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ゼロの蛮人6 - (2007/10/12 (金) 21:18:18) のソース
#center{&color(red){[[前のページを読み直す>ゼロの蛮人5]] / [[表紙へ戻る>ゼロの蛮人(バルバロイ)]] / [[さらにページをめくる>ゼロの蛮人7]]}} ---- 王都トリスタニアの裏路地から、ずっと奥に入ったところの廃屋。 その地下に、魔法を使わねば入れず、まだ誰も知らないフーケの隠れ家があった。一応厩舎もある。 「食事を有難う、ミス・ロングビル。ひと心地ついたわ」 「遅くなって申し訳ない、ミス・ヴァリエール。頭の傷は、もうよろしいですか?」 そう言われてルイズが包帯を外してみると、秘薬がよく効いて、頭の皮はくっついていた。 少し痕は残るかもしれないが、カツラのお世話になるのは免れた。ちょっと痒いが。 早く洗髪して、こびりついた血糊を落とさなくては。 トラクスとデルフ、そしてロングビル(フーケ)はやや離れた別室に移り、今後の協議をする。 ルイズは一人にしておくと精神的に参ってしまいそうなので、無口ながらタバサにお守りをさせる。 「亡命だァ? この国を出るってのかよォ」 「そ。どうせトリステインには、長くいられないし」 主に喋るのはロングビルとデルフで、トラクスは相槌をうつ程度だが。 「あの桃色娘の実家は『ラ・ヴァリエール公爵家』って言って、この国一番の大貴族よ。 王家とも血縁関係にあるし、強力なメイジの家系でもあるの。敵に回すと相当ヤバイわ。 ……ルイズはちょっと、落ちこぼれみたいだけどさ」 「俺様とトラクスがズンバラリン、と殺っちまうってわけにゃあ、いかねェのか……」 「まず、無理ね。学院の奴らやあたしみたいなメイジとは、格が違うもの」 となると、当面はトリステインに敵対する強国へ身を寄せるのが得策か。 ロングビルはハルケギニアの地図を取り出すと、簡単に地理を説明する。 「やっぱりこのゲルマニアか、アルビオンね。ガリアやロマリアは蛮人には冷たいし。 ゲルマニアにもメイジはいるけど、魔法が使えなくても、カネさえ積めば貴族にもなれるの。 その分魔法以外の技術も発展してて、東方のエルフとも繋がりがあるらしいわ。トラクス好みかもね」 書いてある文字は読めないが、トラクスにも地図は分かる。 「うむ……トリステイン、ここ。ゲルマニア、ここ。ガリア、ここ。……アルビオン、どこにある」 「ここよ」 トラクスの問いかけに、ロングビルは海の中の大きな島を指差す。 「海の上に描いてあるけど、アルビオンは『浮遊大陸』って言って、文字通り国土が天空に浮かぶ島国なのよ。 そこへ行くには飛行船に乗らなきゃならないけど、どうせ港にはあんたの手配書が回ってるだろうし…… ま、強奪するなりなんなり、あたしたちなら可能でしょうけどさ」 トラクスがデルフから通訳してもらい、目を丸くして驚いている。浮遊大陸なんて聞いたこともない。 「ちなみにここはあたしの祖国だけど、今は貴族連合が国王に反乱を起こしていて、もうすぐ革命が成立するって噂よ。 ヤバイ話はいろいろ聞いてるわ。そのうちトリステインにも攻め込むでしょうね」 と、いきなりドアがノックされた。 ありえない。ルイズたちは鍵のかかる部屋にいるし、ここはまだ、誰も知らないはずだ。二人と一本が警戒する。 「失礼、そちらのお嬢さんは『土くれのフーケ』こと、ミス・マチルダ・オブ・サウスゴータですね? そしてトリステイン魔法学院から脱走した、蛮人の戦士トラクス殿」 きれいなアルビオン語で、外の男の声がする。いきなり本名を呼ばれ、フーケも動揺した。 「ああ、申し遅れました。私、アルビオンの貴族連合『レコン・キスタ』に属する下級貴族です。 ユリシーズ、と今はお呼び下さい。ただのラインメイジですよ」 「アルビオンのユリシーズ、ね。どこからつけて来たかしらないが、あんたが敵じゃあないって保証は?」 「お聞きしたところ、我がアルビオンへの亡命をご希望のご様子。 こちらの条件を二つほどお飲み頂ければ、不肖この私めが手配をさせて頂きますが……」 デルフから通訳され、トラクスが臭いを嗅ぐような仕草をする。 「……悪い話でない。トリステインの臭い、あまりしない。襲ってきても、向こうは一人」 それに、ここで逃がせば通報される。選択肢はない。 トラクスがゆっくりとドアを開ける。まだ若い、人を食ったような表情の男だ。『レコン・キスタ』の身分証明書を見せる。 「何も出なくて悪いね。何をすればいいんだい? ミスタ・ユリシーズ」 「ええ、ひとまずは、そちらが拉致された『ラ・ヴァリエール公爵令嬢』の身柄をこちらへ。殺しはしません。 あとの一つは、ちょっとした任務ですよ。このあとでお伝えしましょう」 すっかり向こうのペースだ。随分下調べして来たらしい。 少々荷厄介な我侭お嬢ちゃんを預かって、世話してくれるというのだ。ある意味負担は軽くなる。 「…………分かったよ。じゃあ、そっちに嬢ちゃんを渡すことにしよう。ちょっと来な。 言っとくけど、傷物にしたら、親御さんが黙っちゃいないよ」 「大丈夫ですよ、ご安心を。こちらにしても、大事な人質ですからね」 ユリシーズと名乗る謎の男は、ロングビルとともにルイズたちの部屋に行くと、 言葉巧みにルイズを説得した。洗練された身のこなしと優雅な口ぶりは、下級貴族とは言いがたい。 結局、タバサもついて来ることを条件に、引渡しは決まった。 「ふぅ、上手いもんだ。……で、任務ってのは何だい? いかにあたしたちでも、出来ない相談ってのはあるよ」 「なあに、簡単と言えば簡単です。今、我々がアルビオンのテューダー王家を追い詰めているのはご存知でしょう? 奴らは名城・ニューカッスル城に立て篭もり、なおも頑強に抵抗しています。 しかし、もはや将兵の数は300名ばかり。こちらは数万の軍勢と大艦隊です。風前の灯火に過ぎない」 話は聞いていたが、もうそんなことになっているのか。 「そこでお二方には、我々に協力する証として、国王か皇太子の『首級』を上げていただきたい。 奴らは多分に漏れず強力なメイジですが、お二方にかかれば容易いでしょう」 たいした任務だ。普段なら死ね、というに等しいが、手ごわいのは数人程度だろう。 「ああそれと、奴らは『風のルビー』という秘宝を持っています。 もし手に入るようでしたら、こちらに持ってきて頂けると、手間が省けます。 それ以外の金銀財宝は、まあ貴女がたがお好きなように。 もっとも少々残して下さいませんと、将兵への恩賞が配分できませんので、程ほどにお願いしますよ」 ユリシーズの提案は以上だった。トラクスは無言で肯き、『フーケ』もニッと笑う。 「女盗賊と蛮人が、王様の首を討ち取るのかい。面白そうじゃないか」 一方、トリステイン魔法学院の学院長室。 ラ・ヴァリエール公爵夫妻を中心に、対策会議が続いていた。 参加しているのは、学院長オールド・オスマン、教師コルベール、ルイズの許婚ワルド、そして友人キュルケ。 「学院の馬が一頭トラクスに盗まれまして、門のところで射殺されました。 逃走は徒歩とは考えにくいのですが、周囲に蹄の跡も見当たりませんでして……」 「大体、そのロングビルという女が怪しい! オールド・オスマンの話では、メイジとは言っても没落貴族で、 酒場で働いていたのをスカウトしたそうではないか。そんな奴、雇う方がどうかしている」 「彼女が手引きをした、というわけですな。確かに蛮人一人で行動するのは、限界があるかもしれません。 土のメイジなら足跡も消せます!」 「セクハラで大分学院長と揉めていたらしいですし」 「揉んだのはわしの方じゃ!!」 全員からパンチやキックが飛び、オールド・オスマンが吹っ飛ばされる。 「タバサはガリアの貴族だけど、あんまり喋らないから私も詳しい素性は知りませんわ。 トラクスに拉致されたといっても、あいつだって女を3人も連れ歩くわけないし」 「自分の意思でついて行っているのかも知れんな。もしくは、ルイズが心配で一緒に行くことにしたか」 「多分、杖は没収されとるでしょう。ああ見えて彼女は、トライアングルメイジの上、 ガリア王国から『シュヴァリエ』の称号を下賜された人物ですからな」 素早くオールド・オスマンが復活している。 コルベールからトラクスの新情報が提示される。 「あれからトラクスの左手に浮かんだルーンを調べてみたのですが…… 伝説の『ガンダールヴ』のルーンに酷似しています。効果は『あらゆる武器を自在に操る』こと。 もともと剣の達人だったようですから、相性は良かった、いいいいや悪かったようで」 公爵夫妻がギロリとコルベールを睨む。 ワルドが先を急ぐ。 「ロングビルという女は、アルビオン出身だと言いましたね? では、そこへ亡命する可能性もある」 「ラ・ロシェールにはすでに人をやってある。フネの入出港までは止められんが、 ルイズ・フランソワーズおよびトラクスという名前と人相描きに気をつけろ、と厳命させた」 「では、ここは僕が一つ、グリフォンでラ・ロシェールへ行きます! もしかしたらアルビオンへも。 義父上、義母上、僕がルイズを無事連れ帰ったら、僕たちの結婚を認めてください」 「よかろう。王宮の方へは話をつけておく」 「あら、それなら私も行きますわ。ルイズもタバサも、大事な友人ですもの」 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーも、巨乳を揺らして名乗りをあげる。 しかしツェルプストーとヴァリエールは、先祖代々の仇敵の間柄。公爵夫人は、露骨に嫌そうな顔をした。 「まあよい、キュルケくんもワルド子爵と一緒に、アルビオンへ行ってくれ。 我々自身は動けんが、ゲルマニアやガリアにも密かに捜索隊を送るとしよう」 完全なスパイ活動だが、愛娘の命には換えられない。トラクスのせいで国際問題が発生しそうになってきた。 「よし、ミス・ツェルプストー。準備が出来次第、出発しよう」 「あら、キュルケとお呼び下さいな、ワルド様」 ---- #center{&color(red){[[前のページを読み直す>ゼロの蛮人5]] / [[表紙へ戻る>ゼロの蛮人(バルバロイ)]] / [[さらにページをめくる>ゼロの蛮人7]]}}