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SeeD戦記・ハルケギニア lion heart with revenger‐10 - (2010/01/03 (日) 00:05:47) のソース
&setpagename(mission 08 「A Sacrifice」) #navi(SeeD戦記・ハルケギニア lion heart with revenger) ガァーン! 重い炸裂音が響き渡り、弾丸を撃ち込まれた木がボロボロになった。 「はぁっ……!」 息継ぎを一つして呼吸を落ち着けたアニエスが銃身を下ろす。 「ビスマルクにも大分慣れたようだな」 「……これに比べればハルケギニアの銃など玩具だな」 手にしたそれを見つめ、ため息をつく。 ジョーカーにより改造を施されたアニエスの銃は、もはや元の姿など見る影もなくなっていた。 即応性を高めるために銃身など、射撃に直接影響する以外の部分を極力切りつめたのが、このビスマルクである。その結果、威力の割に振り回しやすい銃になったが、反動が大きく、使うにはかなりの体力が必要になってしまっている。 本来ならばもうワンランク上のエクゼターにすることも出来ていたはずだったのだが、ジョーカーがこちらに来ていると知る前に改造に必要な「星々のかけら」は全て禁断魔法精製に使ってしまっていたのだ。 「もうワンセット、頼む」 「判った。G.F.イフリート、アビリティ弾薬精製」 鍛冶屋から格安で貰い受けた屑鉄の山に手を掲げ、通常弾へと精製する。 ちなみにスコールのライオンハートも同じようにして弾を精製している。 「はぁ、こりゃまたおっかねぇ音がするから何かと思えば……」 「!? お前は……」 「久しぶりだな、アニエス、レオン」 タルブ平原会戦の直前、スコール達に疑似魔法を広める存在のことを教えてくれた情報屋が、よぉ、と手を挙げていた。 彼がもたらした情報は、成る程大見得を切っていただけの事はあり、その人物らの容姿、名前、果ては住まいまでを網羅していた。 その情報を元にすぐさまラグナロクを飛ばし、辿り着いた先はガリア王国の王都リュティスであった。 少し離れたところにラグナロクを下ろすと、留守をジョーカーに任せてスコールとアニエスは城下町へと歩を進めた。そして情報にあった民家を訪れてみたが、そこには誰もいなかった。 周囲に聞き込んでみると、間違いなくビッグスとウェッジなる人物がここに住んでいるらしいのだが、ここしばらく姿を見ていないらしい。宮殿に仕えているから、何か用を仰せ付かったのではないのかとの事だ。 (ビッグスとウェッジ……どこかで聞いたことが有るような……) 皮肉でも何でもなく、スコールはこの名前を思い出せないで居た。まぁ、要人とも思えない一般兵と一般将校の、しかも一度しか戦ったことのない相手の名前をちゃんと記憶していろと言うのも無理な話ではあるが。 行き先も尋ねてみたが、流石に宮殿の仕事故か、辺りに知っている者は居なかった。 「どうする」 出来るなら、宮殿の方へも探りを入れたいのだが 「無理だろうな。トリステインの宮殿ならばまだある程度顔は利くから、内情を探ってもらうことも出来なくはないが……」 アニエスの言葉にスコールは小さくため息を着いた。 今日の所は出直そうと、ラグナロクへと戻ったところ 「ああ、委員長、やっと来てくれた。困ってたんだよ」 その入り口付近に大勢のメイジ達と、カードの束を手でいじりながら、言葉の割に余り困って居なさそうなジョーカーが居た。 「……この国のメイジ達か」 軽く周囲を警戒しながらジョーカーに近づく。 「この男がお前の上司か?」 その側に立つメイジがスコールを見る。 「一応、そうです」 その横柄な態度に呆れを感じながらも、こくりと頷く。 「我々に付いてきてもらおう」 「……仕事の依頼ですか」 「さぁな。我々はただ、お前達を連れてくるようにとしか言われていない。理由も知らされていない」 ぶっきらぼうな物言いに僅かに眉を顰めた。 それでも尚スコールが同行したのは、どんな状況になっても逃げ延びる自信があったからだし、仕事の依頼の可能性もあったからだ。 (ただ、それならこの部下らしきメイジ達にもその旨を伝えても良いはずだ。何のつもりだ……) そうして案内された先は、リュティスでも有数の上級の宿であり、その事は造りを見ただけでスコールにも察せた。 「紅竜の傭兵を連れて参りました」 「おう、来たか。早く入れろ」 豪奢な造りの扉の前で先導するメイジが声をかけるとそういらえが有り、扉が開かれ中にはいるように促された。 部屋の中は薄暗く、何本かの蝋燭が燭台で燃えているだけだった。連れてきたメイジも外から扉を閉めてしまって部屋の中は二人きりだ。 「額に傷、ハハハ! 聞いていたとおり、お前が伝説のSeeDだな!」 その部屋に一人、青い髪と髭を生やした男がゆったりとした椅子に座っていて、楽しそうに手を叩いた。 「……何故俺の事を」 若干の警戒を持ちつつ目の前の男を見据える。 「何、ミョズニトニルンに聞いたままだったからな。柄が銃のような剣、暗い茶色の髪、正に、正に!」 (ミョズ……ニトニルン……?) もしこの場にアニエスを同伴していれば、その名についての補足をしてくれただろうが、始祖ブリミルの伝説についてはほとんど触れていなかったスコールは、それをただの名前として聞いた。 (聞いたことのない名前だが……俺のことを知っている? 俺やジョーカーと同じで、呼ばれた奴なのか? この男に?) 「レコン・キスタの艦隊を破ったのも、お前のガーディアン・フォースとやらの仕業なのだろう? あれでもうトリステインは落ちたと思っていた俺の予想をあっさりと変えてくれたからな」 未だに名も明かさぬこの男、G.F.の事も認識しているらしい。 「……別にそれだけではない。擬似魔法を修得していた傭兵の多さも、勝因の一つだ」 「成る程、確かに聞くところに依ると擬似魔法を使う傭兵が、メイジと互角にやり合って見せたという事だな」 しきりに頷き、ニヤリと口元をゆがめる。 「擬似魔法を広めさせて正解だったようだな。平民がメイジと同等の力を持つとは」 「……何だと?」 「当初の俺の計画にはない筋道だが、ふむ、これは面白いな!」 「あんたは……あんたが擬似魔法を広めたのか?」 半ば愕然とした表情で尋ねる。 「応ともよ。ミョズニトニルンと共に呼ばれてきた男達に、ゲルマニアから南下させながら擬似魔法を広めさせたのは、この俺だ」 そのスコールの驚きに気分を良くさせたか、高らかに宣う。 (南下させながら……ビッグスとウェッジ!) 「何故だ! その口ぶりなら、擬似魔法が広まることでパワーバランスが崩れてハルケギニアに混乱を来すことは理解しているはずだ! ここに連れてきたメイジ達の数と言い、あんたはかなり上位の貴族なんだろう!? 何故こんな事をする!」 「ふん、判らんのか?」 尋ねた途端に、つまらなさそうにスコールを見やる。 「お前の言うとおりこの世界を、ハルケギニアを混乱させたいからに決まっているだろう」 「……?」 言っていることの、理解が出来ない。 「ついでに言っておくと、そもそもアルビオンでレコン・キスタが蜂起したのもこの俺の差し金よ!どうだ、驚いたか?」 「……何の、一体何のために」 目の前の青髭の男に、まるで魔女と対峙したときのような薄ら寒さを覚えながらスコールは尋ねる。 「ははは、俺に直接その質問をぶつける奴は初めてだな。俺はなぁ……」 直後、スコールはこの男が一気に10は老けたように感じた。 「俺はただ、もう一度人並みに泣いてみたいのよ。この大地の全てを灰燼に帰せば、多少なりとも悲しくなるかと思ったのさ」 「泣く?」 この男は泣けない? いや、泣けなくなった? 「親しい者も攻め立てた。弟の嫁を狂わせ、姪を死地に追いやることも幾度と無くやってみたが、泣けん……」 それが、アルビオンに乱を起こし、擬似魔法を広めた理由か。手前勝手なそれだけの理由が。 先程感じた得体の知れない薄ら寒さは消え失せ、侮蔑の感情がわき上がってくる。 「どうだSeeD、俺を殺してみるか? ひょっとしたら自分が死にかければ泣けるかも知れん」 「断る」 はっきりと、そうスコールは言い切った。 「何故だ? 俺を放置すれば、もっと大勢が死ぬのだぞ? それをお前は見過ごせまい」 「俺は正義の味方じゃない。ただの傭兵だ。自殺志願者に手を貸す気はないし、そもそもあんたは貴族だろう? 貴族に手をかければ、俺だけじゃない。俺の仲間にも累が及ぶ。 もしホントにあんたが危険な存在なのなら、別の連中があんたを始末する。そしてあんたを討つのに俺の腕が必要なら、改めて俺の元に依頼が来る」 だから今は、この男に刃は向けない。 「……ふん、やはり実際に会ってみる物だな。人伝では判らなかったお前の人となり、多少は理解できたと思うぞ」 「話はそれだけか?……ならもう帰らせてもらう」 くるりと踵を返し、扉の方へ足を向ける。 「まぁ待て。お前があくまで傭兵だというのなら、どうだ? 俺に雇われてみないか?」 「仕事は選ぶ」 短く言い切り戸をくぐるスコールを、青髭の男、ガリア王ジョゼフはその背を見送るのみだった。 世を混乱に陥れるためだけに、ライオンハート(獅子の心)を振るうつもりは、ない。 ---- #navi(SeeD戦記・ハルケギニア lion heart with revenger)