「ゼロのしもべ第2部-5」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
ゼロのしもべ第2部-5 - (2007/11/05 (月) 23:37:32) のソース
[[前へ>ゼロのしもべ第2部-4]] / [[トップへ>ゼロのしもべ]] / [[次へ>ゼロのしもべ第2部-6]] 宿に戻り、割り当てられた部屋に着く。 道中から、妙にギーシュが思いつめた顔をしていた。 そんなに貞操の危機がショックだったのだろうか。 「なあ、ビッグ・ファイア……キミはすごいな」 散々迷った挙句、そう切り出した。 「あの魔法衛士隊の隊長と模擬とはいえ引き分けたんだぞ。すごいじゃないか。」 褒めているんだが、微妙に何かを迷っているそぶり。簡単に言うなら、なにかのタイミングを計っているようだ。 あの、えっと、その、と切り出したいが覚悟を決められない様子。 というのも、ギーシュはバビル2世に、 「戦い方を教えてもらいたい」 と言い出そうとしているからだ。 仮にもギーシュは元帥の息子である。その命は国のため、ひいては王女アンリエッタのためにあると言っても過言ではない。 それだけに今回の任務に対する意気込みは相当大きい。ましてや「命を惜しむな、名を惜しめ」という父の言葉を真正面に受け 止めている、なんだかんだで真面目な男である。今回の極秘任務は、まさしくその言葉を体現する任務である。 だが、とギーシュは意外と冷静に自分を分析していた。自分はまだまだひよっこであると自覚していた。 たとえば、ビッグ・ファイアはフーケを追い、破壊の杖を取り戻した立役者であるという。ルイズたちもその事件の解決に功績が あったらしい。今回任務に助っ人で来てくれたロリコンは言わずもがな魔法衛士団の一角を占めるグリフォン隊の隊長だ。 つまり、どう考えても自分ひとりだけがずば抜けて劣っている。 そこでギーシュはなんとかして、すこしでも強くなりたいと思っていた。考えていた。全身の細胞で考えていた。 問題は、実戦経験に乏しい自分がいくら考えても仕方がないということであった。 ここは一つ、強い人間にアドバイスを貰うべきだろう。 そこで最初はワルド子爵に教えを請うつもりでいたのだ。なにしろグリフォン隊の隊長。腕も家柄も申し分ない。 しかし雲行きは怪しくなった。ギーシュは命を惜しむ気はなかったが、貞操を惜しむ気は充分すぎるほどあった。 ならば、ルイズの使い魔、すなわちビッグ・ファイアはどうだろうか? よく考えれば同年代だ。多少なりとも馴染みがあって話しやすい。 それに、破壊の杖事件にルイズに功績があったというが、よく考えれば魔法の使えないゼロのルイズに功績があったはずがない。 おそらく使い魔であるビッグ・ファイアが活躍し、使い魔の功績は主人の功績ということになったのだろう。 そう考えたギーシュは、同部屋になったことも幸いに「戦い方を教えてくれ」と頼もうとしていた。 問題は、ギーシュがいっちょ前以上にプライドが高いことだった。 仮にも使い魔、エルフといえどあのルイズの使い魔である。プライドの高い彼に他者に教えを請う言葉を口にさせることは非常な 努力を必要とした。しかもその相手が使い魔であればなおさらである。 バビル2世はとうの昔に心を読んでそれを知っていたが、逆にこちらが切り出せばギーシュはプライドの高さゆえ 「ぼくが使い魔のきみに教えを請うと思うかい?冗談も休み休み言いたまえ」 と答えるのは目に見えてわかっていたので、あえて放置しておいた。 まあ、わざわざ教えてやる義理はないとも考えていたのだが。 いずれにしろ、ギーシュはプライドを捨てなければしかたがないことは明白であった。 だが、そろそろウザクなってきたので、最後のチャンスをやることにした。これで言い出さなければもう後は知らない。 荷物を簡単に片付けて、デルフリンガーを握って外に出ようとしたのだ。 たちまち、 「ど、どうしたんだい?」 とギーシュが食いついてきた。 「なあに。ちょっと身体を動かしてこようと思ってね。さっきの模擬戦でつかんだことを忘れないようにしようと思ってね。」 瞬間、ギーシュの顔が明るくなった。チャンス到来と思ったのだろう。 「ぼ、僕も行っていいかな?いや、ちょっと聞きたいこともあってさ」 まあ、ギーシュならこれが限度だろう。勘弁してやるか。(注:これは作者の声でありバビル2世のものではありません。) 「ああ。いいだろう。ならすぐに動きやすい格好に着替えるんだな。」 「これでいいさ。軍人は常在戦場、今の着ているものが、例えパジャマであれ一番動きやすいってことさ。」 なかなかかっこいいことを言うが、おそらく親父さんの受け入りだろう。 「なら、あの昼にショウタロウさんから貰った包みを持ってきてくれるかい?」 そういうとギーシュは素直に持って来た。「意外と重いじゃないか、これ」と言っている。 そして、その荷物がおそらくはギーシュの運命を変えるはずである。 たぶん。 「ぎゃあ!」 ごろろんと転がって、ギーシュはまた大地にはいつくばった。 これで8連敗である。教えを請う前にストレスの発散材料にされている気がしないまでもない。 だが、それでも 「……まだまだ」 と言って立ち上がるのはギーシュもさすがである。というか見直した。 だが、とうとう12回目にそのまま立ち上がらずばててしまった。 「どうした、もうおわりかい?」 すずしげな顔で聞いてくるのはバビル2世である。そりゃあ超能力者のきみはいいかもしれないが、ギーシュはメイジとは言えただの 人間である。体力的にけたがちがうに決まっている。 「ひぃ、ひぃ、はぁ、はぁ」 ギーシュは全身で息をしながら起き上がろうとする。落ちていた棒を掴み杖にして起き上がる。 「フフ。」 目を瞑って、笑うバビル2世。さすがにカチンと来たのだろう、ギーシュが顔色を変えて叫んだ。 「な、なにが……はぁ、はぁ、お、おかしいんだ……はぁはぁ……」 だが、バビル2世はその言葉を待っていましたといわんばかりに、 「いや、ようやくギーシュの器がととのったか、と思ってね。」 「?」 いったい何を言ってるんだ、と首を捻るギーシュ。 「なに、その杖さ。」 「杖?」 杖、といわれて杖にした棒を見る。どこもかわったことはない。 「わからないかい?きみはいま、杖を魔法ではなく、別のことのために使っているじゃないか。」 え?と杖をまじまじと見るギーシュ。だいぶ息も落ち着いてきたようだ。 「それはそうだが……これがどうかしたっていうのか?」 まだ腑に落ちないという感じで聞き返す。 「ふむ。なら聞くが、普段使っている薔薇の造花型の杖で、きみは自分の身体を支えられるかい?」 「いや、無理だろうね。」 「なら、逆に今きみを支えている杖で、魔法を使えるかい?」 「そ、それは…たぶん、無理だ。」 「となると、同じ杖なのにその杖は身体を支えるのに向いている。薔薇の造花は魔法を使うのに向いている。ということになる。 つまりあらゆるものに使い勝手があり、使い方によっては本来見向きもされないものでも、はるかに役に立つということだ。」 「ぼくが見るに、おそらくだが…」バビル2世はさきほど運ばせてきた包みを開けた。 「ギーシュ、きみはやり方によってはあのワルド子爵にも勝てるはずだ。」 飛び上がるほど仰天するギーシュ。目が点になって杖を落としてしまった。 「ぼ、僕があのワルド子爵を?」 信じられないという顔をするギーシュ。無理もない。ギーシュはまだただのドットメイジ。おそらくスクウェア並みの実力のあるロリコン に比べれば、実力はアリと象かそれ以上のはずだ。それを「勝てる」と断言するのである。 「は、はは、ははは。じょ、冗談を言うのも休み休み言いたまえ。ぼくをからかっているのかい?」 「冗談でもからかっているわけでもない。」 包みを開ける。中から、金属製のわけのわからないものがでてきた。 どことなくミスター・コルベールがつくったエンジンに似ている。 「これがどうかしたのかい?」 「これは、ショウタロウさんが作った、あえていうならふいごだ。」 「ふいご?」 「ああ、ここの機械で火をつけて…」 バビル2世は部品を掴み取る。ずいぶん古い、ジッポーだ。おそらく進駐軍からか、南方かで手に入れたのだろう。手入れは行き届 いており、おそらくわざわざ錬金してもらったのだろうオイルがたっぷり入っている。中にはどこから入手したのかコークスが詰まって いる。ライターで火がつけばコークスが燃え盛り、あっという間に高熱となるだろう。その熱を利用して金属を溶かし、整備に使用 してきたのだろう。蓋がいくつかついており、空ける場所により空気の流れ込みが変わるようになっていて、それで温度を調節 するようにしているらしい。 簡単な使い方の説明をすると、ようやくギーシュはそれがどんなものであるか納得いったのか、マジマジと器械を手にとって見ている。 「これをどうしろっていうんだい?」 「それは自分で考えないと意味がない。」 さらっと突き放すバビル2世。まあ、いわれてみればその通りなのでギーシュも文句は言わなかった。 「むむ?」 ふと視界に入った月を見て、バビル2世が血相を変えた。 「ん?何だ?」 バビル2世の様子がただごとでないことに気づいたのだろう、ギーシュも月の方を振り返る。 月の中に何か影がある。 その影が見る間に膨れ上がってくる。何かが飛んでいるのだ。 それはバビル2世たちの上空を通過し、そのまま街に突っ込んだ。 町のほうで激しく警戒用の鐘が鳴り響く。物体は建物をなぎ倒し、人を押しつぶし、町並みを破壊して、地面に突き刺さっていた。 「な、なんだい、あれは!?」 ギーシュは思い出す。上空を一瞬掠めたそれは、金属でできた樽のようであった。その樽の尻の部分が炎を吐き出していた。 町の警備部隊が、墜落した物体へとガチャガチャ鎧を鳴らしながらあわただしく駆けて行く。 おそるおそる中の1人が、墜落した物体を槍でつつく。 何も起こらない。 「なんだ、これは?」 「隕石でしょうか?」 「バカ言え、どうみても人工物じゃないか。」 いつの間にか周囲を野次馬が囲っている。 ぶるる、 と墜落した物体が震えた。 どやっと一斉に下がる警備隊。 ブワッと突き刺さっていた地面から、物体が抜けた。本物の樽のように物体は鎮座している。 警備隊の中の隊長らしき男が慌てて杖を振るった。だが当たったものの正面で弾け飛んだ。 次の瞬間―――物体から手が生えた。 足が生えた。 起き上がった。 思わず後ずさる野次馬と自警団。 そして、頭頂部から円錐型の頭が生えた。 頭には笑っている人間の口のようなオブジェ。 そして胸には見たことのない文字。 「MONSTER…?」 バビル2世がその文字を読む。ギーシュが振り向き、「あの文字が読めるのかい!?」と聞いてきた。 モンスターが腕を振った。建物が吹っ飛び、野次馬の何人かが瓦礫の下敷きになった。 口のようなオブジェクトが発光し、サーチライトのようにバビル2世を照らした。 ガチャン、ガチャン、とユーモラスともいえる動きをしながらバビル2世めがけて走り出すモンスター。 「ええい!うて、うて!」 警備隊長の指揮の元、あらゆる弓矢が放たれるが一切効き目がない。平然と歩く。 その動きに呼応するように、町のあちこちで叛乱の火の手が上がった。 慌てて宿屋に逃げ込もうとするが、そこもすでに地獄だった。 いきなり1階から現れた傭兵集団が、一階の酒場にいたロリコンたちを襲ったらしい。 炎のかたまりになって飛び込むバビル2世。 突如背後から現れた炎の固まりに、一瞬にして傭兵たちはパニックに陥る。 念動力でふっとばし、お互いをぶつける。地面に転がったところを建物を念動力で破壊して、生き埋めにしてやる。 「こっちだ!」 奥のほうにいたロリコンたちを呼ぶ。うまい具合にむこうは倒壊していない。 一瞬で火の塊になりさらには建物を破壊したらしいバビル2世をポカンと見ていたギーシュが、慌てて後方で叫んだ。 「あのゴーレムが来たぞ!」 裏口、窓、入り口、構わず全員が逃げ出す。 全員が宿から脱出したのとほぼ同時に、宿屋が踏み潰された。顔を回して、モンスターがバビル2世を追う。 「こうなったら、ぼくが囮になって、他の全員を逃がすしかない。」 すでにほぼ半壊した町の中を失踪するバビル2世。 おそらくその動きを見てロリコンが察知したのだろう、一斉に桟橋があるという方向へと走り出した。 「さすがにこれだけサイズが違うと戦いづらいな。」 追いかけるモンスター。できるだけ桟橋から離さなければ、皆が危険だ。 だが、人気のあるほうへいけば被害は拡大する。ここにしもべを呼んでも余計に被害が拡大しかねない。 意外とスピードのあるモンスター。ときおり逃げ惑う傭兵を踏み潰している。バビル2世も気を抜くとあっという間にぺしゃんこだ。 「こうなったらあれしかないな。」 バビル2世の目に、切り崩された岩が飛び込んできた。 崖の目の前で急ブレーキをかけ、くるっと回り、モンスターに向かう。 「おい、ぼくはここだぞ!」 モンスターに向かって叫ぶバビル2世。モンスターはますます勢いを挙げて突っ込んでくる。 突っ立ってそれを待つバビル2世。 そして捕まる瞬間、大きくジャンプして避けた。モンスターはお約束どおり崖に頭から突っ込んだ。 「いまだ。」 くるくると回転しながら着地し、即座に精神動力で皹の入った崖を砕く。 上の建物群ごと崖は崩れ、あっという間にモンスターを飲み込んだ。 「これは間違いない、ヨミの怪ロボットだ。」 少なくともこの世界の技術で作られたものではないだろう。 「よし、ぼくも桟橋へ向かおう。」 野次馬が集まり始めた中をかきわけて、バビル2世は桟橋へと駆け出した。 「なんだ、あいつは?」 怪訝そうな顔で何人かがバビル2世を見る。だが、あっというまにそんな余裕はなくなる。 地面が鳴動して、下からモンスターが現れたからだ。 モンスターはしばらく周囲を見渡していたが、やがて元来たように手足頭を引っ込めて、どこかへ飛び去った。 一方そのころ、事件の起こっている方向とは逆の街中。 その光景をつまみに酒をやりながら、釣り糸を垂らしている老人がいた。 奇妙なのことが2つかあった。 まず1つ目は、釣り糸を垂らしているのが魚などいない貯水池であること。 2つ目が、釣り糸に取り付けられた釣り針が、返しがなくまっすぐであるということ。 「いやあ、えらいことですなぁ」 と、老人の近くに来た男が呟く。この男、老人をさきほどから通るたびにからかっていた男である。 「老人、釣れもせぬ池で釣れないような釣りをしている場合ではないでしょう。早く逃げましょう」 困ったように言う。実はこの男、わざわざこの老人を助けようと、探しに来たのであった。 「いやいや。じつはさきほど、釣れたのですよ。」老人が答える 「釣れた?」怪訝な顔の男。そんなことより早く逃げましょう、と腕を伸ばす。 「ええ、釣れましたとも、わし自身が。」 そういうと、老人は竿を振った。竿は天高く伸び、老人を吊り下げてするすると上に登っていく。 男は腰を抜かした。 「ふふふ、どうやらバビル2世は計略にかかったようじゃ。信頼を得るには、あらゆる犠牲を払ってでもすべきなのじゃよ。」 [[前へ>ゼロのしもべ第2部-4]] / [[トップへ>ゼロのしもべ]] / [[次へ>ゼロのしもべ第2部-6]]