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Fatal fuly―Mark of the zero―-06 - (2008/12/24 (水) 06:41:34) のソース
#navi(Fatal fuly―Mark of the zero―) 「品評会?」 晩の食堂で、ロックはルイズが先に発した言葉にオウム返しをした。 時が経つのは早いもので、ロックが呼び出されてより既に一月という時間が経過している。 独自の食事を取る二人の姿と、その隣でキュルケがちょっかいを入れているのには、最近にもなると見向きもしない者ばかりとなっていた。 ちなみに、今日のルイズとロックの夕食はビーフカップという、かつてロックの養父から人伝に聞いた料理である。確か、別称は牛丼というらしいが。 「そうよ。春に二年が呼び出した使い魔の格をつける会ってこと」 ここには箸というものは無いし、また、あった所で使えないルイズはスプーンでタレに漬け込まれた肉と玉葱、そして染みた米を口にしながら答えた。 唐突すぎる発言に、ロックはどう返したものかと考える。一口、ビーフカップを口に運んだ。ああ、結構いけるじゃないか。これは現実逃避に近い行動だったが。 気を取り直した彼は、隣でいまだ大人しく食堂で配される料理に口をつけているキュルケを警戒しながら、ルイズに言った。 「どういう形でだよ」 「姫殿下の前で、その使い魔ならではのものを示すっていう寸法になるわね」 「……頭痛くなってきた」 そんな見世物に参加させられる事を思うと、自然憂鬱にもなる。 しかし、そんなロックの言葉を意にも介さず、ルイズはビーフカップの味に舌鼓を打ち、頬を緩ませていた。 「単純過ぎてどうかと思ったけど、美味しいじゃない」 複雑な気分のロックだが、実際これからの事を考えると自分に何が出来るのかが不安になってくる。隠し芸など自分には無いのに……。 食べかけのビーフカップを前に、ロックは思案に耽った。 (他の使い魔は動物とかそんなのばっかりなのに、どうすんだよ!) 頭を抱えたロックに現れた隙を、隣にいたキュルケは見逃しはしなかった。 「あら、ダーリン。そんな困った顔もキュートだから、あたしまで困っちゃうわー」 「うわわわわわ! や、やめろよキュルケ!」 食事中だとはいえ油断するべきでは無かったと思う前に、キュルケが腕に組み付いていた。 そして、ロックの残している料理を目に、口をあーんと開いて言う。 「たまにはダーリンのお手製の料理を食べてみたいわ。ね? あーん」 「ええ!?」 「ちょっと……ツェルプストー」 あまりの展開にロックもルイズも続く言葉が出ない。 困惑するロックに、苛立ちを隠しもしないルイズ。ある意味で一触即発な状況でまず行動を起こしたのは、ルイズだった。 ロックが身動きも出来ない間に、己のカップから一口を掬い出し…… 「あーーっ!」 「…………」 「タ、タバサ?」 ルイズがキュルケの口に突き出したスプーンは、それこそ喉まで突かんばかり勢いだった。しかし、それを口で受け止めたのは気にも留めていなかった存在。 「うん」 もぐもぐと口にした物を嚥下して、ただ一言だけ呟き、自分の食事に手をつけ始めたのは、キュルケの隣に座っていたタバサという少女であった。 彼女はキュルケの友人であり、学院においてはルイズとはまた違った意味で異端の者だ。貴族達の通うこの場では、きわめて自己主張の少ないタバサの存在は希少といえる。まともに付き合いがあるのはキュルケだけという始末だ。 そんな彼女が、このような乱痴気騒ぎに介入する理由が分からないと、ルイズは驚きを一周させて冷静になり、首を捻る。 キュルケだけは理解しているようだが。 「危なかったわ。まさかヴァリエールに食事の席でやられるところだったもの。かばってくれてありがと、タバサ」 「別に。食べ物を粗末にしたらいけないと思っただけ」 交わされた言葉に、ルイズが思い切り顔をしかめる。無意識の行動だったが、確かにあの勢いでは…… 「運が良かったわね。ツェルプストー。いえ、運が悪かったのかしら。ロックの料理を末期に味わって逝ければよかったのに」 「物騒な発言はよしてもらいたいわ。こんな野蛮な女の使い魔なんてやめて、あたしの所で楽しまない? ダーリン」 「……あー」 どうコメントしたものか、ロックには分からない。男所帯では絶対にありえなかった光景に絶句するのみだ。 少し慣れたと思ったら、大きな波が身体を攫うようにやってくる。 彼はただ、喉の奥から小さく、絞り上げるような声を上げる事しかできなかった。 「飯の時くらい、静かにしようぜ……」 ※ さて、そんなこんなで時は過ぎ、品評会まで間もなくといった頃合のことである。 姫殿下のご行幸を前に、どうロックをアピールするべきか頭を悩ませていたルイズは、彼の今までの行動に思いを巡らせていた。ギトーを倒し、暴漢を退け――家事一般が上手。 いや、まてまて、最後のは何かちょっと違う。ルイズは自分で自分の頭を叩いた。 「何やってんだか」 考え事をしている間のルイズの奇行に、肩を竦めてロックが言う。 現在、中庭で作戦会議と称した席が二人の間で行われていた。青々と茂った芝生にあぐらをかき、呆れ顔のロックは仁王立ちするルイズの言葉の続きをまつばかりだ。 喧々囂々とやり取りした数日間があったが、品評会における有用な情報は二人の間に一切生まれなかった。既に当日を迎えた今、手遅れという言葉しか浮かんでこないのだが、ルイズが今も考えているようでは、それに従うしかあるまい。 諦観の意識がロックを支配している。 「何かないの!?」 「いや、何って言われてもだなぁ……」 「特技の一つや二つ!」 「そりゃ人間生きてりゃあるだろうけどさ」 「言って見なさい!」 「料理」 「却下」 「どうしろってんだ……」 これもまた、この数日間で繰り返されたやり取りの一つである。胸を張っていえる特技を潰されては、どうしろというのだ。ロックは精神的な疲れによって押し潰されそうになっていた。 使い魔の品評である。ありきたりなものでは到底歯が立たない。そう考えるルイズであるが、そもそも人間の使い魔というのが規格外という意識がすっぽりと抜けていた。 しかし、こういう煮詰まった時にこそ、天啓というものがやってくる。かつて放った彼の烈風拳、そして、暴漢を退けた技の一つであるライジングタックル。 考えてみれば、あれを使ってなんとかできないものか……。 そこで、ルイズは地面に転がっていた木の枝を一つ拾い、こう言った。 「今からこれをあんたに全力で投げるわ」 「は?」 「ちょっと太いから、痛いわよ。でも、絶対に避けちゃ駄目」 「おかしい。おかしいぞルイズそれ」 「みなまで言わせるつもり? 避けずに何とかしなさいってこと」 「はぁ……」 溜息を吐いたロックは、改めてルイズの手に握られた木の枝に目をやった。彼女の言葉どおり、確かに太いし、折れた部分が尖っていて、まともに当たればかなり痛いだろう。 腕で受け止めれば問題はないだろうが、そんな安易な発想ではルイズの逆鱗に触れるのは火を見るより明らかだった。 どうしたものか、と考えていると、ふと思い浮かんだ光景があった。テリーとの旅の際、曲芸を披露して路銀を稼いだ記憶。 なるほど、とロックは頷いてこう返した。 「じゃ、やってみろよ」 挑戦的な笑みがロックの顔に浮かんでいた。 我が意を得たりとばかりにルイズが大きく振りかぶる。 そのフォームは一流の野球選手のそれに引けを取らぬなどと下らない事を考えている間に、ロックの目の前に凄まじい回転を帯びた木の枝が放り投げられた。 「ふっ」 ロックは小さく息を吐き、腕を掲げる。その腕が木の枝を絡め、回転を殺したかと思った瞬間、ルイズはその目を疑う光景を目にした。 「せやぁっ!」 刹那の内に身体を縦に回転させたロックが、木の枝を真っ二つに、その踵で蹴り落としたのだ。瞬きでもすれば見失ってしまう程の速度である。何の危なげもなく着地したロックは、よし、と一声を上げた。 予想を超えたロックの芸に、ルイズはしかめていた顔に薄い笑みを張り付かせる。これは、いける、と。 「ロック! ぶっつけ本番みたいなもんだけど、打ち合わせよ! メニューを組むから!」 そんな彼女の言葉に、特別な異論を挟む事無くロックは安堵の表情で言う。 「こういうので良いなら、いくらでもやるさ」 安堵は安堵だが、実際は諦めである事に、本人ですら気付いていなかった。 #navi(Fatal fuly―Mark of the zero―)