「ZERO A EVIL-09」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
ZERO A EVIL-09 - (2008/06/30 (月) 21:32:47) のソース
#navi(ZERO A EVIL) 早朝、ルイズ達は使い魔の石像の前に集合していた。アンリエッタから、あの目立つ石像の前を集合場所にしましょうと提案されたのだ。 ルイズはさっきから石像の前をうろうろしている。どうやら緊張して落ち着かないようだ。 ワルドと話をするのも幼少期以来なので、ルイズが緊張するのも無理はなかった。 「少しは落ち着いたらどうだい、相棒」 「うるさいわね、私は落ち着いてるわよ」 そう言いながらも、今度は石像の周りをぐるぐる回り始めているので、その言葉に説得力はなかった。 ちなみにデルフリンガーは今はシエスタが持っている。メイジのルイズが長剣を持っているのはおかしいので、シエスタに持っていてもらっているのだ。 ルイズがデルフリンガーを持ってきたのは、いざとなればデルフリンガーを使って戦うこともあるかもしれないと考えたからだった。 夢に出てきたオルステッドは剣士だった。彼がこの不思議な力に関係しているのなら、自分も剣が使えるのではないかと考えたのだ。 もっとも、今のルイズはデルフリンガーを満足に振り回すこともできないのだが。 その時、空からグリフォンが現れ、ルイズ達の前に着地した。 グリフォンには羽帽子を被った長髪の男が乗っている。男はルイズの姿を確認すると、笑顔を浮かべて話しかけてきた。 「ルイズ、僕のルイズ! 久し振りに会えて嬉しいよ!」 「私もですわ、ワルド様! お会いできる日を楽しみにしておりました!」 「きれいになったね。幼少の頃から君はかわいかったけど、成長して一段と美人になったよ」 「ワルド様……」 ルイズはうっとりとした視線をワルドに向けている。その姿は恋する少女そのものだった。 二人の間に入りづらいシエスタ達は静かにその様子を眺めている。 「ルイズ。そこにいる二人が今回の任務の協力者だね」 「はい。メイドのシエスタと学院長の秘書をしているミス・ロングビルです」 アンリエッタから協力者のことを聞いていたワルドは、ルイズに確認を取った後、シエスタ達の方に向き直り羽帽子を取って一礼する。 「姫殿下から今回の任務を任されたグリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。危険な任務だがよろしく頼むよ」 「こ、こちらこそ! 足手まといにならないようがんばりますので、よろしくお願いします!」 「……よろしくお願いします」 ルイズの許婚の貴族に挨拶されたシエスタは、恐縮して頭を何度も下げている。だが、ロングビルは違った。 どうにも、ワルドのことが信用できないのだ。今まで盗賊として名を馳せてきた自分の勘がそう告げていた。 ロングビルがそんなことを考えているとは思ってもいないルイズは、ワルドと出発の段取りをしていた。 「ワルド様、私達はミス・ロングビルの用意してくれた馬車で出発するつもりなのですが」 「では、僕はグリフォンで空から行くことにするよ。怪しい者が君達に近づいてきてもすぐわかるようにね」 「ありがとうございます」 「任務の間は、僕は女王陛下ではなく君の魔法衛士さ。グリフォン隊隊長の名誉にかけて君を守ってみせるよ」 その言葉を聞いたルイズは、真っ赤になって俯いてしまう。嬉しさと恥ずかしさで、どういう返事をすればいいのかわからなかった。 「よし、では諸君、出撃だ!」 そんなルイズの気持ちを知ってか知らずか、ワルドは変わらぬ様子で全員に出発を告げる。 真っ赤になって俯いてしまっているルイズは、シエスタに手を引かれながら馬車に乗り込むのだった。 偽装工作がうまくいったのか、特に問題もなく、ルイズ達はその日の夜に港町ラ・ロシェールに到着することができた。 だが、アルビオンへの船は明後日にならなければ出ないらしい。急ぎの任務だが船が出なければどうしようもなかった。 仕方がないので、ルイズ達はラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』に泊まることにした。 シエスタは平民の自分がこんなすごい宿に泊まっていいのかと恐縮していたが、ルイズだけでなくワルドまで勧めてくれた宿を断ることはできなかった。 「部屋は二つ取ってある。部屋割りは僕とルイズ、ミス・ロングビルとシエスタだ」 「ワ、ワルド様!」 「ルイズ、僕は君と二人っきりでゆっくり話がしたいんだ。長い間会っていなかったのだからね」 最初は相部屋に驚いていたルイズだが、真剣な顔で自分を見つめてくるワルドを見てしまえば何も言うことができなくなってしまう。 それに、好きな人が自分と二人っきりになりたいと思ってくれているのだ、反対する気など起こるわけもない。 結局、ルイズはワルドと一緒に部屋に向かっていった。 その場に残されたシエスタとロングビルは、ワルドに連れられるように歩いているルイズの後ろ姿を眺めていたが、ルイズの姿が見えなくなると自分達の部屋に向かって歩き始めた。 「ルイズ様、嬉しそうでしたね」 「そうね。浮かれすぎて足元をすくわれなければいいけど……」 「え、それってどういう意味ですか?」 ロングビルの言い回しが気になったシエスタだが、質問の答えが返ってくることはなかった。 部屋に着いたルイズは、ワルドに促され中央に備え付けてある椅子に座っていた。 ワルドはワインとグラスを用意すると、テーブルの上に置き、ワインを注いだグラスの一つをルイズに手渡す。 「二人の再会を祝して乾杯しよう。さあ、ルイズ」 「は、はい」 二人はグラスを合わせると、注がれているワインを飲む。最初は緊張していたルイズだが、ワインのお陰なのか、少しずつ緊張がほぐれてきたようだ。 それから二人は、離れていた時間を埋めるようにお互いに起こった事を話し始める。 ワルドは父親の死後、魔法衛士隊の見習いになった事、そして努力の結果グリフォン隊の隊長にまで上り詰めた事を話し、ルイズは魔法学院に入学した後、使い魔召喚の儀式で初めて魔法が成功した事を話した。 そして、使い魔との契約の際に自分の左手の甲にルーンが刻まれ不思議な力が使えるようになり、土くれのフーケを撃退した事もルイズは話してしまう。 「君が土くれのフーケを撃退したことは知っていたが、まさかそんな力が働いていたとは知らなかったな、ちょっと左手のルーンを見せてもらってもいいかい?」 「ど、どうぞ」 ワルドはルイズの手を取って、真剣な顔でルーンを見ている。手を触られていることでルイズの顔は真っ赤になってしまっていた。 「間違いない、これはガンダールヴのルーンだ」 「ガンダールヴ?」 「ああ、始祖ブリミルが用いた伝説の使い魔さ」 ワルドの話では、ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなし、敵から主を守る盾となったため『神の盾』とも呼ばれた使い魔とのことだった。 にわかには信じられなかったが、実際に破壊の杖を使用してフーケのゴーレムを倒せたことを考えれば、納得できる所もある。 だが、あの力は本当にガンダールヴの力なのだろうか。何故だかはわからないが、何となくそれだけではないような気がした。 「誰でも持てるような力じゃない。君はそれだけすごい力を持ったメイジなんだ」 ワルドはルイズの手を握りながら興奮気味に語りかけてくる。 「ルイズ、僕と結婚してくれないか。僕には君が必要なんだ」 ワルドからのいきなりのプロポーズにルイズの頭は混乱してしまう。嬉しいはずなのだが、急な展開に頭が追いついていかないのだ。 ワルドは、返事もできずに俯いてしまったルイズの顔に否定の色がないことを悟ると、ルイズの顎を持ち上げ唇を合わせようとする。 恥ずかしさで瞳が少し潤んでいるルイズは、そのままワルドとキスしてしまうのだった。 ルイズにとってはファーストキスだったが、好きな人に捧げることができたのが嬉しかった。使い魔の石像は生物ではないのでノーカウントである。 ワルドは、そのまま勢いに任せてルイズの着ているブラウスのボタンに手をかけようとしている。これから行われるであろう事を想像してしまい、ルイズの頭はパンク寸前になってしまう。 しかし、頭のわずかな冷静な部分が訴えかけてくる。姫様は苦しんでいるのに、自分ばかりが幸せな目を見ていいのかと。 「ワルド様、これ以上は駄目ですわ。まだ、大事な任務の途中ですし……」 「……すまない。僕としたことが、君があまりに魅力的だから少し焦ってしまったようだ」 そう言うとワルドはルイズから離れる。ワルドを傷つけてしまったかもしれないとルイズは心配したが、ショックを受けているような様子はなさそうだった。 「今日は疲れただろうし、もう寝ようか。結婚の返事は後でもかまわないよ」 「ありがとうございます、ワルド様」 「うん、おやすみルイズ、いい夢を」 だが、ルイズは興奮しているせいか中々寝付くことができなかった。それに、再びあの不思議な夢を見る可能性もある。 あの夢にこの不思議な力のヒントが隠されているかもしれないと考えると、妙に目が冴えてしまうのだった。 何としてもこの力を使いこなし、ワルドの力になりたいとルイズは思っていた。 そんな風に考えていたルイズだが、しばらくすると睡魔に襲われ、深い眠りの中に落ちていった。 ルイズは夢を見ている。 夢の中のルイズは金髪の剣士だった。 ルイズにはストレイボウという親友がおり、二人はお互いを高めあいながら自分の技を磨いていった。 ある日、ルクレチア国で武闘大会が開かれることを知った二人は、自分の力を試すために大会に参加することにした。 順調に勝ち上がった二人は、ついに決勝戦でぶつかり合うことになる。勝った方が王の娘、アリシアに求婚する権利を得られることもあり、二人とも真剣勝負で戦いに望んだ。 激しい戦いの結果、ルイズが勝利を収め、武闘大会はルイズの優勝で幕を閉じた。 だが、その日の夜、ルイズの目の前でアリシアが魔王に連れ去られてしまう。 かつて勇者ハッシュに倒された魔王が蘇ったことで城内は騒然となる。そんな中、ルイズは魔王を倒し、アリシアを救い出すため魔王がいる山に向かう。 途中でストレイボウ、かつて勇者ハッシュと共に魔王と戦った僧侶ウラヌス、人間が信じられなくなり山に篭っていた勇者ハッシュを仲間に加え、ルイズは魔王山を登っていく。 そしてついに魔王の元に辿り着いたルイズ達は、激戦の末に魔王を打ち倒す。 だが、倒したのは魔王ではないとハッシュは言う。魔王との戦いで傷を負い、病も患っていたハッシュは、ルイズに自分の剣と人を信じるという想いを託し、命を落としてしまう。 その時、魔王がいた部屋が激しい揺れに見舞われる。ルイズ達は急いで部屋を出るが、ストレイボウが逃げ遅れてしまう。 ストレイボウとハッシュを失い、アリシアを救い出すこともできなかったルイズ達は失意のまま城へと戻った。 王に魔王山での出来事を報告し、城で休んでいたルイズは、夜中に目を覚ますと玉座にいる魔王を発見する。 すぐさま魔王を倒したルイズだが、気が付くと魔王の姿は消え、そこには血まみれで息絶えている王の姿があった。 その場に現れた大臣と兵士達に、王だけでなくストレイボウとハッシュを殺した疑いまでかけられたルイズは、魔王と呼ばれてしまう。 ウラヌスのお陰でなんとか城から逃げ出せたが、もはやルイズのことを信じてくれる者は誰もいなかった。 そして、捕らえられたウラヌスが心配になり城に戻ってきたルイズは、兵士に捕まり牢屋に入れられてしまう。 そこでウラヌスと再会できたのだが、彼は瀕死の状態だった。ルイズが魔王ではないと言い続けたせいで拷問にかけられたのだ。 そんな目にあっても、ウラヌスはルイズに、人間を憎まずに自分達が命をかけて守ってきたものを守り続けてくれと願いを託す。 そして、最後の力を振り絞り牢屋の鍵を開けたウラヌスは、ルイズのことを信じているであろうアリシアを助けに魔王山に向かえと告げるとそのまま息を引き取った。 牢屋を脱出したルイズは、再び魔王山を登っていく。自分を信じて待っていてくれているアリシアを助けるために。 魔王がいた部屋に辿り着いたルイズは、石像の下にある隠し通路を見つけ、さらに上へと登っていく。 山の頂上までやってきたルイズを待っていたのは、大きな騎士の石像と死んだと思っていたストレイボウだった。 死んだはずの親友がいきなり現れたことにルイズは動揺する。だが、そんなルイズをあざ笑うようにストレイボウは真実を語り始める。 魔王の部屋で起こった激しい揺れも、ルイズが王を殺してしまったのも、全てストレイボウが仕組んだことだったのだ。 ストレイボウはルイズを憎んでいた。自分がいくら努力しても、すぐ追い抜いていってしまうルイズに苛立ちを覚えていたのだ。 そして、ストレイボウはルイズに戦いを挑んでくる。ルイズの引き立て役だった過去に決別するために。 激闘の末に、勝利を収めたのはルイズだった。だが、勝利の余韻などはなく、心には虚しさだけが残った。 その時、ルイズと倒れ付したストレイボウの前にアリシアが現れる。すぐに駆け寄ろうとしたルイズだが、アリシアから発せられたのは拒絶の言葉だった。 真相を知らないアリシアは、ルイズが助けにきてくれなかったことを責める。そして、助けにきてくれたストレイボウを殺したルイズに言葉を投げかける。 ルイズには負ける者の悲しみなどわからないという憎しみの言葉を…… そして、ストレイボウの後を追うためにナイフで自分の喉を突き刺し、ストレイボウと折り重なるように倒れ付した。 全てを失ってしまったルイズは、その場に崩れ落ちるように膝をついてしまうのだった。 ふと気が付くと、ルイズは金髪の剣士ではなくなっていた。 ルイズは先程よりも少し高い場所から、倒れているストレイボウとアリシア、そして膝をついている金髪の男を見つめていた。 やがて金髪の男が顔を上げる。男の目は絶望と憎しみに満ち溢れていた。 そして、金髪の男はある宣言をする。それは今までの自分を全て捨て去ることを意味していた。 「私には……もう何も残されてはいない……帰る所も……愛する人も……信じるものさえも…… 魔王など……どこにもいはしなかった…… ならば……この私が魔王となり……自分勝手な人間達にそのおろかさを教えてやる…… 私は今より……オルステッドなどではない……わが名は……魔王……オディオ……!」 そのオルステッドの言葉を聞いた瞬間、ルイズは目を覚ました。 以前の夢では、オルステッドとストレイボウの会話を聞き取ることはできなかった。 だが今回は違う。ルイズはオルステッドの身に起きた事を全て知ってしまったのだ。 「なんで……こんな……酷すぎるわ……」 瞳からは涙が溢れて止まらなかった。オルステッドの悲劇を体験したルイズには、彼の悲しみと絶望が痛いほどよくわかったからだ。 外出でもしているのかワルドの姿は見当たらない。みっともなく泣きじゃくっている姿を見られないですんだのは運がよかった。 その時、ドアがノックされる音が部屋に響く。 「ルイズ様、朝食の用意が……どうかなさいましたか?」 朝食の用意ができたことを知らせにきたシエスタだが、ルイズの様子がおかしいことに気付く。泣いているような声がドア越しに聞こえてきたからだ。 心配になったシエスタは、失礼だとは思いながらも扉を開けてルイズの様子を伺うことにした。すると、ベッドの上で泣いているルイズの姿が目に飛び込んできた。 「ルイズ様、大丈夫ですか!」 自分の方に駆け寄ってきたシエスタに、ルイズは縋り付くように抱きついた。シエスタの柔らかい胸に顔を埋めていると、心が安らいでいくのがわかる。 シエスタに甘えている自分をみっともないとは思う。だが、全てに裏切られたオルステッドと違い、自分には側にいてくれる人がいることが嬉しかった。 シエスタと一緒にルイズの部屋までやってきていたロングビルは、扉の隙間から二人の様子を覗いていた。 そこにワルドが現れる。ロングビルの様子からルイズに何かあったのに気付いたようだ。 「ミス・ロングビル、ルイズに何かあったのかい?」 「少し具合が悪いそうです。シエスタが看病していますので問題ありません」 「そうか。では、僕も少し様子を……」 「ミス・ヴァリエールはあなたに今の顔を見られたくはないはずですわ。ここは私とシエスタにお任せください」 「……そうだな。ではここは君達に任せるよ」 そう言ってワルドはこの場を離れていった。 ルイズがワルドに今の状態を見られたくないというのは事実だろうが、それとは別に、ロングビルはルイズとワルドを会わせたくなかった。 自分がワルドを信用できないというのもあるが、ルイズがワルドを信頼しすぎているのが心配だったからだ。 夜になり、ワルドが一人で一階の酒場で飲んでいると、二階からルイズ達がやってきた。 「ルイズ、具合はもういいのかい?」 「もう大丈夫です、ワルド様。ご迷惑をおかけしました」 「気にすることはない。君が元気ならそれでいいさ」 「ありがとうございます」 ワルドに優しい言葉をかけてもらったルイズは嬉しそうにしている。元気になったルイズを見て、シエスタも安堵の表情を浮かべていた。 だが、ロングビルだけはどこか不機嫌そうな表情をしている。 「さて、お腹もすいてるだろうから、何か料理でも注文しよう」 ワルドが料理を注文するために席を立とうとしたちょうどその時、入り口の扉が物凄い音を立ててぶち破られる。 そして、鎧を着て武器を手に持った傭兵と思える集団が大挙して押し寄せてきた。 いきなり現れた傭兵の集団に、ほとんどの人間が慌てふためき逃げようとする。だが、勇敢にも立ち向かう者もいた。 「おのれ、礼儀知らずな傭兵どもめ! このワ・タ・ナーべが相手だ!」 「父上ッ!」 「お前は下がっておれ!」 親子連れの貴族の父親が傭兵に戦いを挑む。どうやら風のメイジらしく、近づいてきた傭兵達をエアハンマーで吹き飛ばしていた。 その隙に、ワルドは床と一体になっているテーブルの足を折り、ルイズ達にこの裏に隠れるよう指示を出す。 だが、デルフリンガーをシエスタ達の部屋に置きっ放しにしてきたことに気付いたルイズは、ワルドが指示を出す前に二階に向けて走り出していた。 「ルイズ様!」 シエスタも慌てて後を追おうとするが、ロングビルに止められてしまった。 「まだ二階は大丈夫だから大人しく隠れてな!」 「は、はい!」 有無を言わせぬロングビルの迫力に、シエスタはテーブルの裏に隠れることしかできなかった。 確かに、傭兵達は親子連れの父親の魔法で前に進めなくなっている。ワルドや他の貴族も加わり、戦いは拮抗していた。 「さすが父上!」 「この程度の傭兵に遅れは取らんわ。ハアッハッハッハッ!」 だが、傭兵達は徐々に魔法が届かない位置まで後退し、今度は弓矢による攻撃に切り替えてきた。 すでにかなりの精神力を消耗していた親子連れの父親は、弓矢による一斉射撃を防ぎきることができず、体の至る所に矢を受けその場に崩れ落ちる。 「ち……父上ええッ!!」 矢を受け倒れた父親を息子は泣きながら後ろの方に引きずっていく。 これにより他の貴族は恐れをなしたのか、目に見えて攻撃を行う者が減ってきた。今や魔法で攻撃を行っているのはワルドを含めて数人ほどであった。 その時、二階から戻ってきたルイズがテーブルの裏に滑り込んできた。その手にはデルフリンガーが握られている。 「戦況は?」 「良くないね。あいつら、メイジとの戦いに慣れてるみたいだし」 「もしかして、狙いは私達かしら?」 「だろうね。強盗にしちゃ数が多すぎるよ」 ルイズとロングビルが話しているとワルドが会話に入ってきた。 「このような場合、半数が目的地に辿り着けば任務は成功となる。従って、ミス・ロングビル、囮になってはもらえないだろうか?」 「で、でもワルド様……」 「僕とルイズには重要な任務があるし、平民のシエスタには囮はできない。それに、土のメイジのミス・ロングビルならゴーレムを作って敵の目を惹きつけることができる」 ワルドの言うことはもっともだが、ルイズとしてはここでロングビルを置いていくのは気が引けた。いくら土くれのフーケといえど、この数の傭兵を相手にして無事でいられるとは思えない。 一方、ロングビルは溜息を一つ吐くとルイズの正面に向き直った。 「こうなったらしょうがないね。そんな心配そうな顔しなさんな、私の力はあんたが一番よく知ってるだろ」 「……わかったわ。あんたにはアルビオンを道案内してもらうんだから死なないでよね」 「その時は私の家族をあんたに紹介するよ。あの子とも仲良くできそうだからね」 「楽しみにしとくわ。ワルド様、シエスタ、行きましょう」 ルイズはワルドとシエスタを促して裏口へと向かう。 シエスタもルイズの後に続こうとしたが、ロングビルに呼び止められる。どうやら何か伝えたいことがあるようだ。 「シエスタ、ルイズの側を離れるんじゃないよ。私の勘が正しければ、あの子を助けられるのはあんただけだからね」 「わかりました。ミス・ロングビルもお気をつけて」 そして、シエスタもルイズの後を追って走り出し、その場に残されたのはロングビルだけになる。 「まったく、土くれのフーケともあろうものが随分とお人よしになったもんだね」 フーケがここまでルイズに肩入れする理由は、大事な家族であるティファニアとルイズが似ているからだった。もちろん容姿ではない、似ているのはその境遇だ。 ハーフエルフとして産まれたせいで人々からその力を恐れられ、自分を怖がらない子供達とひっそりと暮らすティファニア。 使い魔を召喚した後に手に入れた不思議な力のせいで多くの生徒達に恐れられ、魔法学院ではシエスタしか親しく話す相手がいないルイズ。 どちらも持っている力に振り回され孤独になっていったのだから…… 「さあて、こんな所で死ぬわけにはいかないからね。いっちょ気合入れてやるとするかい!」 フーケは傭兵達の弓矢の攻撃が収まる一瞬の隙を突いて駆け出すと、頭から窓を突き破った。 そうして外に出ると、岩でできた巨大なゴーレムを作り上げる。突然現れた巨大ゴーレムに傭兵達が慌て始めた。 「誰に喧嘩を売ったのか教えてあげようじゃないか。覚悟しな!」 土くれのフーケ、久々の本領発揮であった。 #navi(ZERO A EVIL)