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ラスボスだった使い魔-29b - (2009/02/21 (土) 18:47:29) のソース
#navi(ラスボスだった使い魔) (アドレナリンやドーパミンの量を調節して、強制的にガンダールヴの効力を底上げさせる……駄目だな、理性を保てる保証がない。因果律を操作すれば何とかならないでもないが、調整を誤れば廃人になりかねんし……) こういう時、生まれつき特殊能力を持っているタイプの種族は悩まなくて便利だな……などと思いつつユーゼスが自分の強化方法について思考を巡らせていると、 「ユぅぅぅぅぅぅゼスぅぅぅぅぅうううううううっっ!!」 「!」 木陰から全速力でルイズが走って来て、悩んでいる最中のユーゼスに飛びついた。 そして『自分がユーゼスの言いつけ通りにやった』ことを、まくし立てるようにアピールする。 「ね、ね、ユーゼス。わたし、ちゃんと出来てたよね? ユーゼスに言われた通り、ちゃんと爆発起こしたよね? そのほかのこと、何にもやってないよね?」 「……まあ、そうだな」 これはその通りなので、ユーゼスとしても認めるしかない。 ルイズはその言葉を聞いてパア、と顔を明るくすると、自分の身体を盛大にユーゼスにこすり付け始める。 「それじゃあ、わたし、ユーゼスとお話をしてもいいのよね。いっぱい、いーっぱい、お話をしましょう。ね?」 「露骨に身体を密着させるな、御主人様。変な気分になってくる」 そんなルイズに辟易しつつ引き剥がそうとするが、言って従ってくれるようならば最初から苦労はしなかった。 取りあえずやんわりとルイズを拒絶しつつ立ち尽くしていると、離れた地点で様子を窺っていたエレオノール、そしてシュウとミス・ロングビルがやって来る。 「ああもう、ルイズ! 『ユーゼスにベタベタ引っ付くんじゃない』って何度言えば分かるの、もう、はしたない!!」 「……フンだ、わたしの時代はエレオノール姉さまの時代と違うんだもん。女の方から積極的にいっても大丈夫な時代なんだもん。オバサンは後ろの方でじーっと手をこまねいてればいいんだもん」 「オ、オバ……っ!?」 ビキリ、とエレオノールの顔が引きつった。 それを意図しているのかいないのか、ユーゼスがポツリと呟く。 「その理屈で言うと、私はオジサンか……」 実際の年齢は『お爺さん』なのだが外見年齢で言うならばエレオノールとほぼ同い年なので、彼女を『オバサン』とするなら『オジサン』と呼んで差し支えはあるまい。 「やん、ユーゼスは『オジサン』じゃないわ。だって心が若いもの。そしてわたしは心も身体も若いわ。ついでに言うと、エレオノール姉さまは身体もそうだけど心がオバサンだわ」 恋は盲目、とはよく言ったものである。 まさか今のユーゼスの様子を見て『若い』という単語が浮かぶとは。 そしてその『若い』という範疇から除外されてしまった女性はと言うと……。 「ほ、ほぉう……。そんな風に思ってたの、ルイズ……。へぇえ……」 表情その他を小刻みに震わせながら、暴言を吐いた妹に詰め寄りつつあった。 『踏み込んではいけない領域』に踏み込んでしまったことに今更ながら気付いたルイズは、しかしこれ幸いとばかりにユーゼスに救いを求める。 「きゃっ! 怖いわユーゼス、オバサンが図星を突かれて逆上してくるの!」 「うるっさいわね、どこからどう見ても子供にしか見えない幼児体形のくせにっ!!」 「はあ? 姉さまの胸のサイズで、そういうこと言われたくないんですけどぉ~?」 「あなただって同じくらいでしょうが!!」 「でもぉ、よーく見比べてみたんですけどぉ、胸の大きさならぁ、わたしの方が勝ってませんかぁ~?」 「んなっ……、そりゃあカトレアに比べれば負けてる『かも知れない』けど、あなたに負けてるってのは心外だわ!!」 ユーゼスを挟んでキーキー言い合うヴァリエール姉妹。 (胸が大きいからと言って、何かメリットがあるのだろうか……?) そう思うユーゼスだったが、余計なことを言うと例によって例のごとく不可解な事態になりそうなので黙っていた。 と、そんなやり取りを続ける一同に向かって、シュウが問いかける。 「……どうでもいいのですが、『コレ』はどうするのですか?」 シュウが指差したのは、中に水の精霊の襲撃者の入った青銅のタルである。 「中を開けてみる、って言うのは……」 「……水死体なんて見たくないわよ、わたし……」 おっかなびっくりな様子のギーシュとモンモランシー。だが、それに対するシュウのセリフで二人の表情は一変した。 「いえ、おそらく中の人間はまだ生きているでしょうね」 「え!?」 「そ、そうなんですか!?」 驚く二人に、シュウはサラリと説明する。 「ええ。もちろん、このまま放っておけば確実に死にますが」 「なら、助けるべきでは……?」 そう提案するギーシュだったが、即座にユーゼスから反対意見が出された。 「甘いぞ、ミスタ・グラモン。その中にいるのは所詮『敵』だ」 「で、でも、殺さなきゃいけない理由はないだろう!?」 「生かしておかなければいけない理由もない」 「……うぅ……」 理屈ではユーゼスには勝てない……と半ば屈しかけるが、それでもギーシュはどうしても諦めきれないようだった。 ともあれ、議論している間にもタイムリミットは迫っているのだが。 と、そこに、 「きゅいきゅいきゅい~~!!」 「きゅるきゅるきゅる~~!!」 いきなり空の彼方から青い風竜と、その背に乗ったサラマンダーが飛来してくる。 「敵ですか?」 「おそらくこの中に入っているメイジの使い魔だろうな。殊勝にも主人を救いに来たらしい。……だが、風竜とサラマンダーだと……?」 「……何だか嫌な予感がしてきたんだが……」 「…………奇遇ねギーシュ、わたしもよ」 『倒してしまった二人組』について、おおよその察しが付き始めてきたユーゼスとギーシュとモンモランシー。 「おや、どうしましたみなさん? この二体を倒さないのですか?」 「……メイジを倒しておいて、どうして使い魔を倒さないのよ?」 シュウとエレオノールは『この使い魔たちの主人と思しきメイジ』と直接の面識がないため、何故ここで攻撃を止めるのか分からないようである。 「きゅい! きゅいきゅいきゅい!!」 「きゅるきゅるきゅるきゅる!!」 面識があるような気がする風竜とサラマンダーは何かを必死に訴えているが、人間にはその言葉が理解出来ないので判断のしようもない。何の面識もない赤の他人の使い魔である可能性も、ゼロではないのだ。 ……そして、タルの中のメイジを解放した途端に逆襲される可能性も。 「せめてこの二体の言葉が翻訳でも出来ればな……」 どうしたものか、と悩むユーゼス。 すると、意外なところから判断材料が舞い込んできた。 「あ、私なら使い魔の皆さんの言葉が分かりますよ」 「……何?」 「おやチカ、そうなのですか?」 シュウの肩に乗っている青い鳥の姿をしたファミリア、チカである。 「種別は違えど、同じ使い魔ですしね」 えっへん、と胸を張るチカ。そして不適かつ自信たっぷりに言葉を続ける。 「ククク……、この私の力を持ってすれば、ハルケギニアの幻獣と意思の疎通を行うことなど造作もないことですよ……。 いやー、一度言ってみたかったんだよなー、このセリフ」 「―――前置きはどうでもいいから、とにかく通訳を頼む」 「はいはい」 そして、チカを通訳とした風竜たちとの会話が始まった。 「きゅいきゅいきゅい!!」 「えーと、『お姉さまを早くそこから出すのね!!』だそうです」 「お姉さま? 名前は分かるか?」 もう大まかな目星はついているのだが、違う可能性も捨てきれないので確認を取ってみる。 「きゅいきゅい!!」 「きゅるきゅるるる!!」 「そっちの青いでっかいのの主人がタバサで、こっちの赤いのの主人がキュルケって名前だ、と言ってます」 「ああ~、やっぱり……」 「よ、よりによってクラスメートを……」 ギーシュとモンモランシーは二人揃って『うわあああ』と頭を抱えて後悔に苛まれる。 (……事が済んでから後悔するくらいならば、始めからやらなければ良いだろうに) まあ、後悔とは先に立たないからこその『後悔』なのだが。 「しかし、相手がミス・タバサとミス・ツェルプストーだったとはな」 確証を得たことで、この数奇なめぐり合わせを怪しむユーゼス。 ……ルイズとミス・ロングビルが惚れ薬を飲み、解除薬の材料が品切れで、水の精霊と直接交渉しにラグドリアン湖に向かい、その水の精霊から頼みごとをされた。 その『頼みごと』と、タバサとキュルケの二人の事情(どのような事情があるのかは知らないが)が合致する確率はどれほどだろうか。 「きゅいきゅい!! きゅいきゅ~いっ!!」 「きゅるきゅるきゅるっ!」 「『シルフィたちが出て来た時点で、そのくらい気付くのね、この馬鹿!!』、『いやそんなことはどうでもいいから、早く御主人様を出してくれよ!』だそうです」 通訳のチカの言葉を聞いて、一同はハッと事態の深刻さに気付く。 「……ユーゼス、まさか『二人を助ける理由は無いから、助けるな』とは言うまいね?」 「…………お前は私を何だと思っている、ミスタ・グラモン。あの二人には色々と借りもあるからな、『止めろ』などと言いはせんよ」 「言いそうで怖いんだよ……」 妙な汗を流しつつ、ギーシュはバラの造花を振る。 すると青銅のタルは光と共に消失し、中に閉じ込められていた大量の水と、ワルキューレの腕に拘束されたタバサとキュルケが現れた。二人とも黒いローブのフードはめくれ、素顔があらわになっている。 「む?」 「これは……」 出て来た二人を見て、ユーゼスとシュウの表情が少し動いた。 (……いかんな) ほんのわずかに焦った様子のユーゼスは、素早くギーシュとモンモランシーに指示を送る。 「ミスタ・グラモン、拘束を解け。ミス・モンモランシ、二人が飲み込んだ水を吐かせろ」 「あ、ああ」 「分かったわ」 『腕』が霧散し、タバサとキュルケの口からゴブリと水が吐き出された。 「……ミス・ヴァリエール、御主人様を抑えていろ」 ある程度の量の水が排出されたことを確認すると、次にエレオノールに指示を飛ばす。 「え? いいけど……何をするの?」 「あの二人を触診する。触る度に邪魔をされたのでは正確な診療と治療が出来ないのでな」 「『診療』と『治療』……って、あなた医術の知識なんてあったの!?」 「『医術の知識』と言うよりは『生物学の知識』と言うべきだが。簡単な医療行為ならば可能だよ」 これは本当である。 かつてユーゼスが多くの星の大気浄化を行った際には、環境汚染の度合を測るためにその星に生息する動植物などを詳しく調査する必要があった。 また、自分の複製人間であるイングラム・プリスケンを『作った』のは、他でもないユーゼス・ゴッツォである。 人体の構造やその正常なコンディション程度ならば、完璧に把握しているのだ。 「……あなた、そういうことはもっと早く言いなさい」 「今まで質問されなかったし、言う必要もなかったのでな。……ともあれ、御主人様を抑えておいてくれ」 そしてユーゼスが、倒れたまま動かないユーゼスが二人に駆け寄った。 ……その光景を見たルイズがギャーギャーと喚いているが、そこは無視する。 続いてペタペタと二人の身体を触り、念のためクロスゲート・パラダイム・システムも使って二人の因果律も調べてみると……。 (…………不味い) 死んではいないが、危険な……と言うか、既に手遅れな状態だった。 放っておけば死ぬのは間違いないし、適切な処置をしたところで脳か身体のどちらか……あるいは両方に深刻な後遺症が残るのは間違いあるまい。 (事前のやりとりに時間をかけすぎたか……) まさに後悔先に立たず、である。 「……どうします、ユーゼス・ゴッツォ? 『このままでは』そのお二人は危険ですよ?」 「分かっている」 わざとらしく声を上げるシュウに、少し不機嫌な素振りで返すユーゼス。 おそらくシュウは、一目見ただけで二人が危険な状態にあることを看破しているはずである。 そしてこの二人を救えるのは、少なくともこの場においては自分とユーゼスしかいないことも理解しているはずだ。 (…………やむを得んか…………) 出来ればシュウにやってもらいたかったが、あの男が頼みごとや命令に黙って頷くタイプの人間ではないことは承知している。 ならば、自分がやるしかない。 (半分程度は私の責任のようなものだからな……) 正直に言って、非常に気が進まない。 しかし恩人を見殺しにするのも、後味が悪い。 「……………」 ユーゼスは憮然とした表情で、まずはキュルケの状態……因果律を調べてみる。 (頭蓋骨にヒビ、脳内出血……これは青銅のタルにぶつけた時に出来たものか。あとは酸素欠乏性に、内臓を幾つかやられているな……) 症状の把握が出来れば、あとはそれを『健常な状態』に調整するだけだ。 (……そう言えば、このように因果律を操作するのは初めてか) ガイアセイバーズにやられた異次元人ヤプールを復活させたり、超神形態の自分の身体を再生させたことはあるが、他人の治療に使ったことは今までにない。 (ハルケギニアに召喚されてからというもの、初めて尽くしだな……) しかも、よりによって人命救助とは。 まさかクロスゲート・パラダイム・システムをこんなことに使うとは思ってもみなかった。 「……………」 ともあれキュルケの背中に手を当て、気付けを行う『振り』をする。 そしてその身体の因果律を操作し……。 「……ッ、ゲホッ、ゴホッ!! ッ、カハ、……ッッ! ……あ、あれ? 確かあたし、水の中に閉じ込められて……? って、ギーシュにモンモランシーにユーゼスに、ルイズとそのお姉さん? ミス・ロングビルまでいるし……見慣れない顔もいるけど。どうなってるの?」 『健常な状態』に調整する。 (これでミス・ツェルプストーに関しては問題ない……) 続いてはタバサである。 (…………脳死する一歩手前か。肺にもかなりダメージがある。心停止はしていないが……) メイジが脳死にでもなったら、その使い魔はどうなるのだろうか……などと考えつつ、キュルケと同じようにタバサの因果律を操作して、『健常な状態』にする。 「カハッ! ……ゲホ、ゲホッ……! ……? ユーゼス・ゴッツォ?」 これでよし。 そう言えば前にハルケギニアで一度だけ超神形態になった時にも、このタバサという少女が絡んでいた。 因縁と言うか因果と言うか、そのような巡り合わせでもあるのだろうか。 (『例外』はこれのみにしたい所だが……) とにかく自分に原因がある場合か、余程のことがない限り、こういう因果律の操作は絶対に行わないようにしよう……と固く決心するユーゼス。 ―――その『固さ』がどの程度の物なのかは、決心した本人にも不明ではあったが。 「……まさか、クラスメートに殺されかけるとは思わなかったわ。しかもあんな……えげつない方法で」 「いや、それは謝ってるじゃないか、こうやって! ちゃんと! って言うか、方法を考えたのは僕じゃあない!!」 「実行したのは、あなたとモンモランシーじゃない」 「うう……。言わないでキュルケ、今でもけっこう罪の意識に襲われてるんだから……」 嫌味ったらしくネチネチとギーシュたちに文句を言うキュルケ。 どうやら戦いの結果とは言え、あのような扱いを受けたことが相当腹に据えかねているらしい。 「まあ、どうせユーゼスが考えた方法なんでしょうけど……」 キュルケはそう言ってチラリとユーゼスの方を見ると、その近くに立っている男にようやく意識が向いた。 「あら、いい男じゃない」 標的を見定めるや否や、キュルケの行動は早かった。 ギーシュとモンモランシーへの嫌味を即座に切り上げると、乱れた髪や衣服をサッと直して、紫の髪に白衣を着込んだ男に駆け寄っていく。 そして、その男へとにこやかに話しかけ始めた。 「うふふ、初めまして。あたしはキュ―――、ッ」 だが自己紹介の途中で、彼女の言葉は強引に中断される。 傍らに控えていたミス・ロングビルが『ブレイド』を使い、その魔力の刃をキュルケの首に突きつけたのだ。 「ミ、ミス・ロングビル……?」 「……それ以上軽々しくシュウ様に近付いたら殺すよ、売女」 「ば、ばいた……!?」 いきなり本気の『殺意』を向けられて、キュルケは困惑する。 (ミス・ロングビルって、こんな人だったかしら……) キュルケの知っているミス・ロングビルと言えば、『いつも物腰が柔らかくて知的』というイメージだったのだが、同一人物のはずの目の前の女性からはそんな空気は微塵も感じない。 まるで裏家業の人間である。 「落ち着きなさい、ミス・ロングビル。彼女は初対面の私に挨拶に来ただけです。杖を収めなさい」 「ですが、シュウ様……」 「……私は『杖を収めなさい』と言いましたよ?」 「は、はい……」 しずしずと下がるミス・ロングビル。 そんな光景を見て、キュルケは唖然としていた。 「申し訳ありません。……ミス・キュルケですね? 私の名はシュウ・シラカワと言います。貴女の話はユーゼス・ゴッツォやミスタ・ギーシュから伺っていますよ。何でも優秀な火のメイジであるとか」 「はあ……。……あの、失礼ですがミス・ロングビルとはどのようなご関係で……?」 何だかよく分からないが、ミス・ロングビルとただならぬ関係にあるのは明白である。 好奇心旺盛なキュルケとしては、ぜひそこを聞いておきたかった。 「彼女との関係、ですか……。そうですね、『惚れ薬を飲んだ人間』と『その効果を味わっている人間』、というところでしょうか?」 「惚れ薬ぃ?」 なるほど、そんなものを飲んでしまえば普段のミス・ロングビルとは違ってしまって当然かも知れない。 だが、惚れ薬とは……? 「詳しくは、そこにいるミス・モンモランシーに聞いてください」 ははぁん、とキュルケはおおよその事情を理解した。 どうせ浮気性のギーシュに怒ったモンモランシーが禁制の惚れ薬を作って、それを誤ってミス・ロングビルが飲んで、その場にはこのシュウと言う男がいて……とかいう所だろう。 それをモンモランシーに詰め寄りながら確認してみると、予想通りに肯定した。 しかもミス・ロングビルだけではなくルイズまでその惚れ薬を飲んでしまい、その惚れた対象はユーゼスだと言う。道理で自分からは動かなさそうなユーゼスや、ルイズの姉がここにいるわけだ。 「…………つまり、そもそもの発端はあなたたちじゃないの」 「いや、まあ、うん、その……そ、そう言えないコトもなくはない可能性があるかも……」 「……仕方ないじゃない。ギーシュったら、浮気ばっかりするんだから……」 バツが悪そうなギーシュと、ぶつくさ文句を言うモンモランシー。そんな二人……特にモンモランシーを見て、キュルケは呟く。 「まったく……自分の魅力に自信がない女って、最悪ね。おかげでこっちは死にかけるし」 はあ、と溜息をついて、ガックリとうなだれるモンモランシーを見るキュルケだった。 一方、こちらはユーゼスとエレオノールとルイズ、そしてタバサである。 「つまり、ミス・タバサの『実家』が領民から請け負った仕事をミス・タバサ自身が引き受け、ミス・ツェルプストーはそれに付き合っただけだ、と」 「そう。水の精霊の仕業で湖の水かさが増えて、被害が出ている」 「成程」 湖の水かさが増える、というのは確かに一大事だ。 そこに住んでいる領民はともかく、周辺の自然環境が著しく破壊されてしまう。 「……水の精霊にその辺りも尋ねてみるか。言葉は通じるのだから、やりようはあるかも知れん」 「………」 こくり、と頷くタバサ。 タバサとしても、戦わずに済むのならそれに越したことはない。 「では、早速ミス・モンモランシに……」 「ちょっと待って、ユーゼス」 もう一度水の精霊を呼んでもらおうとしたら、エレオノールに声をかけられた。 ユーゼスは何故このタイミングで声をかけられるのかが分からず、エレオノールの方を見る。 「何だ、ミス・ヴァリエール?」 「……一つだけ聞かせてちょうだい。あなたがさっきその二人にやった『診療』と『治療』って、どんな人間にも効果があるの? 例えば……『不治の病に冒された人間』とか」 ピクリ、とエレオノールの言葉を聞いたタバサの表情が、微妙に動いた。 しかしユーゼスとエレオノールはそんな些細な動きには気付かず、会話を続ける。 「……それは今、答えなくてはならないことか?」 「疑問は早い内に解決しておきたいのよ」 「……………」 内心で盛大な溜息を吐くユーゼス。 やはり因果律を操作したのは失敗だったかも知れない、とまた後悔の念がぶり返してくる。 一度でもこういう『奇跡』を見せてしまうと、人間というものは取り憑かれたように『再びの奇跡』を求め、渇望してくるのである。 他でもない自分がそうだった。 (ここは一度、釘を刺しておくか) そう考えた後で、ユーゼスは口を開く。 「……やってみなければ分からない、としか言えないな。私の手には負えない可能性も十分にある」 「じゃ、じゃあ、取りあえず……」 「だが」 一瞬だけ期待の色を顔に浮かべたエレオノールだったが、ユーゼスはすぐにその期待を手折りにかかった。 「仮にそれが出来るとして。私がそれを行う理由は無い」 「なっ……!?」 エレオノールは絶句する。 予想通りの反応を見せた金髪の女性に対して、ユーゼスは更に言葉を放つ。 「……お前は何か勘違いをしていないか? 私は『善意の奉仕者』でも『救世主』でも『救いの神』でもない。一度簡単な治療を行った程度で、過度な期待を抱いて縋り付いて来られても迷惑だ」 「べ、別に縋り付いてなんか……!」 「ならば私を頼ろうとするな。……それにミス・タバサとミス・ツェルプストーに行った『治療』は、ごく初歩的なものだ。あれが通用しない『患者』など、掃いて捨てるほどいるぞ」 嘘は言っていない。 死にかけた人間を治療したり、死人を生き返らせることなどは、因果律操作の初歩である。やろうと思えば、本当に『一つの世界を完全に支配する』ことも可能なのだ。やる気は毛頭ないが。 それに『脳の治癒』や『臓器の治癒』が、このハルケギニアに存在する全ての『患者』に通用するわけがない。 (詭弁もいいところだな……) 軽い自己嫌悪に苛まれるが、この場合は仕方がない。 闇雲に大きな力を使えば、必ずどこかに歪みが生じてしまう。 その歪みは人を狂わせ、運命を狂わせ……やがては世界を滅ぼしかねない、大きなうねりとなる。 うねりを起こした張本人である自分が言えたことではないが、しかしここはどうしても譲れない一線であった。 光の巨人―――宇宙の調停者、そして守護神たる存在。 今更その存在意義を否定はしないが、あれが自分に与えた影響を考えると、ここはエレオノールを突き放しておくのが最善の方法に思えるのだ。 「……そう、期待した私が馬鹿だったわ」 落胆と苛立ちを交えながら、エレオノールが呟く。 タバサもまたガッカリした空気を出していたが、ユーゼスはそれに気付かなかった。 ……『諦めてくれたか』と安心する反面、ユーゼスはそんなエレオノールの様子を見て妙な心苦しさを覚えていた。 (良心が痛んでいるのか?) 自分が行った選択は、『ほぼ100%救えるのに、救わない』ということだ。 それが間違っているとは思わない。 しかし、目の前のエレオノールに悪印象を持たれるのは……どういうわけか、避けたいと感じている。 (?) 自分で自分の精神状態が、よく分からない。 ともあれ、このままエレオノールを放っておくのはいけない気がしたので、ユーゼスは付け足すように喋る。 「……その『患者』とやらの症状の見立て程度ならば、別に構わんがな。『治療するかしないか』と『病状の把握』は別問題だ。……案外、そこから治療方法が見つかるかも知れんぞ?」 「……………」 じぃっとユーゼスを見るエレオノール。 そのまましばらく沈黙が続いたが、やがてエレオノールは不機嫌そうなままでユーゼスに告げた。 「それじゃあ、近い内に『患者』の詳しい情報を送るわ。それを見て病状を判断してちょうだい」 「分かった」 エレオノールの声が少し冷たい。いや、元々声が冷たい感じの女性ではあったのだが、今はそれに輪をかけて冷たくなっている。ギーシュあたりなら平謝りしそうなほどに。 先ほどのユーゼスの『妥協案』で取りあえずある程度は機嫌を直してくれたようだが、それでも『普通』な状態には遠いようだった。 (むう) こういう時にどうすれば良いのか、人付き合いの経験が極端に少ないユーゼスには判断がつかない。 ただ、それでも言っておかなければならない言葉は、何となく浮かんで来ていた。 なので、その言葉を告げる。 「……済まないな、ミス・ヴァリエール」 一言、詫びた。 結果のみを言うと、それだけである。 だがそれを聞いたエレオノールはしばらく考え込むようにして立ち尽くし、再びユーゼスをじぃっと見つめて、 「…………はぁ」 大きく息を吐き、諦めたように言い始める。 「いいわよ、別に。残念と言えば残念だけど、元々そんなに大きな期待もしてなかったし。……ただ、『病状の把握』とやらはキッチリとやってもらいますからね」 「それは約束しよう」 そんなやり取りをするユーゼスとエレオノール。 傍から見れば、何ということのない会話でしかない。 だがユーゼスが僅かながらも『感情を込めて』語り、しかも『謝る』ということは非常に珍しいことであったし、エレオノールにしてもユーゼスからそのような(マイナスの方向ではない)感情を向けられるのは……まあ、悪い気はしなかった。 「では、水の精霊との再交渉をミス・モンモランシに頼むか」 「そうね。……これでようやくルイズが元に戻る目処が立ってきたわ」 いつもの調子に戻りつつあったエレオノールに、ユーゼスは本人も意識しないまま安堵する。 (……しかし、『機嫌を元に戻す』ということは難しいな……) たまたま自分の謝罪が上手く行ったから良かったものの、これが通用しなかったら完全にお手上げだった。 (ミス・ツェルプストーかミスタ・グラモンにでも、その辺りの秘結を聞いておこうか……) 自分の苦手分野の一つである『人付き合い』の巧者である二人の姿が頭をよぎったので、水の精霊との再交渉が終わったら早速質問してみよう、と思い立つ。 あの二人であれば、おそらく自分には思いも付かないアイディアを提供してくれることだろう。それを採用するかどうかは別として。 まあ、いずれにせよ、全ては水の精霊との再交渉を済ませてからだ。 エレオノールとばかり話していたので非常に不機嫌な様子のルイズをあしらいつつ、ユーゼスはモンモランシーの元へと歩くのだった。 #navi(ラスボスだった使い魔)