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とある魔術の使い魔と主-20 - (2007/12/08 (土) 12:03:23) のソース
(何よ何よ何よ!) ルイズは当麻の一言一言に苛立ちを覚えた。なぜ使い魔としての役目を果たそうとしないのか? 本当なら今すぐにでも怒鳴りつけたい。 しかし、言えなかった。 これが昔のルイズなら平気で言えた。 そんなんでどうするのよ! ラ・ヴァリエールの名前に傷がつくわ! と叱り付けたに違いない。 だけど、言えない。当麻の気持ちが、ほんの少しだが理解してしまったのだ。 そりゃわかる。当麻とワルド、どちらに守られた方がいいのか? と言われたらやはりワルドであろう。 当麻は平民でワルドは貴族。実力、地位、おそらく全てにおいてワルドの方が上である。 それでも、それでもだ。 ルイズにとってそれは嘘であって欲しかった。いつもみたく冗談であって欲しかった。 だからわざと結婚して守ってもらう、とかまをかけた。 止めて欲しかった。文句を言ってほしかった。ただの使い魔にこんな事を思う自分が不思議でたまらないけど、それでも事実である。 しかし、止める所か祝福してくれた。本当にどうしたのだろう。 あの時、ギーシュと戦った時や、フーケと戦った時の当麻はどこに行ってしまったの? 自分の事を認めてくれて、自分の存在価値を教えてくれた当麻は? 胸が、ギュッと締め付けられるかのように痛い。怒りと混じって奇妙な感覚だ。 あぁ…………わかった。ここまできてようやくわかった。 自分は期待しているのだ。例えどんな事があっても、それを打ち破ってくれる当麻を。それは、他の誰も持っていない、当麻の『力』なのだ。 でもそんな事言えない……使い魔にそんな事を直接言えるものか。 互いの気持ちがすれ違い、溝が出来る。ルイズはさっさと下に戻ろうと思った。 その瞬間、 「なっ……あいつは!?」 当麻の驚いた声が耳に入り、ルイズは思わず振り向いた。 当麻が再び月へと視界を戻した時、何かによって隠れていた。 月明かりのおかげでぼんやりと見えるその何かの輪郭が動く。 当麻は、目をこらしてよーく見た。すると、それは岩でできたゴーレムであった。 そして、その肩に誰かが乗っている。長い髪を風になびかせ、見覚えのあるシェルエットに当麻は驚きを隠せなかった。 「フーケ!?」 予想外の乱入者に、当麻の隣にきたルイズも一緒に叫んだ。 ズシン、ズシン、とゆっくりこちらへと近づいてく。チッ、と舌打ちしながらも、当麻は自然とルイズの前へと出た。 「こんばんわお二方、また会えて本当に嬉しいわ」 フーケは口全体を使って笑う。その不気味な笑みに、ルイズは後ずさった。怖い、それがルイズが感じた第一印象。自然と当麻のシャツの裾を握る。 当麻はちらっと視線を後ろに向く。大丈夫、窓は開いている。 「お前、捕まってたんじゃないのか?」 再びフーケに視線を向けた。いつでも逃げる準備は出来てる。当麻は足へと力を込め、様子を見た。 「捕まってたとしても、世の中はまだわたしを必要としてね。脱走しちゃったの」 あいつか、と景色に半分同化していたが、はっきしと当麻の視界に入っていた。 白い仮面を被り、黒マントを羽織っている人間。 フーケを脱走さして、尚且つ共に行動をしている。おそらく相当な手だれに違いない。 「再戦フラグは今回が初めてだよ。ったくこの世界のルールは勝手が違うな!」 言いながらルイズを部屋へと突き飛ばし、自分も飛び込む。 同時、ゴーレムの拳がベランダを粉砕した。 「今回は岩だからね! 前とは違うわよ!」 「はっ、それだったらもっと上質な岩を使ってくれよ!」 もちろん当麻の幻想殺しを使えばあのゴーレムはたとえ岩であろうが破壊出来る。 しかし、状況がまずい。『破壊の本』での戦いで当麻の能力に気付かれている怖れがある。また、敵は二人。いやもしかしたらそれ以上いるかもしれない。ならばこちらも集合すべきである。 皆がいる一階にへと。 下の階でも、そこは戦場と化していた。否、修羅場であった。いきなり玄関から現れた傭兵の一部隊が、酒場で飲んでいたワルド達を襲ってきたのだ。 ギーシュ、タバサ、キュルケ、ワルドらが魔法で応戦するも、奇襲を受け、尚且つ敵の人数が多い。地の利もあり、防戦一方であった。 どうやら町中の傭兵が束になってかかってきているらしい。当麻は敵の存在に気付いた瞬間、ルイズを地面に伏せて、自らも身を縮める。 キュルケ達を見つけるのは簡単であった。テーブルを立てて盾にして、傭兵達の弓矢をやり過ごしている。 と、キュルケ達がこちらに気付いたようだ。ついでに敵にも気付かれたが、気にしない。 素早くルイズの手を引っ張ってキュルケの元へと向かう。といっても、目と鼻の先であった為そんなに時間がかからなかった。 当麻は早速皆にフーケが襲って来た事を伝える。もっとも、巨大ゴーレムの足が見えたので特に必要なかったかもしれない。 「参ったな」 ワルドの言葉にキュルケが頷く。 「やっぱり、この前の連中はただの物盗りじゃなかったわね」 そう、彼らはメイジとの戦いに相当慣れている様子だ。 緒戦でキュルケ達の魔法の射程を見極めていた。そして、その射程外から弓を放っている為、打つ手がないのだ。 どうやら状況はかなり悪いな、と当麻は感じた。 「フーケがいたって事は、アルビオンの貴族がバックにいるよな?」 当麻の発言に、そうだろうと皆が頷く。 「多分向こうはこっちに魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らって一斉に突撃してくるわよ。そしたらどうするのよ」 「ぼくのゴーレムでふせいでやる」 キュルケの質問にギーシュが青ざめて答える。その言葉を受け、キュルケが淡々と戦力を分析して言った。 「ギーシュ、あなたの『ワルキューレ』じゃあ、一個小隊ぐらいが関の山ね。相手は手だれの傭兵達よ?」 「やってみなくちゃわからないだろ」 ギーシュとキュルケが討論をしている間にも当麻は考えを巡らせる。 このままでは奴らの思う壷、何かしらの作戦がない限りこちらの勝つチャンスはない。いや、そもそも戦う必要がないのだ。 この任務の目的は皇太子にさえ会えば実質達成される。ならばやる事は一つしかない。 当麻が結論にたどり着いた時、ワルドが皆に声をかけた。 「いいか諸君、提案があるのだが」 ワルドの提案は至ってシンプルであった。 キュルケとタバサとギーシュが敵を引き付けて、ワルドと当麻とルイズが桟橋へと向かう事になり、三人は月が照らす中、ひたすら走り続ける。 先頭にワルド、しんがりに当麻という布陣であった。 とある建物の間の階段に駆け込むと、いきなり上り始めた。 当麻の知識からは想像もつかない行為である。 「おいおい桟橋じゃないのかよ?」 当麻の質問にワルドは答えない。ただ黙ったままひたすら上り続ける。 いつまでも続くであろう階段を上りきると、丘の上に出た。そこから現れた光景を見て、当麻は息をのんだ。 巨大な樹が、四方八方に枝を伸ばしている。 大きさは山ほどもある、本当に巨大な樹であった。高さは夜空に隠れてわからないが、相当ある。当麻はその巨大な樹をただただ見つめた。 すると、樹の枝に何かぶら下がっているのが目に入る。最初は木の実かなんかと思っていたが、違う。それは船であった。飛行船のような形状で、いくつもぶら下がっている。 あまりのスケールの大きさに当麻は目を疑った。 「まさかこれが桟橋で、あれが船なのか?」 当麻の驚いた声に、ルイズが怪訝な顔を浮かべる。 「そうよ。あんたの世界じゃ違うの?」 「根本的に、つか海にある」 「そういう船もあるわよ」 なんつーファンタジー世界だよ、と当麻は呟く。ルイズが平然と答えてくるのに少なからずショックを覚えた。 ワルドは、樹の根元へと駆け寄る。樹の根元は、巨大なビルの吹き抜けのホールのように、空洞になっていた。枯れた大樹の幹をうがって造ったものらしい。 夜なので、人影はなかった。 各枝に通じる階段には、鉄でできたプレートが貼ってあり、文字が書かれている。 駅のホームを知らせる看板みたいなものか、と当麻は思った。 と、ワルドは目当ての階段を見つけたのか、再び駆け上がり始めた。 木で出来た階段をテンポよく上っていく。階段の隙間から、ラ・ロシェールの町の明かりが見えた。 あいつら大丈夫かな、と当麻はふと三人を安否を心配した。 タバサがいるから大丈夫だろうと思っていたが、いざとなると気になる。 ちなみに、既に戦闘は終わっていて、キュルケとフーケの殴り合いが展開されていた。 途中の踊り場で、後ろから追い縋る足音に気付いた。当麻は誰かと思い振り返ると、黒い影がさっと翻り、当麻の頭上を跳び越し、ルイズの背後に立った。 「ルイズ!」 当麻は叫ぶと、思いっきり地面を蹴った。 「え・・・きゃあ!?」 振り向こうとしたその瞬間、男はルイズを抱え上げた。 「くそっ!」 当麻は男との間合いをゼロにすると、右手で殴り掛かる。が、男は軽業師のように、ルイズを抱えたままジャンプをした。 そのまま地面へと落下していく。ただの高校生である当麻は、ただ見る事しか出来ない。 と、ワルドがその横で杖を振る。風の槌が作られ、そのまま男へと襲い掛かった。 たまらずルイズを手から離し、そのまま階段の手摺りを掴んだ。一方のルイズは真っ直ぐ地面へと落下する。 間髪いれずにワルドは階段の上から飛び降りると、ルイズ目掛けて急降下。落下中のルイズを抱きとめ、空中に浮かぶ。 一先ず安心した当麻だが、敵はまだいる。手摺りからこちらへと跳び、二人は対峙した。 当麻には攻める手が一つしかない。ただの高校生である当麻に戦闘においての特別なスキルを持ち合わしていない。 相手は確実にメイジだ。ならばこのように距離を置いては不利である。故に当麻は全身のバネをふるに使って、一気に駆け出す。 元から距離がない為、男の元へとはすぐにたどり着く。同時に右手の拳を顔面にあてようとするが…… すっ、としゃがみ込まれ避けられてしまう。 (こいつ!?) 出来る!? と思った同時に、フェンシングの要領で杖が当麻の喉元を狙ってくる。体を捻り、これを何とかやり過ごす。そして敵はバックステップで再び距離を置く。 離されたら縮める。それが当麻の中での鉄則だ。 再び地面を駆け、拳を握ろうとしたその時―― 男の杖から呪文が放たれた。 空気が奮え、男の周辺から稲妻が伸びてくる。 「ッ!?」 当麻は咄嗟に幻想殺しを盾にしようとする。しかし、一歩遅く、先に当麻の左腕に直撃した。 「がッ……ぁぁぁあああ」 直撃した後、全身へと通電するのだが、その前に当麻は左腕を触って、その流れを打ち消した。 しかし、左腕は別だ。大火傷を負い、重傷である。ジンジンと半端ない痛みに耐えながらも、当麻は敵を見据える。 直後、ルイズを抱き抱えたワルドが階段の上に降り立った。 「トウマ!」 ルイズは思わず叫び、駆け寄る。ワルドは舌打ちすると、仮面の男に向かって杖を振った。 空気が見えぬ硬い塊となって、仮面の男を吹き飛ばす。男はたまらず階段から足を踏み外し、今度は地面に向かって落下していく。 「あー……いってぇ……」 敵が戻ってくる様子もなく、とりあえず安心した当麻に絶えず痛みが襲い掛かる。 服は完全に焦げて、電撃の痕が痛々しい。当麻は苦痛で顔を引き攣った。 ワルドが当麻の様子を確かめる。 「よく腕だけで済んだな。下手したら命を奪う程の呪文だぞ?」 当麻は一回、二回と深呼吸をする。確かに痛いが、これぐらいならまだまだいける。 「あー、助けてくれてサンキュ。俺は大丈夫だからさっさと行くぞ」 言って立ち上がった。