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ZERO A EVIL-11 - (2009/01/24 (土) 22:25:04) のソース
#navi(ZERO A EVIL) ルイズはシエスタに手伝ってもらいながら、結婚式の準備をしていた。 準備といっても、貴族派の総攻撃が目前に迫っているこの状況で満足いく準備ができるわけもなく、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠と純白のマントを身に着けるだけである。 最後に身だしなみを整えて準備は完了した。鏡の前に立っているルイズは、ドレスを着ていないが立派な花嫁に見える。 その時、ドアをノックする音が部屋に響いた。ワルドがルイズを迎えに来たのだ。 「ルイズ、準備はできたかい?」 「はい、できました」 「よし、では行こうか。ウェールズ殿下はすでに礼拝堂でお待ちになっている」 ルイズとシエスタはワルドに連れられて礼拝堂に向かった。デルフリンガーはシエスタが両手で抱えるように持っている。 「ルイズ、少し元気がないようだが、緊張しているのかい?」 「いえ、大丈夫です。……ワルド様、ウェールズ殿下は思い直してくれますよね。きっとうまくいきますよね」 「ああ、きっとうまくいく。あとは僕に任せてくれ」 「はい、ワルド様を信じます」 夢のせいで不安になっていたルイズは、ワルドの言葉を聞いて安心したように微笑んだ。 朝から元気のないルイズを心配していたシエスタも、微笑んでいるルイズを見てどこかほっとしているようだ。 ルイズ達が礼拝堂に辿り着くと、ワルドが言っていたとおり礼装姿のウェールズが待っていた。 デルフリンガーを持ったシエスタが素早く席に着く。これで結婚式の準備は全て整った。 ルイズとワルドは、始祖ブリミルの像の前に立ったウェールズの所まで進み、二人そろって礼をする。 「では、式を始める」 ウェールズの声が礼拝堂に鳴り響き、いよいよルイズの結婚式が始まる。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」 「誓います」 ワルドははっきりと誓いの言葉を口にする。それを聞いたウェールズは今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか?」 「誓います」 ルイズの誓いの言葉を聞いたウェールズは、一つ頷くと二人に向けて言葉を告げる。 「ウェールズ・テューダーは始祖ブリミルの名において、二人の結婚が成立したことをここに宣言する。おめでとう、二人とも」 ここにルイズとワルドの結婚は認められた。それはルイズが幼い頃見ていた夢が叶ったことを意味している。 「おめでとうございます、ルイズ様」 「よかったな、相棒」 「ありがとう、シエスタ、デルフ」 ルイズは好きな人と結婚できた自分を幸せだと思い、それを祝福してくれる人がいることに喜びを感じていた。 これでウェールズの気持ちが変わってくれれば最高なのだが、そう簡単にうまくいくとも思えない。 だが、ウェールズは二人の姿を嬉しそうに眺めている。これからの説得しだいでは、ウェールズの気持ちを変えることも不可能ではない。 「ルイズ、僕と殿下は大事な話がある。しばらく外へ出ていてくれないか」 「わかりました、ワルド様」 「ありがとう。ついでに着替えてくるといい、少し時間がかかると思うからね」 「はい、よろしくお願いします」 ルイズはウェールズの説得をワルドに託す。後はワルドが何とかしてくれると信じきっていた。 「行きましょう、シエスタ。ワルド様と殿下のお話の邪魔になってしまうわ」 「ま、待ってください、ルイズ様」 礼拝堂の外に向かうルイズをシエスタは慌てて追いかけていった。が、慌てていたためにデルフリンガーを置いていってしまう。 「あーあ、二人とも俺を置いて行っちまいやがった。まあいいや、俺は相棒の旦那のお手並みでも拝見するかね」 ルイズと一緒に部屋に向かっていたシエスタは、途中でデルフリンガーを置いてきてしまったことに気付いた。 だが、今戻ってはワルドとウェールズの話の邪魔になってしまう。どうすべきか悩んでいると、ルイズが話しかけてきた。 「取りに戻ったほうがいいわね。デルフのことだから、何を喋るかわかったもんじゃないわ」 「そうですね。じゃあ、行ってきます」 「気をつけてね」 ルイズと別れた後、シエスタは礼拝堂の前までやってきた。 礼拝堂からはワルドとウェールズの話し声が聞こえてくる。どうやら、話はまだ続いているようだ。 二人の話の邪魔にならないようにシエスタは静かに礼拝堂に入っていく。 二人は話に熱中しているせいかシエスタには気付いていないようだ。そのおかげで話の邪魔をすることなくデルフリンガーの所までやってくることができた。 「デルフさん、置いていってしまってすみませんでした」 「メイドの娘っ子か! 俺のことなんていいから早く逃げろ!」 「どうしたんですか、一体?」 その時、シエスタの耳に何かを貫いたような鈍い音と苦しそうなウェールズの声が聞こえてきた。 「き、貴様……レコン…キスタ……」 「その通り。ウェールズ・テューダー、貴様の命、確かに頂いたぞ」 ウェールズの胸からはおびただしい量の血が流れている。この出血量では命は助からないだろう。 「早く逃げろ! このことを相棒に知らせるんだ!」 「は、はい!」 突然の出来事に唖然としていたシエスタは、デルフリンガーの言葉で我に返ると、礼拝堂の入口に向かって走り始めた。 手にはデルフリンガーが握られている。置いていけと言われたが、置き去りにできるわけがない。 すぐに逃げ出したのがよかったのか、ワルドに捕まることなく入口の側まで辿り着くことができた。 そして、入口まで一気に駆け抜けようとした時、扉から誰かが入ってくるのが目に映った。その人物を見た瞬間、シエスタは凍りついたように動けなくなってしまう。 「逃げられると思っていたのか?」 「そ、そんな!」 シエスタが驚くのも無理はない。扉から入ってきたのは礼拝堂にいるはずのワルドだったのだから。 反射的に後ろを振り向いたシエスタを更なる驚愕が襲う。振り向いた先には、ワルドが先程と同じ場所に立っていたのだ。 声も出ないシエスタに対し、ワルドは得意げに語り始める。 「平民の君に言ってもわからないかもしれないが、これは遍在の魔法だ」 「遍在?」 「そうだ、風は遍在する。もっとも、詳しい説明をしても君には理解できないだろうがね」 二人のワルドに挟まれてしまったシエスタにもう逃げ場はなかった。 「さて、それでは君にも死んでもらうとするかな。本当はあの時始末するつもりだったんだがね」 「あの時?」 「この仮面に見覚えがあるだろう」 ワルドが取り出したのは、アルビオン行きの船に向かう時に襲ってきた男が着けていた仮面だった。 あの時襲ってきたのはワルドの遍在だったのだ。 「お喋りはここまでだ。さようなら、シエスタ」 ワルドはそう告げると、魔法を詠唱し始める。すると辺りの空気が冷え、ワルドの杖の先端が青白く光る。 「やばい! 娘っ子、俺を盾にしろ!」 デルフリンガーが叫んだのとワルドが魔法を放ったのはほぼ同時だった。ワルドが放ったのは風の魔法、ライトニング・クラウドだ。 シエスタはデルフリンガーに言われたとおりにするが、ライトニング・クラウドを防ぎきることはできなかった。 激しい電撃がシエスタの体を襲う。衝撃で気を失ってしまったシエスタは、その場に崩れ落ちるように倒れてしまった。 「娘っ子、しっかりしろ!」 デルフリンガーがいくら呼びかけてもシエスタは目を覚まさない。二人のワルドはシエスタに止めを刺すために近づいてきている。 もう駄目かとデルフリンガーが諦めかけたその時、扉が開く音が礼拝堂に鳴り響いた。 「相棒!」 「ルイズ……」 そこに現れたのは、部屋で着替えを済ませてきたルイズだった。目の前で起こっている事態に頭が追いついていかないのか、呆然と立ちつくしている。 そんなルイズに対し、デルフリンガーとワルドが同時に話しかけてきた。 「相棒! こいつは裏切り者だ! メイドの娘っ子もこいつにやられたんだ!」 「ルイズ、ウェールズ殿下とシエスタを襲ったのは貴族派の刺客だ。僕も必死に応戦したが、二人を守ることができなかった。本当にすまない」 「騙されるな相棒! アルビオンに行く前に襲ってきた仮面の男も遍在の魔法を使ったこいつだったんだ!」 「ルイズ、夫である僕とこのインテリジェンスソード、どちらの言葉が信用できるかよく考えればわかるだろう?」 真っ向から食い違う両者の言い分。だが、ルイズにはどちらが嘘をついているのかわかってしまった。 「ワルド様、どうして裏切ったんですか……」 「な、ルイズ!」 「この状況でデルフが嘘をつく理由がないし、彼が嘘をつくとも思えない。それにワルド様は応戦したと言っているけど、この礼拝堂には戦った痕跡がないわ」 「相棒……」 デルフリンガーとの付き合いは短いが、シエスタと一緒に彼と会話するのは楽しかったし、ロングビルのことで悩んでいた時、相談にものってもらった。 それに、最初は相棒と呼ばれるのが嫌だったのに、今は気にならなくなっている。いつの間にかルイズは、デルフリンガーのこともシエスタと同じように信頼していたのだ。 それに加えて、礼拝堂はシエスタとウェールズが倒れている以外はなんの変化もなかった。 これではいくらワルドのことを信頼していたルイズでも、彼の言葉を信用することはできない。 「まいったな。ルイズなら僕の言うことを何でも信じてくれると思っていたが、僕の考えが甘かったな」 「ワルド様……」 「ルイズ、僕の言うことをよく聞いてくれ! 僕は世界を手に入れる! そのためには君の力が必要なんだ!」 「急に何を……」 「君の力は素晴らしい! 遍在で君と戦った時、僕は確信した。君の力があれば、僕は世界を手に入れることができる!」 興奮して熱っぽく語るワルドとは対照的にルイズの心は冷え切っていく。ワルドが欲しがっているのは自分ではなく、この不思議な力だと気付いてしまったからだ。 そして、徐々に湧き上がってくる憎しみの感情。この男は、アンリエッタの大事な人であるウェールズだけでなく、シエスタまでその手にかけたのだ。 シエスタと過ごした楽しい日々を思い浮かべるたびに、目の前の男に対する憎しみが膨れ上がっていく。 自分が裏切られた事より、シエスタを殺されたことの方が許せなかった。 (この男はシエスタを殺したッ!! 私に優しくしてくれたシエスタを殺したッ!! 許せない、殺してやるッ!!) 膨れ上がった憎しみの感情は、ルイズの小さな体にはもう収まりきらなかった。左手のルーンが眩しいほどの光を放ち、徐々にルイズの姿が変わっていく。 体が大きく膨れ上がり、目と口が巨大化する。舌が長く伸び、首の部分にはどこから現れたのか巨大なヘビが巻き付いている。 光が収まった時、そこにいたのはルイズではなかった。そこにいたのは、桃色がかったブロンドの髪を持つ巨大なカエルだった。 体にはブラウスと黒いマントを身に着けている。だが、ブラウスは着ているというよりも、巨大化したルイズの体に耐えられずぼろぼろになったものが体に貼りついているだけである。 デルフリンガーは変わり果てたルイズの姿に言葉もなかった。それとは対照的に、ワルドは興奮したように喋り始める。 「凄いぞ、ルイズ! この力があればきっと……」 「ゲロオオッ!!」 だが、ワルドが最後まで喋りきる前にルイズが襲い掛かってきた。首に巻き付いているヘビを手に持ち、ワルド目掛けて振り回す。 長いヘビが鞭のようにしなり、急な攻撃に反応できなかったワルドを弾き飛ばした。さらに、ルイズが舌で床を舐めると、床が紫に変色し嫌な匂いが漂ってくる。 床はワルドが倒れている所まで変色していき、その場にいたワルドが苦しみ始める。しばらく床をのた打ち回った後、ワルドの姿は煙のように消えてしまった。 必殺技の「毒蛇ムチ」で倒したワルドは遍在だったようだ。ルイズは残った方のワルドを巨大な目で睨みつける。 一方、遍在を倒されたワルドは涼しい表情を浮かべていた。その表情からは余裕さえ感じられる。 「僕の遍在がこうもあっさりやられるとはね。さすが僕が見込んだ力だ」 そのワルドの言葉には何も答えず、ルイズは倒れているシエスタの側に近寄っていく。そして、シエスタの体を両手で持ち上げると礼拝堂の椅子の上にそっと横たえた。 シエスタの側に落ちていたデルフリンガーも拾い上げ、シエスタが横たわっている椅子に立てかける。 「相棒……」 デルフリンガーに呼びかけられてもルイズは何も喋らない。最後にシエスタの顔を一目見て、ワルドの方に体を向けた。 「ルイズ、お別れは済んだかい?」 「ゲコッ!!」 ルイズは再びワルドを睨みつけるが、ワルドの余裕の態度が崩れることはない。それもそのはず、ワルドはまだ全力を出し切っていないのだから。 風のスクウェアメイジであるワルドは、遍在をまだ三人作ることができる。いくらルイズが強力な力を持っていても、四人のスクウェアメイジが相手では勝ち目はない。 魔法で痛めつけて弱らせてから捕獲する、ワルドはそう考えていた。 「ではいくよ。ユビキタス……」 だが、ワルドはその呪文を最後まで詠唱することができなかった。 突如聞こえてきた不快な鳴き声のせいで気分が悪くなり、吐き気を催してくる。そのせいで思ったように呪文を詠唱することができなかった。 「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ……」 鳴き声を発していたのはルイズだった。 この技の名は「げこげこ」。不快な鳴き声で相手を弱らせる技だ。 「ユ…ビキ…タス……デル…」 それでもなんとか詠唱を完成させようとするワルドだが、その隙を見逃すルイズではなかった。 長い舌を伸ばし、ワルドの体を絞めつける。苦悶に歪むワルドの顔に、ヘビが舌をチロチロ出しながら迫っていた。 「よ、よせ!! やめろ!!」 だが、今更慌てても手遅れだった。ヘビはワルドの喉にその牙を突き立て血を吸っていく。 相手の血を吸い取り、自身を回復させる技である「吸血」。身動きができないワルドは血を吸われ続け、ミイラのように干からびていく。 そして、血を全て吸い取られたワルドは、ルイズの舌に巻かれた状態で息絶えた。 ワルドを殺したことにより、ルイズは少しずつ冷静さを取り戻していく。 冷静になったルイズが最初に思ったことは、ワルドを殺してしまったことへの後悔だった。 ワルドは自分を裏切り、シエスタとウェールズを殺した。そのことを許すことはできない。 だが、幼少の頃の自分を救ってくれたのは間違いなくワルドだった。彼がいなければ、今の自分はなかったともいえる。 それなのに、激情に流されて彼を殺害してしまった。それも自分が一番嫌っていたカエルの姿になって…… こんな姿になってしまっては、もう家族にもアンリエッタにも会えない。いや、ウェールズの命を救えなかった時点で、どんな姿でもアンリエッタに合わす顔はなかった。 いずれ自分もオルステッド達と同じように誰かに退治されるのだろう。そして、惨めな最後を迎えるのだ。 ルイズの心を絶望が支配し始めていた時、轟音とともに礼拝堂が振動する。外からは大勢の人の悲鳴や怒号が聞こえてきた。 ついに貴族派の総攻撃が始まったのだ。だが、ウェールズが死んでしまった今、ルイズにとってそれはもうどうでもいいことだった。 礼拝堂でしばらくじっとしていると外から会話する声が聞こえてきた。会話の内容から貴族派だということがわかる。 「ちくしょー、出遅れたか!」 「もう目ぼしい宝は押さえられてるし、王様の首も一番乗りの奴らに取られちまったらしいぜ」 「でも、皇太子の首はまだ見つかってないんだろ?」 「とっくに殺されてて、誰かが首を隠し持ってんだろ。あーあ、何か金になるもんでも出てこねーかな」 その貴族派の会話を聞いているうちに、ルイズの心に再び憎しみの感情が湧き上がってくる。 貴族派の連中は人が死ぬことをなんとも思っていない、金のことしか頭にないのだ。ワルドを殺してしまった自分はこんなにも苦しんでいるのに。 この連中さえいなければ、ワルドが裏切ることも、シエスタとウェールズが死ぬこともなかった。そう考えると、貴族派に対する憎しみがますます膨らんでいく。 (こいつらさえいなければ!! こいつらさえッ!!) 外で話しているのは貴族派についたただの傭兵達なのだが、憎しみに囚われているルイズはそのことに気付かない。 「おい、この礼拝堂はまだ手付かずみたいだぞ!」 「本当かよ! 何か金目の物があるかもしれないな」 「よし、入ってみようぜ!」 傭兵達は気付いていない。自分達が魔王の部屋の扉を開けようとしていることに…… #navi(ZERO A EVIL)