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Persona 0-03 - (2008/07/28 (月) 21:58:36) の編集履歴(バックアップ)
キュルケは慌てて杖を構えようとするが、しかし杖がないことに気づいてたじろいだ。
もう一度暴れられたら今度こそもう止められない。
「安心するクマ、ルイズちゃんの影は落ち着いてる」
そう言いながらクマはぺったんぺったんとルイズの隣に歩いて行く。
「ねぇ、ルイズちゃん」
「らによぉ、あんたは!」
「クマはクマよ、ルイズちゃんこの子を許してやって欲しいクマ」
そう言ってクマはもう一人のルイズを指さした。
「暴走しちゃったけどこの子もルイズちゃんの一部なのクマよ、だから……」
「違うもん、こんなの私じゃないもん」
涙声でルイズは拒否するが、その声には力がない。
その代わりにまるでルイズの内面を代弁するように影がさらに激しく涙を零す。
「ルイズちゃん……」
「私は立派なメイジになるんだもん、いつか必ず魔法を使えるようになって、胸を張ってヴァリエール家に帰るんだ、もん」
それはどうしようもなく虚勢だった、それはルイズ自身にもわかっていた――はずである。
「だからこんなところで挫けちゃ駄目なんだもん」
『でもやっぱり怖いだもん』
ルイズの言葉を継いだのはもう一人のルイズ。
『いつまで経ってもコモンマジックすらろくに使えなくてみんなに“ゼロ”だ“ゼロ”だって言われて、だんだん本当に自分でも“ゼロ”なんじゃないかと思えてきて……』
ぽつりぽつりと吐き出されるその言葉にルイズははっと息を飲んだ。
「あなた……」
『本当に“ゼロ”なら、そんな私なんていらないって思ってた』
キュルケもまた二人のルイズを前にして息を呑んだ、あれだけの意地と虚勢の下にはこれほどの苦悩があったのか。
『私なんて、産まれてこなければよかったって思ってた』
もう一人のルイズはゆっくりと顔をあげると虚ろな目でまっすぐにルイズを見つめる。
もう一度暴れられたら今度こそもう止められない。
「安心するクマ、ルイズちゃんの影は落ち着いてる」
そう言いながらクマはぺったんぺったんとルイズの隣に歩いて行く。
「ねぇ、ルイズちゃん」
「らによぉ、あんたは!」
「クマはクマよ、ルイズちゃんこの子を許してやって欲しいクマ」
そう言ってクマはもう一人のルイズを指さした。
「暴走しちゃったけどこの子もルイズちゃんの一部なのクマよ、だから……」
「違うもん、こんなの私じゃないもん」
涙声でルイズは拒否するが、その声には力がない。
その代わりにまるでルイズの内面を代弁するように影がさらに激しく涙を零す。
「ルイズちゃん……」
「私は立派なメイジになるんだもん、いつか必ず魔法を使えるようになって、胸を張ってヴァリエール家に帰るんだ、もん」
それはどうしようもなく虚勢だった、それはルイズ自身にもわかっていた――はずである。
「だからこんなところで挫けちゃ駄目なんだもん」
『でもやっぱり怖いだもん』
ルイズの言葉を継いだのはもう一人のルイズ。
『いつまで経ってもコモンマジックすらろくに使えなくてみんなに“ゼロ”だ“ゼロ”だって言われて、だんだん本当に自分でも“ゼロ”なんじゃないかと思えてきて……』
ぽつりぽつりと吐き出されるその言葉にルイズははっと息を飲んだ。
「あなた……」
『本当に“ゼロ”なら、そんな私なんていらないって思ってた』
キュルケもまた二人のルイズを前にして息を呑んだ、あれだけの意地と虚勢の下にはこれほどの苦悩があったのか。
『私なんて、産まれてこなければよかったって思ってた』
もう一人のルイズはゆっくりと顔をあげると虚ろな目でまっすぐにルイズを見つめる。
ルイズはなにか言おうとして、しかし何も言えずに口を噤んだ。
「ほら、しっかりなさいなルイズ」
そんな背中をとんと押してキュルケはルイズに笑いかけた。
その笑顔はまるで炎のよう、凍てついたルイズの心を温め、燃やし、無理やりにでも前に進む活力を注ぎこむ。
そのおかげか、やっとルイズはまっすぐにもう一人の自分を見ることができた。
長い桃色の金髪と吊りあがり気味の瞼、普段はきつく結んだ口元は今は薄く閉じられておりこうして見れば随分と可愛らしく見える。
ルイズをじっと見つめるその姿は、まるで雨に濡れそぼる捨てられた子犬のようだった。
「――分かってた、あなたは私のなかにいたんだって」
「ルイズちゃん!」
「弱虫で泣き虫で、ずっと諦めたがってた。どうせ“ゼロ”なんだって認めて楽になりたいと思ってた、私」
そう言ってルイズは自嘲するように笑った。
「でもごめんね、まだ私は諦められないの。だって魔法を使える立派な貴族になるのは私の夢だから、魔法が使えるようになってちぃ姉さまのご病気治して差し上げたいから」
だからもうちょっとだけ一緒に頑張ってくれないかしら?
ルイズのか細い言葉に、もう一人のルイズは同意するようにこくりと頷いた。
「ふふ、一番大切なものはやっぱり私と一緒なんだ……」
そうしてルイズはくすりと笑う。
「あなたは、私ね」
「ほら、しっかりなさいなルイズ」
そんな背中をとんと押してキュルケはルイズに笑いかけた。
その笑顔はまるで炎のよう、凍てついたルイズの心を温め、燃やし、無理やりにでも前に進む活力を注ぎこむ。
そのおかげか、やっとルイズはまっすぐにもう一人の自分を見ることができた。
長い桃色の金髪と吊りあがり気味の瞼、普段はきつく結んだ口元は今は薄く閉じられておりこうして見れば随分と可愛らしく見える。
ルイズをじっと見つめるその姿は、まるで雨に濡れそぼる捨てられた子犬のようだった。
「――分かってた、あなたは私のなかにいたんだって」
「ルイズちゃん!」
「弱虫で泣き虫で、ずっと諦めたがってた。どうせ“ゼロ”なんだって認めて楽になりたいと思ってた、私」
そう言ってルイズは自嘲するように笑った。
「でもごめんね、まだ私は諦められないの。だって魔法を使える立派な貴族になるのは私の夢だから、魔法が使えるようになってちぃ姉さまのご病気治して差し上げたいから」
だからもうちょっとだけ一緒に頑張ってくれないかしら?
ルイズのか細い言葉に、もう一人のルイズは同意するようにこくりと頷いた。
「ふふ、一番大切なものはやっぱり私と一緒なんだ……」
そうしてルイズはくすりと笑う。
「あなたは、私ね」
>自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる…
>ルイズはもう一人の自分。
>困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ“イドゥン”を手に入れた。
>ルイズはもう一人の自分。
>困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ“イドゥン”を手に入れた。
そのまま意識が遠くなっていく。
手に黄金の林檎を持った桃色の髪の仮面の乙女、そんなもう一人の自分の姿を目に焼き付けながらルイズは意識を失った。
手に黄金の林檎を持った桃色の髪の仮面の乙女、そんなもう一人の自分の姿を目に焼き付けながらルイズは意識を失った。
~二日後~
「あなたの、テレビに、時価ネットたなか~」
「ルイズー、ちょっといい?」
「あ、うん。分かった」
テレビのスイッチをぷつんと切ってルイズは立ち上がった。
黒い画面に映る自分の顔を見ながらしみじみと考える。
魔法の力など少しも使っていないただの箱なのに、ボタンを押すだけでいろいろな映像を見ることができるなんてとんでもないアイテムである。
クマの話によるとこの箱は“テレビ”と言うらしい、本来は電源と電波と言うものが必要らしいのだが問題なく動いているのはやはり……
「この使い魔のルーンのせいなのかしらね……」
テレビの側面には珍しい形の使い魔のルーンが今も光を放っている、なぜ珍しいかと言えば半日ほど図書館の本をひっくり返しても該当するルーンは結局見つからなかったからだ。
「ルイズー、聞いてるのー?」
「あーごめん、今出るわ」
音を立てて扉を開けるとそこには最近親しくなった赤毛の友人の顔。
「もぉ遅いわよぉルイズ」
「勝手に人の部屋に上がりこんでおいて遅いもなにもないじゃない」
「そんなことは後々、早くしないと夏のソナタ始まっちゃうわよ」
はいはい、と言いながらルイズは指で消したばかりのテレビを弄る。
ぷつんと言う音と共に画面に光が満ち、まるで遠見の鏡のように番組を映し出す。
『オールハンドゥガンパレード、全軍抜刀、全軍突撃、男と女が一人ずつ生き残れば我々の…』
ぷつん
『嘘だッ!』
ぷつん
『空ーと君との間にはー、今日も冷たい雨がふ…』
ぷつん
『ぱれろちゅちゅ、ぱれろちゅちゅ…』
ぷつん
「ああ、これよこれ」
何度かのチャンネル変更を経てテレビにはハルケギニアでは見慣れない服装で抱き合う男と女の姿が映し出されていた。
それを見るともなしに見ながら、ルイズはついとキュルケに話を振ってみる。
「なんなのかしらね、これ」
「これって、どっち?」
ルイズは己の手とテレビを見比べながら、拗ねたように「両方」と言った。
「夢じゃ、ないわよね」
「夢だったら良かったわね」
そう言ってキュルケは未だ生傷の残る左腕をかざして見せた。
水の秘薬で粗方は直したが、もともと何故こんな大怪我をしたのか公に出来ないこともあって、キュルケが手配した分の秘薬では細かい擦り傷や切り傷まで完治させるには到底足りなかったのだ。
「ペルソナって言ったっけ? 良かったじゃない、魔法が使えるようになって」
「ありがと、けど全然良くないわよ。私自身の力じゃないし……」
ルイズはそう言って自分の胸を貫くように生い茂る半透明な樹木の枝と、その先端から伸びる若い娘の姿を見た。
左手に持った籠には黄金の林檎、顔を覆う仮面は硝子のような白い球面、たなびく髪の先には桃色の花が満開に花開いている。
イドゥン、それがもう一人のルイズが姿を変えた“ペルソナ”の名前。
「それにこんな魔法じゃ、下手したら異端扱いよ」
「まぁ、それもそうね」
そう言うとキュルケは唇に指を当て、
「けれど一人や二人は喜んでくれる人がいるでしょう?」
「そんなこと……」
そう言ってルイズの頭に浮かんだのは優しい二番目の姉と厳しい両親、そして子供頃からずっと憧れている一人の青年の姿。
「それに私もその一人だしね」
ついと横を向いたキュルケの姿がどこかおかしく、ルイズは笑った。
すっごく嬉しかったけどそれを悟られるのが同じくらい恥ずかしく思えて、ルイズもまた反対方向に向けてそっぽを向く。
一つの部屋に素直じゃない少女が二人、部屋の中にはテレビのBGMだけが響いている。
窓の外は、雨。
「ルイズー、ちょっといい?」
「あ、うん。分かった」
テレビのスイッチをぷつんと切ってルイズは立ち上がった。
黒い画面に映る自分の顔を見ながらしみじみと考える。
魔法の力など少しも使っていないただの箱なのに、ボタンを押すだけでいろいろな映像を見ることができるなんてとんでもないアイテムである。
クマの話によるとこの箱は“テレビ”と言うらしい、本来は電源と電波と言うものが必要らしいのだが問題なく動いているのはやはり……
「この使い魔のルーンのせいなのかしらね……」
テレビの側面には珍しい形の使い魔のルーンが今も光を放っている、なぜ珍しいかと言えば半日ほど図書館の本をひっくり返しても該当するルーンは結局見つからなかったからだ。
「ルイズー、聞いてるのー?」
「あーごめん、今出るわ」
音を立てて扉を開けるとそこには最近親しくなった赤毛の友人の顔。
「もぉ遅いわよぉルイズ」
「勝手に人の部屋に上がりこんでおいて遅いもなにもないじゃない」
「そんなことは後々、早くしないと夏のソナタ始まっちゃうわよ」
はいはい、と言いながらルイズは指で消したばかりのテレビを弄る。
ぷつんと言う音と共に画面に光が満ち、まるで遠見の鏡のように番組を映し出す。
『オールハンドゥガンパレード、全軍抜刀、全軍突撃、男と女が一人ずつ生き残れば我々の…』
ぷつん
『嘘だッ!』
ぷつん
『空ーと君との間にはー、今日も冷たい雨がふ…』
ぷつん
『ぱれろちゅちゅ、ぱれろちゅちゅ…』
ぷつん
「ああ、これよこれ」
何度かのチャンネル変更を経てテレビにはハルケギニアでは見慣れない服装で抱き合う男と女の姿が映し出されていた。
それを見るともなしに見ながら、ルイズはついとキュルケに話を振ってみる。
「なんなのかしらね、これ」
「これって、どっち?」
ルイズは己の手とテレビを見比べながら、拗ねたように「両方」と言った。
「夢じゃ、ないわよね」
「夢だったら良かったわね」
そう言ってキュルケは未だ生傷の残る左腕をかざして見せた。
水の秘薬で粗方は直したが、もともと何故こんな大怪我をしたのか公に出来ないこともあって、キュルケが手配した分の秘薬では細かい擦り傷や切り傷まで完治させるには到底足りなかったのだ。
「ペルソナって言ったっけ? 良かったじゃない、魔法が使えるようになって」
「ありがと、けど全然良くないわよ。私自身の力じゃないし……」
ルイズはそう言って自分の胸を貫くように生い茂る半透明な樹木の枝と、その先端から伸びる若い娘の姿を見た。
左手に持った籠には黄金の林檎、顔を覆う仮面は硝子のような白い球面、たなびく髪の先には桃色の花が満開に花開いている。
イドゥン、それがもう一人のルイズが姿を変えた“ペルソナ”の名前。
「それにこんな魔法じゃ、下手したら異端扱いよ」
「まぁ、それもそうね」
そう言うとキュルケは唇に指を当て、
「けれど一人や二人は喜んでくれる人がいるでしょう?」
「そんなこと……」
そう言ってルイズの頭に浮かんだのは優しい二番目の姉と厳しい両親、そして子供頃からずっと憧れている一人の青年の姿。
「それに私もその一人だしね」
ついと横を向いたキュルケの姿がどこかおかしく、ルイズは笑った。
すっごく嬉しかったけどそれを悟られるのが同じくらい恥ずかしく思えて、ルイズもまた反対方向に向けてそっぽを向く。
一つの部屋に素直じゃない少女が二人、部屋の中にはテレビのBGMだけが響いている。
窓の外は、雨。
午前零時。
ルイズが寝静まった部屋のなかで電源の切れたテレビにひどく鮮明な映像が映った。
人のような、獣のような黒い影が、もはや肉塊となった物体を引きずりながら画面に近づいてくる。
「オオオオオォォォ――ズゥゥゥゥ、オォォォォ、ィズゥゥゥゥ」
深い呼気のようなその遠吠えは高く高く、テレビのなかの世界に響き渡る。
異なる理に支配された異なる世界、だと言うのにマヨナカのテレビは不吉なものを映し出す。
ルイズが寝静まった部屋のなかで電源の切れたテレビにひどく鮮明な映像が映った。
人のような、獣のような黒い影が、もはや肉塊となった物体を引きずりながら画面に近づいてくる。
「オオオオオォォォ――ズゥゥゥゥ、オォォォォ、ィズゥゥゥゥ」
深い呼気のようなその遠吠えは高く高く、テレビのなかの世界に響き渡る。
異なる理に支配された異なる世界、だと言うのにマヨナカのテレビは不吉なものを映し出す。