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The Legendary Dark Zero 03 - (2011/10/29 (土) 17:17:29) のソース
&setpagename(mission 03 <白昼の決闘>) #settitle(mission 03 <白昼の決闘>) #navi(The Legendary Dark Zero) ヴェストリ広場へと辿り着いたスパーダはギーシュと相対する。 これから行われるであろう〝決闘〟という名の貴族による一方的な制裁を見物しようと 噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえっていた。 「諸君!決闘だ!」 その広場の中心でギーシュは薔薇の造花を掲げ高らかに宣言をする。見物人から歓声が巻き起こる。 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの召喚した没落貴族だってさ!」 ギーシュは腕を振って、歓声にこたえている。 一方、スパーダは己の愛刀の一つ――閻魔刀を片手に構えながら目を瞑り、静かに佇んでいた。 「逃げずによくきたな! 没落貴族君!」 「君も〝決闘〟をすると言ってよく来れたな」 スパーダは目を瞑って落ち着いたまま答えた。 「ふんっ……では、始めようか!」 ギーシュが持っている薔薇の花びらを振り、花びらが一枚落ちた瞬間、その花びらは鎧を纏った女騎士の人形へと姿を変えた。 「ほう。先ほどの錬金とやらか」 「お褒めにいただき、光栄だ。僕の二つ名は〝青銅〟のギーシュ。従って、青銅のゴーレム〝ワルキューレ〟がお相手する。 言っておくが、卑怯などとは思わない事だよ。僕はメイジだ、魔法でカタをつけさせてもらう」 「――come on(来い)」 スパーダの一声と共にワルキューレが突進してくる。 スパーダ目掛けてワルキューレの拳が真っ直ぐに叩き込まれようとしている。 当のスパーダは目を瞑ったまま、その攻撃を避けるどころか見ることすらしようとはしない。 ギーシュは勝ち誇った顔でにやりと笑った。 没落貴族の無様な姿を他の者達にも見せ付けてやろう。――そう考えていた時である。 ――ヴゥンッ 突如、低い唸りのような音が響いた途端、目の前のワルキューレが一瞬にして十字に切り裂かれていた。 スパーダは閻魔刀の刃を、ほんの僅かに指で押し上げ覗かせている。 「な……なっ……」 突然の出来事に唖然とするギーシュ。そして、ギャラリー達。 「何が起こったんだ……?」 「あの男、何もしてないよな?」 誰しもが、スパーダの神速の斬撃を見切れてはいなかった。 まさか彼らも今の抜刀が時に空間そのものを両断しかねないものだとは夢にも思わないだろう。 バラバラに切り裂かれ、ゴトゴトと地に落ちるワルキューレの残骸に広場にいるギャラリー達が凍りつく。 「ち、調子に乗るなよ! ワルキューレ!」 さらに花びらを二枚落とすと、それは二体のワルキューレへと変わる。 今度は槍やメイスといったもので武装していた。 左右から挟むようにしてスパーダに襲い掛かるが、突如スパーダは残像をその場に残して姿を消した。 「――blast!(砕けろ!)」 あらぬ方向から滑るように疾走しつつ現れたスパーダはワルキューレの間を駆け抜けぬけながら 閻魔刀を完全に抜き放ち、一刀の元に両断する。 そして、滑らかな動作で閻魔刀を納刀した。 「ふ、ふん! いくら倒しても無駄だ! ワルキューレは無限に作り出せるぞ!」 その言葉が単なる虚勢である事がスパーダには分かっていた。 ワルキューレとやらを一体作り出すだけで相当の魔力を消耗するのは、メイジ達の魔力を直接見る事ができるスパーダにはお見通しだった。 作れてもせいぜいあと四体が限界だろう。 (やはりな) 案の定、ワルキューレを四体呼び出しただけでギーシュの魔力はもう新たなゴーレムを作れる量ではなくなっている。 「ゆけ!」 顔を引き攣らせ、冷や汗を流しながら号令をかけるギーシュ。ワルキューレが一斉に突進してきた。 芸がないなと思いつつ、スパーダは向かってきたワルキューレの胴体に抜きかけた閻魔刀の柄で打ち付けて怯ませ、 体をくるりと反転させつつ流れるように閻魔刀を横に振り、二体を一度に両断する。 もう一体が横から剣を振り下ろすが、それをスッと体を僅かに反らせて回避し、蹴りを浴びせて吹き飛ばす。 最後のワルキューレを逆手に持った閻魔刀で貫き、鋭い蹴りを繰り出した。 (……何だ? 昨日から鬱陶しい) 閻魔刀を納刀しながら、忌々しそうに自分の左手を見る。 手袋で覆われてはいるが、この下には使い魔契約のルーンが刻まれている。 昨日からこのルーンは自分に対して魔力を発揮し、強制力を働きかけてきていたのだ。 ――主に従え。 ――主に忠誠を誓え。 ――主を慕え。 ――主から離れるな。 そんな意味が込められた強制力が秘められており、並みの獣や力の弱い下級悪魔であれば簡単にその力に屈してしまうことだろう。 しかし、力の大半を己の分身に封じたとはいえ最上級の悪魔であるスパーダにはそんな洗脳染みた魔力など受け付けはしなかった。 ルイズを気にかけたりするのは、あくまでスパーダ自身の意志によるもの。 これまで千年以上もの間、多くの人間を見てきたからこそ、異世界に住まうルイズという一人の少女が これからどのようにして生きてゆくのか、そしてその周りで何が起きるのかを見届けるために彼女の〝パートナー〟となったのだ。 このルーンは自分をルイズにとって都合のいい〝使い魔〟にしようとしているようだが、 洗脳などで築かれる信頼など片腹痛い。 自らの意志で彼女と共にあるからこそ、意味がある。 スパーダの悪魔としての本能が、ルーンの魔力を完全に抑え付けていた。 「す……すごい」 スパーダの戦いを見守っていたルイズはあまりの光景に唖然とした。 まさか、ここまで強いとは。 恐らく、スパーダはまるで本気を出していないのだろう。余裕の表情を浮かべている。 だが、これで彼の実力がはっきりと分かった。ドットとはいえメイジであるギーシュを軽く叩きのめしたのだ。 主人……パートナーである自分を守る力となれるはずである。 「素敵……」 ルイズが喜びに震える中、隣にいたキュルケはトロンとした目で体をくねらせる。 「きゅい! あの悪魔、やっぱりとんでもなく強いのね!」 ヴェストリ広場の上空を飛ぶ一匹の風竜が人間の言葉を口にしていた。 その背に乗る青い髪の少女、タバサは眼下で繰り広げられる戦いを観察し、驚愕していた。 (彼は……何者) 自分の使い魔・韻竜シルフィードがルイズの召喚した使い魔、スパーダの事をかなり恐れているようで、 彼のことを〝悪魔〟とまで呼んでいる事にタバサも戦慄を抱いていた。 このハルケギニアには吸血鬼やら亜人といった異種族が存在するのだが、〝悪魔〟などという存在は御伽話の中でしか見た事がない。 しかし、スパーダから発せられる異様で冷たい雰囲気は、一人の戦士であるタバサをも震え上がらせる程に研ぎ澄まされていた。 だからこそ、ずっと彼のことを警戒していたのだ。 彼が悪魔なのかどうかはまだはっきりとは分からない。 ただ、一つだけ分かるのは彼があまりにも強いということだけだ。 「ひ……!」 最後の一手までもが一瞬にして全滅させられ、ギーシュはへなへなと腰を抜かして尻餅をつく。 完全に見誤っていた。こんな相手に、自分が勝てるはずがない。 先ほどまで発揮していた威勢や虚勢も、すっかり萎えてしまった。 「く、くるな……! くるな!」 納刀した閻魔刀を手にしながら近づいてくるスパーダに、半狂乱のギーシュは薔薇の造花を振り回しながら叫んだ。 ギーシュの目の前で止まったスパーダは閻魔刀を再び抜き放ち、ギーシュの真横に突き立てる。 「お前は、死んだ」 「……へ?」 スパーダの発した一言に、間の抜けた声を出すギーシュ。 「もしもこれが本気の決闘であれば、お前は死んでいる」 ギーシュはその言葉の意味が分からず、唖然としたままスパーダを見ていた。 「お前は言ったな? 〝決闘〟をする、と。……その意味が分かるか? ――〝決闘〟とは本来、命を賭けた戦いだ。負けた方は、〝死ぬ〟べきでもある」 〝死〟というその一言に、ギーシュは青ざめた。 「……お前がやろうとしていたのは、命を軽視した行為だ。それでもし、お前が誰かの命を奪った時、お前は何を得る? お前が決闘をしようとしたのが私ではなく、あのメイドだったならばどうだった? お前は相手が平民だからと平気で傷つけ、その命を奪えるのか?」 スパーダの言葉に怒りはない。それは、ギーシュを諌める威厳のある言葉だった。 ギーシュは彼の言葉に、背筋に何か冷たく恐ろしいものを感じた。 そんな事、考えてもみなかったからだ。 だが考えてみればあの時、彼がもし割り込まなかったなら、自分はあのメイドにひどい仕打ちをしていたかもしれない。 「たとえお前が貴族であろうと、彼女が平民であろうと、君達は互いに一人の〝人間〟であることに変わりは無い。 軽々しく、人を家畜のように傷つける真似はするな。……それは、心を持たない〝悪魔〟がすることだ」 閻魔刀を地面から引き抜き、鞘に収めたスパーダは踵を返し、ヴェストリの広場を後にしていた。 ギーシュは未だ尻餅をついたままだったが、その胸の奥から何か熱いものが湧き上がっているのを自分でもはっきり感じていた。 #navi(The Legendary Dark Zero)