ゼロ・HiME11 - (2008/04/09 (水) 10:35:40) の編集履歴(バックアップ)
「ミスタ・ギトー、失礼しますぞ」
ルイズが静留の夢を見た翌朝。
朝一番に行われた風の属性魔法の講師ギトー氏の授業中、突然、教室の扉が開いて金髪のカツラを被り、豪華な衣装に身を包んだコルベールが入ってきた。
朝一番に行われた風の属性魔法の講師ギトー氏の授業中、突然、教室の扉が開いて金髪のカツラを被り、豪華な衣装に身を包んだコルベールが入ってきた。
「何ですかな、ミスタ? 見ての通り授業中ですが」
ギトーはムッとした表情でコルベールを睨みつける。
「おっほん、突然ですが今日の授業は全て中止となりました」
コルベールの言葉に生徒達が歓声を上げる。それを手を振って抑えると、コルベールは話を続ける。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が本日ゲルマニアご訪問からお帰りにこの魔法学院に行幸なされます。したがって粗相があってはいけません。急なことですが今から全力を挙げて歓迎式典の準備を始めますので皆さん、正装し門に整列するように」
コルベールは生徒達が緊張した面持ちで一斉に頷くのを確認すると、慌しく教室から出て行った。
「……なんやえらい気合の入った格好したはりましたな、コルベールはん」
「そりゃ王族の方をお迎えするんだもの当然でしょ……それより私達も急いで準備するわよ」
「はいな」
「そりゃ王族の方をお迎えするんだもの当然でしょ……それより私達も急いで準備するわよ」
「はいな」
静留はルイズに促され、一緒にルイズの自室へと向かった。
玄関まで敷かれた赤い絨毯の横に整列した魔法学院の生徒達が杖を掲げる中、王女の馬車が到着すると、衛士の声が高らかに響き渡った。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな―――り―――!」
馬車の扉が開き、枢機卿のマザリーニに手を引かれて王女が姿を現すと、生徒達から歓声が沸き起る。
その歓声に王女が微笑を浮かべ、優雅に手を振って答えると、生徒の歓声が一層高まった。
その歓声に王女が微笑を浮かべ、優雅に手を振って答えると、生徒の歓声が一層高まった。
「あれがトリステインの王女? 騒いでる連中には悪いけど、あたしの方が美人じゃない?」
「興味ない……離して……」
「興味ない……離して……」
タバサに背中から抱きついたままの格好でそう言うキュルケと、それに素っ気無く答えるタバサの様子に苦笑しながら静留はルイズに声をかける。
「まあ、美人って感じやないけど、楚々とした可憐でかいらしい感じのお方や思いますえ……ルイズ様もそう思いまへんか?」
だが、ルイズは返事をせずに顔を赤らめ、惚けたように何かを見つめている。
それに気づいた静留がその視線の先を探ると、そこには豪華な羽帽子を被り、長い口髭を生やした凛々しい貴族の姿があった。鷲の頭と獅子の胴を持つ見事な幻獣――グリフォンに跨っている。
それに気づいた静留がその視線の先を探ると、そこには豪華な羽帽子を被り、長い口髭を生やした凛々しい貴族の姿があった。鷲の頭と獅子の胴を持つ見事な幻獣――グリフォンに跨っている。
(いかにもって感じの二枚目やね……この手のタイプがルイズ様の好みなんやろか)
そんなことを思いながら静留が貴族をじっくりと観察していると、ふいに貴族がこちらの方に顔を向けた。そして、ルイズに向かってにっこりと微笑みかける。
その瞬間、静留の背筋にぞくりと悪寒が走った。
それは一見、普通の笑顔にしか見えたかも知れない。だが、その目に別の感情が浮かんでいるのを静留は見逃さなかった。
その瞬間、静留の背筋にぞくりと悪寒が走った。
それは一見、普通の笑顔にしか見えたかも知れない。だが、その目に別の感情が浮かんでいるのを静留は見逃さなかった。
(あの目は……黒曜の君の本性現した時と黎人さんと同じ……全てを自分の道具としか思うとらん人間の目や)
喧騒の中、相変わらず惚けているルイズをよそに、静留は一抹の不安を感じていた。
「――ルイズ様、いい加減に寝はったらどうどす」
その日の夜のこと。就寝時間を過ぎても心ここにあらずといった感じで部屋の中を徘徊し、なかなか寝ようとしないルイズに静留がたしなめるように声をかける。
昼間にあの貴族を見て以来、ルイズは一日中ずっと様子が変だった。何をするのも上の空で話しかけても生返事を返すだけ。時折、急に顔を赤面させぶつぶつと呟いたかと思うニヤニヤとだらしない笑顔を浮かべるその様は非常に奇異だった。
これは何かあると感じた静留は、貴族の素性を調べたが、分かったのはジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドという名前と、ルイズの故郷ラ・ヴァリエール公爵領の隣にある子爵家の当主であるということだけだった。
昼間にあの貴族を見て以来、ルイズは一日中ずっと様子が変だった。何をするのも上の空で話しかけても生返事を返すだけ。時折、急に顔を赤面させぶつぶつと呟いたかと思うニヤニヤとだらしない笑顔を浮かべるその様は非常に奇異だった。
これは何かあると感じた静留は、貴族の素性を調べたが、分かったのはジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドという名前と、ルイズの故郷ラ・ヴァリエール公爵領の隣にある子爵家の当主であるということだけだった。
(まあ、今日は何聞いてもまともに返事はもらえんやろし……聞き出すのは落ち着いてからにしたほうがええやろね)
静留がそんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。
「誰どすか?」
静留はドアのほうへと声をかけるが、返事はなく、かわりに一定のリズムでノックの音が響く。
それを聞いたルイズは急にはっとして正気に戻るとベッドから立ち上がり、深夜の訪問者を迎えるべくドアを開いた。
それを聞いたルイズは急にはっとして正気に戻るとベッドから立ち上がり、深夜の訪問者を迎えるべくドアを開いた。
そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女だった。
少女は警戒するように辺りを見回すと、そそくさと部屋に入り、小さく杖を振った。光の粉が部屋の中を舞う。
少女は警戒するように辺りを見回すと、そそくさと部屋に入り、小さく杖を振った。光の粉が部屋の中を舞う。
「……ディティクトマジック?」
「どこに目や耳が光っているかわかりませんからね」
「どこに目や耳が光っているかわかりませんからね」
少女はルイズの問いに頷くと、黒頭巾を取った。その下から現れたのはなんとアンリエッタ姫であった。
「姫殿下!」
ルイズが慌てて膝をつき、静留もそれに習って膝をつく。
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
アンリエッタは涼しげな声でそう言った後、感極まった表情を浮かべ、ルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へこられるなんて」
「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へこられるなんて」
ルイズは慌てて身を離すと、かしこまった口調で王女に答える。
「ああ、そんな堅苦しい行儀はやめて頂戴! わたくしとあなたはおともだちじゃないの! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまで、よそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下……」
そのアンリエッタの言葉にルイズは顔を上げ、感動した面持ちでアンリエッタと見詰め合う。
そんな空気を邪魔するように静留がごほんと咳払いをすると、ルイズに尋ねる。
そんな空気を邪魔するように静留がごほんと咳払いをすると、ルイズに尋ねる。
「それでルイズ様……王女様とはどういったお知り合いなんどす?」
「姫様がご幼少のみぎり、恐れ多くも遊び相手を務めさせていただいたのよ」
「姫様がご幼少のみぎり、恐れ多くも遊び相手を務めさせていただいたのよ」
静留の問いにルイズは懐かしむように目をつむって答えた。それを聞いたアンリエッタが暗い表情で呟く。
「……あの頃は毎日が楽しかったわ、なんの悩みもなくて」
「姫さま?」
「姫さま?」
ルイズは心配そうにアンリエッタの顔を覗き込む。アンリエッタはそのルイズの手を取って、にっこりと笑って言った。
「結婚するのよ、わたくし」
「……おめでとうございます。」
「……おめでとうございます。」
その声に悲しみを感じ取ったルイズは、沈んだ声で答えた。そこでアンリエッタは、ルイズの後ろで控えている静留の存在に気づいた。
「あら、ごめんなさい。ルイズ以外はいないものだとばかり……もしかしてルイズのおともだちですか?」
「いえ、うちはルイズ様の使い魔どす」
「使い魔?」
「いえ、うちはルイズ様の使い魔どす」
「使い魔?」
アンリエッタはきょとんとした顔で静留を見た。
「人にしか見えませんが……」
「……なぜか儀式で人を召喚してしまいまして」
「……なぜか儀式で人を召喚してしまいまして」
アンリエッタの問いにルイズは恥ずかしそうに答える。
「はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたはいつもどこか変わっていたけど、相変わらずね」
「はあ……」
「はあ……」
乾いた笑いを浮かべるルイズに気づかず、アンリエッタが深いため息をついた。
「どうなさったんです?」
「別になんでもないわ。ごめんなさいね……あなたに話せるようなことではないのに……わたくしってば……」
「姫さま、何かお悩みがおありなら、どうぞおっしゃってください。わたしをおともだちと呼んでくださったさっきのお言葉が嘘でないなら」
「ありがとうルイズ・フランソワーズ、とても嬉しいわ」
「別になんでもないわ。ごめんなさいね……あなたに話せるようなことではないのに……わたくしってば……」
「姫さま、何かお悩みがおありなら、どうぞおっしゃってください。わたしをおともだちと呼んでくださったさっきのお言葉が嘘でないなら」
「ありがとうルイズ・フランソワーズ、とても嬉しいわ」
ルイズの言葉にアンリエッタは嬉しそうに微笑んだ後、決心したように口を開いた。
「実はわたくし、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」
「ゲルマニアですって! 何故姫さまがあんな成り上がりどもの野蛮な国に嫁がなければならないのですか!」
「でも、仕方ないのです。ゲルマニアと同盟を結ぶために必要なことですから」
「ゲルマニアですって! 何故姫さまがあんな成り上がりどもの野蛮な国に嫁がなければならないのですか!」
「でも、仕方ないのです。ゲルマニアと同盟を結ぶために必要なことですから」
そう言うとアンリエッタは憤慨しているルイズをなだめる様に、ハルケギニアの政治状況について話し始めた。
アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。もし反乱軍が王室を倒したら、大陸統一を掲げる彼らは次にトリステインに進攻してくるであろうこと。
それに対抗する為、トリステインは帝政ゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。同盟成立の条件として、アンリエッタがゲルマニア皇室に嫁ぐ事になったこと……。
アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。もし反乱軍が王室を倒したら、大陸統一を掲げる彼らは次にトリステインに進攻してくるであろうこと。
それに対抗する為、トリステインは帝政ゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。同盟成立の条件として、アンリエッタがゲルマニア皇室に嫁ぐ事になったこと……。
「そうだったんですか……」
「ええ、国を守るためなら、この身を捧げることも私は厭いません。それに王家に生まれた以上、望んだ相手と結婚できないことぐらい承知していますから」
「ええ、国を守るためなら、この身を捧げることも私は厭いません。それに王家に生まれた以上、望んだ相手と結婚できないことぐらい承知していますから」
アンリエッタはまるでなんでもないことのようにそう言うと、更に話を続ける。
「当然ながらアルビオンの貴族たちは、わが国とゲルマニアの同盟を妨害すべく、婚姻を妨げる材料を血眼になって探しています」
「……もしや、姫さまの婚姻を妨げるような材料が?」
「……もしや、姫さまの婚姻を妨げるような材料が?」
ルイズが顔を蒼白にしてたずねると、アンリエッタは悲壮な表情で頷いた。
「わたくしがアルビオン王国のウェールズ皇太子に当てた一通の手紙です。それが公になれば婚姻は破棄され、同盟は反故となるでしょう」
「では、姫さまが私に頼みたいことというのは……」
「その手紙をアルビオンに行って極秘裏にウェールズ皇太子から回収してきて欲しいのです。正直こんなことをおともだちのあなたに頼むのは心苦しいのですが……でも、今、頼れるのはあなたぐらいしかいなくて」
「では、姫さまが私に頼みたいことというのは……」
「その手紙をアルビオンに行って極秘裏にウェールズ皇太子から回収してきて欲しいのです。正直こんなことをおともだちのあなたに頼むのは心苦しいのですが……でも、今、頼れるのはあなたぐらいしかいなくて」
アンリエッタはルイズの手を握って頭を下げる。それを見たルイズが二つ返事でアンリエッタの願いを受け入れようとした時、横で静かに話を聞いていた静留がくすりと小さな笑いを漏らす。
「……シズル?」
「ほんに、お姫さんやねえ……自分が何を言うとるか分かってへんのと違いますか」
「ほんに、お姫さんやねえ……自分が何を言うとるか分かってへんのと違いますか」
静留の口からアンリエッタに向かって、嘲笑を含んだ冷ややかな言葉が放たれた――。