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FFの使い魔 - (2007/09/26 (水) 17:49:39) のソース
「あんた、誰?」 ルイズは喉もとまで出かかったその言葉を、慌てて呑み込んだ。 うかつな言葉をかければ、自分の命はない―――相手の姿を一瞥したルイズは、一瞬のうちにそう判断したのだ。 『サモン・サーヴァント』の呪文で彼女が召喚したのは、大柄な―――ゆうに二メイルを超える―――男だった。 肩幅が広く筋骨隆々で、牡牛を思わせるがっしりした肉体を、上質そうな革鎧で覆っている。 しかし、ルイズが怯み、おびえたのは男の体格に圧倒されたためではない。 トリステイン王国きっての名門貴族の令嬢であり、なによりも矜持を大切にする彼女は、たとえ眼前にトロール鬼や竜が現れようとも、 驚きこそすれ、怯むようなことはなかっただろう。 ルイズをおびえさせたのは、男の墓穴の底よりも暗く冷たい眼差しであり、その全身から発散される、素手で触れれば焼かれるのではないかと 思わせるほどの、圧倒的な邪悪の気配だった。 困惑した様子もなく悠然と周囲を見渡す男を前にして、動くことも話すこともできなくなったルイズは、必死に考えをまとめようとする。 ベルトに偃月刀(えんげつとう)と短剣を差しているが、ただの平民の衛兵や傭兵には見えない。 その武器はどちらも、柄や鞘に宝石と金細工を散りばめた最高級のものであり、貴族でもそうそう入手できるものではない。 また、その双眸は冷酷であると同時に高い知性を感じさせ、自信に満ち溢れた態度は野卑な平民たちとは程遠いものだった。 杖こそ見えないが相手は貴族、それも相当の実力の魔法使いだと確信したルイズは、可能な限り男の機嫌を損ねないように、 丁重に話しかけようとした。 しかし次の瞬間、男はどう、と前のめりに倒れた。 あまりの意外な出来事に驚いたルイズは、倒れた男に駆け寄るが、すでに遅い。 男は酷薄そうな顔に苦悶の表情を浮かべ、眼を見開いたまま、微動だにしなかったのだ。 「う…嘘ぉ!?ちょっと!お、起きてよ!冗談でしょ!?」 暖かい春の日差しのなか、ルイズは必死に倒れた巨躯を揺り動かすが、男は完全に事切れていた。 『ぎざ岩山の支配者である妖術使いバルサス・ダイアは、世界征服の野望の手始めに、平和な柳谷への侵攻を企んだが、サラモン王の命を受けた とある魔法使いによって暗殺された』 サラモニスの歴史書にはこう記されているが、これを否定する史料もあり、その作者不詳の怪しげな書物には 『…バルサスは多くの部下たちの目の前で、銀色に輝く鏡めいたものに呑み込まれ、それを最後に消息を絶った。 彼の行方は、魔界の奥底に座する、七人の魔王子たちですら知らぬという…』 と記されている。 平和と秩序を重んじる筆者としては、日の光を毒のごとく忌み嫌ったという稀代の妖術使いバルサス・ダイアが、再びこのアランシアの地に現れることがなきよう、 祈るばかりである! ---------------------------------------- 以上、ゲームブック「バルサスの要塞」のボスキャラ、バルサス・ダイア召喚でした。 いちおう人間のはずなのですが、日光に当たると死ぬという特異体質の持ち主です。 ちなみに、FFはファイティング・ファンタジーの略。