのを。
「厄日かと思ったら、とんだ、たなぼただよ」
フーケはゴーレムの肩の上で、それを操りながら、ほくそ笑む。
宝物庫の壁、デルフが吊り下がっている辺りにひびが入っていた。
ルイズの魔法で爆発した場所だ。
妙な邪魔のせいで、今日は諦めて帰ろうと、様子を窺っていたのだが、なんたる幸運。
自分の魔法では傷一つつかなかった壁に、ヒビを入れたあの爆発も気にはなるが、このチャンスを見逃す手はない。
しかも、目印まであるのだから。
「至れり尽せりだね」
「あー、なんだぁ?」
目印、デルフが爆発のショックからようやく立ち直ると、巨大な拳が目前に迫っていた。
しかも、インパクトの瞬間に鉄に変わる。
デルフごと、拳が壁にめり込む。鈍い音をたてて壁が崩れ、穴が開いた。
もう叫ぶ気力も失ったのだろうか、デルフは振り子のように、ただ揺れている。こんなになってもロープが切れなかったのは、ある意味、驚異的だ。
フーケは杖で、デルフを払い退けると、宝物庫に侵入した。
巨大ゴーレム襲撃の一部始終を呆然と見ていたルイズは、塔の壁に開いた穴から、何かを握って出てきた黒ローブのメイジを見て、我に返った。
あそこは確か宝物庫……じゃあ、あいつは盗賊!!
「そこの盗賊、止まりなさい!
止まらないなら、このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが相手になるわ」
ルイズは、小山のような巨大なゴーレムに、ただ一人堂々と立ちふさがった。
「バカ! なにやってるのよ、早く逃げなさい!!」
キュルケは、その絶望的な風景に、悲鳴を上げた。
「盗賊を前にして、逃げ出すなんて貴族じゃないわ!」
「そんなことを言っている場合じゃないでしょうが!!」
黒ローブのメイジを肩に乗せたゴーレムは、ルイズなどまるで意に介さずに歩き出した。
このまま行けば、ゴーレムにルイズが踏み潰される。
なのに、ルイズは杖を構えたまま、動こうとしない。
アオは駆け出すと、キュルケに向かって叫んだ。
「その剣を僕に投げて!」
「む、無理よ! こんな重い物、投げられるわけ……」
突然、剣の重みが消失する。
タバサが『レビテーション』を剣にかけたのだった。
「ナイス! タバサ!!」
キュルケは羽のように軽くなった剣を、力いっぱい放り投げた。
投げられた時点で『レビテーション』を解かれた事により、重さを取り戻した剣が勢いよく飛んでいく。
アオはそれを空中でキャッチすると、旋風のようにルイズの横を抜け、ゴーレムめがけて突っ込んだ。
そして、その勢いのまま跳躍をした。
踏み出されたゴーレムのひざに乗り、アオを払いのけようと伸ばされた腕にさらに跳び乗ると、一気に駆け上がる。ゴーレムが振り落とそうと腕を動かすよりも早く、助走をつけて跳び上がり、ついに頭部の高さにまで達する。
肩に乗っていたメイジは、慌てて後ろへ跳び退く。
アオは体を捻ると、手にした剣の腹でゴーレムの頭の部分を打ち払った。大量の土を撒き散らしながら、ゴーレムの頭が叩き潰される。
しかし、剣は衝撃に耐え切れずに、根元から折れてしまった。
「チッ」
黒ローブのメイジは舌打ちし、落下しながら指を鳴らした。とたんに頭を潰されたゴーレムが、大量の土砂を巻き上げながら、一瞬にして崩れ落ちる。
だが、その足元にはルイズがいる。
「えっ?」
ルイズは間の抜けた声を上げ、自分に覆いかぶさろうとする土砂を見上げた。
「しまっ!?」
空中にいるアオには、どうする事もできなかった。なにより土煙で視界が覆われ、確認もままならない。
受身もそこそこに着地したアオは、痛みに悲鳴をあげる体を無視して、ゴーレムが崩れてできた土の山、ルイズのいた辺りに駆け寄る。
「ルイズ……ルイズ!」
折れた剣を投げ捨てると、素手で土を掘り返す。
「大丈夫よ、ダーリン」
キュルケが、アオの肩に手を置きながら、彼を止めた。
「で、でも、ルイズが……ルイズが!!」
「慌てないで。上を見て」
見上げると、タバサのウィンドラゴンの足にぶら下がった、ルイズの姿があった。
間一髪のところで、ウィンドラゴンが滑り込み、ルイズを救ったのだった。
パァンと乾いた音が鳴り響く。
「…な…」
地上に降り立ったルイズは、呆然と赤くなったほほを押さえながら、アオを見た。
「勇気と、無謀はちがう! なんであんな無茶をしたんだ!」
ルイズはアオに抱き寄せられた。
「あ、あああああんた、な、なにするのよ! ……ちょっ、ちょっと。…痛い…」
ルイズは、パニックになった。アオが力いっぱい抱きしめるせいで、息が苦しい。
ガタガタと震えるアオ。
ルイズは、覆いかぶさるような格好のアオの横顔を見た。
アオは、涙を流していた。よかった、よかったと呪文ように繰り返す。
肩を落とすルイズ。
叩かれたのはわたしなのに、なんでこいつが泣くのか。
「もう、こんなのって反則よ」
とりあえず泣きやむまで、アオの頭を優しく撫でた。
「……俺、完全に忘れられてないか……」
デルフは、風に揺れながら、空しそうに呟いた。
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