「ゼロの花嫁-03 A」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
ゼロの花嫁-03 A - (2007/11/15 (木) 22:14:03) のソース
#center{&color(green){[[前のページへ>ゼロの花嫁-02]] / [[一覧へ戻る>ゼロの花嫁]] / [[次のページへ>ゼロの花嫁-03 B]]}} 「サン! サン何処に居るの!」 ルイズの自室内に彼女の悲鳴が響く。 しかしそれに答える者は無く、彼女の声は薄暗い部屋に吸い込まれるように虚しく消えて行く。 「サン! 聞こえてるの! 返事しなさい!」 再度の呼びかけ。しかしやはり返事は無い。 ルイズはベッドの上で天井を見つめながら恐怖に震える。 体が全く動かないのだ。 右足、ダメ。左足、ダメ。右腕、ダメ、左腕、ダメ、首も回せない、腰は? やはりダメだ。 ベッドのマットに僅かに沈み込んだ自らの体が恐ろしい。 このままより深く沈みこんだとしても、それに抗う手段すら無いのだ。 そう思うと、枕に沈んだ自分の頭部までもが恐ろしくなる。 口、鼻、共に上を向いているから問題は無いが、もし何かの拍子に横を向いてしまったら? 否、まかり間違って下など向いた日には、確実に死ぬ。 「サン! 答えなさいサン! 何処に居るのよ!」 こういう時の為の使い魔であろうに、彼女の返事は無かった。 代わりに木を叩く音が聞こえた。 「ルイズ、入るわよ」 「しー、まだルイズちゃん寝てるきに」 その声に続いて聞こえてきた金属の軋む音。 「その声はキュルケにサン? 急いでこっち来なさい! 体が動かないのよ!」 切羽詰ったルイズの声は聞こえただろうに、その足音はのんびりとしていた。 やきもきしているルイズの視界にようやく二人の顔が入ってくる。 「あ~、やっぱりお医者さんの言うた通りになったな」 「凄いものねぇ、やっぱり医者は違うわ」 暢気な二人の言葉にルイズがキレる。 「何を暢気な事言ってるのよ! 早く医者でもメイジで呼んできなさい! これ一体どうなってるのよ!」 喚くルイズだったが、燦は慌てずにルイズの毛布をかけなおす。 「お医者さんがな、多分ルイズちゃんは筋肉痛で動き取れんくなる言うてたんよ。しばらく休めば時期に動けるようになるて」 「何が時期によ! 医者だったら今すぐ動けるようにしなさい!」 癇癪を起こすルイズに、キュルケは呆れ顔だ。 「あー、そんなに動きたいんなら動けば? 思いっきり力入れれば動けるとも言ってたわよ」 それは良い話だ。全く身動き取れないままで居るなんて恐ろしすぎる。 試しにと右腕にあらん限りの力を込め、一気に肘を曲げてみた。 その瞬間、おおよそ想像し得る限界値を遙かに超えた激痛が右腕を襲った。 「ほ、ほーっ!」 今、一体どんな声を出したのか自分でもわからない。 あまりに痛すぎて左側に体がよじれる。 今度は、腰周辺と肘をついた左腕にそれが襲い掛かってきた。 「ホアアーッ!! ホアーッ!!」 よほど絶望的な表情をしていたのだろう、驚いた燦とキュルケが慌ててルイズの体を押さえ、元の上を向いた体勢に戻してくれた。 何とか一息つけたルイズは、確認の為キュルケに聞いた。 「……力入れたら痛いとは言わなかったの?」 「言ってたわよ。だから絶対やるなって」 「先に言いなさいよ! し、信じられない。何よこの痛さ、痛すぎて涙出てきた」 それを見た燦はハンカチでルイズの目をぬぐってくれる。 「とにかく、ルイズちゃんは今日一日安静にしとらんと。食事は私がもらってきてあげるから」 「そうするわ。キュルケ、授業の方は無理って伝えておいて」 ドアの外からノック音が聞こえる。 首の回らないルイズの代わりに燦が声をかけると、学園の給仕、シエスタが一礼しながら入ってきた。 「失礼します。ミスヴァリエールが動けないとお聞きしましたので、もしよろしければこちらにお食事お持ちしようかと思いまして。余計でしたでしょうか?」 誰に聞いたのかは知らないが、その配慮はありがたい事であった。 キュルケが口笛を吹く。 「気が利くわね。ついでに私の分もお願い出来る?」 「はい」 ルイズは真上を向いたまま怪訝そうな声をあげる。 「キュルケ?」 「気になる事があるのよ。ルイズと私と燦の分お願いするわね」 「はい、では……」 シエスタが下がろうとすると、燦も合わせて席を立つ。 「それじゃ私も手伝ってくる。二人はゆっくりしててな」 燦の好意にシエスタは遠慮していたが、燦はその両肩を掴んで二人で部屋を出ていく。 燦はここに来てから看病の為、部屋に居る事が多く、こういった機会を活かしたいのだろう。 部屋に二人だけになると、ルイズが口を開いた。 「で? 気になる事って?」 ルイズはやはり真上を見たままなので、キュルケと顔を合わせる事は無い。 「そうね……あの、サンって子。どうなの?」 「良くやってくれてるわよ」 「良く、ねえ。主人がやたら怪我ばかりするのもその良くやってる内なの?」 ルイズは勢い込んで答える。 「あれは! 別に、あの子に悪気があってやってる事じゃないわよ。事故よ事故!」 軽く嘆息した後、足を組みなおすキュルケ。 「召喚から二日で貴女三回も医務室送りよ? 普通作為を疑わない?」 実はキュルケ自身はそんな事疑ってはいないのだが、昨日言われたタバサの言葉をそのままなぞってみた。 「絶対そんな事無いわよ!」 「言い切ってくれるわね~。そんなに信頼出来る娘なの?」 何時もならこんな事言われて静々としているルイズではないのだが、如何せん今日はすこぶる体調がよろしくない。 怒鳴るのも面倒になり、大きく息を吐く。 「例えば、の話よ」 「ん?」 「貴女が見知らぬ土地にいきなり呼び出されたとして、その呼び出した人がどれだけ困っていようと、使い魔になれって言われて素直に、はい、なんて言える?」 「燃やすわね、まずは。その上で消し炭に事情を聞くわ」 キュルケらしい返事に少し噴出すルイズ。 「そう、それでね。サンは何て言ったと思う?『使い魔になれば、ルイズちゃん留年しないで済むん? じゃったら私使い魔になる』ですって。その時のサンの顔見せてあげたかったわよ」 「どんな顔してたのよ?」 まだ大して日も経ってない、ルイズは鮮明にその時の事を思い出せた。 「必死な顔してたわよ。会ったばかりの私の心配して、まるで自分の事みたいに大騒ぎしてた」 晴れやかな顔で続けるルイズ。 「私には姉しか居なかったけど、もし妹が居たらこんな感じなのかなって。……っと、これは関係無い話ね。忘れてちょうだい」 こんな穏やかな顔したルイズと話しする日が来るなんて、キュルケは想像もしていなかった。 いつも気を張って、ぎりぎりいっぱいの所で踏ん張っていたルイズを見ていた。 自分ならとうに諦めているだろう状況でも、歯を食いしばって踏み止まるルイズが気になってしかたがなかった。 何を考えているのか、どんな事を思っているのか、それを知りたかった。 だが、いざこうしてそれを素直に聞けるのは嬉しいとも思うが、少し照れくさくもあった。 だから、つい憎まれ口を叩いてしまう。 「妹ねえ、よっぽど貴女の方が妹に見えるわよ」 「何よそれ」 「体格的な話」 がばっと起き上がって全力で抗議するルイズ。 「何よー! わ、私はたまたま小さいだけよ! これからもっと大きく……」 そこで言葉が止まる。 涙目になって全身を震わせている。 「痛いの?」 「ぜんっぜん痛くないわっ! ええ、この程度痛い内になんて入らないわよ!」 馬鹿にされた相手に弱みを見せるのが悔しいらしい。 片手をあげるキュルケ。 「んじゃハイタッチ」 それに応じて片手を上げるルイズ。 ぱーん 「ほ、ほーっ!」 奇妙な悲鳴をあげながらも顔は平静を保とうと歯を食いしばるルイズ。 「……全然、痛くなんてないわ。ヴァリエールともあろう者がこの程度で根を上げるなんてありえないもの!」 「じゃあ両手で」 ぱぱーん 「ホアアーッ!! ホアーッ!!」 「その悲鳴気に入ったの?」 そう叫んで顔が硬直したまま動かない。全身に響き渡る激痛に耐えているらしい。 ちょうどその時燦とシエスタが戻ってきた。 「ルイズちゃん、どないしたん? 廊下の外まで声が響いてきたけど?」 燦は不思議そうにそんな事を聞いている。 シエスタも心配そうにルイズを見ているが、ルイズはキュルケを睨みつけている。 「あれよね、貴女と話してると何時の間にか自分が子供じみた事ばかりするようになるから不思議よ」 「そりゃそうよ。私はルイズのそれが楽しみで顔出してんだもの」 「なんですってーーーー!?」 再度ヒートアップしそうになったルイズを燦が止めにかかる。 「ほらほら、ルイズちゃん朝御飯にしよ。今日はルイズちゃんも食べやすいもの色々用意してもらったで」 燦とシエスタはルイズのベッド脇にテーブルを備え、食事の準備をした。 シエスタを除く三人が椅子に腰掛けた。シエスタはその脇で控えている。 燦はスプーンで野菜を掬うと、ルイズの口元まで持っていく。 「はい、ルイズちゃん。あーん」 「ん? あーん」 少し躊躇したが、良く考えたらこうしてもらわないととても辛いので素直に口をあけるルイズ。 キュルケはそうやって燦がルイズに餌付けする所を、どうからかおうか考えていたが、ふと思いなおして自分もスプーンを手に取る。 「それじゃサン。はい、あーん」 「へ? わ、私?」 戸惑っている間に既にキュルケはスプーンにグリルしてある鶏肉を乗せ、燦の口元まで運んでいる。 「あ、あーん」 それを一口に燦が頬張ると、キュルケは嬉しそうに笑った。 興が乗った燦は、次に同じく野菜をスプーンに掬うと、今度はシエスタの方にそれを向ける。 「はい、シエスタちゃんもあーん」 「い、いえ私は……」 困ったようにキュルケを見るが、キュルケもにこにこしながらシエスタを見ている。 それを見て観念したシエスタは口を開く。 「では、失礼して。あーん」 出来るだけ上品に咀嚼し終えると、シエスタは燦が期待を込めてこちらを見ている事に気付く。 目の動きで、その意図を察したシエスタは小さく嘆息しながらその期待に応える事にした。 「失礼いたします。ミスツェルプストー?」 「ん?」 流れるような所作でフォークを手に取り、小分けしてドレッシングをかけた鶏肉をそれに挿し、キュルケの前に差し出した。 キュルケはその不意打ちを快く受け入れる。 「あーん」 燦は意図が伝わった事がよっぽど嬉しかったのか、すぐに自分のスプーンで再度シエスタの分を取る。 キュルケもくすぐったいような感じが嬉しくて、スプーンで鶏肉をとり、今度はルイズの口元に運ぶ。 「シエスタちゃん、よう出来ましたのあーん」 「ほらルイズ。あーん」 『あーん』 コルベールがルイズの部屋のドアを叩いたのはそんな時であった。 ルイズの声で許可を得て扉を開く。 「はい、今度はサラダな」 「どうぞ、ミスヴァリエール」 「はいシエスタ早くやる。次が待ってるわよー」 「ちょ、ちょっとペース早いわよっ」 女四人があーん乱舞。 物凄く入りずらい。 というかこの空気に混ざれる自信が無い。 何かの間違いで巻き込まれた日には、男として、教師として、そして魔法使いとしてちょっと許せない事態になりそうだ。 「しょ、食事が終わった頃に出直すとするよ。ごゆっくり」 そそくさと出ていくコルベール。 「あれ、コルベール先生にも食べさせてあげよ思ったんに」 燦の言葉に、ルイズ、キュルケ、シエスタの三人は声をあげて笑った。 食事が終わると、ルイズは疲れたと言い一休み。 シエスタは食器を片付けて部屋を辞した。 ルイズはほんの一休みのつもりで目を閉じたようだが、昨日の疲労はまだまだ残っていたようで、すぐに本格的に眠ってしまった。 燦は部屋の中の片づけをしていたが、キュルケが何時までも部屋を出る様子が無いのを見て心配そうに声をかける。 「キュルケちゃん、授業遅れるで?」 「ああ、いいのいいの。今日はやりたい事あるから自主休校」 随分な事を平然と言うキュルケ。 「そうなん。やりたい事て? 私何か手伝える?」 キュルケはちらりとルイズを見ると、完全に熟睡しているようなので安心して話を始める事にした。 「ねえサン、貴女はどうしてルイズの使い魔になったの?」 部屋を片付ける燦の手が止まる。 背を向けているため、その表情はキュルケからは見えない。 「ど、どうしてそんな事聞くん?」 「何となくよ」 二人の間に沈黙が落ちる。 燦は黙々と片づけを進め、それを終える。 キュルケもそれを黙って見ていた。 次に、掃除をしようと箒を手に取った燦。 キュルケの目にもその手が震えているのが見えた。 「私、な。やっぱり使い魔失格じゃろか?」 予想と違う内容に、キュルケは少し虚をつかれる。 「私アホじゃから、うまい事使い魔出来て無いんよ。昨日だってルイズちゃんあんなに良くしてくれたのに、私があんなチンピラに構ったせいで、ルイズちゃんこんなになってしもて……」 言いながら悲しくなってきたのか、見た目に分る程落ち込むルイズ。 「服も買うてくれてな、私凄い楽しかったんよ。それにわざわざ私の為にヤッパまで買うてくれて……それでも私はルイズちゃんに何もしてあげれて無いんよ」 ルイズはキュルケの側に歩み寄る。 「なあ、キュルケちゃん。私どうすればええ使い魔になれるかな? 私、なんとかルイズちゃんの役に立ちたいんよ」 正直、人間並の思考能力を持つ使い魔なぞ想定外もいい所だ。ましてや燦は人間並どころか、人間そのもの。 何と答えたものか返答に窮するキュルケだったが、とりあえず自分なりに今の燦の立場で出来る事を考えてみた。 「そうね、身の回りの世話や、いざって時のボディーガード。後は……そう、貴女にしか出来ない事があるわ」 「何か出来る事あるん? じゃったら私何でもするで」 キュルケは静かに寝息を立てるルイズを見やる。 「サンがそのままの気持ちで居る事。今は、確かに少し間が悪い事が続いてるけど、きっと貴女がそのままで居れば、それがルイズにとって一番良い事になると思うわよ」 言葉の意味を正確に受け止められずに戸惑う燦。 そんな燦を見て、キュルケは柔らかい笑みを見せた。 「いいのよ、深く考えなくて。ただ、今のように一生懸命ルイズの事を考えてあげてくれれば。それだけで、きっとルイズの助けになってるから」 良くわからないという顔をする燦。 「そんなもんじゃろか……」 「ほら、そんな顔しないの、可愛い顔が台無しよ。という事で笑いなさい~」 そう言って燦のほっぺたを両方から引っ張る。 「うに~。ひゅるへひゃん、ひらひ~」 キュルケは思った。ルイズ、妹云々の話。心の底から理解したわ、と。 しばらくそんなジャレ合いをしていたキュルケと燦だが、扉をノックする音に気付いて手を止める。 「はい、どうぞ」 扉を開け入ってきたのは、コルベールとタバサの二人であった。 コルベールは室内に居る人間を確認すると、少し困った顔をしながらも頷いた。 「どうやら、全員揃っているようだね。少し話をしたいんだが、いいかね?」 燦が人数分の椅子を用意し、それぞれに腰掛ける。 コルベールの要請でルイズも起こすとコルベールは話を始めた。 話題は燦の持つ先住魔法についてだった。 コルベール曰く、先住魔法の使い手が居ると知れたらアカデミーに目をつけられてしまう。 だから出来るだけ燦の先住魔法は他人に見せない方が良いとの事。 既に街で見せてしまっている件はタバサから聞いたが、これは普通の魔法だという事で誤魔化すしかない。 幸い相手はチンピラ達であり、魔法の詳細まではわかるまい。 おそらく街では事件の調査が始っているだろうが、いくらなんでも街の衛士ごときがトリステイン魔法学園に調査の手を伸ばす事は出来ないだろう。 そこで燦が口を挟む。 「あー、ごめんなさい。私思いっきり名乗ってしもたけど、平気かな?」 燦の言葉に、コルベールは平然としている。 「ミスサンの名前は正式に学園に登録されているわけではない。だから、この後君が不注意な事さえしなければ大丈夫だよ」 燦は頭をかく。 「あー、あー、そのー、私、ルイズちゃんの使い魔じゃーって言うてしもたー」 コルベールの額に冷や汗が流れる。 「……それは、ヴァリエール家の名を出したという事かい?」 「うん。私使い魔じゃし、ルイズちゃんの名前全部覚えとかんといかんなーって思って、必死に全部覚えたんよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールじゃろ?」 コルベール、キュルケ、ルイズの三人が頭を抱える。 『余計な事をー!』 どうしたものか皆思案にくれるが、タバサがぽつりと呟く。 「……ヴァリエール家の名前が出てるのなら、好都合。それとわかっていてヴァリエール家に不利になるような調書を仕上げる衛士はそうは居ないはず」 一応、後でルイズとコルベールが直接衛士の所に行き事情を説明して、彼らの顔を立てれば、綺麗に事は収まるだろうとこの話は終わった。 そしてここから先はコルベールの興味の話になった。 燦は一体何処から来たのか? この話はコルベールだけでなく、ルイズもキュルケもタバサも興味があった事なので自然身が乗り出すというものだ。 素晴らしい程に天然な燦から色々な事を誤解無く聞きだすのは大層骨が折れたが、数時間に及ぶ聞き込みと激論の末、ついに結論が出た。 信じられないといった風に首を振りながらコルベールは議論をまとめる。 「つまり、ミスサンはハルケギニアではない別の場所から来た。いや、場所というのも適切ではないか。別の世界とでも言うべきだろうね」 キュルケは議論に疲れたのか椅子の背もたれによりかかっている。 「ルイズ、やっぱりあんたおかしいわ。何をどうやったらサモンサーバントのゲートがそんな突飛な場所に繋がるのよ?」 タバサはまだ何か考え込んでいる。 「ここ以外の何処か。という事なら、ここ以外の全てに可能性がある。それを引き当てられる可能性があるのはルイズだけ。でもゲートの特性を考えると……」 ルイズもキュルケの嫌味に反応しないぐらい思考に沈んでいる。 「確かに基本はランダムだけど、術者の力量や性質に応じた対象が召喚に応える事を考えると、そこには何か法則があるはず。それを掴めれば燦の居た場所とも……」 そして話に付いて来てるんだか、付いて来てないんだかわからない燦。 「ほえ~、私異世界に来てしもうたんか~。どうりで電話もテレビも無いと思た。お父ちゃんへの連絡どないしよ?」 そこで燦は突然何かに気付いたように立ち上がる。 「あー! ほなら私別に秘密にせんでもええんじゃろか!?」 急な大声にみんな驚く。 ルイズは少し咎めるような口調になった。 「何よ、急にどうしたの?」 燦は嬉々として部屋の中の水差しを手に取る。 「そうじゃ、ルイズちゃんに隠し事なんてしたないし、その方が私も気楽じゃしな」 そんな事を言いながら自分の足に水をぶっかける。 瞬時にその足が魚のそれに変わった。 大口開けて言葉も無いコルベール、ルイズ、キュルケと、手に持っていた本を床に落とすタバサ。 「私な、実は人魚なんじゃ」 人魚である事を隠す理由を燦が説明すると、皆一様に納得した。 というか、結局全会一致でここでも人魚の事は隠す事となった。 燦は少し残念そうであったが、アカデミーの存在がある以上、そんな事実を明るみにする事は出来なかったのだ。 ちなみにハウリングボイスを先住魔法だと嘘をついた事は、話の流れでスルーされたので燦がほっと胸をなでおろしたのは秘密である。 事のついでに眠りの詩の話もしたところ、全員からジト目で見られたのはさておき。 そして燦の元居た世界との繋がりは、燦の手に記された珍しい使い魔の文様を調べるという事でまとまった。 これはコルベールが調べていたのだが、一般的なルーンとはどれも一致しなかったのだ。 なのでもう少し時間をかけると言うコルベールに全て任せる事になった。 その日の夕食はその五人でとった。 その頃にはルイズも動けるようにはなっていたので、朝食時のような事もなく、コルベールは胸をなでおろした。 食事をしながら、そして食事後も、燦が異世界から来たという結論の裏づけ議論は続けられた。 ルイズは座学に関してはとても優秀であるし、キュルケもそうだ、そしてタバサも未知の知識を話し合うとあって、常より饒舌になった。 それをまとめる役割のコルベールは三人に授業をするような感覚で話をまとめ、そして進める。 燦を除く皆、魔術に興味のある人間ばかりなので、全く新しい発見の議論をとても楽しんでいた。 燦はそれが自分の為に行われている議論である事を感じていたので、何とかついていこうと努力はしたのだが、やはり難しいようで途中で遂に力尽きて寝てしまった。 それを見たコルベールは、非常に残念ではあるが、今日はここでお開きとした。 昼前からずっと話詰めであったのだ、他の三人も疲れが見え始めた頃であり、素直にそれに従う事にした。 翌日、完全に復調したルイズは燦を伴って教室に向かった。 召喚の日から一度も授業に出てなかったので、流石にマズイと思っていたルイズは授業が始る随分前に教室へと入った。 席に着くなり休んでいた分の授業を自分なりに確認する。 一通り目を通して付いていけなくなる程ではないと安堵し、横に目をやると燦は朝早くから来ていたタバサと話をしていた。 すぐにキュルケも教室に来て、自然と四人が固まる位置に座る。 その頃になると、他の生徒達も続々教室に入ってくる。 みんなの注目はもちろん平民と思われる燦を召喚したルイズに集まった。 ハウリングボイス他の特殊能力や人魚の出自を秘密にする以上、誤解だろうと平民で通すしかないのだから、これは喜ばしい状況なのだが、ルイズは素直に喜ぶ気にはなれなかった。 ひそひそと聞こえてくる声は、ゼロだのなんだのとまたルイズを馬鹿にするような陰口なのだろう。 幸い燦には聞こえていないようだし、これみよがしに騒ぎ立てたりしないだけマシと自分に言い聞かせるルイズ。 「おいゼロのルイズ! 召喚に失敗したからって平民連れてきてどうするんだよ!」 ルイズの努力をあっさりと無駄にして、そう叫ぶのは小太りの同級生マリコルヌ。 あの風邪っぴきめ、許されるのなら下着姿で屋上から逆さまに吊るしてやる所だ。 なぞとルイズの思考が陰に篭っている間にも、クラス中から囃し立てる声が聞こえてくる。 「もうみんなお前がゼロなの知ってるんだから、見得なんて張るなよ。みっともないぜ!」 ルイズはちらっと燦の方を見ると、燦はキュルケから何やら説明を受けている。 おそらくこの揶揄の理由、魔法が使えないルイズは何時もゼロと馬鹿にされている事を説明しているのだろう。 あまりの恥ずかしさに死にたくなる。 燦には知られたく無かった。 いずれわかる事ではあるのだが、もしこれで燦に軽蔑のまなざしで見られたら、ちょっと立ち直れそうに無い。 そんなルイズの思いを他所に、囃し立てる声は止まない。 大声に合わせるように響く、教室中から聞こえる笑い声が尚一層ルイズを惨めにしていく。 多分、もう燦と顔を合わせられない。 「いい加減にせんかい!」 教室中に響く大声。 ここ数日で聞きなれた、燦の声だ。 「おどれらよってたかって何やってんじゃ! 数に頼って女の子嬲るなんざクズのやる事じゃ! 表に出んかい! 私がアンタ達の腐った性根叩きなおしたる!」 年の頃十四才前後の見目麗しい女の子から予想されるセリフとはあまりにかけ離れていたので、教室中が無言となる。 しかし、僅かな時を経てすぐに自分達貴族が平民に怒鳴られたと気付くと全員が猛然と反発を始めた。 「な、なんだこの無礼な平民は!?」 「貴族に対して表に出ろだと? 正気で言っているのか?」 「礼儀を弁えたまえ! さもなくば痛い目を見る事になるぞ!」 口々に怒鳴り返す彼らに更に言ってやろうとする燦を、ルイズが襟首掴んで止める。 「さ、ささささサン! 何やってるのよアナタ!」 「あんのクサレ共に思い知らしたる! ルイズちゃん止めんとって!」 燦は怒りに我を忘れているようだ。 燦の実力は知っているし、ハウリングボイス込みなら大抵の奴には負けないとも思うが、いくらなんでも教室中の生徒相手にケンカを売るのは無茶苦茶だ。 「止めるわよ! 私にも立場ってものがあるんだから、そんな無茶されると困るのよ!」 何とか説得を試みる間にも生徒達の声は止まらない。 「ゼロのルイズは使い魔一つまともに扱えないのか! それでよく学園に居られるな!」 「その程度の使い魔なんだろ、主従揃ってまともじゃないのさ!」 その一言一言に一々燦がつっかかろうとするのをルイズが止める。 しかし、事態は更に悪化する。 「どうせルイズが怪我したのもその使えない使い魔がポカったからじゃないのか!?」 「使い魔がやらかした程度で大袈裟に医務室を使うルイズもルイズだけどな! バカな使い魔とダメ主人とは良いコンビだよ!」 一際大きな音を立ててルイズが立ち上がる。 「もういっぺん言ってみなさい! サンがなんですって!?」 他の生徒が何かを言う前に更にまくし立てるルイズ。 「サンは最高の使い魔よ! あんた達みたいなゴミと一緒にしないで欲しいわ!」 それは火に油を注ぐ結果となる。 「ふふふふふざけるな! ゼロの分際で僕達をゴミだと!?」 「もう許せん! 今までゼロをこの教室に置いておくだけでも不愉快だったんだ!」 「お前は今全ての生徒を敵に回したんだ! このままで済むと思うなよ!」 そこでルイズとは別の場所でまた大きな音が鳴る。 キュルケが自分の隣にある椅子を力任せに蹴り飛ばしたのだ。 「……全て? まさかそれに私も含まれてるんじゃないでしょうね?」 生徒達の視線を一身に浴びてキュルケが立ち上がる。 「あんた達みたいなボンクラに、私も含まれてるなんて話じゃないわよね!」 ここでキュルケがルイズ側につくのは全員予想外だったらしく、言葉も無く呆然とキュルケを見つめる。 「いいわよ、ヤってやろうじゃない。教室全員だろうと全校生徒だろうと、まとめて相手してあげるわよ!」 ルイズは不満そうにキュルケを詰る。 「ちょっとキュルケ! あんたは関係無いでしょ! すっこんでなさいよ!」 しかしキュルケは怒りに震えながら怒鳴り返す。 「うるさい! 元はといえばあんたがしっかりしてないからサンが馬鹿にされるんじゃない!」 「な、なななな何よ! そんなのこいつらの見る目が無いせいでしょ!」 キュルケはゆっくりと生徒達へと視線を移す。 「それも、そうね。……このド低脳達が、どの口開けばあんなふざけた事言えるのかしらね」 すぐに生徒達は理解する。キュルケはどういうわけか知らないがルイズの味方をする気らしいと。 それに伴って、許せない程の暴言を自分達に吐いた事を。 「野蛮なゲルマニアの娼婦ふぜいが調子に乗ってんじゃないわよ!」 びしっ、ルイズの額に青筋が走る。 「ゼロのルイズが居るなんて学園の恥だ! お前のような奴はさっさと出ていけ!」 びきっ、キュルケの頬が引きつる。 燦も含めた三人は、後一押しで爆発する所まで来ていた。 ガラガッシャーン! 今までで一番大きな音が教室中に響いた。 全員が音のした教卓の方を向く。 見ると、いつのまにかそこに居たタバサが教卓をひっくり返していた。 「教室での乱闘はご法度。やりたいなら放課後ヴェストリ広場でも使えばいい」 生徒達からタバサ案の了承と挑発の言葉が乱れ飛ぶ。 クラスの全員が敵に回る事になりそうだったが、ルイズもキュルケも燦も、一歩も引く気は無かった。 タバサが小さく息を吐き、倒した教卓を元に戻すとミセスシュブルーズが教室へと入ってきた。 規定の挨拶、そして授業へと進めていったのだが、あまりに教室の雰囲気が殺伐としている為、授業中生徒に何かを問いかけるという事はしなかった。 午前中の授業が終わると、誰からとなくルイズ、燦、キュルケ、タバサの四人で中庭へと向かった。 テーブルを一つ占領すると、そこで黙々と食事を取る。 誰も一言も発しない。 タバサは一人一人の表情を見てみた。 キュルケは、特に怒っている様子は見られない。 しかし、それは表情に出していないだけであって、頭の中は怒りで一杯なのだろう。 普段良くしゃべる彼女が一言も発せずに居るというこの怒り方は、タバサも初めて見た。 ルイズと燦は主従だけあって良く似ていた。 二人共あからさまに不機嫌そうな顔で食事をしている。 この調子では三人共放課後までに怒りが解けるという事も無さそうだ。 残る頼りはクラスの生徒達が冷静になっていてくれる事だが、どうもそれも望み薄のようだ。 時々中庭を通るクラスメイト達の視線は敵意に満ちたものであったから。 ただ、幸いな事に誰もが放課後までは押さえる意思があるみたいなので、それまでは何とかなるであろう。 教師を頼る案も考えたが、それでは会場が放課後ヴェストリ広場ではなく別の場所になるだけだ。 実際にある程度やり合わせなければどちらも収まらないだろう。 #center{&color(green){[[前のページへ>ゼロの花嫁-02]] / [[一覧へ戻る>ゼロの花嫁]] / [[次のページへ>ゼロの花嫁-03 B]]}}